15 / 33
訪問者
しおりを挟む
そうして、翌日は全くいつも通り(怪我しているから全くとはいえないのかもしれないけど)の朝だった。でも、私にはそれがなんだか寂しかった。別に芸能人のように追いかけられたいわけじゃない。ただ、それが二度とマイケルさんと会えないんだなと改めて実感しただけだ。
「月島さん、今朝も芸能レポーターいたんですか?」
朝から無言で仕事を続ける私に、まだ見習い中の智くんがそう言った。
「ううん、どうして」
「だって、月島さんいつもなら誰が聞いてるわけでもないのに、作業工程を説明しながら、ニコニコして仕事してるから。
それが今日はため息ばっかだし、なんか顔も変です」
「昨日櫟原さんが会見開いてくれたから、今朝は誰もいなかったよ」
智くんの答えに、私はムリに笑顔を作って答えた。確かに、大好きな仕事だから社長にも『お前、作業してるときは気持ち悪いぐらい笑顔だな』と言われたこともあるし、段取りを口に出しながらやる方が作業効率が上がるのよね。にしても、『顔が変』って……何気に酷い。
「お前な、先輩に言って良いことと悪いことがあるだろ」
その言葉に庄司さんがすかさずツッコミをいれる。でも、智くんは、悪びれる様子もなく、
「じゃぁ、顔が怖いって言えばいいんですか?」
と庄司さんに返している。さすが平成生まれと言うのか何というのか。
「お前な、機械いじるのより先に日本語もっと勉強しろ」
という庄司さんに智くんは
「へいへい~」
と言いながら表の方に逃げて、ちょろっとドアから首だけ出している。その様子がまるで叱られた犬みたいで、私は声を出して笑ってしまった。庄司さんもそれを見て、
「しょうがねぇなぁ、あいつは。まぁ、更紗ちゃんを笑顔にしたんだから、由としてやっか」
そう言って苦笑している。
「あ、どうも」
そんな智くんがドアに手をかけたまま頭を下げて、
「社長、お客さんです」
と、大きな声で社長を呼んだ。でも、
「すいません、月島さんという方がここにお勤めだと思うんですが」
という声が外から聞こえて、私を含めた作業場にいる全員の顔がこわばった。
「あんたマスコミの人? だったら今すぐ帰んな! こういうのをプライバシーの侵害って言うんだろ」
智くんも一旦は中へと導いた手を一杯に広げて私をガードしつつ、中の面々にそう尋ねる。その場にいた全員がその言葉に頷いた。
「違います。私は月島さんにこれをお届けに上がっただけですから」
すると、その人はそう返した。
「何だ? それ」
智くんが胡散臭そうに荷物を見つめる。座っている私にはドアの外側にいるその人は全く見えない。でも、智くんの様子からして、宅配の業者さんではなさそうだ。
「一昨日、お預かりしたものですので、月島さんにお渡しいただければそれで」
続いてその人はそう言った。一昨日と言えばあのお見合いの日だ。まさか、マイケルさんが着物を返しに来た? 智くんが受け取るのを戸惑っていると、その人はその荷物を智くんの鼻先ににゅっとつきだした。
「うへっ」
と智くんが後ずさりする。その勢いに任せて作業場に入ってきたのは……マイケルさんではなく、幸太郎さんだった。しかも、入ってきた幸太郎さんといきなり目が合ってしまった。
「幸太郎さん……」
「あ、月島さん。そこですか。昨日弟さんからお電話いただいて、取りに来られるってことでしたけど、何か双方に誤解があるみたいなんで、お話がてら私が伺いました。今お時間頂戴できますか」
幸太郎さんは、あのときとは打って変わってすごく丁寧な言葉遣いだった。そう言えば、幸太郎さんって、マイケルさんの後を継いで社長してるんだっけ。
「誤解……ですか?」
双方に誤解ということは、私にもマイケルさん達にも誤解があるということだ。一体、何を誤解してると言うんだろう。
「ええ、すいませんお仕事中申し訳ありませんが、月島さんをしばらくお借りします」
幸太郎さんは肯きながらそう言うと、奥にいる社長の所まで行き、
「私、こういう者です」
と言って、社長に名刺を差し出した。すごい、ちゃんと社長のとこに行っちゃった。庄司さんの方が年上に見えるから(実は社長の方が2つ上だけど)、初めてきた人はみんな庄司さんの所にいっちゃうのに。社長が幸太郎さんの名刺を読み上げる。
「株式会社|櫟原 代表取締役社長 櫟原)幸太郎……ちょっと待て! いちはらってことは、市原健の関係者か」
「はい、息子です」
社長に聞かれて、幸太郎さんは迷いもなくそう答えた。
「息子? 確か、市原健は結婚してないんじゃなかったのか」
テレビ報道とは違うと、その発言に社長がそう言って幸太郎さんに食ってかかる。
「ええ、義父は独身です。実は義理仲なんですよ。会社を継ぐために、姪の婿である私が養子に入ったんです。義父は一度も結婚したことがありません」
それに対して、幸太郎さんは笑顔そうで答えた。えっ、幸太郎さんとマイケルさんって本当の親子じゃないの? しかも、結婚したこともないって…… じゃぁ、アユさんは?? 私の頭の中は疑問符で一杯になった。
「やっぱりご存じなかったようですね。来て良かった」
その様子を見て、幸太郎さんはそう言って微笑んだ。
幸太郎さんから着物を受け取る。その時、幸太郎さんのポケットで携帯が鳴った。その着信音はなんと「月夜の伝説」! 幸太郎さんは、
「あ、親父ですよ。何なら直接本人から聞きます?」
と言いながら携帯を取り出した。だけど、
「はい、幸太郎。何だ薫? お前何で親父の携帯で電話してんだよ。えっ? 親父が! うん、ああ、ああ、泣くな。それで……どこに? うん、解った。すぐ行く」
笑顔で電話を取った幸太郎さんの表情が見る見る曇っていく。そして、電話を切った幸太郎さんは、涙目でため息を吐くと、
「月島さん、一緒に来てくれませんか」
と言った。薫さんというのは今の話から考えると、幸太郎さんの奥様ではないだろうか。マイケルさんの携帯で奥様からの電話。すごくイヤな予感がする。続けて幸太郎さんは、
「親父が倒れました。原因はまだ聞いてませんが、危篤状態だそうです」
と震える声で絞り出すようにそう告げた。私は自分の予感が当たってしまったことに、目まいがした。
「月島さん、今朝も芸能レポーターいたんですか?」
朝から無言で仕事を続ける私に、まだ見習い中の智くんがそう言った。
「ううん、どうして」
「だって、月島さんいつもなら誰が聞いてるわけでもないのに、作業工程を説明しながら、ニコニコして仕事してるから。
それが今日はため息ばっかだし、なんか顔も変です」
「昨日櫟原さんが会見開いてくれたから、今朝は誰もいなかったよ」
智くんの答えに、私はムリに笑顔を作って答えた。確かに、大好きな仕事だから社長にも『お前、作業してるときは気持ち悪いぐらい笑顔だな』と言われたこともあるし、段取りを口に出しながらやる方が作業効率が上がるのよね。にしても、『顔が変』って……何気に酷い。
「お前な、先輩に言って良いことと悪いことがあるだろ」
その言葉に庄司さんがすかさずツッコミをいれる。でも、智くんは、悪びれる様子もなく、
「じゃぁ、顔が怖いって言えばいいんですか?」
と庄司さんに返している。さすが平成生まれと言うのか何というのか。
「お前な、機械いじるのより先に日本語もっと勉強しろ」
という庄司さんに智くんは
「へいへい~」
と言いながら表の方に逃げて、ちょろっとドアから首だけ出している。その様子がまるで叱られた犬みたいで、私は声を出して笑ってしまった。庄司さんもそれを見て、
「しょうがねぇなぁ、あいつは。まぁ、更紗ちゃんを笑顔にしたんだから、由としてやっか」
そう言って苦笑している。
「あ、どうも」
そんな智くんがドアに手をかけたまま頭を下げて、
「社長、お客さんです」
と、大きな声で社長を呼んだ。でも、
「すいません、月島さんという方がここにお勤めだと思うんですが」
という声が外から聞こえて、私を含めた作業場にいる全員の顔がこわばった。
「あんたマスコミの人? だったら今すぐ帰んな! こういうのをプライバシーの侵害って言うんだろ」
智くんも一旦は中へと導いた手を一杯に広げて私をガードしつつ、中の面々にそう尋ねる。その場にいた全員がその言葉に頷いた。
「違います。私は月島さんにこれをお届けに上がっただけですから」
すると、その人はそう返した。
「何だ? それ」
智くんが胡散臭そうに荷物を見つめる。座っている私にはドアの外側にいるその人は全く見えない。でも、智くんの様子からして、宅配の業者さんではなさそうだ。
「一昨日、お預かりしたものですので、月島さんにお渡しいただければそれで」
続いてその人はそう言った。一昨日と言えばあのお見合いの日だ。まさか、マイケルさんが着物を返しに来た? 智くんが受け取るのを戸惑っていると、その人はその荷物を智くんの鼻先ににゅっとつきだした。
「うへっ」
と智くんが後ずさりする。その勢いに任せて作業場に入ってきたのは……マイケルさんではなく、幸太郎さんだった。しかも、入ってきた幸太郎さんといきなり目が合ってしまった。
「幸太郎さん……」
「あ、月島さん。そこですか。昨日弟さんからお電話いただいて、取りに来られるってことでしたけど、何か双方に誤解があるみたいなんで、お話がてら私が伺いました。今お時間頂戴できますか」
幸太郎さんは、あのときとは打って変わってすごく丁寧な言葉遣いだった。そう言えば、幸太郎さんって、マイケルさんの後を継いで社長してるんだっけ。
「誤解……ですか?」
双方に誤解ということは、私にもマイケルさん達にも誤解があるということだ。一体、何を誤解してると言うんだろう。
「ええ、すいませんお仕事中申し訳ありませんが、月島さんをしばらくお借りします」
幸太郎さんは肯きながらそう言うと、奥にいる社長の所まで行き、
「私、こういう者です」
と言って、社長に名刺を差し出した。すごい、ちゃんと社長のとこに行っちゃった。庄司さんの方が年上に見えるから(実は社長の方が2つ上だけど)、初めてきた人はみんな庄司さんの所にいっちゃうのに。社長が幸太郎さんの名刺を読み上げる。
「株式会社|櫟原 代表取締役社長 櫟原)幸太郎……ちょっと待て! いちはらってことは、市原健の関係者か」
「はい、息子です」
社長に聞かれて、幸太郎さんは迷いもなくそう答えた。
「息子? 確か、市原健は結婚してないんじゃなかったのか」
テレビ報道とは違うと、その発言に社長がそう言って幸太郎さんに食ってかかる。
「ええ、義父は独身です。実は義理仲なんですよ。会社を継ぐために、姪の婿である私が養子に入ったんです。義父は一度も結婚したことがありません」
それに対して、幸太郎さんは笑顔そうで答えた。えっ、幸太郎さんとマイケルさんって本当の親子じゃないの? しかも、結婚したこともないって…… じゃぁ、アユさんは?? 私の頭の中は疑問符で一杯になった。
「やっぱりご存じなかったようですね。来て良かった」
その様子を見て、幸太郎さんはそう言って微笑んだ。
幸太郎さんから着物を受け取る。その時、幸太郎さんのポケットで携帯が鳴った。その着信音はなんと「月夜の伝説」! 幸太郎さんは、
「あ、親父ですよ。何なら直接本人から聞きます?」
と言いながら携帯を取り出した。だけど、
「はい、幸太郎。何だ薫? お前何で親父の携帯で電話してんだよ。えっ? 親父が! うん、ああ、ああ、泣くな。それで……どこに? うん、解った。すぐ行く」
笑顔で電話を取った幸太郎さんの表情が見る見る曇っていく。そして、電話を切った幸太郎さんは、涙目でため息を吐くと、
「月島さん、一緒に来てくれませんか」
と言った。薫さんというのは今の話から考えると、幸太郎さんの奥様ではないだろうか。マイケルさんの携帯で奥様からの電話。すごくイヤな予感がする。続けて幸太郎さんは、
「親父が倒れました。原因はまだ聞いてませんが、危篤状態だそうです」
と震える声で絞り出すようにそう告げた。私は自分の予感が当たってしまったことに、目まいがした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一条さん結婚したんですか⁉︎
あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎
嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡
((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜
⭐︎本編は完結しております⭐︎
⭐︎番外編更新中⭐︎
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!
タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。
姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。
しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──?
全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる