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残り福
私が頷くのを見た途端、幸太郎さんは、
「月島さん、俺、仕事があるんで会社に戻ります。夕方、またここに迎えに来ますんで、それまではごゆっくりどうぞ。ほら、薫行くぞ」
と私に頭を下げ、ソファーに座っていた薫さんの手をとって外に向かう。いきなり帰ると言い出したことに首を傾げた薫さんも、少し考えてウンウンと首を縦に振ると、
「へっ、それなら私が送って……ああ、ええ。私も奏が心配なんで帰ります。じゃぁ、叔父様頑張ってね」
と、マイケルさんにウインクを投げて幸太郎さんと一緒に病室を後にした。所謂、お見合いで言うところの「後はお若い方同士で」って奴だ。ただ、考えてみなくても私とマイケルさんの方が年上なんだけどね。
「ごめんね、幸太郎君が勝手なこと言って。あれでもね、普段は会社の事を考えるいい社長さんなんだよ」
マイケルさんは幸太郎さんがいなくなったとたん、そう言って私に謝った。幸太郎さんはたぶん、本当にマイケルさんに幸せになってもらいたいだけだ。だけどこんな風に私に父親を売り込むことができるのは、義理仲だからかもしれない。実の親を売り込むのは複雑な気分になるだろうから。
「更紗ちゃん、本当に結婚してないんだったら、僕のお嫁さんになってくれる?
更紗ちゃんはまだ2回しか会ってないって言うかもしれないけど。そうやって、待ってたら別の誰かにとられちゃうかもしれないから。そうなったら、僕今度こそ死んでしまうと思う」
それから、マイケルさんは改めて自分の口でプロポーズしてくれた。でもね、社長の奥さんを除けば、独身の女は私だけだけど、だから周りは妻帯者とうんと若い智くんだけ。黙ってたって誰も寄ってこないですって。だけど、
「そんな私はモテないですよ」
と言っても、
「ううん、更紗ちゃんかわいいもん。僕、心配で」
とゆずらない。
「私の方がマイケルさんのお嫁さんになんかなっていいんですか」
マイケルさんなら、もっとすてきな人が選り取りみどりだと思うけど。
「もちろんだよ。受けてくれるの?」
「私でよければ」
マイケルさんは私の返事を聞いて、
「やったぁ!! じゃぁ、一刻も早くここから抜け出さなきゃ」
と言って大喜び。すぐにでも点滴の管(これは意識を失っているときにつけたものなので、大丈夫だったと後から聞いた)を抜きそうな勢いだ。
「ダメですっ、ちゃんと体を治さないと。私はどこにも逃げませんから」
私は慌ててマイケルさんにそう返した。
「解ってるよ。体調が万全じゃないと弟さんとちゃんと闘えないもん。弟さん、この結婚絶対に阻止すると思うから。幸太郎君じゃないけど、僕にも解るんだよね。フロリーちゃんと幸太郎君のことは素直に認められたけど、ベス……あ、僕の母親の違う妹のことなんだけどね、ベスと美久君のことはなかなかね。
僕の場合は、年の離れた妹だからなんだと思ってたけど、お姉さんでもやっぱりそうなんだと思って。弟さんに親近感感じたくらいだから。
それに、できるだけ早くご両親には挨拶しておきたいし。病弱だと思われたくないからね、きっちり治すよ」
「いいですよ、正巳の肩なんか持たないでください。あの子のせいでマイケルさんがこんな大変な目に遭ってるんですから。あいつには私が文句なんか言わせません」
正巳には何も言わせない。言わせるもんですか。でもパパは……ちょっとヤバいかも。
それから、私たちはお互いの家族の話をした。
仕事一辺倒だったマイケルさんのお父さんが今の奥さんと知り合ったのが15年前、あちらはなんと、私たちの倍の31歳の年の差なんですって。だから、お義母さんと言っても、8歳も年下だとか。
仕事人間だったはずのお父さんは、そのお義母さん……クラウディアさんと結婚した途端、マイケルさんに会社を任せて社長を辞任。一応会長として籍は置くものの、家庭第一のマイホームパパに。これにはマイケルさんも驚くやらあきれるやら。
それはともかく、そうやって新しい幸せを掴んだ父親を見てて自分もやりたいことをやろうと思ったんだって。それで、マイケルさんは若いときのあの苦い思い出をベースに「コーラルブルー」を書いたという。あくまでも仕事の合間の楽しみだったそれは、それを見せた友人のライターさんが出版社に売り込み、編集者さんも気に入って、あれよあれよという間に本になり、ベストセラーとなり、ついには映画化までしてしまった。
そうなってしまうともう、社長業の合間に執筆というわけにも行かなくなり、ちょうどそのころまとまった姪の薫さんの(マイケルさんが薫さんのことをフロリーと呼んでいるのは、英名がフローリアなんだって)結婚相手が櫟原社員の幸太郎さんだったことから、彼を養子にして社長につけたということだった。
それにしても、お嫁さんかぁ。なんか実感がわかない。 別に結婚するのがイヤだったわけではなく、好きな仕事をして、時々友達と遊んでそれで十分満たされていたから、焦ってしようと思わなかっただけだけど。
そして、夕方私を迎えに来てくれたのは、社長秘書の宮本美久さん。実はマイケルさんの妹さんの婚約者だ。
ちなみに、年の離れた妹のベスちゃん(日本名は絵梨紗というらしいが)は、13歳でその彼氏の美久君が25歳とこちらも一回り違う。
マイケルさんは、美久君のことをなかなか認められなかったって言ってたけど、そりゃそうだ。一回りの年の差より、中学生が婚約の方があり得ない。しかも、政略結婚とかではなく、彼が彼女の命の恩人だというロマンチックな理由だと言うからびっくり。彼の口からも、
「タケちゃん(会社を引退した後は、みんなにはそう呼ばせているらしい)には幸せになって欲しいんです」
という言葉が聞かれた。本当にマイケルさんはみんなに愛されている。
何で今まで結婚しなかったんだろうと思う反面、今まで一人でいて、一人でいてくれてよかったと思った。
「月島さん、俺、仕事があるんで会社に戻ります。夕方、またここに迎えに来ますんで、それまではごゆっくりどうぞ。ほら、薫行くぞ」
と私に頭を下げ、ソファーに座っていた薫さんの手をとって外に向かう。いきなり帰ると言い出したことに首を傾げた薫さんも、少し考えてウンウンと首を縦に振ると、
「へっ、それなら私が送って……ああ、ええ。私も奏が心配なんで帰ります。じゃぁ、叔父様頑張ってね」
と、マイケルさんにウインクを投げて幸太郎さんと一緒に病室を後にした。所謂、お見合いで言うところの「後はお若い方同士で」って奴だ。ただ、考えてみなくても私とマイケルさんの方が年上なんだけどね。
「ごめんね、幸太郎君が勝手なこと言って。あれでもね、普段は会社の事を考えるいい社長さんなんだよ」
マイケルさんは幸太郎さんがいなくなったとたん、そう言って私に謝った。幸太郎さんはたぶん、本当にマイケルさんに幸せになってもらいたいだけだ。だけどこんな風に私に父親を売り込むことができるのは、義理仲だからかもしれない。実の親を売り込むのは複雑な気分になるだろうから。
「更紗ちゃん、本当に結婚してないんだったら、僕のお嫁さんになってくれる?
更紗ちゃんはまだ2回しか会ってないって言うかもしれないけど。そうやって、待ってたら別の誰かにとられちゃうかもしれないから。そうなったら、僕今度こそ死んでしまうと思う」
それから、マイケルさんは改めて自分の口でプロポーズしてくれた。でもね、社長の奥さんを除けば、独身の女は私だけだけど、だから周りは妻帯者とうんと若い智くんだけ。黙ってたって誰も寄ってこないですって。だけど、
「そんな私はモテないですよ」
と言っても、
「ううん、更紗ちゃんかわいいもん。僕、心配で」
とゆずらない。
「私の方がマイケルさんのお嫁さんになんかなっていいんですか」
マイケルさんなら、もっとすてきな人が選り取りみどりだと思うけど。
「もちろんだよ。受けてくれるの?」
「私でよければ」
マイケルさんは私の返事を聞いて、
「やったぁ!! じゃぁ、一刻も早くここから抜け出さなきゃ」
と言って大喜び。すぐにでも点滴の管(これは意識を失っているときにつけたものなので、大丈夫だったと後から聞いた)を抜きそうな勢いだ。
「ダメですっ、ちゃんと体を治さないと。私はどこにも逃げませんから」
私は慌ててマイケルさんにそう返した。
「解ってるよ。体調が万全じゃないと弟さんとちゃんと闘えないもん。弟さん、この結婚絶対に阻止すると思うから。幸太郎君じゃないけど、僕にも解るんだよね。フロリーちゃんと幸太郎君のことは素直に認められたけど、ベス……あ、僕の母親の違う妹のことなんだけどね、ベスと美久君のことはなかなかね。
僕の場合は、年の離れた妹だからなんだと思ってたけど、お姉さんでもやっぱりそうなんだと思って。弟さんに親近感感じたくらいだから。
それに、できるだけ早くご両親には挨拶しておきたいし。病弱だと思われたくないからね、きっちり治すよ」
「いいですよ、正巳の肩なんか持たないでください。あの子のせいでマイケルさんがこんな大変な目に遭ってるんですから。あいつには私が文句なんか言わせません」
正巳には何も言わせない。言わせるもんですか。でもパパは……ちょっとヤバいかも。
それから、私たちはお互いの家族の話をした。
仕事一辺倒だったマイケルさんのお父さんが今の奥さんと知り合ったのが15年前、あちらはなんと、私たちの倍の31歳の年の差なんですって。だから、お義母さんと言っても、8歳も年下だとか。
仕事人間だったはずのお父さんは、そのお義母さん……クラウディアさんと結婚した途端、マイケルさんに会社を任せて社長を辞任。一応会長として籍は置くものの、家庭第一のマイホームパパに。これにはマイケルさんも驚くやらあきれるやら。
それはともかく、そうやって新しい幸せを掴んだ父親を見てて自分もやりたいことをやろうと思ったんだって。それで、マイケルさんは若いときのあの苦い思い出をベースに「コーラルブルー」を書いたという。あくまでも仕事の合間の楽しみだったそれは、それを見せた友人のライターさんが出版社に売り込み、編集者さんも気に入って、あれよあれよという間に本になり、ベストセラーとなり、ついには映画化までしてしまった。
そうなってしまうともう、社長業の合間に執筆というわけにも行かなくなり、ちょうどそのころまとまった姪の薫さんの(マイケルさんが薫さんのことをフロリーと呼んでいるのは、英名がフローリアなんだって)結婚相手が櫟原社員の幸太郎さんだったことから、彼を養子にして社長につけたということだった。
それにしても、お嫁さんかぁ。なんか実感がわかない。 別に結婚するのがイヤだったわけではなく、好きな仕事をして、時々友達と遊んでそれで十分満たされていたから、焦ってしようと思わなかっただけだけど。
そして、夕方私を迎えに来てくれたのは、社長秘書の宮本美久さん。実はマイケルさんの妹さんの婚約者だ。
ちなみに、年の離れた妹のベスちゃん(日本名は絵梨紗というらしいが)は、13歳でその彼氏の美久君が25歳とこちらも一回り違う。
マイケルさんは、美久君のことをなかなか認められなかったって言ってたけど、そりゃそうだ。一回りの年の差より、中学生が婚約の方があり得ない。しかも、政略結婚とかではなく、彼が彼女の命の恩人だというロマンチックな理由だと言うからびっくり。彼の口からも、
「タケちゃん(会社を引退した後は、みんなにはそう呼ばせているらしい)には幸せになって欲しいんです」
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