19 / 33
残り福
しおりを挟む
私が頷くのを見た途端、幸太郎さんは、
「月島さん、俺、仕事があるんで会社に戻ります。夕方、またここに迎えに来ますんで、それまではごゆっくりどうぞ。ほら、薫行くぞ」
と私に頭を下げ、ソファーに座っていた薫さんの手をとって外に向かう。いきなり帰ると言い出したことに首を傾げた薫さんも、少し考えてウンウンと首を縦に振ると、
「へっ、それなら私が送って……ああ、ええ。私も奏が心配なんで帰ります。じゃぁ、叔父様頑張ってね」
と、マイケルさんにウインクを投げて幸太郎さんと一緒に病室を後にした。所謂、お見合いで言うところの「後はお若い方同士で」って奴だ。ただ、考えてみなくても私とマイケルさんの方が年上なんだけどね。
「ごめんね、幸太郎君が勝手なこと言って。あれでもね、普段は会社の事を考えるいい社長さんなんだよ」
マイケルさんは幸太郎さんがいなくなったとたん、そう言って私に謝った。幸太郎さんはたぶん、本当にマイケルさんに幸せになってもらいたいだけだ。だけどこんな風に私に父親を売り込むことができるのは、義理仲だからかもしれない。実の親を売り込むのは複雑な気分になるだろうから。
「更紗ちゃん、本当に結婚してないんだったら、僕のお嫁さんになってくれる?
更紗ちゃんはまだ2回しか会ってないって言うかもしれないけど。そうやって、待ってたら別の誰かにとられちゃうかもしれないから。そうなったら、僕今度こそ死んでしまうと思う」
それから、マイケルさんは改めて自分の口でプロポーズしてくれた。でもね、社長の奥さんを除けば、独身の女は私だけだけど、だから周りは妻帯者とうんと若い智くんだけ。黙ってたって誰も寄ってこないですって。だけど、
「そんな私はモテないですよ」
と言っても、
「ううん、更紗ちゃんかわいいもん。僕、心配で」
とゆずらない。
「私の方がマイケルさんのお嫁さんになんかなっていいんですか」
マイケルさんなら、もっとすてきな人が選り取りみどりだと思うけど。
「もちろんだよ。受けてくれるの?」
「私でよければ」
マイケルさんは私の返事を聞いて、
「やったぁ!! じゃぁ、一刻も早くここから抜け出さなきゃ」
と言って大喜び。すぐにでも点滴の管(これは意識を失っているときにつけたものなので、大丈夫だったと後から聞いた)を抜きそうな勢いだ。
「ダメですっ、ちゃんと体を治さないと。私はどこにも逃げませんから」
私は慌ててマイケルさんにそう返した。
「解ってるよ。体調が万全じゃないと弟さんとちゃんと闘えないもん。弟さん、この結婚絶対に阻止すると思うから。幸太郎君じゃないけど、僕にも解るんだよね。フロリーちゃんと幸太郎君のことは素直に認められたけど、ベス……あ、僕の母親の違う妹のことなんだけどね、ベスと美久君のことはなかなかね。
僕の場合は、年の離れた妹だからなんだと思ってたけど、お姉さんでもやっぱりそうなんだと思って。弟さんに親近感感じたくらいだから。
それに、できるだけ早くご両親には挨拶しておきたいし。病弱だと思われたくないからね、きっちり治すよ」
「いいですよ、正巳の肩なんか持たないでください。あの子のせいでマイケルさんがこんな大変な目に遭ってるんですから。あいつには私が文句なんか言わせません」
正巳には何も言わせない。言わせるもんですか。でもパパは……ちょっとヤバいかも。
それから、私たちはお互いの家族の話をした。
仕事一辺倒だったマイケルさんのお父さんが今の奥さんと知り合ったのが15年前、あちらはなんと、私たちの倍の31歳の年の差なんですって。だから、お義母さんと言っても、8歳も年下だとか。
仕事人間だったはずのお父さんは、そのお義母さん……クラウディアさんと結婚した途端、マイケルさんに会社を任せて社長を辞任。一応会長として籍は置くものの、家庭第一のマイホームパパに。これにはマイケルさんも驚くやらあきれるやら。
それはともかく、そうやって新しい幸せを掴んだ父親を見てて自分もやりたいことをやろうと思ったんだって。それで、マイケルさんは若いときのあの苦い思い出をベースに「コーラルブルー」を書いたという。あくまでも仕事の合間の楽しみだったそれは、それを見せた友人のライターさんが出版社に売り込み、編集者さんも気に入って、あれよあれよという間に本になり、ベストセラーとなり、ついには映画化までしてしまった。
そうなってしまうともう、社長業の合間に執筆というわけにも行かなくなり、ちょうどそのころまとまった姪の薫さんの(マイケルさんが薫さんのことをフロリーと呼んでいるのは、英名がフローリアなんだって)結婚相手が櫟原社員の幸太郎さんだったことから、彼を養子にして社長につけたということだった。
それにしても、お嫁さんかぁ。なんか実感がわかない。 別に結婚するのがイヤだったわけではなく、好きな仕事をして、時々友達と遊んでそれで十分満たされていたから、焦ってしようと思わなかっただけだけど。
そして、夕方私を迎えに来てくれたのは、社長秘書の宮本美久さん。実はマイケルさんの妹さんの婚約者だ。
ちなみに、年の離れた妹のベスちゃん(日本名は絵梨紗というらしいが)は、13歳でその彼氏の美久君が25歳とこちらも一回り違う。
マイケルさんは、美久君のことをなかなか認められなかったって言ってたけど、そりゃそうだ。一回りの年の差より、中学生が婚約の方があり得ない。しかも、政略結婚とかではなく、彼が彼女の命の恩人だというロマンチックな理由だと言うからびっくり。彼の口からも、
「タケちゃん(会社を引退した後は、みんなにはそう呼ばせているらしい)には幸せになって欲しいんです」
という言葉が聞かれた。本当にマイケルさんはみんなに愛されている。
何で今まで結婚しなかったんだろうと思う反面、今まで一人でいて、一人でいてくれてよかったと思った。
「月島さん、俺、仕事があるんで会社に戻ります。夕方、またここに迎えに来ますんで、それまではごゆっくりどうぞ。ほら、薫行くぞ」
と私に頭を下げ、ソファーに座っていた薫さんの手をとって外に向かう。いきなり帰ると言い出したことに首を傾げた薫さんも、少し考えてウンウンと首を縦に振ると、
「へっ、それなら私が送って……ああ、ええ。私も奏が心配なんで帰ります。じゃぁ、叔父様頑張ってね」
と、マイケルさんにウインクを投げて幸太郎さんと一緒に病室を後にした。所謂、お見合いで言うところの「後はお若い方同士で」って奴だ。ただ、考えてみなくても私とマイケルさんの方が年上なんだけどね。
「ごめんね、幸太郎君が勝手なこと言って。あれでもね、普段は会社の事を考えるいい社長さんなんだよ」
マイケルさんは幸太郎さんがいなくなったとたん、そう言って私に謝った。幸太郎さんはたぶん、本当にマイケルさんに幸せになってもらいたいだけだ。だけどこんな風に私に父親を売り込むことができるのは、義理仲だからかもしれない。実の親を売り込むのは複雑な気分になるだろうから。
「更紗ちゃん、本当に結婚してないんだったら、僕のお嫁さんになってくれる?
更紗ちゃんはまだ2回しか会ってないって言うかもしれないけど。そうやって、待ってたら別の誰かにとられちゃうかもしれないから。そうなったら、僕今度こそ死んでしまうと思う」
それから、マイケルさんは改めて自分の口でプロポーズしてくれた。でもね、社長の奥さんを除けば、独身の女は私だけだけど、だから周りは妻帯者とうんと若い智くんだけ。黙ってたって誰も寄ってこないですって。だけど、
「そんな私はモテないですよ」
と言っても、
「ううん、更紗ちゃんかわいいもん。僕、心配で」
とゆずらない。
「私の方がマイケルさんのお嫁さんになんかなっていいんですか」
マイケルさんなら、もっとすてきな人が選り取りみどりだと思うけど。
「もちろんだよ。受けてくれるの?」
「私でよければ」
マイケルさんは私の返事を聞いて、
「やったぁ!! じゃぁ、一刻も早くここから抜け出さなきゃ」
と言って大喜び。すぐにでも点滴の管(これは意識を失っているときにつけたものなので、大丈夫だったと後から聞いた)を抜きそうな勢いだ。
「ダメですっ、ちゃんと体を治さないと。私はどこにも逃げませんから」
私は慌ててマイケルさんにそう返した。
「解ってるよ。体調が万全じゃないと弟さんとちゃんと闘えないもん。弟さん、この結婚絶対に阻止すると思うから。幸太郎君じゃないけど、僕にも解るんだよね。フロリーちゃんと幸太郎君のことは素直に認められたけど、ベス……あ、僕の母親の違う妹のことなんだけどね、ベスと美久君のことはなかなかね。
僕の場合は、年の離れた妹だからなんだと思ってたけど、お姉さんでもやっぱりそうなんだと思って。弟さんに親近感感じたくらいだから。
それに、できるだけ早くご両親には挨拶しておきたいし。病弱だと思われたくないからね、きっちり治すよ」
「いいですよ、正巳の肩なんか持たないでください。あの子のせいでマイケルさんがこんな大変な目に遭ってるんですから。あいつには私が文句なんか言わせません」
正巳には何も言わせない。言わせるもんですか。でもパパは……ちょっとヤバいかも。
それから、私たちはお互いの家族の話をした。
仕事一辺倒だったマイケルさんのお父さんが今の奥さんと知り合ったのが15年前、あちらはなんと、私たちの倍の31歳の年の差なんですって。だから、お義母さんと言っても、8歳も年下だとか。
仕事人間だったはずのお父さんは、そのお義母さん……クラウディアさんと結婚した途端、マイケルさんに会社を任せて社長を辞任。一応会長として籍は置くものの、家庭第一のマイホームパパに。これにはマイケルさんも驚くやらあきれるやら。
それはともかく、そうやって新しい幸せを掴んだ父親を見てて自分もやりたいことをやろうと思ったんだって。それで、マイケルさんは若いときのあの苦い思い出をベースに「コーラルブルー」を書いたという。あくまでも仕事の合間の楽しみだったそれは、それを見せた友人のライターさんが出版社に売り込み、編集者さんも気に入って、あれよあれよという間に本になり、ベストセラーとなり、ついには映画化までしてしまった。
そうなってしまうともう、社長業の合間に執筆というわけにも行かなくなり、ちょうどそのころまとまった姪の薫さんの(マイケルさんが薫さんのことをフロリーと呼んでいるのは、英名がフローリアなんだって)結婚相手が櫟原社員の幸太郎さんだったことから、彼を養子にして社長につけたということだった。
それにしても、お嫁さんかぁ。なんか実感がわかない。 別に結婚するのがイヤだったわけではなく、好きな仕事をして、時々友達と遊んでそれで十分満たされていたから、焦ってしようと思わなかっただけだけど。
そして、夕方私を迎えに来てくれたのは、社長秘書の宮本美久さん。実はマイケルさんの妹さんの婚約者だ。
ちなみに、年の離れた妹のベスちゃん(日本名は絵梨紗というらしいが)は、13歳でその彼氏の美久君が25歳とこちらも一回り違う。
マイケルさんは、美久君のことをなかなか認められなかったって言ってたけど、そりゃそうだ。一回りの年の差より、中学生が婚約の方があり得ない。しかも、政略結婚とかではなく、彼が彼女の命の恩人だというロマンチックな理由だと言うからびっくり。彼の口からも、
「タケちゃん(会社を引退した後は、みんなにはそう呼ばせているらしい)には幸せになって欲しいんです」
という言葉が聞かれた。本当にマイケルさんはみんなに愛されている。
何で今まで結婚しなかったんだろうと思う反面、今まで一人でいて、一人でいてくれてよかったと思った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一条さん結婚したんですか⁉︎
あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎
嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡
((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜
⭐︎本編は完結しております⭐︎
⭐︎番外編更新中⭐︎
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!
タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。
姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。
しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──?
全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる