9 / 13
777
しおりを挟む
次に私が向かったのは、ゲーセン。
「田中様、何をなさるおつもりですか……」
デビッドは店の入り口にある棒を握った私をおっかなビックリで見ている。
「何って、ゲームよ
今更ここにきてあんたを殴って逃げるとでも思った?」
と言うと、デビッドは否定も肯定もしなかった。ってことは、内心そう思ってるってことでしょ? コラ、ここはウソでも否定せんかいっ!
私はその辺のイラもバチに込めて、KIRARAのヒット曲を叩く。コースはもちろん、オニ。こう見えても私、運動神経は悪くないのよ。華麗な私のバチ捌きをデビッドは口を開けて見ていた。
「やってみる?」
「わ、わたくしは……」
私がそう言うと、デビッドは真っ赤な顔をして私の顔を見た。
「やってみなよ、赤いのと青いのが流れてるでしょ。それが、この丸の中に入るときに、赤はここ、青はここを叩くだけ、カンタンでしょ?」
私はでも画面を見ながら遊び方を説明する。
「は、はぁ……」
「デビッド、こんな仕事してたらいけ好かない上司とかいるんじゃないの? 思いっきり叩いたら、ストレスも発散できるよ」
それでも躊躇している彼に、私がそう言ってバチを渡すと、
「て、天使にストレスなんて存在しませんよ」
と言いながら、素直にバチを受け取ってふんっと鼻から息を吐く。やっぱいるんじゃない、そういう上司。
「じゃぁ、いくよ!」
と私は2人モードの料金を機械につっこんで、足を肩幅に開いて構えた。慌てて、デビッドも同じように構える。
曲なんて知るはずもないデビッドは、最初こそさんざんだったけど、その内どんどんリズムに乗れるようになって、一気に達人級。だって私がちらっと見たら打つのを忘れそうになるぐらいの鬼気迫る集中力だったもん。
だだ、そんな状態で5曲も6曲も叩いてると、デビッドの息が上がっている。へぇ、天使でも息があがるんだぁと、妙に感心しちゃった。
いっしょに叩いていた私も疲れたし、ちょっと休憩しようと、私はちょっとだけゲームコインを買ってスロットのコーナーに移動した。大人のスロットみたいに換金はできないけど、それだけにコイン排出率は高いのよね。あまりたくさんコインを買わなくても結構長く遊べる。一応、ここにはコインチャージのシステムもあるけど、もうチャージする必要はないんだから。
ダメダメ、しんみりしちゃったら。思いっきり楽しむつもりで来てるのに。私は、
「ここにこれを入れて、このバーを前に引っ張る。
それからこのボタンを順番に押すのよ」
と言って、デビッドにも何枚かコインを渡してスロットを回す。7・7ときてテンション上がったけど、最後は、何かラグビーボールみたいなのだった。
「おしぃっ、後ちょっとだったのに」
「7が揃えばいいのですか」
と言いながら、今度はデビッドがコインを入れる。
「そうそう、ここに書いてあるでしょ、7が揃うと300枚って。でも、そうそう出るもんじゃない……」
それに対して、わたしがそう返事したとき、デビッドのスロットマシンがピカピカと光って、一瞬の間の後、マシンが猛烈な勢いでコインを吐き出し始めた。
「わわっ、な、何が起こってるんですか!」
デビッドが慌てて機械から飛び退く。す、すごい。私もBARを揃えて150枚ってことはあったけど、777なんて初めてだよ。しかも、一枚目でだなんて。
これだけあったら、しばらくどころかずっと遊んでられるよと思ったところで、私はすごく寂しくなった。私はこれを使ってどこまで遊んでも、結局自分の運命を少しだけ後に引き延ばしてるだけなんだなって思ったから。私やっぱ……覚悟を決めなきゃ……いけないよね。
私は、その様子を
「すっげぇ」
と言ったたぶん中坊男子に
「これ、全部あげるわ。でも、こんなとこでサボってないで、ガッコ行った方が良いわよ」
と、いささかオバサンチックな発言と共にコインボックスごと渡して、とっとと店を出た。
「田中様! どうしたんですか!!」
「帰る、もう帰るよ……お願い、デビッド、連れて帰って」
私はそう言って、慌てて追いかけて来た『お迎え天使』にしがみついて泣いた。
「田中様、何をなさるおつもりですか……」
デビッドは店の入り口にある棒を握った私をおっかなビックリで見ている。
「何って、ゲームよ
今更ここにきてあんたを殴って逃げるとでも思った?」
と言うと、デビッドは否定も肯定もしなかった。ってことは、内心そう思ってるってことでしょ? コラ、ここはウソでも否定せんかいっ!
私はその辺のイラもバチに込めて、KIRARAのヒット曲を叩く。コースはもちろん、オニ。こう見えても私、運動神経は悪くないのよ。華麗な私のバチ捌きをデビッドは口を開けて見ていた。
「やってみる?」
「わ、わたくしは……」
私がそう言うと、デビッドは真っ赤な顔をして私の顔を見た。
「やってみなよ、赤いのと青いのが流れてるでしょ。それが、この丸の中に入るときに、赤はここ、青はここを叩くだけ、カンタンでしょ?」
私はでも画面を見ながら遊び方を説明する。
「は、はぁ……」
「デビッド、こんな仕事してたらいけ好かない上司とかいるんじゃないの? 思いっきり叩いたら、ストレスも発散できるよ」
それでも躊躇している彼に、私がそう言ってバチを渡すと、
「て、天使にストレスなんて存在しませんよ」
と言いながら、素直にバチを受け取ってふんっと鼻から息を吐く。やっぱいるんじゃない、そういう上司。
「じゃぁ、いくよ!」
と私は2人モードの料金を機械につっこんで、足を肩幅に開いて構えた。慌てて、デビッドも同じように構える。
曲なんて知るはずもないデビッドは、最初こそさんざんだったけど、その内どんどんリズムに乗れるようになって、一気に達人級。だって私がちらっと見たら打つのを忘れそうになるぐらいの鬼気迫る集中力だったもん。
だだ、そんな状態で5曲も6曲も叩いてると、デビッドの息が上がっている。へぇ、天使でも息があがるんだぁと、妙に感心しちゃった。
いっしょに叩いていた私も疲れたし、ちょっと休憩しようと、私はちょっとだけゲームコインを買ってスロットのコーナーに移動した。大人のスロットみたいに換金はできないけど、それだけにコイン排出率は高いのよね。あまりたくさんコインを買わなくても結構長く遊べる。一応、ここにはコインチャージのシステムもあるけど、もうチャージする必要はないんだから。
ダメダメ、しんみりしちゃったら。思いっきり楽しむつもりで来てるのに。私は、
「ここにこれを入れて、このバーを前に引っ張る。
それからこのボタンを順番に押すのよ」
と言って、デビッドにも何枚かコインを渡してスロットを回す。7・7ときてテンション上がったけど、最後は、何かラグビーボールみたいなのだった。
「おしぃっ、後ちょっとだったのに」
「7が揃えばいいのですか」
と言いながら、今度はデビッドがコインを入れる。
「そうそう、ここに書いてあるでしょ、7が揃うと300枚って。でも、そうそう出るもんじゃない……」
それに対して、わたしがそう返事したとき、デビッドのスロットマシンがピカピカと光って、一瞬の間の後、マシンが猛烈な勢いでコインを吐き出し始めた。
「わわっ、な、何が起こってるんですか!」
デビッドが慌てて機械から飛び退く。す、すごい。私もBARを揃えて150枚ってことはあったけど、777なんて初めてだよ。しかも、一枚目でだなんて。
これだけあったら、しばらくどころかずっと遊んでられるよと思ったところで、私はすごく寂しくなった。私はこれを使ってどこまで遊んでも、結局自分の運命を少しだけ後に引き延ばしてるだけなんだなって思ったから。私やっぱ……覚悟を決めなきゃ……いけないよね。
私は、その様子を
「すっげぇ」
と言ったたぶん中坊男子に
「これ、全部あげるわ。でも、こんなとこでサボってないで、ガッコ行った方が良いわよ」
と、いささかオバサンチックな発言と共にコインボックスごと渡して、とっとと店を出た。
「田中様! どうしたんですか!!」
「帰る、もう帰るよ……お願い、デビッド、連れて帰って」
私はそう言って、慌てて追いかけて来た『お迎え天使』にしがみついて泣いた。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる