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切られた火蓋
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翌日、出勤する英介たちと一緒に家を出た加奈子は、午前中の新幹線に乗り、昼前には日進の自宅に戻った。特に横浜で欲しいものもなかったし、それならランチタイムに間に合うように家に帰った方が良い。家に入るとすぐに仕事用の服に着替えて店に出る。
「お帰り、早かったんだな」
それを見て修司が驚いてそう言った。
「兄さんたち仕事だもの。他にあっちに用事はないし」
「無理すんなって言いたいとこだが、やっぱおまえじゃなきゃ、やりにくくってしょうがない。頼むよ」
子供たちの動きは悪くはないが、そこは所詮お手伝い、動いてもらうには逐一修司の指示が要るのだ。
修司のその言葉に加奈子は軽く頷いて店内の掃除を始める。急がなければ、開店まではもうあまり時間がない。
そして昼の営業を終え、未来や小橋家の消息を語りながら夜の準備をした。
「それにしても義兄さんがそんなロマンチストだったなんてな。杏ちゃん、捕獲されたんだ」
英介と杏子の件を聞いた修司はそう言って大笑いした。因みに6つも年下の修司が杏子のことを杏ちゃんと呼ぶのは、杏子たっての希望だ。
『お義姉さんなんて呼ばれたら尚更歳を感じちゃうよ』と言って譲らないのだ。
「そういうのロマンチストって言うの?」
しかし、計算で動いている英介のどこがロマンチストなのだろう、加奈子は首を傾げる。
「杏ちゃん追っかけて教師になったんだろうが。それって充分ロマンチストなんじゃね」
すると、修司がそう答えた。
「そんなものかしらね」
と加奈子が言うと、修司は、
「男はさ、大事なものをなりふり構わず手に入れようとするもんなんだよ」
俺のおまえみたいにな、とウインクする。加奈子はその言い種にカチンときた。そうやってなりふり構わずゲットした妻を簡単に裏切ったのはどこのどいつだろう。加奈子はつっけんどんに、
「ああそれでなりふり構わず十も年下の女の子のケツを追っかけてた訳ですか」
と返した。
「加奈子いい加減機嫌直してくれよ。昔のことじゃんかよ」
おいおいと、諫めるように手を振る修司に、
「私が知ったのはつい最近だわ」
と加奈子は修司を睨みあげる。
「そうか……そうくるか。おまえはあん時聞いてればブログのあの男のとこんでも行けたとか、そう思ってんだろ!!」
すると、修司は急に声の高さをぐんと落としてそう言った。
「……違うわ」
図星を指されて加奈子の声が震える。夫は私の不貞を知っていて知らぬフリをしていたんだろうかと。
「何が違う! おい、陸、いるか!」
その動揺に気づいたのかどうかは分からないが、修司はいきなり陸を呼んだ。
二階から、『何?』という声が返ってくる。
「今から加奈子と出かけるから、臨時休業の張り紙しとけ。加奈子、来い!!」
修司はそう言って、強引に加奈子の手を引くと駐車場にある、仕入れ用のワゴン車の助手席に加奈子を押し込め、荒々しく車を発進させた。
「お帰り、早かったんだな」
それを見て修司が驚いてそう言った。
「兄さんたち仕事だもの。他にあっちに用事はないし」
「無理すんなって言いたいとこだが、やっぱおまえじゃなきゃ、やりにくくってしょうがない。頼むよ」
子供たちの動きは悪くはないが、そこは所詮お手伝い、動いてもらうには逐一修司の指示が要るのだ。
修司のその言葉に加奈子は軽く頷いて店内の掃除を始める。急がなければ、開店まではもうあまり時間がない。
そして昼の営業を終え、未来や小橋家の消息を語りながら夜の準備をした。
「それにしても義兄さんがそんなロマンチストだったなんてな。杏ちゃん、捕獲されたんだ」
英介と杏子の件を聞いた修司はそう言って大笑いした。因みに6つも年下の修司が杏子のことを杏ちゃんと呼ぶのは、杏子たっての希望だ。
『お義姉さんなんて呼ばれたら尚更歳を感じちゃうよ』と言って譲らないのだ。
「そういうのロマンチストって言うの?」
しかし、計算で動いている英介のどこがロマンチストなのだろう、加奈子は首を傾げる。
「杏ちゃん追っかけて教師になったんだろうが。それって充分ロマンチストなんじゃね」
すると、修司がそう答えた。
「そんなものかしらね」
と加奈子が言うと、修司は、
「男はさ、大事なものをなりふり構わず手に入れようとするもんなんだよ」
俺のおまえみたいにな、とウインクする。加奈子はその言い種にカチンときた。そうやってなりふり構わずゲットした妻を簡単に裏切ったのはどこのどいつだろう。加奈子はつっけんどんに、
「ああそれでなりふり構わず十も年下の女の子のケツを追っかけてた訳ですか」
と返した。
「加奈子いい加減機嫌直してくれよ。昔のことじゃんかよ」
おいおいと、諫めるように手を振る修司に、
「私が知ったのはつい最近だわ」
と加奈子は修司を睨みあげる。
「そうか……そうくるか。おまえはあん時聞いてればブログのあの男のとこんでも行けたとか、そう思ってんだろ!!」
すると、修司は急に声の高さをぐんと落としてそう言った。
「……違うわ」
図星を指されて加奈子の声が震える。夫は私の不貞を知っていて知らぬフリをしていたんだろうかと。
「何が違う! おい、陸、いるか!」
その動揺に気づいたのかどうかは分からないが、修司はいきなり陸を呼んだ。
二階から、『何?』という声が返ってくる。
「今から加奈子と出かけるから、臨時休業の張り紙しとけ。加奈子、来い!!」
修司はそう言って、強引に加奈子の手を引くと駐車場にある、仕入れ用のワゴン車の助手席に加奈子を押し込め、荒々しく車を発進させた。
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