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訃報
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まだ春浅い3月、みどりから電話があった。
「香織ちゃん亡くなったよ」
この連絡に先がけて、入院したとの連絡も彼女から受けていたが、それからたった半年だ。
岐阜に向かう車中、加奈子はやはり複雑だった。亮平に対してかつての気持ちは既にない。ただ、やはり運命の女神は気まぐれで理不尽だと思うだけだ。4人の中で一番若い彼女がなぜ先に逝かねばならないのか。
そして、実際に辿ってみてその道が思いの外近かったことを知る。だからと言ってなにが変わる訳でもないが、こんなに近いのなら定休日にでも一度見舞えばよかったと思う。互いの夫がいないところで話がしたかった。
おそらく香織の性格では、そこでも自分の本音は出さないのかもしれないが、かつての恋敵の出現で、少しでも生への執着が増してくれたらと思ったところで、加奈子は苦笑する。まだ高校生の子供がいる母親が遺して逝くことを無念に思わぬ訳はない。それは夫の一時の過ちなど及ばぬものだろう。さらに、厳密に言えば過ちでもなかったりするのだから。
会場にはいるとそこには他人目をはばからず泣き崩れる亮平がいた。会社勤めであれば、定年したか間近い歳だ。まだ未成年の子がいるとは言え、子供にはもうさして手はかからなくなっているはずだから、これからが夫婦でいろんなところにいける時期だったろうに。
それでも、加奈子は不謹慎にもちらっとそれを羨ましいと思った。この取り乱した姿は、本当に愛のある結婚生活のあった証拠なのだから。あのとき、一歩を踏み出していればこうして泣かれているのは私かもしれないと。
だが、香織の遺影を見て、加奈子はそれは違うと思った。香織のこの何もかもを包み込むような笑顔があったからこそ、亮平はここまで涙するのだと思った。
亮平のことがなければ、加奈子はきっと若い女に走った修司を許すことができなかっただろう。彼には本当に悪いことをしたと思っている。それだけに、残念だった。彼らにはもっと長く幸せな時間を過ごしてほしかったのだ。
ところが、通夜の時が終了して帰ろうとした加奈子を一人の女性が呼び止めた。
「板倉さん……ですよね」
「はい」
知らない顔だった。だいたい、リアルでの付き合いはないので、連絡をくれたみどりと喪主の亮平以外、誰とも面識はない。
「私、香織の妹の詩織です」
ああ、妹さんか……そう言えば、どことなく香織に似ている。だが、
「お義兄ちゃんから言づてを頼まれました。落ち着いたら一度会えませんかって」
続いて出てきた言葉に加奈子の表情は固まる。どん引きしているのは詩織にも分かったらしく、
「あ、変な意味じゃないんですよ。実はおねえがずっと話したいって言ってたらしくて、お義兄ちゃんはその話をしたいらしいんです。
でも、49日までは家を空けられませんからね、それで不躾なんですけど、板倉さんに来ていただけたらって伝えてほしいって」
加奈子たちの関係を知る訳ではないだろうに、固まったままの顔の加奈子に、詩織はそう付け加えた。
加奈子は香織もまた自分に会いたがっていたことを知って驚いた。
「香織ちゃん亡くなったよ」
この連絡に先がけて、入院したとの連絡も彼女から受けていたが、それからたった半年だ。
岐阜に向かう車中、加奈子はやはり複雑だった。亮平に対してかつての気持ちは既にない。ただ、やはり運命の女神は気まぐれで理不尽だと思うだけだ。4人の中で一番若い彼女がなぜ先に逝かねばならないのか。
そして、実際に辿ってみてその道が思いの外近かったことを知る。だからと言ってなにが変わる訳でもないが、こんなに近いのなら定休日にでも一度見舞えばよかったと思う。互いの夫がいないところで話がしたかった。
おそらく香織の性格では、そこでも自分の本音は出さないのかもしれないが、かつての恋敵の出現で、少しでも生への執着が増してくれたらと思ったところで、加奈子は苦笑する。まだ高校生の子供がいる母親が遺して逝くことを無念に思わぬ訳はない。それは夫の一時の過ちなど及ばぬものだろう。さらに、厳密に言えば過ちでもなかったりするのだから。
会場にはいるとそこには他人目をはばからず泣き崩れる亮平がいた。会社勤めであれば、定年したか間近い歳だ。まだ未成年の子がいるとは言え、子供にはもうさして手はかからなくなっているはずだから、これからが夫婦でいろんなところにいける時期だったろうに。
それでも、加奈子は不謹慎にもちらっとそれを羨ましいと思った。この取り乱した姿は、本当に愛のある結婚生活のあった証拠なのだから。あのとき、一歩を踏み出していればこうして泣かれているのは私かもしれないと。
だが、香織の遺影を見て、加奈子はそれは違うと思った。香織のこの何もかもを包み込むような笑顔があったからこそ、亮平はここまで涙するのだと思った。
亮平のことがなければ、加奈子はきっと若い女に走った修司を許すことができなかっただろう。彼には本当に悪いことをしたと思っている。それだけに、残念だった。彼らにはもっと長く幸せな時間を過ごしてほしかったのだ。
ところが、通夜の時が終了して帰ろうとした加奈子を一人の女性が呼び止めた。
「板倉さん……ですよね」
「はい」
知らない顔だった。だいたい、リアルでの付き合いはないので、連絡をくれたみどりと喪主の亮平以外、誰とも面識はない。
「私、香織の妹の詩織です」
ああ、妹さんか……そう言えば、どことなく香織に似ている。だが、
「お義兄ちゃんから言づてを頼まれました。落ち着いたら一度会えませんかって」
続いて出てきた言葉に加奈子の表情は固まる。どん引きしているのは詩織にも分かったらしく、
「あ、変な意味じゃないんですよ。実はおねえがずっと話したいって言ってたらしくて、お義兄ちゃんはその話をしたいらしいんです。
でも、49日までは家を空けられませんからね、それで不躾なんですけど、板倉さんに来ていただけたらって伝えてほしいって」
加奈子たちの関係を知る訳ではないだろうに、固まったままの顔の加奈子に、詩織はそう付け加えた。
加奈子は香織もまた自分に会いたがっていたことを知って驚いた。
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