遠い旋律

神山 備

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遠い旋律

ダイエットへ……

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「さくらどうだった?高広くんち」
いつものノエへの報告会。何度も言うようだけど、ホントは報告する義務なんて何もない。
「どうって、別に」
私はノエの言いたそうなことは分かっていたけど、ワザとそっけなく答えた。
「身も心も高広くんのものになったんじゃないの?」
「バ、バカなこと言わないでよ。ただのお互いの楽器の演奏会よ」
ほら、やっぱり…と思いながら、何だか恥ずかしくて私はつっかえた。
「何だ、つまんない」
それを聞いてノエは不満そうだった。別にあんたを喜ばすために付き合ってるんじゃないんですけど、私たち。

「へぇ、2人っきりでも手を出さないなんて、高広くん、これはマジ惚れかもね」
だけど、ノエは私たちが2人っきりだったと聞いた途端、逆にノリノリになってそう言った。どうしてそういう方向にばっか持って行こうとするかなぁ…
「だってさ、ギターを弾いてるときのあんたって、女のあたしから見てもぞくっとするほど色っぽかったりするんだよ。そんな状況であたしが男だったら、マジ押し倒してるね」
「止めてよ、高広はあんたとは違うわ」
実際、私は高広のベッドに腰掛けてギターを弾いていたんだから、高広がその気になれば女の私は抵抗したって無意味だったろうけれど。(ベッドに座ってたなんて言ったら、それこそ何言われるか判ったもんじゃないわ)
「違わないって、男なんて欲望に忠実なもんだよ。だから、マジ惚れだってんの!」
欲望に忠実って…あんた私と同じ年でしょ。たかだか23年生きてるぐらいで、偉そうなこと言うんじゃないわよ。大体、そんな欲望が出てきてって言うのもアヤシイもんだわ…

 私、ギターを弾く時、デニムを穿いてたから、お腹がつっかえちゃって、足を組まずに高広にその辺の要らない雑誌を積み上げてもらって演奏した。カッコ良い高広を見ちゃった後では、それがすごく惨めだった。
それに、私の顔を覗き込んだときのあの表情…確かに弾いてるときにはそういう気持ちも少しは起こったかもしれないけど、顔覗き込んだら魔法解けちゃったみたいな……よくよく見たら大したことないって、そういう反応だったかもしんないじゃん。

私はこの時、ホントに痩せたいって思った。高広に似合う女にならなきゃってそう思って――ダイエットを始めたんだ。
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