遠い旋律

神山 備

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遠い旋律

HOLY NIGHT

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 ダイエットを始めて…どうせならびっくりさせたいなと思って、仕事だとか用事だとかいろいろな理由を作ってしばらく会わないようにした。

 高広も最初は本当に忙しいんだと思ってたみたいだけど、その内怒り出した。
「忙しい時期なのは解るけどさ、ちょっと位空けられねぇのかよ。一体いつなら空いてる!」
って電話で怒鳴ったり、
-これって、もうオレとは会いたくないって事なのか?-
なんてメールが入ってくるようになった。これじゃぁ、痩せられる前に私たち崩壊しちゃうかも…あいつのために痩せようとしてるんだけどな。

 でも、ジムにまで通って時間はかなり削られてたし、それだけにきっちり成果も出てきていた私は、ここでネタばらしをしちゃうのももったいないって気分にもなっていた。
私はあの時、電話とメールで何度彼に謝っただろうか。
「とにかく、クリスマスには何が何でも空けさせてもらいますから…それで、カンベンしてっ!」
私はバカの一つ覚えみたいにそればっか繰り返して、あいつもぶつぶつ言いながらそれを待ってくれた。

そして、クリスマス当日-
「さくら、お前…」
待ち合わせの喫茶店に遅れてきた私を見た高広は、私の変わり様にたっぷり5秒はフリーズした。それから、
「大丈夫か、ま、とにかく座れよ。」
って言って、私を自分の向かいの座席に座らせた。
「なぁ、どうして、こんなになるまで黙ってたんだよ。オレってそんなに信用ないのかな。」
高広はそう言うと、ものすごく切ない目で私を見た。あちゃ~…やっぱり誤解しちゃってる…
「高広、心配しないで。私、元気だから」
だから、私はいつもより声を張って元気なのをアピールした。
「ウソつけ!だってこんなに…お前体力勝負で仕事してるっていつも言ってるだろ。」
そう言って彼は私の腕を掴んだ。よく見ると涙眼になっちゃってるし。
「だからさ、ダイエットしただけだって」
私は慌ててネタばらし。
「ダイエット?」
私がダイエットだと言うと、高広はビックリしたような顔した。そんなに私がダイエットするのがおかしい?私はそのリアクションに正直かなりムッとした。
「そう、ダイエット。今まで黙っててゴメン。ただ、高広にははっきりと成果を見て欲しくて…しばらく会わないようにしてたんだ。まだ目標までは遠いし、ホントはもっと痩せてから会いたかったんだけど、クリスマスにも会えませんなんて言ったら、あんた本格的に誤解しそうだし…」
「ダイエット…」
高広はもう一度かみ締めるみたいにそうつぶやいた。
「私、あんたに似合う女になりたかったから始めたんだからね。」
どう言ったら解ってくれるんだろう。そう思いながら、私はらしくないクサイ台詞を吐いてしまっていた。

 そしたら、次の瞬間、高広はいきなり私の座席の所に回り込み、私を椅子から立たせると、ギュッと抱きしめた。あまりに突然で、私は頭の中がまっ白になった。ココ、喫茶店の中だし、しかも今人もそこそこいる状態なんですけど!!
「ダイエット…良かった。長い事会えなくて、やっと会えたらお前すごく痩せちまってるし、何かとんでもないことが起こってるのかと思ったら、胸がきゅーっとなっちまったから…病気じゃないんだな、何かおかしなことにも巻き込まれてないんだな。」
「うん、何もない。元気だよ。」
私は高広の腕の中でそう答えた。

「ねぇ、とっても嬉しいんだけどさぁ、ここどこだったっけ?」
一瞬何もかも忘れて『二人の世界』に飛び込んじゃったんだけど、コレってかなり…ううん、すごく恥ずかしい状況だって気付いた私。私にそう言われて、高広も慌てて私から離れた。
「ホント、ゴメン」
うん…気持ちはとっても嬉しかったから、別に謝ってもらわなくてもいいんだけど…
その後、ため息を一つ落とした高広は、今度はいきなり怒り出した。
「バカ!オレのために痩せようとしただって?!そんなことするなよ。オレはそのままのさくらで充分だから」
「だって、あんたいつだって痩せろって言ってたじゃん」
そうよ、桜餅って呼んでるのは一体どこの誰?
「だからってこんなに急に痩せるこたぁねぇだろっ!ホントに病気にでもなったらどうすんだよ!!」
「ならないって、曲がりなりにも医療従事者だよ」
「そういう奴ほど、ホントは危ねぇんだよ。食わねぇで仕事してんじゃないだろうな」
そう言ってあいつは私を睨んだ。
「ちゃんと栄養士にも相談してるわよ。その辺はフォローしてもらえるから」
「ホントか?」
「ウソじゃないって!」
その後も、
「大丈夫か?」
って何度も繰り返す高広に解ってもらえるまで私は何度も、
「大丈夫」
と繰り返さなくっちゃならなかった。

 その度にあんまり痩せたって高広が連呼するもんだから、他のお客さんたちが私を見て、どこが痩せたの??って視線を私に返してくる。
そう、傍目から見たら、あんたがどう言おうが私はまだまだデブなんだからね。
あんたに似合う女になるまで、私は頑張るからね-あいつに面と向かって口に出すと、また心配して怒り出しそうだったから、私は心の中で彼にそう言った。

 その後、店を出て少し歩いて、近くの公園に行った。
「これからは1人でコソコソすんなよ」
プリプリした口調で高広が言った。
「もうバレてんだもん、コソコソなんてしないわよ」
もう、隠し事なんてないもん。
「もう、どこにも行くなよ」
「行かないって、ってか、行ってないって」
しつこいなぁ…って言おうとしたら、急に高広の顔が近づいてきた。
「じゃぁ、コレ…隠し事してたペナルティーだから」
高広はそう言うと、私を抱きしめてキスをした。

ウソつきは私じゃなくて高広の方。だって、コレってペナルティーなんかじゃないじゃん。

ペナルティーどころか、サイコーのクリスマスプレゼントだもん。






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