遠い旋律

神山 備

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遠い旋律

高広

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「高広!!」
私はあいつの乗ったストレッチャーに取り縋った。
「三輪ちゃん、もしかしてこの人三輪ちゃんの知り合い?」
救急担当看護師の質問も私には聞こえていなかった。
「高広!私よ分る?しっかりして、高広!!」
私は必死で高広に呼びかけ続けた。でも、彼は意識も朦朧としていて私だということも分らないみたいだ。呻き声しか返ってこなかった。
「三輪ちゃん!」
私は救急看護師に無理やりストレッチャーから離された。
「ちょっと、何パニクってんの!それより、この患者さん、あなたの知り合いなのね!」
私はその質問に項垂れるように肯いた。

 そのときまた…彼のジャケットのポケットからあの曲が流れた。咄嗟に私はその看護師を振り解いて、また高広に駆け寄り、ポケットから彼のケータイを取り出した。
「もしもし、お兄ちゃん?!今どこ!!」
切羽詰った声で電話してきたのは、妹の久美子ちゃんだった。
「……久美子……ちゃん?」
「えっ?…もしかして、三輪さん?! お兄ちゃん、三輪さんと一緒にいるんですか?!」
出たのが高広本人ではなく、しかも名前を呼ばれたので、久美子ちゃんはびっくりしたものの、すぐ私だと気付いてくれた。
「早く……早く来て……高広今、私の病院に……」
私は震えながら彼女にそう告げた。
「三輪さんの病院にいるんですね」
「たった今救急で…真っ青で意識もほとんどなくて……」
「わかりました、すぐ行きます。三輪さん、しばらくお兄ちゃんをお願いします」

久美子ちゃんは、高広が救急車で搬送されてきた事を聞いても驚かなかった。それどころか、看護師の私よりも数倍冷静だった。
私は、運ばれてきた高広の状態と、久美子ちゃんの冷静な対処とで、自分の憶測はほぼ正しいのだと確信した。でも、私はそのことを受け止めきれず、ケータイを握り締めたまま、その場にへなへなと座り込んでしまった。

「どうしました、ご気分でもお悪いんですか?…何だ、三輪?!あんたどうしてこんなとこに座り込んでんのよ。大丈夫?」
ストレッチャーが処置室に入ってしまった後も、座り込んで動けなくなっている私を、気分が悪くなった外来の患者さんだとでも思ったのだろう、通りがかった内科の看護師が私の顔を覗き込んでそう言った。
「今高広が……真っ青だった……苦しそうだった……」
私は震えながら救急処置室を指差して言った。
「ああ、さっき救急で搬送された患者さんがいたわね、その人のこと?ま、とにかく椅子に座って!たとえ知り合いでも、ナースのあんたがそんなんでどーすんの、しっかりしなさい!」
彼女はそう言うと、私を抱えて救急の待合の椅子に私を座らせて持ち場に帰っていった。

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