遠い旋律

神山 備

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遠い旋律

高広のノート

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 私は高広のノートを開いた。そう言えば、高広の書いた文字ってあまり見たことがなかった気がする。メールは手じゃ書かないし。

 ノートには何枚か破られた痕があって、そのページの下には強く擦られた痕もあったりしたから、おそらく破られたページの方が高広の本当の本音なのだろうけれど……私が後で見ることになると、あいつも思ったんだろうな。そういうのは全部破ったみたいだった。(どこまで、カッコつけたいのよ、高広)


-高広のノートから1-

今、父さんから聞きだした。やっぱりオレは、あと少ししか生きられないらしい。

バカにしてるよ!後3月だって…そのうちオレ、何日まともに動けるんだ?何にもできないまま終るのか…そう思ったらめちゃくちゃ悔しくて、腹立ってきた。

でも、腹立てても何も変わんねぇことも分かってる。それでもオレにだって一応、夢も希望もあったんだけどな。

さくら嫁さんにもらって、子ども育てて、自分の設計した家建てて…でも、考えてみたら、なんかその夢って小っせーな。

それに、あいつ…看護師なんてやってる割にすぐにテンパるから、オレが倒れたなんて聞けばパニクって、他のこと何もできなくなるだろうからって、入院したことも口止めしといたんだけど…結果的に良かったな。でなきゃ、あいつの方が今のオレの状態を先に知ってしまうことになっただろう。
科が違おうがあいつも看護師だ。病名を聞いただけで瞬時にあいつは理解できるだろう。オレのこれからの道筋さえも。

オレは泣き暮らすあいつは見たくない。あと少ししかあいつの顔を見られなくても、だから笑顔で居てほしい。あいつの笑顔を見たら、それだけで元気になれそうな気がするしな。(バカだろ、オレ)

ゴメンね、高広。私、そんな風に思ってくれてたのに泣いてばっかだったね。もっと笑ってあげたら良かったね…

私はとめどなく流れてくる涙を拭いもせず、次のページをめくった。
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