遠い旋律

神山 備

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再び桜花咲う季

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-その夜、私は夢を見た。
 夢の中では何故か、穂波がさくらにあやされて笑っていた。

 そして、それを見ていた私はいつしか涙を流していた。それに気付いた穂波はさくらを離れて私に駆け寄り、
「パーパ、めぇよ、めぇよ」
と口を歪める。泣くなと言いたいのだろう。
「そうだね、泣いちゃダメだね」
と返すと、穂波は
「パパ、いーこ、いーこね」
と言いながら私の頭をなでた。それから、私の頬に自分の頬をぐりぐりと押しつけて笑った。かつての日、翔子が「しゅきしゅき(好き好き)」と言いながら穂波にやっていたことだ。穂波はそれを、次にさくらにも同じようにしたのだ。さくらはびっくりした後、
「穂波ちゃんありがとう」
と言って笑みをこぼした。

 その時、少し離れた所から声がした。
「穂波ちゃん」
見ると、向こうの方で翔子が穂波を呼んでいた。
穂波は弾かれるように母親を見た後、私に向き直り、
「バァバイ」
と回らぬ舌で私に別れを告げると、引き留めようとした私の手を軽々とすり抜けて、翔子の許へ走り去り、翔子と手をつないだ。
「翔子、穂波!!」
私も慌ててそこに行こうとするが、身体が全く動かない。
 そして、穂波はもう一度屈託のない笑顔を私たちに向けると、
「バァバイ」
と手を振った。それと同時に翔子が私に軽く、さくらに深々と会釈をすると、彼女らの周りが光に満ち……

 そこで、私は目覚めた。朝の光の中、穂波の舌っ足らずの別れの言葉が確かに私の耳に残っていた。

 翔子、穂波……パパは、許してもらえたと思って良いのかな。
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