my precious

神山 備

文字の大きさ
6 / 28

解放

しおりを挟む
 海はその週末も僕のマンションにいつも通りやって来た。

「やっぱり別れられない」
と彼女は言った。
「僕は一生誰とも結婚する気はないから」
僕がそう言うと、それでも構わないから一緒にいたいとまで彼女は言ってくれた。彼女の母親は、【結婚が女の幸せ』と繰り返し説くタイプだと聞いている。その中で、結婚を選択しない生き方をするのは、大変な事のはずだ。

 だから……僕は別れを切り出した。彼女を僕から解放しなくっちゃと思った。
「君は僕との中途半端な暮らしを、後々絶対に後悔する」
僕はそう言ったけど、全てを話したら……たぶん、海はどんな仕打ちにでも耐えて側にいてくれるだろう。しかも僕には一言の愚痴も言わずに笑顔で。そして、僕の一族だけでなく、彼女の母親にまで翻弄されボロボロになっていくに違いない。僕はそんな彼女を見続けている自信はない。

「もう遅いんだよ」
って言ったら
「何が遅いのか解らない」
と、海は僕の背中を叩きながら泣いた。遅いのか早いのか……ホントは僕にも分からなかった。

 そして、海が僕の部屋の彼女の荷物を整理し始めたとき、僕はパソコンで仕事をしているフリをした。でも、あの時打ち込んでいたのは、実は海への謝罪の言葉だった。
 見られそうになったらすぐに消す準備をしながら、僕は延々とゴメンね、本当は愛していると入力し続けた。

 やがて玄関から海がドアの外に出ても、彼女がそこから歩き出せないでいる事も分かっていた。飛び出して行って抱きしめてしまいたい衝動に何度も駆られながら、僕はパソコンの前で頭を抱えて蹲るように座っていた。
「これで良いんだ、これで海は幸せになれる」
僕は自分自身に呪文をかけるように、何度もそうつぶやいた。
 やっと歩き出した彼女の靴音が聞こえなくなっても……僕はずっとそうしていた。

 僕の手元に残ってしまった、この安物の指輪を握り締めながら……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

その出会い、運命につき。

あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...