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君になら……
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海のいない週末の夜は長かった。僕はそれに耐えかねてつい健史に電話してしまっていた。
「休みの日にお前が電話してくるなんてな、どういう風の吹き回しだ?倉本とケンカでもしたのか? 図星だろ」
「ケンカなんかじゃないよ」
かけたのが僕だと判ると、健史は笑いながら僕にそういったから、僕はそうじゃないと反論した。あれは、僕が一方的に別れを切り出したんだから……
「どうせまた、お前がわがままばっかり言って彼女を困らせてるんだろうが」
「ああ、そうだよ。僕がわがまま過ぎて、僕たち終わっちゃったよ」
ニヤニヤ笑っているのが判る声の問いかけに、ぼくはつっけんどんにそう返した。
「終わったってお前……またかなり飲んでるだろ。飲みすぎなんだよ、だから倉本を怒らせるような事になるんだ。あいつにお前が酒で勝てる訳ゃないだろ」
健史は僕たちが酔っ払っていつものようにケンカを始めたくらいにしか思っていなかった。その声は笑っていた。
「ねぇ、健史はまだ海が好きなの?」
「何だ、藪から棒に。はいはい、今でも好きですよ。いい加減諦めろとでも言いたいか。」
僕の質問に健史は面倒臭そうに返事した。健史はそうやって僕には海への思いを隠したりはしなかった。それでも僕が彼女を手離さない、手離せないと解っているからだ。
「僕の代わりに、海を幸せにしてくれないかな」
「はぁ?!バカな事、言ってんじゃないよ。何でケンカしたのか知らないが、俺まで巻き込まんでくれよ」
僕の突然の提案に、健史はあきれ声で答えた。
「僕は本気なんだけどな、僕と別れた後、他の奴に海を取られるのは許せないけど、君になら…だから…ね」
「お前、何考えてんだ?!」
ぼくがそう言うと、彼は声を荒げた。
「僕はどこまでいっても海を幸せになんかできない。」
「倉本は誰よりお前といるのが一番幸せなんだよ。ホントにまぁ、一体どんなケンカからそんな寝ぼけた事を考えたんだよ。言ってみろよ」
「……」
健史に言ってみろと言われて、僕は逆に口ごもった。こんなこと親友の健史にだって言えることじゃない。
「言わなきゃ分かんないだろうが。理由も言わないで、お前自分のお古を俺に押し付けるつもりか?」
ふざけた言い方をしているけど、それは僕を心配しての有無を言わせない口調だった。
「子供……」
僕は蚊の鳴くような声でぼそっとそう答えた。
「子供? 子供が出来たんなら万々歳なんじゃないのか?」
「違うよ、子供が出来ない」
僕が続けてそう言うと、健史はホッとしたようなため息をついて言った。
「はいはい、何だそういうことか。お前の事だから、社長にぐうの音も出ない状態で倉本との結婚を認めさせようとか思ってイラついてんだろ。どうせお前には倉本しか見えてないんだろ、良いじゃんか、出来るまで待ちゃ。でも、それじゃ倉本が不安になるのか……それで、ケンカ? バカバカしい、犬も食わねぇってぇの、そういうの」
そして、健史は僕たちがただ、『既成事実』に焦ってケンカを始めたのだと思ってげらげら笑い始めた。
「出来るまで待てって……待っても、出来ない。僕が原因で……」
「待っても出来ないって? お前が原因って……それ、何だよ」
しかし、そうじゃないとようやく気付いたようだった。
「3年子無きは去れ」
「何だよ、それ。」
僕が続けていった古い言葉に、健史は困惑した声で返した。
「僕たちがよしんば周りを押し切って結婚をしたとしても、たとえ僕にその原因があるとしても、海は何かと値踏みされて、挙句の果てには子供が出来ない事を理由に追い出される。これが僕たちの現実だよ。
「僕たちの現実って……お前、一体何時代の話してんだよ。平成になったんだぞ、へ・い・せ・い。」
「関わっている役者が代わってないんだから、昭和が平成になろうがそんな事は何も変わりはしないよ」
「それはそうかもしれないけど……そこまで取り越し苦労する事ないと思うけどな。悪いことはいわないから、今からでも倉本に侘びの電話入れとけ」
健史は僕の酔いが冷めれば僕たちはまた縁りを戻すと、簡単に考えてるみたいだった。
「電話で思い出したよ、電話番号変えたから。今度の番号は……」
「お前……そこまでしたのか?」
健史の声の高さが落ちた。
「だから、最初から僕、本気だって…だから、僕の事はもう気にしないで今でも好きなら海のことを……あ、ただ、彼女にこの事は言ってないんだ。僕がいろんな子をつまみ食いしてるように言ってある。本当のことがばれないようにしてくれれば、君が……」
その瞬間、電話の向こうの空気が凍るのが判った。
「龍太郎!お前ホントに倉本にそんなこと言ったのか!?」
そして、健史は僕の鼓膜が破れそうになるような声で怒鳴った。
「お前……倉本にとってそれがどれだけ失礼で残酷な事なのか解っててやったのか!!」
健史の声は怒りに震えていた。
「俺がYUUKIの社員で、お前との関わりがある以上、俺との付き合いにはお前の影が付きまとう。そんな俺の許であいつが本当に幸せになれるだなんて思うのか? じゃぁ、何か、お前は俺に仕事も辞めてあいつを取ってくれてって言うのか!?」
「いや……健史には一緒にいて欲しいよ。今の企画は君なしでの成功はあり得ない」
「じゃぁ、別れるのは龍太郎、お前の勝手だ。でもな、俺にまで妙な事を振ってくるのは迷惑だ。止めてくれ!!」
健史はそう叫ぶと、一方的に電話を切ってしまった。
「休みの日にお前が電話してくるなんてな、どういう風の吹き回しだ?倉本とケンカでもしたのか? 図星だろ」
「ケンカなんかじゃないよ」
かけたのが僕だと判ると、健史は笑いながら僕にそういったから、僕はそうじゃないと反論した。あれは、僕が一方的に別れを切り出したんだから……
「どうせまた、お前がわがままばっかり言って彼女を困らせてるんだろうが」
「ああ、そうだよ。僕がわがまま過ぎて、僕たち終わっちゃったよ」
ニヤニヤ笑っているのが判る声の問いかけに、ぼくはつっけんどんにそう返した。
「終わったってお前……またかなり飲んでるだろ。飲みすぎなんだよ、だから倉本を怒らせるような事になるんだ。あいつにお前が酒で勝てる訳ゃないだろ」
健史は僕たちが酔っ払っていつものようにケンカを始めたくらいにしか思っていなかった。その声は笑っていた。
「ねぇ、健史はまだ海が好きなの?」
「何だ、藪から棒に。はいはい、今でも好きですよ。いい加減諦めろとでも言いたいか。」
僕の質問に健史は面倒臭そうに返事した。健史はそうやって僕には海への思いを隠したりはしなかった。それでも僕が彼女を手離さない、手離せないと解っているからだ。
「僕の代わりに、海を幸せにしてくれないかな」
「はぁ?!バカな事、言ってんじゃないよ。何でケンカしたのか知らないが、俺まで巻き込まんでくれよ」
僕の突然の提案に、健史はあきれ声で答えた。
「僕は本気なんだけどな、僕と別れた後、他の奴に海を取られるのは許せないけど、君になら…だから…ね」
「お前、何考えてんだ?!」
ぼくがそう言うと、彼は声を荒げた。
「僕はどこまでいっても海を幸せになんかできない。」
「倉本は誰よりお前といるのが一番幸せなんだよ。ホントにまぁ、一体どんなケンカからそんな寝ぼけた事を考えたんだよ。言ってみろよ」
「……」
健史に言ってみろと言われて、僕は逆に口ごもった。こんなこと親友の健史にだって言えることじゃない。
「言わなきゃ分かんないだろうが。理由も言わないで、お前自分のお古を俺に押し付けるつもりか?」
ふざけた言い方をしているけど、それは僕を心配しての有無を言わせない口調だった。
「子供……」
僕は蚊の鳴くような声でぼそっとそう答えた。
「子供? 子供が出来たんなら万々歳なんじゃないのか?」
「違うよ、子供が出来ない」
僕が続けてそう言うと、健史はホッとしたようなため息をついて言った。
「はいはい、何だそういうことか。お前の事だから、社長にぐうの音も出ない状態で倉本との結婚を認めさせようとか思ってイラついてんだろ。どうせお前には倉本しか見えてないんだろ、良いじゃんか、出来るまで待ちゃ。でも、それじゃ倉本が不安になるのか……それで、ケンカ? バカバカしい、犬も食わねぇってぇの、そういうの」
そして、健史は僕たちがただ、『既成事実』に焦ってケンカを始めたのだと思ってげらげら笑い始めた。
「出来るまで待てって……待っても、出来ない。僕が原因で……」
「待っても出来ないって? お前が原因って……それ、何だよ」
しかし、そうじゃないとようやく気付いたようだった。
「3年子無きは去れ」
「何だよ、それ。」
僕が続けていった古い言葉に、健史は困惑した声で返した。
「僕たちがよしんば周りを押し切って結婚をしたとしても、たとえ僕にその原因があるとしても、海は何かと値踏みされて、挙句の果てには子供が出来ない事を理由に追い出される。これが僕たちの現実だよ。
「僕たちの現実って……お前、一体何時代の話してんだよ。平成になったんだぞ、へ・い・せ・い。」
「関わっている役者が代わってないんだから、昭和が平成になろうがそんな事は何も変わりはしないよ」
「それはそうかもしれないけど……そこまで取り越し苦労する事ないと思うけどな。悪いことはいわないから、今からでも倉本に侘びの電話入れとけ」
健史は僕の酔いが冷めれば僕たちはまた縁りを戻すと、簡単に考えてるみたいだった。
「電話で思い出したよ、電話番号変えたから。今度の番号は……」
「お前……そこまでしたのか?」
健史の声の高さが落ちた。
「だから、最初から僕、本気だって…だから、僕の事はもう気にしないで今でも好きなら海のことを……あ、ただ、彼女にこの事は言ってないんだ。僕がいろんな子をつまみ食いしてるように言ってある。本当のことがばれないようにしてくれれば、君が……」
その瞬間、電話の向こうの空気が凍るのが判った。
「龍太郎!お前ホントに倉本にそんなこと言ったのか!?」
そして、健史は僕の鼓膜が破れそうになるような声で怒鳴った。
「お前……倉本にとってそれがどれだけ失礼で残酷な事なのか解っててやったのか!!」
健史の声は怒りに震えていた。
「俺がYUUKIの社員で、お前との関わりがある以上、俺との付き合いにはお前の影が付きまとう。そんな俺の許であいつが本当に幸せになれるだなんて思うのか? じゃぁ、何か、お前は俺に仕事も辞めてあいつを取ってくれてって言うのか!?」
「いや……健史には一緒にいて欲しいよ。今の企画は君なしでの成功はあり得ない」
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健史はそう叫ぶと、一方的に電話を切ってしまった。
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