Cheeze Scramble

神山 備

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魔法使いは楽じゃない

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 ハンナさんが用意したのは当然? ドレスで、胸元はしっかり隠れているし、丈も昔の「スケバン〇〇」みたいに長い。ただ、色がパステルだのフリフリがついてないのが救いか。やけど、こんなん正直……
「動けないっ! パンツいや、ズボン? スラックス? とにかくそういうのプリーズ!」
そう言うたあたしにハンナさんは首を傾げる。まぁそうやよな、実際にハンナさんは似たような恰好でちゃんと仕事こなしてるんやもんね。
 けど、それは慣れてるから。日本人のあたしがこんな長いスカートなんかで畑仕事したら、絶対どっかに引っかけて破いてまうのがオチや。
「弟子ですか?」
 で、あたしがフレンに弟子入りしたというと、ハンナさんはすごく複雑な表情でそう返した。ちなみに千鶴というのはここの人にはとんでもなく言いにくいらしく、あの苦虫男のお貴族様(フレン)ですらちょっと噛んで、すごく悔しそうな顔していた。へへっ、ざまみぃ。ハンナさんに至ってはもうお手上げ状態。
「あ、友達にはチーズって呼ばれてます」
優しいあたしは、掲示板でのハンネで呼ぶことを提案した。

 それはさておき、服の続き……
「だからね、もっと動きやすい恰好がしたいんです」
と言うあたしにハンナさんは、
「いい若いお嬢様が男の恰好をなさるなんて」
とかなり難色を示しとった。
「あたしの世界では女でもふつうに穿いてるんですよ」
それでも、あたしがあんまり熱心に頼むもんやから最後は根負けして、
「まぁ、それだけ魔力がおありになるんですものね。勉強しないのは宝の持ち腐れかもしれませんわね」
とため息つきながら、ハンナさんの息子さんの子供の頃の服を持ってきてくれた。
 ああ、動きやすい。土いじりするとき、スカートの裾を気にせんでええし、気楽に俯けるし。
 翌日から魔法使いの弟子としての生活が始まったと言いたいところやけど、地球で言えば薬剤師っぽいフレンの仕事はほぼ花農家。しかも、薬草を扱うために農薬は使われへんし(そもそも農薬なんて概念もないかも)、ここに来てからあたし、今までの人生と同じくらい虫見たんやないやろか。そら、虫が全くアカン訳やないけど、正直もう見たない。お腹いっぱいって感じ。
 それに、フレンはあたしのこと全然女やと思てないみたいで、畑の土おこしとかも平気でさせられる。おかげであたしは、全身筋肉痛。ああ、こんな生活してて大阪に戻るまでにマッチョになってたらどうしょう……
 そんなことを考えてた三日目の昼休憩。あたしは、慣れない連日の野良仕事でお茶を飲みながらついウトウト……そうや、このうららかな日差しが悪い。瞼を糊付するみたいに、気持ちええんやもん。
「げっ、しもた!」
しばらくして目を覚ますと、目の前には案の定不機嫌全開のフレンの顔があった。
「あ、おはようございます……」
と、ぼそぼそっと言うてみるけど、それに対してフレンの返事はない。もしかしてあたし、相当長いこと寝とった? でも、そんなに怒らんでええやんか。
 そう思ってよくよく見ると、フレンの様子がいつもと違う。何が違うんかと思たら、髪の毛が黒ない。明るい茶色。出してるオーラも違うっぽいし……
「あんた、誰?」
とあたしが聞くと、そいつは答える代わりに、
「Quantoros istas  medeearear(こいつを眠りの世界に誘え)」
とSleepの呪文を唱えた。不思議とそれがSleepの呪文やと理解はできたんやけど、魔法初心者のあたしには耐性なんかあるわけもなく、あたしはものの三秒で眠りこけて、その謎の人物の手に落ちてしもた。

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