Cheeze Scramble

神山 備

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フレン・ギィ・ラ・ロッシュ

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俺は、アシュレーンの旧家ロッシュ家の次男として生まれた。
 見事な黒髪・黒い瞳を宿す俺を、父は複雑な思いで取り上げた。黒目・黒髪は強い魔の象徴だからだ。
 実際、生まれたばかりの赤ん坊には魔を隠す術(すべ)など知る由もないので、俺はその強い魔をこれぞとばかりにひけらかしていたことだろう。
 幸いだったのは、ロッシュ家が代々治癒師の家系で、俺を取り上げたのが俺の身内(父と叔母)だったことだ。叔母は、生まれてきた俺を見て、とっさに封魔の輪を俺の足に填めてから俺を侍女に引き渡したほどだ。それでもほんのりとは魔力が漏れていたという。
 
『強い魔は家を荒らす』と言われている。 特に順番を違えて次男(あるいは三男)に現れたときには『家を失くす』とも言われる。それはそうだろう。魔力は持って生まれてくるもので、後からどうこうできるものではないからだ。
 当然、長子はそれまで当主になるべく教育されているのに、より力の強い者を立てろと言う者が必ず現れて、一族の中に分裂が起こる。
 それに、当の長子は面白くない。それで兄が弟をいじめ抜くというのも聞く話だ。
  
 しかし兄は、父母の心配をよそに八歳下の俺のことを無条件にかわいがった。

 彼は、その家風を色濃く受け継いだ虫も殺せぬというか逆に助けてしまうような治癒師気質(お人好しとも言う)で、しかも八歳という歳差は、兄弟の確執よりも父性愛を育むのに充分であったらしく、どちらかと言えばこまっしゃくれた子供だった俺を心配し溺愛したのだ。

 そして俺も、そんな兄こそがこの王宮治癒師の家には相応しいと思った。
 それで、俺は成人を迎えるとすぐ、新しい薬を研究するとかいろいろ理由を取り付けて家を出た。

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