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兄
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親元から離れての暮らし、それに両親よりも難色を示したのがこの兄だった。何かというと、帰ってこいと催促の文を寄越し、それに俺が応じないとなると、『アクセス』の呪文を唱えて、危険なことをしないかと夢見する。
この『アクセス』という呪文は、本来思い合っている男女が離れていてもお互いのことを知ることができるように夢を共有する魔法だ。あちらが俺の夢を見るということは、必然的にこちらもあちらの夢を見ることになる。大体、何が悲しくていい歳をしたおっさんが仕事をしている夢を見なければならないのだ。
それに、八歳の年齢差は永遠に埋まらないのは事実だが、俺だってちゃんと成人して一人立ちしているのだ。過保護もいい加減にしてくれという話だ。俺が兄に、
「俺がそんなに信用できませんか? 俺はただ、普通の生活をしているだけですよ。
今後『アクセス』は一切かけないでくださいね。でなければ、兄上の望み通りにキスバル(魔獣)の森にでも居を移させてもらいます。そうすれば、兄上にも毎日スリリングな日々を楽しんでもらえるでしょうからね」
と言ったのは、当然の要求だろう。
「俺は何もお前を信用してない訳ではない」
それに対して憮然とした表情でそう言った兄は、
「こんなにあふれる魔力を持ちながら、それを陛下の為に使おうとはしないで、ギィはどうしてこんな隠居のような生活を送る。勿体ないとは思わんのか」
と続けた。宮廷治癒師としての責任感あふれる兄らしい言い分である。
(だからです)
と、俺は兄に心の中でそう返した。共に仕事をするということは、常に周囲から比べられるということなのですよ、兄上。それに、もしもの時の布石にと兄上は言われるのかもしれませんが、ここしばらく争いらしい争いはないので、そんな心配もないでしょう。そう言っている間に、あなたの息子のレミが兄上の跡を継ぐ。それで良いではないですか。
渋々ながら私の要求を受け入れた兄が次に繰り出してきたのは、王都の娘たちとの縁談だった。王都でしか暮らしたことのない妻から戻ろうと言われれば、俺が戻ってくるとでも思っているのだろうか。大体、この暮らしを受け入れる女性でなければ、俺が結婚しようと思わないとは考えないのだろうか。
そして、二十五歳を過ぎた今では、母までもがその嫁取りコールに加わってきて五月蠅いことこの上ない。
(酒でも飲まなければやってられない)都合十六度目の見合いをやっとのことで反古にしてきた俺は、そう独り言を言いながら急ぎ戻ってきたメイサの自宅でグラスを傾けていた。
確かに彼らが持ってきた話はどれも申し分のない女性ばかりだったが、俺の食指がピクリとも動かないのだから仕方ない。
「では、一体どういう女性が好みなのだ」
断りを入れると、と憤慨しながら兄はそう言ったが、それは自分でもわからない。
その時、ふと『天の采配』のことが頭を過ぎった。もし出会えば絶対に分かると言うが本当だろうか。父と母とはそうして結ばれたと言うが、俺から見れば、あれは父の一目惚れにすぎない。
[伴侶がいるんだったら、さっさと居場所くらい教えて欲しいもんだ]
俺は、そう呟いてグラスに残っていた酒を全部のみ干した。自分ではそんなでもないと思っていたが、実際はかなり飲み過ぎていたのかもしれない。俺はそれを魔道語で話していることに自分で気づいていなかったのだ。
そして次の瞬間、俺の目の前に、見たこともない世界が現れた。
この『アクセス』という呪文は、本来思い合っている男女が離れていてもお互いのことを知ることができるように夢を共有する魔法だ。あちらが俺の夢を見るということは、必然的にこちらもあちらの夢を見ることになる。大体、何が悲しくていい歳をしたおっさんが仕事をしている夢を見なければならないのだ。
それに、八歳の年齢差は永遠に埋まらないのは事実だが、俺だってちゃんと成人して一人立ちしているのだ。過保護もいい加減にしてくれという話だ。俺が兄に、
「俺がそんなに信用できませんか? 俺はただ、普通の生活をしているだけですよ。
今後『アクセス』は一切かけないでくださいね。でなければ、兄上の望み通りにキスバル(魔獣)の森にでも居を移させてもらいます。そうすれば、兄上にも毎日スリリングな日々を楽しんでもらえるでしょうからね」
と言ったのは、当然の要求だろう。
「俺は何もお前を信用してない訳ではない」
それに対して憮然とした表情でそう言った兄は、
「こんなにあふれる魔力を持ちながら、それを陛下の為に使おうとはしないで、ギィはどうしてこんな隠居のような生活を送る。勿体ないとは思わんのか」
と続けた。宮廷治癒師としての責任感あふれる兄らしい言い分である。
(だからです)
と、俺は兄に心の中でそう返した。共に仕事をするということは、常に周囲から比べられるということなのですよ、兄上。それに、もしもの時の布石にと兄上は言われるのかもしれませんが、ここしばらく争いらしい争いはないので、そんな心配もないでしょう。そう言っている間に、あなたの息子のレミが兄上の跡を継ぐ。それで良いではないですか。
渋々ながら私の要求を受け入れた兄が次に繰り出してきたのは、王都の娘たちとの縁談だった。王都でしか暮らしたことのない妻から戻ろうと言われれば、俺が戻ってくるとでも思っているのだろうか。大体、この暮らしを受け入れる女性でなければ、俺が結婚しようと思わないとは考えないのだろうか。
そして、二十五歳を過ぎた今では、母までもがその嫁取りコールに加わってきて五月蠅いことこの上ない。
(酒でも飲まなければやってられない)都合十六度目の見合いをやっとのことで反古にしてきた俺は、そう独り言を言いながら急ぎ戻ってきたメイサの自宅でグラスを傾けていた。
確かに彼らが持ってきた話はどれも申し分のない女性ばかりだったが、俺の食指がピクリとも動かないのだから仕方ない。
「では、一体どういう女性が好みなのだ」
断りを入れると、と憤慨しながら兄はそう言ったが、それは自分でもわからない。
その時、ふと『天の采配』のことが頭を過ぎった。もし出会えば絶対に分かると言うが本当だろうか。父と母とはそうして結ばれたと言うが、俺から見れば、あれは父の一目惚れにすぎない。
[伴侶がいるんだったら、さっさと居場所くらい教えて欲しいもんだ]
俺は、そう呟いてグラスに残っていた酒を全部のみ干した。自分ではそんなでもないと思っていたが、実際はかなり飲み過ぎていたのかもしれない。俺はそれを魔道語で話していることに自分で気づいていなかったのだ。
そして次の瞬間、俺の目の前に、見たこともない世界が現れた。
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