55 / 57
【その後のお話】内通疑惑
しおりを挟む
……ここは、アシュレーン王国、国王執務室……
書類の山に目を通しているのは、この国の国王、グラッド4世だ。
彼は、成人そこそこの17歳に即位した。若さ故、侮られることも最初は多かったが、彼はまた、その若さ故の柔軟な発想力でそれらを蹴散らし、10年経った今では、先王に勝るとも劣らぬ良政を施いている。
不意に、執務室のドアがノックされた。
「誰だ」
と問うグラッドに、前室の近衛は、
「スカルベ侯爵様にございます」
と告げた。国一の保守派(頑固者とも言う)が一体何の用だと思いながら、グラッドは
「入れ」
と扉の向こうに告げる。
スカルベは入室後、恭しくグラッドに頭を下げた。
「何のようだ、スカルベ」
「何、大したことではないのですが、陛下に少々お耳に入れたいことがございまして」
「何だ、申してみよ」
「アンダーロッシュ伯爵夫人のことでございます」
アンダーロッシュというのは、フレン・ギィ・ラロッシュのことだ。ロッシュ家は元々公爵家だが、それは長兄ランスが継いでいる。だが、このフレンは、その妻チーズと共に世界を変える魔法を開発し、その功により、特別に一代限りの爵位を下したのだ。ただ、どちらもロッシュなので、それがフレンを指すときはアンダーロッシュと呼んでいるのだ。(しかし、チーズがどうしたというのだ)
「最近、何やら足繁く他国の者が出入りしているとのこと。第一、アンダーロッシュ伯爵夫人は平行世界から来たと自分では申しておりますが、それは果たして本当かどうかあやしいものです。
速やかにことの次第を明らかにして、もし内通が事実であれば、早めのご決断をされるがよろしいかと」
するとスカルベはそう言ってドヤ顔でグラッドを見た。グラッドはその含み笑いを一瞥して、
「話はそれだけか」
と、また書類に目を戻す。
「は?」
「話はそれだけかと聞いている!」
「あ、はい、ええ……」
「では下がれ」
「え?」
「下がれと言うのだ!!」
「はい、では失礼します」
スカルベは王が何故苛立っているのか分からず首を傾げながら、元来た道を戻って行った。
さて、グラッドはのろのろとスカルベが部屋を辞して、扉を閉めた途端、大きなため息をはいた。(まったく、あのお方にも困ったものだ。少し釘を刺しておかねばならぬかな)
彼は大急ぎで立ち上がって書類を束ねると、
「気分が優れぬ。たが疲れているだけなので、眠れば良くなるだろう。今から寝所に向かう。くれぐれもゆっくり休むために『何人も近づけるな』」
と、扉の前の近衛に言う。それを聞いた近衛は、
「御意」
とだけ言う。だがその顔が一瞬だけ笑ったのをグラッドは見逃さなかった、グラッドは首を竦めて私室に向かう。
だが、私室にはいった後、グラッドが着替えたのは、寝間着ではなくごく普通の-もっと言えば市井のものが着るような-服装。しかもそれを一人で着た。
そして、帝王学などの本がぎっしりと並んでいる本棚に手をかけ、ぐっと力を込めて横にスライドさせると、そこに現れたのは扉。ただ、10歳の子供に似つかわしいほどの高さしかない。大の大人が入るにはかなり背を縮めて入らねばならないが、グラッドは迷わず扉を開けて中に入る。
書類の山に目を通しているのは、この国の国王、グラッド4世だ。
彼は、成人そこそこの17歳に即位した。若さ故、侮られることも最初は多かったが、彼はまた、その若さ故の柔軟な発想力でそれらを蹴散らし、10年経った今では、先王に勝るとも劣らぬ良政を施いている。
不意に、執務室のドアがノックされた。
「誰だ」
と問うグラッドに、前室の近衛は、
「スカルベ侯爵様にございます」
と告げた。国一の保守派(頑固者とも言う)が一体何の用だと思いながら、グラッドは
「入れ」
と扉の向こうに告げる。
スカルベは入室後、恭しくグラッドに頭を下げた。
「何のようだ、スカルベ」
「何、大したことではないのですが、陛下に少々お耳に入れたいことがございまして」
「何だ、申してみよ」
「アンダーロッシュ伯爵夫人のことでございます」
アンダーロッシュというのは、フレン・ギィ・ラロッシュのことだ。ロッシュ家は元々公爵家だが、それは長兄ランスが継いでいる。だが、このフレンは、その妻チーズと共に世界を変える魔法を開発し、その功により、特別に一代限りの爵位を下したのだ。ただ、どちらもロッシュなので、それがフレンを指すときはアンダーロッシュと呼んでいるのだ。(しかし、チーズがどうしたというのだ)
「最近、何やら足繁く他国の者が出入りしているとのこと。第一、アンダーロッシュ伯爵夫人は平行世界から来たと自分では申しておりますが、それは果たして本当かどうかあやしいものです。
速やかにことの次第を明らかにして、もし内通が事実であれば、早めのご決断をされるがよろしいかと」
するとスカルベはそう言ってドヤ顔でグラッドを見た。グラッドはその含み笑いを一瞥して、
「話はそれだけか」
と、また書類に目を戻す。
「は?」
「話はそれだけかと聞いている!」
「あ、はい、ええ……」
「では下がれ」
「え?」
「下がれと言うのだ!!」
「はい、では失礼します」
スカルベは王が何故苛立っているのか分からず首を傾げながら、元来た道を戻って行った。
さて、グラッドはのろのろとスカルベが部屋を辞して、扉を閉めた途端、大きなため息をはいた。(まったく、あのお方にも困ったものだ。少し釘を刺しておかねばならぬかな)
彼は大急ぎで立ち上がって書類を束ねると、
「気分が優れぬ。たが疲れているだけなので、眠れば良くなるだろう。今から寝所に向かう。くれぐれもゆっくり休むために『何人も近づけるな』」
と、扉の前の近衛に言う。それを聞いた近衛は、
「御意」
とだけ言う。だがその顔が一瞬だけ笑ったのをグラッドは見逃さなかった、グラッドは首を竦めて私室に向かう。
だが、私室にはいった後、グラッドが着替えたのは、寝間着ではなくごく普通の-もっと言えば市井のものが着るような-服装。しかもそれを一人で着た。
そして、帝王学などの本がぎっしりと並んでいる本棚に手をかけ、ぐっと力を込めて横にスライドさせると、そこに現れたのは扉。ただ、10歳の子供に似つかわしいほどの高さしかない。大の大人が入るにはかなり背を縮めて入らねばならないが、グラッドは迷わず扉を開けて中に入る。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる