進撃!犬耳機動部隊

kaonohito

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第2話 ソロモンの犬耳達

Chapter-09

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 西暦1942年、昭和17年、新学暦206年。
 8月7日。ソロモン諸島ガダルカナル島。
 この地では、米豪遮断作戦・FS作戦に基づいて日本軍が飛行場を建設中だったが、一昨日の完成を見計らったかのように、この日の早朝、アメリカ海兵隊が、その滑走路にほど近い、テナル川河口の東岸に上陸を開始した。
 日本軍大本営は、連合軍による南太平洋方面での反撃は早くとも翌年以降と完全に思い込んでいた。
 これは、米軍の反攻があるとすればミッドウェイだろうという憶測もあった。事実、ミッドウェイでは、日本軍とチハーキュ軍が共同でハワイ攻撃の為の準備を進めていた。
 もっとも、米軍側にもミッドウェイをこのままにしての南太平洋方面での反攻作戦に対する疑問、時期尚早とする意見は強かった。だが、の強行的な発言により、ニューブリテン島以東に限るという条件付きで、な反攻作戦の実行が決断されてしまった、という背景もある。
 この為、ソロモン諸島での米軍の攻勢は、日本軍、チハーキュ軍にとって、完全な奇襲になった。
 米軍の上陸兵力は19,000名。これに対し、日本軍のガダルカナル島上の人員数は2,500名程度であり、しかもそれは飛行場整備のための設営隊のみで、戦闘員はいないに等しかった。
 このような状況で、米軍はテナル川西岸にも上陸すると、急速に日本軍地上部隊を駆逐し、テナル川とルンガ川に挟まれたこの一帯の占領を進めていた。
 しかし────

一式陸攻Bettyじゃない! それ以上の大型機が向かっている!』
 上陸作戦の海上部隊、TF61第61任務部隊の3隻の空母、『ワスプ』『レンジャー』が飛ばしていた、空中掩護の為の戦闘機が、そう報告してくる。
 ミッドウェイ沖海戦前、大西洋、地中海方面で主にアフリカ方面の連合軍の支援にあたっていた2隻だったが、ヨークタウン級空母3隻の全滅により、大型正規空母がレキシントン級『サラトガ』のみになってしまった米軍は、急ぎこの2隻を太平洋に移動させた。
 サラトガはハワイ近海の防衛のために、その海域にとどまっている。くだんの陸軍将軍はサラトガのこの作戦への参加を強く要望したが、作戦自体が立ち消えになりかけたため、その主張については妥協していた。
 ────────閑話休題。
『4発機だ!』
「4発機?」
 西側から接近する編隊の機影がレーダーに捉えられたため、上空CA掩機Pにこの機影に接触する指示が出されたが、そのCAP機がそう報告してきた。
二式大艇Emilyか?」
 TF61旗艦『ワスプ』の戦闘CI揮所Cから、CAP機に対して聞き返される。
『違う! 我々のB-17に酷似している!』
 オペレーターや空母航空隊の指揮官は、その返答を聞いて、さらに困惑し、怪訝そうに眉間に皺を寄せた。
 ボーイングB-17『フライングフォートレス』は、米陸軍航空隊の4発爆撃機だ。
「B-17そのものじゃないのか!?」
 CAP機に対し、再度問いかけられる。
『B-17じゃない! いや、B-17だとしても敵だ! ゼロが護衛してるんだぞ!!』
 その返答に、CIC内がにわかにざわつく。
『阻止は不可能だ! こっちがゼロに落とされちまう!!』
 CAP機からのその通告があった直後、
「目標、上陸船団の対空射撃範囲に入ります!」
 と、レーダーオペレーターもそう伝えてきた。
 32機の4発爆撃機が、海兵隊の揚陸地点に停泊していた船団の上空へと差し掛かる────

 チハーキュのレイアナー重工業は造船、鉄道車両、自動車、等々の重機械製造業の老舗と言っていい存在であり、特に形態を問わずエンジンと名のつくものには造詣が深く、エボールグにおける内燃機関による飛行の誕生以来、チハーキュに於いて航空エンジンの独占企業と化していた。
 独占企業であるにも関わらず、その初の動力飛行用のカスタムエンジン製作に携わり、現在は同社の航空部門の専任取締役となっている、アンドレイ・フィリップ・ズバルスキー────現在は男爵家を継承している彼の航空機に対するミョーな病的こだわりもあって、レイアナー製航空エンジンは高品質高性能と継続的な進化を続けていた。…………だから他社が育たないんであるが。
 しかし、レイアナー自身が完成した航空機の設計・製造を本格的に開始したのは遅く、新学暦200年に飛行艇を開発して市場参入となった。主翼上に前向き2発のエンジンの間に後ろ向きエンジン1発をもつこの3発飛行艇は、そのまま軍にも採用されてRe1となった。
 そのレイアナーが、202年に陸軍が発表した4発爆撃機試作計画XHB-202に参加、戦闘機のEl11『ケツァルコトル』のメーカーであるエルード航空技術製造と競り合い、結果勝利した。
 XHB-202は、単純に双発爆撃機の上位型と位置付けられ、その試作目標は
「空母の戦闘機で護られた敵艦隊を攻撃する」
 とされていたため、速度性能、低空での運動性能、防御能力、それに航続距離が求められた結果、爆弾搭載量は3.5トンと小さい。ただし、これとは別に、主翼下に落下式の燃料増槽を懸吊することが出来る。エンジンはIe9と同じ、液冷V型12気筒のLV12で、過給器は排気熱利用のターボチャージャー(よく、ターボは排気圧利用、と書かれているが、排気圧では単にエンジンの回転に対する抵抗が増大してしまう。ターボが回収しているのは余剰のの方なのである)。ただしエンジン生産隘路を考慮に入れて、制式化前から空冷星型S5エンジン搭載型の開発も開始されている。
 ────チハーキュ帝国陸軍地球派遣航空軍団、第902航空団第1爆撃大隊に属するレイアナーRe4爆撃機32機は、大日本帝国海軍第二五航空戦隊の零戦の護衛を受けつつ、1機あたり20mm機銃6丁、8mm機銃6丁でF4Fを追い払いながら、やはり1機あたり爆弾倉内の250kg爆弾12発、主翼下の125kg爆弾4発、合計512発112トンの爆弾を米軍上陸船団に向かってバラ撒き、そして悠々と引き上げようとしている。
 さらにそこへ、日本軍の一式陸上攻撃機27機が追撃を加えるかのように、進入してきていた。


 同じ頃、ニューブリテン島ラバウル。
 大日本帝国海軍第八艦隊陸上司令部。
 現在は、チハーキュ帝国海軍地球派遣艦隊南太平洋支隊の陸上指揮所も“軒先を間借り”していた。
 その、南太平洋支隊陸上指揮所という名の小さな事務室を、第八艦隊の首席参謀・神重徳と、同じく参謀の大前敏一中佐が訪れていた。
 2人の目の前には、濃い褐色の肌を持つ、10代に見える少女────が、場違いなその容姿を見ても、日本人の2人はそれを咎めたりすることはない。
 ──やりにくいなぁ、なんで私を派遣したんだ。
 目の前にいる少女────南太平洋支隊指揮官、カティナ・チアカ・フロメラス中将は、苦い顔をしてそう思った。
 チハーキュのマジョリティ種族である犬耳の種族ヴォルクスは、人間に比べると老化が始まるのが遅いとされている。…………されてはいるものの、寿命はほとんど変わらない事もあって、容姿の差異もそこまで極端ではない。
 ────が、カティナはダークエルフだった。
 カティナと、神や大前とでは、カティナの方がずっと歳上であるにも関わらず、見た目では、下手すればカティナが神の娘の年格好でもおかしくない。
 ついでに、所属する国が違うし、元帥・上級大将・准将いずれもが存在しているチハーキュ海軍の階級と日本海軍のそれとは直接対比が難しいとは言え、佐官の神と大前に対し、カティナは一軍の指揮官の権利がある中将。
 この為、神と大前の方も、やりにくそうにしていた。
 しかし、時間の余裕がないと解っているカティナは、ふっと小さくため息を吐いたあと、
「私達の艦隊にも、あなたの“殴り込み作戦”に参加して欲しいとのことですが────」
 と、切り出した。
 それを見て、神と大前が、幾分緊張を緩めた。
 カティナが続ける。
「────我々には本隊より権限が与えられております。参加することにやぶさかではありませんが……我々の艦隊の速度は32ノットが上限です。それは大丈夫ですか?」
 険しくも見える表情で、カティナはそう訊ねた。

 唐突だが、ここでエボールグの世界情勢と海軍の事情を簡単に説明しておく。
 科学技術圏はその震源であるチハーキュ帝国を中心として南半球の亜大陸・諸列島群に存在し、それに対して、魔学技術圏は北半球の大陸に存在している。
 そして、科学技術圏は旧暦時代、チハーキュ自身を含め、植民地など外国勢力に支配されていた国や地域が多く、魔学技術圏はその支配者だった国が多かった。
 この為、科学技術圏の国家は魔学技術圏の国家が勢力を取り戻して再度覇権を握ろうとする動きを見せないか────実際にそうした気配は存在する────常に、言葉を選ばずに言うならば怯えている。他方、魔学技術圏の国家は隆盛著しい科学技術圏の国家が、勢力拡大の方向を自分達に向けないかと危惧していた。
 魔法技術、魔学技術の特権とされていた空の支配に対し、科学技術でも飛行船による民間航空航路が拓かれた新学暦150年代、急激に緊張が高まっていった。
 魔学技術圏の国家で高まる危機感を利用し、もともと最大規模の大国であったイビム連合王国が、その盟主となる形で国際軍事連合を提唱し、賛同する国を集めてこれを実現した。
 すると、今度はそれを危険視した科学技術圏の国家が、最先進国でありイビムに匹敵する大国となったチハーキュ帝国と安全保障のための攻守同盟を求めるようになってきた。これによりチハーキュを事実上の頂点とする大同盟が構築された。
 ただし、これらは大雑把に魔学連合、科学同盟と呼ばれたものの、実際に個々の国家が採用している技術形態は実際には綺麗には別れていない。科学同盟側では、エルフがマジョリティ種族となる魔学技術国が何ヶ国か存在した。
 そしてなにより事態をエスカレートさせたのは、チハーキュ帝国にとって、イビム連合王国は旧宗主国、つまり植民地支配していた相手だった、と言う事実だった。
 技術のみならず、政治形態も差異があった。チハーキュ自身がそうである為、科学同盟国は「統治者の特権は国民の降伏の安寧と幸福の追求の為にのみ存在する」という、地球の統治二論(“ジョン・ロックの社会契約論”)的な思想に基づく立憲・議会制民主主義に移行していったのに対し、魔学連合の多くの国は封建制や絶対制が続いた。これはお互いの技術の性質に由来している。科学は“その結果は万人に平等”である為、自然と選民思想が薄らいでいったのに対し、魔学技術圏では依然、地球でいうところの王権神授説の補強に過ぎない“トマス・ホッブスの社会契約論”に留まったためである。
 ちなみに、“ジャン・ジャック・ルソーの社会契約論”に基づく「人民の、人民による、人民のための政治」という思想は、まだエボールグには出現していない。
 これらの特性がお互いの緊張をエスカレートさせていった結果、新学暦178年、ついに炸裂してしまう。

 エボールグの赤道付近、チハーキュの帝都・レングードとイビムの王都・ヴァシンテクとほぼ等距離にある島・バイハイ島は、どちらの陣営にも属さず、チハーキュ、イビムを始め多くの国と中立自由貿易都市条約を結び、交易で栄えていた。
 ところが、この前年頃から、バイハイ島の港湾に魔学連合の軍艦が出入りし始めた。これはいくつかの国との間の条約に違反しており、特に対立関係にあるチハーキュ帝国を始めとする科学同盟の国は再三抗議した。
 実際には、バイハイ都市政府が、魔学連合側から脅迫と安全保障の秘密協定によって動かされていた。
 結果、チハーキュを含めた複数の国家の再三にわたる抗議を無視し続けた結果、科学同盟側の緊張がついに一線を越える。
 新学暦178年7月25日、科学同盟国は一斉に、魔学連合加盟国に対し直ちにバイハイ島から一切の軍事力を撤退させる事を要求する最後通牒を送付。8月8日、最後通牒に従う意思なしと見做して、バイハイ島に入港中の魔学連合国艦隊及びその港湾施設に艦砲射撃を実施。
 歴史書に「バイハイ戦役」と書き記される戦争の幕開けだった。
 その進展の詳細については、後々語る事になるかと思うが、大まかな流れを言う。
 まず、科学同盟側も魔学連合側も大方の国は限定戦争の範疇で終わると考えていた。だが、繰り返される海戦のうちに、お互いに根拠地攻撃を企図するようになり、結果、戦場が世界規模に広がる事になった。
 そして、5年続いた戦争は、結果から言えば、戦力の供給能力、その継続性から、膠着状態から徐々に科学同盟側が優勢になり始め、洋上戦力で圧倒され、魔学連合国の数ヶ国が無条件降伏に追い込まれた段階で、イビムは継戦不可能と判断して終戦交渉を開始した。
 地球の第一次世界大戦と異なるのは、何れかが致命的な事態になる前に終戦を迎えたことだ。科学同盟側も、イビムを制圧し切る為に想定される必要な力と犠牲が膨大すぎて、イビムとの終戦交渉に応じた。
 とは言え、明文としての魔学連合の解体、魔学連合加盟国に課せられた賠償金、責任問題からの当時のイビム王の退位、また、バイハイ島がチハーキュ帝国の保護領となった事など、どちらが勝者でどちらが敗者なのかは明らかだった。

 この戦いはエボールグの多くの国で「バイハイ戦役」の呼称が公式となっているが、歴史家の一部は「世界大戦」と呼ぶこともあった。

 ────ここでなぜこの説明をしたのかと言うと、これがその後の軍事技術の発展にも影響しているからだ。
 地球の第一次世界大戦と異なり、大洋を挟んでの戦いだったため、その戦訓は軍艦の発展に大きく寄与した。特に、航空母艦の登場と発展はそれに強く後押しされた。
 実戦参加こそ『ホワイトアロー』を含めた黎明期の空母と、水上機母艦によるものに留まったが、航空機とその発展の可能性は強く重視されるようになった。戦後早々、トヨカムネア級航空母艦が計画されている。
 同時に、航空機から艦隊を守る手段の模索と開発も進められた。これは空母の建造や航空機の開発ほどには容易く進まなかったが、最終的に電波警戒器の出現に繋がるわけである。
 他方、早々に空母の能力が重視された結果、水上艦の高速化は中途半端になった。これがここで説明を入れた理由である。
 高速化が求められなかったわけではないが、30ノットが基準ラインになり、それ以上が強く要求される事はなかった。駆逐艦に至ってはバイハイ戦役前の36ノットから、戦後型は34ノットに低下している有り様である。

 神重徳は麾下の巡洋艦の最大速度である36ノットでの突入を考えていたが、彼がチハーキュ艦隊に参加要請を持ち込んだ最大の理由、重巡洋艦『ラピス・デル・プエルト』をはじめとするチハーキュ重巡洋艦群の最大速度は32ノットだ。日本重巡洋艦はそれに合わせて速度を低下させる必要がある。
「恥ずかしい話ですが、我々も編成されたばかりで、マトモな艦隊機動の訓練はまだほとんど行っていないのです。それに、手持ちの重巡洋艦5隻だけではあまりにも心もとなさ過ぎます。高速はあくまで理想ということで、手数を増やせるならその方が重要です」
 神を差し置いて、大前が、手振りを加えつつそう説明した。
「…………」
 どこか憮然とした様子の神に、カティナが目を細めて視線を向けるが、すぐに、
「すぐに動ける艦は?」
 と、傍らにいた、自身の参謀に訊ねた。
「全てです」
 南太平洋支隊司令部専任参謀、セレナ・ロイナ・グリフォード大佐は、まず短く即答した。
 彼女もまたヴォルクスではなく、フィリシスと呼ばれる種族だった。犬のような耳と尻尾を持つヴォルクスに対して、猫のような耳と尻尾をもつ。ヴォルクスとは縁戚と言われ、耳と尻尾以外の特徴はよく似ている。ヴォルクスよりはずっと少数だが、チハーキュ国民に占める割合は次点の数になる。
 従って、セレナも相当に若々しく見えるものの、纏っている雰囲気は年相応なので、カティナとどちらが上官なのかわからなくなってくる。
「『ラピス・デル・プエルト』『ヴェンタ・トレドール』、それに『キャルヴァロン』『ヴァルヘイム』────」
 最初の2隻はいずれもラピス・デル・プエルト級、続く2隻は、チハーキュ初の重巡洋艦であるミネルヴィア級だ。
「軽巡洋艦『カスティラナ』、第61から第64までの各駆逐隊────」
 『カスティラナ』は、チハーキュ初の軽巡洋艦だ。だが、チハーキュ、と言うか、エボールグでは重巡洋艦と軽巡洋艦の登場順序が地球とは逆であるため、それでも現状の日本のどの軽巡洋艦よりも新しかった。
 それというのも、日本はロンドン海軍軍縮条約体制下で、軽巡洋艦の枠を使って重巡洋艦の艦体を造っておく、という計画を立てて、最上型、利根型で軽巡洋艦の新造枠を食いつぶしてしまい、開戦時には天龍型や、5,500トン級と呼ばれる球磨型・長良型・川内型といった、地球においても旧式化した艦ばかりになってしまっていた。
 カスティラナは8,500トン級軽巡洋艦として計画され、現状の基準排水量は兵装の重量増で9,000トンをわずかに超えている。
 エボールグでの“ラミューズ海軍軍縮条約”────その名前は、バイハイ島が存在する海域にちなむ────によって、巡洋艦をその枠内でさらに備砲口径16cmを超えるものを制限したことにより、備砲口径20cmを上限とされた「重武装巡洋艦」、重巡洋艦に対し、「軽・重武装巡洋艦」という意味で“軽巡洋艦”とされている。
 このためカスティラナの主砲は44口径16cm砲で、新造時は前部に連装2基と三連装1基、後部に連装1基を装備していた。このうち、前部、三連装の第2砲塔の後ろに配置される旧第3砲塔は後に撤去され、連装12.5cm両用砲2基を増設するスペースにされている。他に対空砲は75mm連装砲を4基、連装45mm前装式ケースレス・リボルバーカノン4基、20mm機銃四連装4基・連装2基、8mm機銃10丁。それに55cm魚雷発射管連装4基を搭載している。
 駆逐隊4隊は、それぞれモンスローバ級駆逐艦4隻で構成されている。モンスローバ級はバイハイ戦役後、2番目の世代の駆逐艦で、日本の初春型の新造時のコンポーネントを、艦全体を拡大して無理のない大きさにしたような姿をしている。ただ、第1砲塔が単装、第2砲塔が連装となっている他、第2砲塔と艦橋の間に前装式ケースレス・リボルバーカノンの銃塔が存在している。
 これはもともと艦載用の大口径ケースレス・リボルバーカノンが、海賊船など小型の舟艇を撃退する為に搭載されるようになったことに由来している。
 また、駆逐艦に限ったことではないが、日本海海戦を経験していない結果、主兵装を前部に集めたがる性癖を持ってしまっている。後部は防御用の最低限と割り切っている事が多い。
 モンスローバ級のコンポーネントは決定版として、新学暦206年になっても雛形になっている。ただし、ラミューズ海軍軍縮条約は駆逐艦の制限が緩く、備砲口径は13.6cmまで認められている中、モンスローバ級は12.5cm両用砲を搭載している世代となっている。
 前後に各1基搭載される前装式ケースレス・リボルバーカノンも、当初は35mmの物が載っていた。現在は45mmのものに換装されている。
 この他に四連装20mm機銃を2基、連装8mm機銃を4基搭載し、55cm魚雷発射管は四連装と三連装を1基ずつ搭載している。
 話を戻そう。
「それと、空母『ホワイトアロー』」
 チハーキュ最古の全通甲板空母は、チハーキュ海軍の南太平洋支隊の唯一の航空戦力として進出してきていた。
 一方の主力空母部隊はと言えば、ミッドウェイ方面での反攻を警戒して、航空隊を再編中の日本軍の空母に代わり、サイパンで待機している。
 戦艦ユリンは、南太平洋支隊に預けられるはずだったが、帰途につくテオフィルを東京まで乗せていって、まだ戻ってきていない。
「『ユリン』があれば、相当の貢献ができたのですが、残念ですね……殿下には飛行機ででもお帰りになってもらえばよかった」
 カティナが、右手の親指を口元に当てて、険しい顔で呟く。
 それを聞いて、神は二重の意味で驚いてしまった。
「いえ、流石に皇族の方を飛行機で送り出して、万一のことがあっては……」
 神は、ひとつ目の意味を口にして、カティナを宥めた。
 もうひとつは、巨大戦艦のユリンを、この島嶼付近での夜戦に投入すると、あっさり言ってしまったところだ。
 ──柱島の連中も、爪の垢でも煎じて飲めばいい。
 神は、声には出さなかったものの、胸中でそうぼやいてしまっていた。
「空母は出せますか?」
 大前が訊ねる。
 すると、カティナとセレナは、揃って決まり悪そうな表情になり、一旦顔を見合わせてから、視線を神と大前に戻した。
「ご承知かも知れませんが、ホワイトアローはすでに旧式艦……アメリカの空母複数と殴り合える存在ではありません」
「そうですか……」
 落胆するように言ってしまってから、大前は慌てて口元を抑えた。
「いえ、事実ですから、本音を隠さなくていいですよ」
 カティナは苦笑気味に笑って言ってから、
「ですが、我が軍の攻撃機は旧式化していて、ホワイトアローの搭載数では戦力にならないと判断しまして、代わりに複座戦闘機のSe9を搭載してきています。単座戦闘機のEl11と合わせて、全数が戦闘機です。爆装することは可能ですが……それより、帰路のには向かわせることが出来るでしょう」
「おおっ、それは有り難い」
 神が声を出した。
 神の構想では、ガダルカナル島の米軍の上陸船団を巡洋艦部隊で夜間急襲した後、夜明け前に米空母部隊の予想攻撃範囲から脱すること、となっていた。
 だが、全数戦闘機の空母がある程度のところまで出迎えてくれるなら、その分時間的余裕ができるかも知れない。
「では、その方向で」
 カティナは、神と大前との交渉はそれで充分だというように言ってから、セレナに対し、
「全艦に準備を伝えて。それと、現地指揮官できそうなのを引っ張ってこさせて」
「了解」
 セレナはそう言うと、
「失礼」
 と言って、室内の通信機の並んでいる方へと移動していく。
「ただ、ひとつ。神大佐がそれを決定する立場ではないという事を承知で伝えさせていただきますが……」
「なんでしょう?」
 カティナが、顔から楽観的な様子を消し、険しい表情になって言うと、神が聞き返す。
「今回は事態が事態ですので、助けますが、我々は……我々の帝都レングードの統合作戦本部は、米豪遮断作戦の必要性を認めていません」
「それは……」
 神の表情が、急に険しくなった。
 カティナは続ける。
「短期間ながら、我々もこの方面の地政学的情報を収集しました。出た結論は、『オーストラリアを脱落させても、アメリカの継戦能力には全く問題がなく、講和する動機にならない』です」
「…………」
「今回は助けます。ですが……我々がこの方面に派遣されたのは、ソロモン諸島を東進することではなく、つまり、その逆だと考えておくように、そちらの上級司令部にお伝え下さい。維持を目的としてズルズルと戦力を投入するようであれば、こちらの上級司令部は私達に撤収を命じるでしょう」
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