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大食漢のお嬢様 1
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熱々の白飯の上に秘伝のタレで漬込んだ鰻をのせた。
だがそれで終わりではない。その上に更に白飯を盛付け、そして鰻も更に盛付けて出来上がりである。所謂、中入丼である。
海老と穴子の天麩羅そして卵焼きは既に出来ていたので、宗介は中入丼と共にそれらも一緒に岡持に入れると、岡持を担いで駿河台へと急いだ。
駿河台にある屋敷が宗介の向かった先であり、しかし屋敷の主が注文主ではなかった。
「そうすけぇっ!」
屋敷の門前に着いた宗介は大声で己の名を名乗った。
すると屋敷の者には既に話が通じていたのであろう、直ぐに大門が開かれた。
いや、宗介の様な一介の出前持なら本来は大門ではなくその脇にある門で十分であった。
だが屋敷の主がそれを許さず、宗介にはいつも大門を使わせていたのだ。いや、その旨、家臣に堅く命じていたのだ。
さて、大門を潜った宗介はそのまま玄関へと向かって歩くと、玄関より宗介へと近付く者があった。
「あっ、高橋さん…、ども」
宗介が口にした「高橋さん」は玄関からせこせことした足取りでもって宗介の元へと近付き、そして宗介と向かい合うなり、深々と頭を下げたものである。
「ようこそ、お出でなさいませ…」
高橋さんは宗介に頭を下げながら出迎えたのであった。
宗介は高橋さんのその仕種に心底、顔を顰めたものである。
「止して下さい。頭を下げなきゃならんのは俺の方だ…」
宗介はそう言うと、高橋さんに頭を上げる様に促した。いつものやり取りであった。
高橋さんは宗介が岡持を携えて姿を見せる度、こうして深々と頭を下げて宗介を出迎えるのであった。
いや、何とも奇妙な光景ではあった。何しろ高橋さんは仮にも二本差、それが一介の出前持にこうして頭を下げるとは、いや、仮に高橋さんが二本差でなくとも、高橋さんは注文主に仕える者であり、そうであればやはり、宗介に頭を下げるには及ばない。それどころか宗介自身が口にした通り、宗介の方こそ頭を下げねばならなかった。
だがやはりと言うべきか、屋敷の主が宗介に頭を下げさせる事を許さず、それどころか、
「鄭重にお出迎え致す様に…」
家中の全員に堅くそう申渡していたのだ。
ともあれ宗介は高橋さんの案内により、注文主の元へと急いだ。
その屋敷は優に3000坪以上の敷地を誇り、小藩ならば上屋敷でも遜色ない。
その広大な屋敷の玄関の直ぐ近くにある座敷で注文主が宗介を待っていた。いや、正確には宗介が拵えた料理を待っていた。
宗介は岡持を抱えたままその座敷に足を踏み入れるなり、「よう」と注文主に一声かけた上で、
「けい、待たせたな」
更にそう声をかけたのであった。
けい、それが注文主であった。
だがそれで終わりではない。その上に更に白飯を盛付け、そして鰻も更に盛付けて出来上がりである。所謂、中入丼である。
海老と穴子の天麩羅そして卵焼きは既に出来ていたので、宗介は中入丼と共にそれらも一緒に岡持に入れると、岡持を担いで駿河台へと急いだ。
駿河台にある屋敷が宗介の向かった先であり、しかし屋敷の主が注文主ではなかった。
「そうすけぇっ!」
屋敷の門前に着いた宗介は大声で己の名を名乗った。
すると屋敷の者には既に話が通じていたのであろう、直ぐに大門が開かれた。
いや、宗介の様な一介の出前持なら本来は大門ではなくその脇にある門で十分であった。
だが屋敷の主がそれを許さず、宗介にはいつも大門を使わせていたのだ。いや、その旨、家臣に堅く命じていたのだ。
さて、大門を潜った宗介はそのまま玄関へと向かって歩くと、玄関より宗介へと近付く者があった。
「あっ、高橋さん…、ども」
宗介が口にした「高橋さん」は玄関からせこせことした足取りでもって宗介の元へと近付き、そして宗介と向かい合うなり、深々と頭を下げたものである。
「ようこそ、お出でなさいませ…」
高橋さんは宗介に頭を下げながら出迎えたのであった。
宗介は高橋さんのその仕種に心底、顔を顰めたものである。
「止して下さい。頭を下げなきゃならんのは俺の方だ…」
宗介はそう言うと、高橋さんに頭を上げる様に促した。いつものやり取りであった。
高橋さんは宗介が岡持を携えて姿を見せる度、こうして深々と頭を下げて宗介を出迎えるのであった。
いや、何とも奇妙な光景ではあった。何しろ高橋さんは仮にも二本差、それが一介の出前持にこうして頭を下げるとは、いや、仮に高橋さんが二本差でなくとも、高橋さんは注文主に仕える者であり、そうであればやはり、宗介に頭を下げるには及ばない。それどころか宗介自身が口にした通り、宗介の方こそ頭を下げねばならなかった。
だがやはりと言うべきか、屋敷の主が宗介に頭を下げさせる事を許さず、それどころか、
「鄭重にお出迎え致す様に…」
家中の全員に堅くそう申渡していたのだ。
ともあれ宗介は高橋さんの案内により、注文主の元へと急いだ。
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宗介は岡持を抱えたままその座敷に足を踏み入れるなり、「よう」と注文主に一声かけた上で、
「けい、待たせたな」
更にそう声をかけたのであった。
けい、それが注文主であった。
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