黄泉国紛異世界徒花(よみにまごういせかいあだばな)

ご隠居

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異世界カフェで次郎吉は案内人のアサカに河内山宗春との縁を打ち明け、そして意外な人物と出くわす

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 次郎吉はアサカと窓辺の席で向き合うと、宗春が茶を運んで来た。

 いや、それは茶ではなかった。

「これはいってぇ…、何だか茶色の液体だが…」

 次郎吉は目の前におかれたそれをのぞみながら、「茶色の液体」の正体について宗春に尋ねた。

「これはコーシーって呑みもんよ」

「コーシーねぇ…」

 するとそこでアサカが割って入った。

「やぁねぇ…、コーヒーよ」

「ああ、そうだった。コーシーだったな」

 宗春はそう繰り返し、そこでアサカは訂正することを諦めた。

「ところで…、次郎吉さんは河内山の旦那とは一体、どういうお知り合いで?」

 宗春が立ち去ったところで、アサカが尋ねた。

 アサカのその問いに対して、次郎吉は一瞬、答えることを躊躇った。

 それと言うのも次郎吉と宗春との付き合いはお世辞にも人様に打ち明けられるような、そんな綺麗なお付き合いではなかったからだ。

 するとアサカもそうと察して、「まぁ、無理に聞かせろとは言わないから…」とあっさりと引いてみせた。

 だが次郎吉はそんなアサカの態度が愛おしく思え、打ち明ける気になった。もう、異世界なる、この世のものではない別の世界へと飛ばされてしまったのだから、今さら人に聞かれても問題なかろう。

「俺は河内山の旦那の仕事の手伝いをしていたのさ…」

「仕事の手伝いを?」

「ああ」

「それって…」

 アサカもどうやら河内山宗春の「仕事」については承知している様子であった。

「ああ、その通りさ」

「そいじゃ…、ゆすりの?」

 アサカは声を潜ませた。

「その片棒を担いでいたってわけよ…」

 次郎吉は武家屋敷ばかりを狙って押し込んだわけだが、それはただ金品が目当てだったからではない。勿論、それもあるが、武家屋敷は警備が手薄という事情もあった。だがそれ以上、書付が狙いであった。

「書付…、そいじゃ…、河内山の旦那はその、次郎吉さんが奪い取った書付をネタにして、って?」

「そうさね。もっとも、俺は字が読めねぇからな…」

「そいじゃ、ゆすりのネタに使える書付かどうかなんて…」

「ああ。確かに分からねぇが、それでも例えば、土蔵の奥にしまってある書付や、あるいは手文庫の中にしまってある書付なんぞは大抵の割合でゆすりのネタに使えるってもんでぇ…」

 次郎吉がそう打ち明けると、へぇ、とアサカは感嘆の声を上げた。いや、お世辞にも感嘆される話でもないのだが。

 それから次郎吉は恐る恐るコーシー、もといコーヒーなる飲み物に手をつけた。いや、容器からして面妖極まりなく、するとそうと察したアサカが実演してみせた。

 そこで次郎吉もアサカに倣って容器の取っ手に指を差し込み、コーヒーなる飲み物を口にした。

「にげぇ…、だが、コクがあって旨いな…」

 次郎吉がそう感想を口にすると、アサカは目を丸くした。

「そう思うかえ?」

「ああ。この苦さが堪らねぇな…」

「だとしたら、あんた、コーヒーの魅力が分かってるってことさね…」

「コーヒーの魅力を?俺が?」

「そうさね。いやね。初めてコーヒーを呑む者にとっては、この苦さが嫌で、砂糖を加える輩もいるんだが、そんなのは邪道さね。その点、あんたはコーヒーの真の魅力を分かってるってことさね…」

「いや、そんな大層なもんじゃねぇが…」

 アサカに持ち上げられて、次郎吉は何だかこそばゆい。

 するとカフェにまた新たな客、それも子連れの客が訪れ、やはり河内山宗春が直々に出迎えた。河内山宗春の接客態度はやけに丁重であり、次郎吉にはそれが気になり、「大事な客かえ…」とひとりごちた。

「ああ。あの子連れのお客さん、いや、お客さまね…」

 どうやらアサカも客の正体について知っているような口振りであった。

「知ってるのか?」

「田沼様さね…」

「田沼様…、って非業の死を遂げたってことは…」

「そうさね、意知様さね」
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