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次郎吉、意知・家基父子と邂逅す。
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そう言えば、田沼意知も非業の死を遂げたんだっけかと、次郎吉は思い出した。いや、意知が非業の死を遂げたのは次郎吉が生まれるよりも遥か前であり、ゆえに次郎吉は意知が非業の死を遂げたことを…、江戸城中にて新番士の佐野善左衛門政言に斬殺されたことをリアルタイムで知っていたわけではない。
しかし、それでも次郎吉は成長するにつれ、そういう事件もあったと、誰かから聞いて知っていたわけだ。
すると意知は宗春から次郎吉を紹介されたのか、窓際に座っている次郎吉の方へと顔を向けると、宗春の案内により、連れの子供と共に、次郎吉の席へと近付いて来た。
「ちょいと良いかい?」
宗春が次郎吉にそう声をかけてきたので、次郎吉も「ああ」と応じた。恐らくは意知を俺に紹介するつもりだろうと、次郎吉はそうと察した。
すると案の定、宗春は次郎吉に意知を紹介した。いや、意知のみならず、連れの子供の正体についてもだ。
「この御方は田沼意知様…」
宗春が隣に立つ意知を次郎吉にそう紹介したので、次郎吉も異世界案内人のアサカから聞かされたと、打ち明けた。
「そうかい…」
「で、そのガキ…、いや、お子様は一体、誰でぇ…」
次郎吉は宗春に尋ねた。
「いえもと様、でしたよね?」
宗春は意知に確かめるよに尋ねた。すると意知も「ええ」と首肯した。
「いえもと様…」
次郎吉は生憎、その名には聞き覚えがなかった。
するとそうと察した意知自身が説明してくれた。
「徳川家基様です」
「えっ、とくがわ…」
「十代将軍・徳川家治公のご世子にあらせられます…」
これにはさすがの次郎吉も驚かされた。
と、同時に席を譲るべく立ち上がった。相手が意知であったとしても大して驚きを見せなかった、その上、遠慮しなかった次郎吉であったが、しかし、それが将軍の倅ともなると話は別である。
いや、既にここは現世ではない。異世界なる、次郎吉がいた現世とは別の世界であり、そうであれば例え、相手が帝であろうとも、次郎吉が遠慮することはない。
だが次郎吉は条件反射的に席を立とうとした。が、意外にも家基がそれを謝絶した。
「私はもう、将軍世子ではありませんよ。今の私は意知の、いえ、意知殿の倅なのですから…」
家基はそう微笑してみせた。するとこれには意知が、「勿体無いお言葉…」と応じた。
「ともかく…、立ち話もなんでございますから…」
宗春は気を利かせて、次郎吉たちを四人がけの席へと案内した。次郎吉とアサカはコーヒーが入った茶碗を手に取り、四人がけの席へと移動した。
そこで改めて意知は次郎吉に自己紹介した。
「改めまして…、田沼意知と申します」
意知はそう挨拶すると、頭を垂れて見せた。あまりの物腰の柔らかさに、次郎吉の方が驚かされた。二本差は大抵、横柄…、意知の存在は次郎吉のそんな認識を改めさせるに十分であった。
いや、実際、二本差は横柄であり、してみると、意知の存在がイレギュラーなのであろう。
ともあれ次郎吉も「次郎吉です」と挨拶した。
「次郎吉は現世においては私の仕事の手伝いをしてくれておりましてねぇ…」
席の傍で立っていた宗春がそう補足した。すると意知もニヤニヤした笑みを浮かべた。
どうやら意知も宗春の「仕事」の中身を知っている様子であった。
そうであれば次郎吉としても遠慮することはないとばかり、己が盗人で、主に武家屋敷を狙って盗みを働いていたことを打ち明けたのであった。
「左様で…、とすると、田沼家も狙われたのかな?」
意知はそんな疑問を口にした。
「いえ、田沼様のお屋敷は…」
意知の手前、次郎吉は嘘をついたわけではなかった。次郎吉は本当に田沼屋敷に押し込んだ覚えはなかった。
「そうですか…」
「ええ。で、武家屋敷から金の他にも書付なんぞを盗み出しては…」
「それを宗春殿に渡して、それで…」
「ええ。宗春がその書付を金に換えてた、って寸法ですよ」
「それにしてもその書付が金になるか否か、それが分からなければ…」
やはり意知もその疑問を口にした。
「いえ、あっしは生憎、読み書きができませんで…、でも土蔵の奥や、あるいは手文庫の中に後生大事にしまってある書付は大抵、金になりやすから…」
なるほど、と意知は苦笑してみせた。
しかし、それでも次郎吉は成長するにつれ、そういう事件もあったと、誰かから聞いて知っていたわけだ。
すると意知は宗春から次郎吉を紹介されたのか、窓際に座っている次郎吉の方へと顔を向けると、宗春の案内により、連れの子供と共に、次郎吉の席へと近付いて来た。
「ちょいと良いかい?」
宗春が次郎吉にそう声をかけてきたので、次郎吉も「ああ」と応じた。恐らくは意知を俺に紹介するつもりだろうと、次郎吉はそうと察した。
すると案の定、宗春は次郎吉に意知を紹介した。いや、意知のみならず、連れの子供の正体についてもだ。
「この御方は田沼意知様…」
宗春が隣に立つ意知を次郎吉にそう紹介したので、次郎吉も異世界案内人のアサカから聞かされたと、打ち明けた。
「そうかい…」
「で、そのガキ…、いや、お子様は一体、誰でぇ…」
次郎吉は宗春に尋ねた。
「いえもと様、でしたよね?」
宗春は意知に確かめるよに尋ねた。すると意知も「ええ」と首肯した。
「いえもと様…」
次郎吉は生憎、その名には聞き覚えがなかった。
するとそうと察した意知自身が説明してくれた。
「徳川家基様です」
「えっ、とくがわ…」
「十代将軍・徳川家治公のご世子にあらせられます…」
これにはさすがの次郎吉も驚かされた。
と、同時に席を譲るべく立ち上がった。相手が意知であったとしても大して驚きを見せなかった、その上、遠慮しなかった次郎吉であったが、しかし、それが将軍の倅ともなると話は別である。
いや、既にここは現世ではない。異世界なる、次郎吉がいた現世とは別の世界であり、そうであれば例え、相手が帝であろうとも、次郎吉が遠慮することはない。
だが次郎吉は条件反射的に席を立とうとした。が、意外にも家基がそれを謝絶した。
「私はもう、将軍世子ではありませんよ。今の私は意知の、いえ、意知殿の倅なのですから…」
家基はそう微笑してみせた。するとこれには意知が、「勿体無いお言葉…」と応じた。
「ともかく…、立ち話もなんでございますから…」
宗春は気を利かせて、次郎吉たちを四人がけの席へと案内した。次郎吉とアサカはコーヒーが入った茶碗を手に取り、四人がけの席へと移動した。
そこで改めて意知は次郎吉に自己紹介した。
「改めまして…、田沼意知と申します」
意知はそう挨拶すると、頭を垂れて見せた。あまりの物腰の柔らかさに、次郎吉の方が驚かされた。二本差は大抵、横柄…、意知の存在は次郎吉のそんな認識を改めさせるに十分であった。
いや、実際、二本差は横柄であり、してみると、意知の存在がイレギュラーなのであろう。
ともあれ次郎吉も「次郎吉です」と挨拶した。
「次郎吉は現世においては私の仕事の手伝いをしてくれておりましてねぇ…」
席の傍で立っていた宗春がそう補足した。すると意知もニヤニヤした笑みを浮かべた。
どうやら意知も宗春の「仕事」の中身を知っている様子であった。
そうであれば次郎吉としても遠慮することはないとばかり、己が盗人で、主に武家屋敷を狙って盗みを働いていたことを打ち明けたのであった。
「左様で…、とすると、田沼家も狙われたのかな?」
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「いえ、田沼様のお屋敷は…」
意知の手前、次郎吉は嘘をついたわけではなかった。次郎吉は本当に田沼屋敷に押し込んだ覚えはなかった。
「そうですか…」
「ええ。で、武家屋敷から金の他にも書付なんぞを盗み出しては…」
「それを宗春殿に渡して、それで…」
「ええ。宗春がその書付を金に換えてた、って寸法ですよ」
「それにしてもその書付が金になるか否か、それが分からなければ…」
やはり意知もその疑問を口にした。
「いえ、あっしは生憎、読み書きができませんで…、でも土蔵の奥や、あるいは手文庫の中に後生大事にしまってある書付は大抵、金になりやすから…」
なるほど、と意知は苦笑してみせた。
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