天明繚乱 ~次期将軍の座~

ご隠居

文字の大きさ
22 / 197

養父と実父 4

しおりを挟む
 ともあれ、源太郎げんたろうの娘のふゆ益五郎ますごろうめあわせること自体は準松のりとしの理に、いや、利にかなうものであった。

 するとさしもの、にぶ源太郎げんたろうもそうと察したようで、

「よもや…、準松のりとし殿は我が娘のふゆ益五郎ますごろうと夫婦になれば、それな…、重好しげよし卿につかえし、益五郎ますごろう叔父おじにも当たりし利兵衛りへえ殿と伊織いおり殿とも縁者えんじゃになるということで、利兵衛りへえ殿と伊織いおり殿を通じて重好しげよし卿に取り入ろうと考えているのではござるまいな?」

 源太郎げんたろう準松のりとしに対して確かめるようにそう尋ねると、準松のりとしは目を丸くして、「ほう…」と感嘆かんたんしたような声を上げた。実際、準松のりとし感嘆かんたんさせられた。

「ほう…、そなたにしてはするどいではないか…」

 準松のりとしがあっさりと認めるような発言をしたので、源太郎げんたろうは胸のうちで、「やはりそうか…」と思った。

「されば…、身共みどもの娘の縁談えんだんを利用される所存しょぞんで?」

「不服か?」

「いえ…、準松のりとし殿が利兵衛りへえ殿と伊織いおり殿を通じて重好しげよし卿に取り入りたいと願うのであらば、どうぞご随意ずいいに…、それが我がせがれ鶴松つるまつのためになると申すのであらば尚更なおさらにご随意ずいいに…」

 源太郎げんたろうとしては準松のりとし一矢いっしむくいるというわけでもないが、そう主張した。それに対して準松のりとしは平然と、

「無論、鶴松つるまつがためなるぞ…」

 そう答えたので、源太郎げんたろうは思わず、「お前自身のためだろう…」と心の中でつぶやいた。

 ともあれ源太郎げんたろうとしてはそれだけでは…、利兵衛りへえ伊織いおりを通じて重好しげよしに取り入るだけでは不充分のように思えたので、源太郎げんたろうはその点を準松のりとしに問いただした。

「ほう…、やはり気になると見ゆるな…」

 準松のりとし源太郎げんたろうに対してそれこそ、

値踏ねぶみでもするかのよう…」

 そんな視線を注いだ。豪放ごうほう磊落らいらくを気取ってはいても、所詮しょせんはお前も人の子だな…、準松のりとしは今にもそう言いたげな様子であり、それは源太郎げんたろうにもひしひしと感じられたので、

鶴松つるまつのため、なれば…」

 そう自分に言い訳した。そうしないことには源太郎げんたろうとしてはおさまりがつかなかったからだ。準松のりとしから軽く見られたことに対して、どうしても我慢がならなかったためだ。

 我ながら実に幼稚ようちな態度だと、源太郎げんたろうとて十分に自覚しているところであるが、しかし、これが生まれ持った性分しょうぶんなのでどうにもならなかった。

 それに対して準松のりとしもそうと察すると、これ以上、源太郎げんたろうをからかうようなことをすれば、源太郎げんたろうのその矯激きょうげき、過激な性分しょうぶんからしてりかかる恐れがあり得たので、これ以上は源太郎げんたろうをからかうようなおろかな真似まねつつしんだ。

「いや、松房としふさ殿が申される通り、如何いかにも利兵衛りへえ伊織いおりを頼るだけでは不充分ふじゅうぶんと申すものにて…、されば利兵衛りへえ伊織いおり、この二人の存在こそが最前さいぜん申した通り、転ばぬ先のつえの一つと申すものにて…」

「転ばぬ先のつえの一つ…」

「左様…」

「されば他にも転ばぬ先のつえが…、頼るべき相手がいると申されるので?」

 源太郎げんたろうからそう問われた準松のりとしうなずいた。

「して、そは一体…」

 源太郎げんたろうから今度はそう問われた準松のりとしは果たして答えて良いものか、流石さすが逡巡しゅんじゅんした。

 するとそうと察した源太郎げんたろうは、

「いや、無理に聞き出そうとは思いませなんだ…」

 そう言ってあっさりと引き下がった。実際、源太郎げんたろうには興味のない話であったからだ。一応、準松のりとし手前てまえ…、と言うよりは準松のりとしへの対抗心から、

鶴松つるまつのため…」

 そう称しては気になる素振そぶりを見せはしたものの、実のところ、源太郎げんたろうにはまるで興味のない話であった。

 一方、準松のりとし源太郎げんたろうという男の性分しょうぶんからして、

「よもや、他人にらすことはしまい…」

 そう確信して打ち明けることにした。

「いや、松房としふさ殿なれば別段べつだん、打ち明け申しても支障ししょうはござるまいて…」

 準松のりとしはそう前置まえおきした後、転ばぬ先のつえ、もとい頼るべき相手を源太郎げんたろうに打ち明けたのであった。

「まずはやはり安祥院あんしょういん様であろうな…、何と申しても重好しげよし卿のご母堂ぼどう様にあらせられるゆえ…」

 成程なるほど…、と源太郎げんたろうは思った。しょうんとほっすれば何とやら、重好しげよしの実母の安祥院あんしょういんを頼る、いや、取り入るという準松のりとしのその作戦は悪くはなかった。

 だが問題があった。それは安祥院あんしょういんが今は櫻田さくらだ御用ごよう屋敷にいるということであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦 そしてそこから繋がる新たな近代史へ

処理中です...