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養父と実父 3
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「良いか?仮に、仮にだが、重好卿が西之丸に入られし折に、御伽衆の件が…、本来、西之丸に入られる筈であった豊千代君の御伽衆として鶴松を含めし三人の者が選ばれていた…、そのことが仮に次期将軍となられし重好卿の知るところとなれば、どうなると思う?」
「どうなると申されても…」
「分からぬか…、良いか?重好卿は斯様に思し召されるやも知れぬ…、この三人が豊千代君の御伽衆に選ばれたからには、これらの父親か、あるいはその縁者が相当に工作をしたに違いない、と…」
「まぁ…、準松殿が話を聞く限りにおいては、御伽衆なるお役は大層、人気のあるそれのようでござるから、あるいは左様に思し召されるやも知れませぬなぁ…」
源太郎は呑気にそう応じたが、それが準松を余計に苛立たせた。さしずめ、危機意識の違いであろう。
「そのように呑気に構えてもらっては困る」
「はぁ…」
「良いか?仮に、重好卿が左様に思し召されし場合、重好卿はさらにこの三人…、豊千代君の御伽衆に選ばれし鶴松たちに対して…、いや、鶴松たちの縁者に対して悪感情を持つやも知れぬのだ」
「そはまた、一体、何ゆえに?」
「良いか、今、申した工作の対象には当然、豊千代君の実父たる一橋治済卿も含まれる…、それは身共のみならず、同じく我が子を豊千代君の御伽衆とすることに成功せし松平小十郎や加藤玄蕃にしてもそうであろう…」
「まぁ、そうかも知れませぬなぁ…」
「そしてそのことは重好卿にも察せられるであろう…、その時、万が一にもそのことで…、一橋治済卿をも工作の…、いや、この際、はっきり申すが、一橋治済卿に取り入ったに相違あるまいと、重好卿が不快に思われるやも知れぬのだ」
「まさか…、一度は将軍家御養君の座を…、次期将軍の座を一橋に奪われたことで、重好卿は一橋に対して悪感情を抱いており、その一橋に取り入った者たちに対しても悪感情を抱くやも知れぬ、と?」
「漸く分かったようだのう…」
「なれど、それはいくらなんでも考え過ぎと申すものではござるまいか?それこそ、杞憂と申すもの…」
源太郎は流石に呆れ果てた。良くもまぁ、そこまで思いつくものだと、準松のその連想力には源太郎は心底、呆れ果てたものであるが、同時にある種の感動すらも覚えたほどであった。
「確かに、松房殿が申される通り、杞憂に過ぎぬやも知れぬが、なれど転ばぬ先の杖という格言もある」
「はぁ…」
「されば転ばぬ先の杖は何本あろうとも、あり過ぎるということはない」
「はぁ…」
「そしてその、転ばぬ先の杖の一つこそが、横田家と鷲巣家との縁談…、そなたの娘御の冬殿と、鷲巣家の跡取りの…、いや、間もなく正式に鷲巣家を継ぎし益五郎との縁談なのだ」
「はっ?」
源太郎がそう疑問の声を上げると、準松は目を丸くした。
「そなた…、まことに分からぬのか?」
「何をでござろう?」
「良いか?益五郎が父、式部には二人の弟がいるのだ」
「つまり…、益五郎にとっては叔父…、叔父のそれも兄弟というわけにて?」
「左様…、さればその二人だが…、利兵衛清胤と伊織清光と申すのだが、二人とも重好卿に仕えておいでなのだ…」
準松からそう打ち明けられるや、今度は源太郎が目を丸くする番であった。分家とは申せ、他家の縁談の相手の家族構成を良くもそこまで把握しているものだと、源太郎は準松のその情報網に半分呆れ、そして半分感動した。
すると準松も源太郎の様子からどうやら本当に源太郎は知らなかったものと見て、準松は源太郎のその無頓着さに心底、呆れた。
「そなた…、娘御の縁談相手の家族構成も把握してはおらなんだか?」
「いや、身共としてはあくまで益五郎という男に惚れたのであって、益五郎の縁者には何の興味もござらん」
源太郎ははっきりとそう言ってのけたので、準松は源太郎のその豪放磊落ぶりにいよいよ呆れたものである。
「どうなると申されても…」
「分からぬか…、良いか?重好卿は斯様に思し召されるやも知れぬ…、この三人が豊千代君の御伽衆に選ばれたからには、これらの父親か、あるいはその縁者が相当に工作をしたに違いない、と…」
「まぁ…、準松殿が話を聞く限りにおいては、御伽衆なるお役は大層、人気のあるそれのようでござるから、あるいは左様に思し召されるやも知れませぬなぁ…」
源太郎は呑気にそう応じたが、それが準松を余計に苛立たせた。さしずめ、危機意識の違いであろう。
「そのように呑気に構えてもらっては困る」
「はぁ…」
「良いか?仮に、重好卿が左様に思し召されし場合、重好卿はさらにこの三人…、豊千代君の御伽衆に選ばれし鶴松たちに対して…、いや、鶴松たちの縁者に対して悪感情を持つやも知れぬのだ」
「そはまた、一体、何ゆえに?」
「良いか、今、申した工作の対象には当然、豊千代君の実父たる一橋治済卿も含まれる…、それは身共のみならず、同じく我が子を豊千代君の御伽衆とすることに成功せし松平小十郎や加藤玄蕃にしてもそうであろう…」
「まぁ、そうかも知れませぬなぁ…」
「そしてそのことは重好卿にも察せられるであろう…、その時、万が一にもそのことで…、一橋治済卿をも工作の…、いや、この際、はっきり申すが、一橋治済卿に取り入ったに相違あるまいと、重好卿が不快に思われるやも知れぬのだ」
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「漸く分かったようだのう…」
「なれど、それはいくらなんでも考え過ぎと申すものではござるまいか?それこそ、杞憂と申すもの…」
源太郎は流石に呆れ果てた。良くもまぁ、そこまで思いつくものだと、準松のその連想力には源太郎は心底、呆れ果てたものであるが、同時にある種の感動すらも覚えたほどであった。
「確かに、松房殿が申される通り、杞憂に過ぎぬやも知れぬが、なれど転ばぬ先の杖という格言もある」
「はぁ…」
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「はぁ…」
「そしてその、転ばぬ先の杖の一つこそが、横田家と鷲巣家との縁談…、そなたの娘御の冬殿と、鷲巣家の跡取りの…、いや、間もなく正式に鷲巣家を継ぎし益五郎との縁談なのだ」
「はっ?」
源太郎がそう疑問の声を上げると、準松は目を丸くした。
「そなた…、まことに分からぬのか?」
「何をでござろう?」
「良いか?益五郎が父、式部には二人の弟がいるのだ」
「つまり…、益五郎にとっては叔父…、叔父のそれも兄弟というわけにて?」
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すると準松も源太郎の様子からどうやら本当に源太郎は知らなかったものと見て、準松は源太郎のその無頓着さに心底、呆れた。
「そなた…、娘御の縁談相手の家族構成も把握してはおらなんだか?」
「いや、身共としてはあくまで益五郎という男に惚れたのであって、益五郎の縁者には何の興味もござらん」
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