DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第九章

第三十二話

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セーブルの毒の酒を飲んだ時程ではないが……

中々に危ない状況だったようだ。
ブーカにも迷惑をかけてしまい、気がつけば、家族に覗き込まれたベッドの上であった。

「──自宅け──?」

異様に強い酒を一気飲みして、金属に刃を刺した辺りまでは覚えているのだが……

とりあえず、水を一杯飲む。

樹海で汲んだエリクサーみたいな水の効果で、
頭も体もスッキリとし、何事も無かったかのように、起き上がることが出来た。

「おとーさんおっはよー!」

トゥエラが飛び乗ってくる。

グフッ──「おぉ、おはよう…帰って来たのけ?」

相変わらずめんこい、ピンク色の頭を撫でてやり、「メシ食ったんけ?」と聞いてみる。

窓を見ればとっぷりと暮れて、相変わらず紅い月が街を照らしている。

「パーパやっと起きたの~?も~お腹減りまくリングなんですケド~!?」

テティスだ。手にはワイングラスを持ち、漬物っぽいものをポリポリしながらやってきて、
食べかけのソレをおっさんの口に押し込んだ。

「モグモグ…糠漬けけ、うめえなこれ。アスパラ?」

我が家で糠漬けといえば──「お目覚めになられましたか?」

パステルだ。あの華奢な白い手で、毎日糠床をこねくり回し、味の研究に余念がない王女様なのだ。

「旦那様、お酒はほどほどにになさって下さいね。お体を大切に──」

そうだ、思い出した。
リリの指輪を作ったんだった。

「あー、悪りかったね。ちょっと騎士団で盛り上がっちまってよ。
どれ、メシでも作っけ?」

どっこいしょと布団から出て、リビングへ向かう。テーブルの上を見れば、カゴに入った立派なアスパラガスが山盛りに置いてある。

「随分ぶっとくて新鮮そうでねぇの?
 どっかで見つけたのけ?」

みんなからの説明を受けてびっくり。
あのブーカが昔、両足を失うほどの魔物だったらしい。

言われてみれば、指やら鼻やら……
まぁ、普段からゴブリンを余すことなく使っている我が家では、驚く光景ではないのだが。

リリが、別の器に入ったホワイトアスパラを冷蔵庫から出して来た。

缶詰めじゃない生のホワイトアスパラなんて、なかなかの高級品だ。

「こっちは、天麩羅てんぷらだっぺね、塩だけでもうめぇぞ~。
グリーンは、ベーコン巻きけ、そういやさっき──」

騎士団の屋上で総隊長殿が、鍋奉行ならぬ、燻製大名になって色々と燻していたのが余っていたはずだ。

さっそくおっさんはキッチンに立ち、手早く料理をしてゆく。

リリの持ってきたホワイトアスパラは、皮を軽く剥いて、美白ゴブリンの骨粉コツのある天ぷら粉をまとわせる。

ジュワァァァッ──!

油に落とした瞬間に広がる香ばしい匂い。
塩をパラリと振れば、衣の中で甘みを抱えた白い芯がホクホクと蒸される。

「うめっぺよこれは!口ん中でとろけるぞ!」

そしてグリーンアスパラは燻したオーク肉燻製ベーコンを巻き付け、鉄板でジュッと焼く。
脂が染み込み、アスパラの青臭さが逆に旨味へと変わっていく。

「お~、ベーコンの塩気と相まって……これも酒泥棒だな!」

ついでに鍋に美白ゴブリンのアレ牛乳アレ生クリームを入れて、刻んだホワイトアスパラを投入。
コトコト煮てミキサーにかければ──上品なアスパラポタージュの完成だ。

稲穂芋虫白米と、捏ねたカエル食パンも焼いて、毒蜘蛛フルーツ類も並べる。

山脈ゴブリンの血サイゼリアの赤ワインを配って、トゥエラにはミルクだ。

「遅くなっちったけんども食ってがっせ~」

すっかり体調も戻ったので、おっさんも乾杯する。
アスパラ三昧は大好評で、あっという間に皿がはけてゆく。

今日のみんなの冒険談を聞いて、リリが写メで撮ってきた丸太橋を見せられる。

深くて広い渓谷に、なんの支柱もなく浮いて見えるアスレチック丸太橋。

「実際に見たら、こりゃ神の国だっぺなぁ」

おっさんが同行していないのに、こんな立派な橋をかけて帰ってくる娘達。

「パーパ!あのカセットの歌?マジバイブス上がるっしょ~!」

テティスは90年代J-Popが気に入ったようで、
ハミングを奏でている。

追加の天ぷらもカラッと揚げて、エビヘビホタテライチも合わせて甘しょっぱい天つゆを回しかけ──
紅生姜イソギンチャクをパラリと飾る。

「天丼だっぺよ!これも美味えぞ」

トゥエラが最も機嫌が良い時に聞ける、
「しょっぱあましょ~♪」も出たところで、

「リリ、その~アレだ…」

メガネを曇らせながら、口からエビの尻尾を出しためんこい妻に──

「こんなおっさんだけんども──大切にするからよ、その~、死ぬまでよろしく頼むわ」

プロポーズというよりも、介護のお願い。
下手くそな言葉と一緒に、腰袋から指輪を出す。
そっと左手をとって、薬指にはめてやる。

本来は結婚式でやるもんなのかもしれないが、
セーブル達を祝う以外、そういった予定はまだ立てていない為、今となった。

エビを飲み込めずに、ふるふると震え、指とおっさんを交互に見るリリ。

メガネの奥からは綺麗な涙がスーッと流れる。



もふはほほほろふこちらこそよろしひほへはひひはふくお願いします

エビ食ってから返事しろよ。

というツッコミは飲み込んでおいた。

みんなに祝福されて、弄られ、冷やかされる。

「リリさん、羨ましいですわ…わたくしもいつか……」

パステルも顔を染めて目を潤ませる。

しばらくし、ムードも落ち着いたところで、今日の顛末を聞く。

なんでも、『異種族隠しの指輪』でえらい目にあったとのことで、
トゥエラが高校生みたいにデカくなったとか、パステルがどん訛りの田舎娘になったとか──

その後妖精女王を呼び出して、見た目が変わらないように指輪を直してもらったらしい。
あの総隊長の頭に住んでいた筈の女王は、テティスの魔素が甘美過ぎて、引っ越して来たのだとか?

たった一日で、随分とドタバタ、色んなことをする家族達だ。

「んだ、リリよい」

「なんでしょうか?」

口が落ち着いてるのを確認してから、

「その指輪さ、半分回転させてみ?」

不思議そうに、雅な彫刻は施したが、生活の邪魔にはならないシンプルなリングをクルリと回すと──

フワッとした光に手が包まれたあと、結婚指輪は、華やかな、凝ったデザインの装飾品へと形を変えた。

「ちょ!?ナニソレ!!あーしも欲しいんですケド!!」

真っ先に食い付くテティスを宥める様に、

「みんなの分も作ってやっから待っといてくんちぇ」

それから、リリの指輪の宝石も仮のもので、これから向かう島国で、いいのが見つかったら改造するからよ、と教えておく。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

それから数日間、おっさんはブーカと一緒にせっせと細工仕事をこなしていた。

家族のみんなは、どこかへ冒険にいったり、街ブラをして遊んだりと気ままに過ごしていた。

そんなある日──

「親方、ご無沙汰しています。そろそろ──明日中には、船が港に到着するとのことです。」

携帯が鳴り、セーブルからの報告が来たのだった。
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