DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

文字の大きさ
244 / 279
第九章

第三十三話

しおりを挟む
おめ貴女たち~明日は船さ行くぞ~」

セーブルとの電話を終えて、みんなに伝えると、彼女たちは大いに盛り上がった。
暑いのか?寒いのか?服は何がいいか、名物は何だなど……
おっさんもさっぱりわからないので、リリ先生に聞いてみると──

「友好貿易国のカリファールですね。
 正式名称は、クルリコープ・マッパーナコーラ・アイーンヤッタナセーシン・アヒンタラークッタラー・マモハーディック・ボッチ・ヨッパラッテ・ネーチャタラーべリーサム・ウドンラーメャニヴェートオバーサーン・カモーンピマーソ・オワターンサティート・ザッカタップィヤヴィサモハンキンポット…というそうです」

──気温は平均的に30℃を越えて、紫外線も強いようですね。

突然復活の呪文のような国名を聞かされ、一文字も頭に入ってこずに、暑いということだけがわかった。

「ただ、例の人族以外を弾くという魔素がありまして、それが島を囲う空調の役割をしているそうでして、紫外線もほぼカット、
雨は純水に濾過され、台風も散らされるそうです」

随分と住みやすそうな環境である。
エアコンと浄水器が空に備わっていて日焼けによるシミの心配もないとは…

「ですが……これといった産業が、宝石採集と加工くらいしかなく、食材はほぼ輸入に頼っているそうです。
近年は荒地化、砂漠化も深刻で…雨も少ないようですね」

「アラブみたいなイメージけ」

石油があるのかは知らんが、裕福な国なのに作物が育たない土地。
宝石っていう一大産業にもし何かがあったら、破綻しそうな国である。

「明日中には着くそうなんだが、土地が買えるならば買って、あの古民家を据えておけば秒で行き来できるようになっぺなぁ」

海と空しかない船旅はもうコリゴリである。
パスポートのような仕組みは無いのだろうか?
だが、全てを聞いてしまっては旅の楽しみも減ってしまうので、現地で考えることにしよう。

そしてゆっくりと眠った次の日、
おっさん家族は船へと転移するのであるが、
足元にはちゃっかりと二匹の猫もスタンバイをしていた。



最近、恐らく10キロを超えたであろうデブ猫、ワリ太郎と、相変わらず小さい白猫のみーちゃん。

なぜか二匹は石油王とベリーダンサーみたいな衣装を身につけて、やる気満々で待っていた。

娘達とパステル、リリはまだ普通のオシャレファッションで、現地を見てから考えるそうだ。
アラブっぽいとはイメージしたが……この猫達の固定観念は何なのだろうか?

行ってみて、全然違う雰囲気だったならば、おっさんは吹き出してしまいそうだ。
皆に渡す指輪の、作りかけの材料は腰袋に入れたし、ブーカが作ったものに関しては、好きに売ったりして構わないと言ってある。

義体作りもひと段落している彼は、アクセサリー作りを経て、更なる技術を身につけ、健常者よりもカッコいい義手と義足の造形を目指すそうだ。
しかも、性能が健康な肢体よりも優れているとくると──
わざと手を切り落とすような猛者が出てこないか、心配な所ではある。

皆で手を繋いで、船の上に建つ古民家へとワープ。

一瞬で景色がぬりかわえい、海の塩臭さと、ベタッとした風が体に纏わりつく。

「セー君、シェリー、お久しぶりですわね」

庭先で出迎えてくれた二人に、パステルが優雅なカテーテルカーテシーで挨拶をした。

「セー兄、シェリー姉おっはー!」

テティスは何故か、肩に赤いラジカセを担いでいる。
おっさんがかなり昔に現場で使っていたもので、レトロ感が漂う古臭い物なのだが──
それに合わせたようなファッションのテティスが、90年代J-Popを鳴らしていると、
これが最新なのか……とも思えなくもない。



まぁファッションというものは一周するとか聞いたことがあるし、そういう物なのだろう。

トゥエラは着いた途端、甲板を走り回り、マストの天辺まで登って行ってしまった。
見張り台の船員さんがギョッとしているが……
──放っておいても構わないだろう。

「お二人とも、長旅ご苦労様です。退屈はしませんでしたか?」

リリが、家で淹れてきたアイスコーヒーを二人に渡して労っている。
こんなに日差しの強い海上でも、彼女はフォーマルスーツ姿を崩さない。
そして、額には一滴の汗も、浮いていない。
美人には何か特殊なパッシブスキルが備わっているのだろうか?

みんなを家で寛がせて、おっさんは一人、美人船長の元へと挨拶に向かう。

相変わらず、見えている片目に眼帯をして、
海賊風帽子にポパイみたいなパイプをくわえ、
手摺りに足をかけて海を睨んでいた。

──こういう風にしてないと、船長としての気分が保てないのだろうか?

まぁ、むさ苦しい男の船員がほとんどで、そんな中にリリと変わらないくらいの年頃の女性が一人なのだ。
話題も合わないかも知れないし、なにより航海期間が長すぎる。

正気を保つのも大変なのであろう。

可哀想なので、腰袋の冷凍庫から果物たっぷりのジェラートを出してやり、世話になったお礼を言えば──

「あたいは──何番目だっていいんだよ!
 ……迎えに来て……くれるんだろう?」

などと言い始めた。

一緒に釣りをして、酒を飲んだくらいしか交流がないので、さほどこの船長の人柄をわかっていないのだが……
幸せになってくれればいいな、と思い、輸送代金として大きめの金塊を押し付けておいた。

「船降りて、良い人探したらよかっぺ?」

そういって家族の元へ戻るのであった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

ハイテク古民家の中には、日本で建てた時の施主の希望で、小さなアトリエが一つ備えられていた。

その建主は、若くして莫大な財産を手にした人物で、都会の生活を早々にドロップアウト。
絵を描いたり、小説を考えたり、サーフィンをしたり──気の向くままに暮らしていたらしい。

仮想通貨とやらが何なのかは、いまだに1㍉も理解していないおっさん。

ふと、二十代の頃に夢中になっていたネットゲームを思い出す。
そのゲーム内では「アデナ」と呼ばれる通貨が使われていて、一時期は現金で不正にゲーム内通貨を売買できるサイトも横行していた。

初心者だったはずの知り合いが、ある日いきなりギラギラ装備で現れたこともあったことを思い出す。

──「ああいうのの取引のことなんだっぺか?」

と、まったく見当違いな想像をしているおっさんであった。

しかし、この建物はおっさんが完成させた当時のままの状態なので、
あのお施主様の生活の匂いは一切感じることはできない。

アトリエには、おっさんが作った机と椅子があるだけで、正面の大きな出窓からは水平線しか見えない。

まだ午前中ということもあり、船長曰く、島を発見してから数時間で到着するという話なので、
作りかけの指輪に彫刻刀を入れてゆくことにした。

もう、気絶するような酒を呑まなくとも、普通に金属に刃物が入るようになったおっさんは、
少々度の強い老眼鏡をかけて、1㍉の100分の1程度の精密さで花弁はなびらや猫の装飾を削ってゆく。

かたわらには冷えたジョッキに注いだ焼酎を。

金属用ルーターは、ブーカにあげてしまったので、完全な手作業である。
だが逆に埃が舞ったりすることもなく──部屋には、

カリッ……カリッ……

という小さな擦過音かかおんだけが響いていた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

『島が──見えたぞー!!』

高いマストの天辺、見張り台から大きな声が響いた。

「しーーまがーーみーえーたーよーー!!」

……トゥエラであろう。

ざわざわと船員たちが動き出す気配。

昼食には、固めに茹でてキリッと冷やしたそうめんに、昨日の余りの天ぷらを添えた。

しょっぱめのツユとアスパラの天ぷらは抜群の相性で、大根おろしを加えればさらに爽やか。
海老天はツユに浸けず、藻塩で頂く。

ツルツルと、いくらでも食える気がするそうめんに
皆の箸が止まることはなかった。

遠洋航海の船上とは思えぬ、優雅なひとときであった。

レトロに見える炊事場に、隠されている食洗機に器を入れ、
保冷されている、囲炉裏に吊るされた茶釜から冷たいほうじ茶を注いで、一息をいれる。

古民家を片付けるのは一瞬なので、もうしばらく経ってから甲板に出ようという話になった。

「どんな国なんだっぺかな?
 シェリーは故郷なんだっけか?」

初見の時の、妖艶な酒場の女主人は──
今や何処にも居なくなってしまった。

部活の憧れの先輩を慕う後輩女子。

そのような小動物みたいな動きと態度でセーブルにデレまくっているシェリーに話題を飛ばすと、

「そうですね……女性の活躍できる仕事が海女あまくらいしか無いもので、若いうちに島を出て王国に渡ってしまったものですから──」

そこから先の人生は、人には語れないような暗く、残虐で暗澹あんたんとしたものであったため、故郷を思い出す機会も殆どなかったそうだが──

「それでも、香辛料だけは優れているのですよ」

聞けば、海の中に棲むゴブリンがいるらしく──
ゴブリンと聞いただけで、おっさんの目の色が変わったのだが……

辛かったり、香りが独特だったりと、様々なスパイスが獲れる半魚人みたいな魔物だったそうだ。

だが、食材の殆どが輸入品のため、日持ちするような塩漬けや、カッチカチに乾燥させた肉などばかりで、スパイスを使う次元ですらなかったという話だ。

帆を畳み始める気配が伝わり、全員で家を出る。

シュルリ、と大きな古民家を腰袋に仕舞い、船首の方へと歩き出した。

視界の先に広がるのは、赤茶けた大地。まだ距離はあるが、やはり緑はほとんど見えない。
──仮にそこにピラミッドがそびえていたとしても、不思議ではないような風景だ。

そして、魔力を一切感じ取れないはずのおっさんの目にすら映る、巨大なドーム状の何か。

娘たちとパステルは既に指輪を装備しているらしく、その結界のような空間に足を踏み入れても、不調を訴える様子はなかった。

果てしなく長かった船旅も───

おっさんは半月しか居なかったが。

ようやく終わりを迎えたのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

処理中です...