DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第九章

第四十四話

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ビートル君にカレーの作り方を尋ねてみた所、
普通に煮ればいいそうだ。

ただ、海底ゴブリンの解体はともかく、
スパイスの調合だけは、恐らくおっさんには出来ないと言われた。

聞けば、分子ナノレベルにまで細かく砕き、それで寸部違わぬモナリザの絵画を描くような作業だと言われた。

爪先と爪と甘皮では辛味が全然違うとか、
眼球の涙を干して塩を摂るとか、
魚の目のあるゴブリンが当たりだとか……

マニアック過ぎてついていけなかった。

だが、出来上がってしまったルーは、市販の物と見比べがつかないほどに普通だった。

それはトン単位で量産可能だそうで、教会の孤児達に譲っても問題ないそうだ。

更に……これが一番衝撃を受けたのだが──

このカレーは『育つ』そうだ。

それも、安置するよりも船に揺れているくらいのほうが、出来立ての時のゴロゴロ野菜が全て溶け込んで、そこから何年も熟成させたとしても、腐りも冷めもしない為、ウイスキーの熟成のような感覚で──

『3年物のスープカレーブリトー』

みたいな物が出来るらしい。

例の、頭のおかしい焼酎、『孤島』じゃないが、樽に密閉して海に投棄しておけば……

何十年後とかに発見された時にはどうなっているのだろう?

そんな、自分の死後のメシの心配まで妄想してしまうおっさんだった。

──だが、まてよ。

お隣のカリファールの国は、自国の食料自給率がほぼゼロだと言っていた。
昔はもっと緑も多く、農耕もしていたのだろうが、
今は宝石の輸出だけで国を回しているような状態だ。

このルーを大量にくれてやれば、あの国でS・C・Bスープカレーブリトーが生産出来るようになり、しかも世界中と船で貿易している訳なのだから、それの隙間にでも積ませれば──

高級ウイスキー並みの一大産業が確立するのではないか?
材料は元々あの国の海で全部揃う訳だし、ビートル君を1匹だけ常駐させておけば、未来永劫あの国は安泰になるはずだ。

──そんな妄想話を家族のみんなに話してみたら……

なぜか全員にボロボロと号泣された。

おっさんは別に、酒も作れるようになったし、
メシは樹海にでも行けばいくらでも落ちている。

家は自分で建てられるし、嫁も出来た。

あとはもう、めんごいみんなに服でも買ってやれる程度の金があれば、何もいらないのだ。

そう説得したのだが……

火に油を注いだようにギャァギャァと泣きじゃくられた。

──解せん。

仕方がないので、甘めのホットミルクでも淹れて、皆を落ち着かせ──

「明日辺り家を建てたいんだけども、
 どんなもんだっぺか?」

とお伺いを立ててみた。

すると、鼻をかんだり、顔を洗いにいったりと忙しなく動いた後、了承をもらった。

ちなみにトゥエラは、とっくに腹を出して寝ているのだが。

買い取った土地の支払いは、リリが明日にでも宮殿へ行って済ませてくれるそうだ。
さすが頼りになるお嫁さんだべ、とおっさんは感謝しつつ──
今回の家のデザインと建て方の作戦を、テティスとパステルに語って聞かせた。

まず出来上がった建物は、セーブルとシェリーの結婚式場として使えるように整備する。
その奥に、こじんまりとした住居スペースを構える計画だ。

住みやすい家はホビットの街にあるし、ここは遊び心を最優先。
どうせなら神社みたいな家を建ててやろうじゃないか。

アラブの宮殿みたいな王城に対抗して──
純和風、正八角形の建築物。
屋根も化粧も徹底的に和にこだわる。

……が。
それを何と、鉄筋コンクリートの一発打ちで仕上げてしまおうという、
前代未聞の暴挙に出るつもりでいた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

その頃、宮殿の裁判の間。
煌びやかな装飾の下、集められたのは貴族や大臣といった大勢の権力者たちだった。

検察官席に座るのは、間もなく結婚を控えたセーブルとシェリー。
本来なら国の民ですらない二人が、なぜか国の正義を託されていた。

弁護人の姿はない。
ただ一方的に、暴かれゆく悪事。

──発端は今朝の馬車事故だった。
藁を積んだ農家の荷台が横転し、その下から大量の密書が見つかったのだ。

精査すれば、カリファール随一の宝石商会『ザギンカタナ』の名や、国のトップファイブに君臨する大臣の名が浮かび上がる。
人身売買、宝石の横流し、輸入食料の買い占めや転売……。
巧妙に隠されていたはずの取引が、藁の隙間から芋づる式に露見していく。

女主人と大臣はすでに捕縛され、牢獄で大量殺人の嫌疑に震えていた。
そして今裁かれているのは、その網に加担したとされる者たちである。

セーブルは無表情に帳簿を読み上げ、シェリーは冷ややかな声で証拠を提示していった。
ふたりの背後には、王と王妃をはじめ、国中の目が注がれていた。

宝石商で見つかった白骨遺体の多くは、まだ幼い少年のものだった。
それ以外にも、大人の骨が混じっていたが、彼らは皆「邪魔になった」ただそれだけの理由で命を絶たれた者達だ。

容疑者スマーザ=カタナに雇われていた魔術師の証言によれば、彼女は「病気」だと自らを弁じていたという。
ある時から妙な魔法に取り憑かれ、幼い少年に暴行を加えなければ精神が安定しなくなった──と。

最初は客に伴われてきた子息に、軽く触れる程度で済んでいたものが、次第に衝動は増し、人身売買で買い取った子供たちにまで手を伸ばしていった。

証言が読み上げられるにつれ、傍聴人の中には耳を塞ぎ、あるいは卒倒する者まで現れた。
「これ以上は不要」と裁判官が遮ったその瞬間でさえ、広間には凍りついたような沈黙が落ちていた。

その時音もなく、シェリーが検察席から立ち上がった。

そして裁判官の前まで進み出て、こう言った。

「私は、スマーザの実の娘、シェリーです。
 私も母と同じ病気に罹りました。──ですが、
 この病気は、コントロールが出来ます。
 身体を、魔力を鍛え、精神を磨いてゆけば、
 犯罪は犯しません」

真っ直ぐに裁判官の目を見つめ、群衆の声を待つ。

この世には、そういった厄介な衝動が出る魔法を自覚なく覚えてしまう者が、少数いる。

タコ以外食べれなくなる者──【八食魔法】

前髪だけを剃りたくなる者──【丁髷魔法】

長靴だけを盗みたくなる者──【水虫魔法】

どれも病気とされているが、人に危害を加えてしまえば、罪となってしまう。

しかしシェリーのように自己を研鑽することでその衝動を鎮めることができるのならば、国としても放置するのではなく、保護して指導するべきなのであろう。

群衆からはまばらな拍手が鳴り始め──
次第に大きな歓声が響き渡った。
大勢いた権力者達の中の半分ほどは牢へと案内され、裁判は幕を閉じた。


長年の間、セーブルに悪戯を仕掛けて弄んだのは──彼女にとっては愛であり、犯罪ではないらしい。
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