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第九章
第六十七話
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「うにゃ~~~~~ご」
たぶんそうだろうなとは思っていたが、毛がボサボサの黒猫もおっさんの家に付いてきた。
家の中央にドドンと生えた大黒柱の下に、いつも家族の誰かしらが猫達のご飯を用意しているのだが……
おっさんが目をやると、つねに2~3粒残して空っぽの状態になっている。
あげてもあげただけ食ってしまうので、皆んなも時間を決めて出すようになったようだ。
とはいえ、折角の新しい家族が来たのだ。
例のアレをご馳走してやろうと思い、三毛猫ドラゴンのいる火山から持ってきた魔石の欠片をくれてやる。
黒猫の鼻先に置いてやると、ベロベロと舐め出して、手足が砕けるようにへたり込んだ。
その後は歩くことも億劫なのか、ニョロニョロと体を捩って移動をし、陽当たりのいい場所に這って行った。
「棒を付けたら完全なモップだなコリャ」
先程、悪代官に襲われたような悲鳴をあげて、異空間に吸い込まれていったリリのことは、パステルにお願いしたのだった。
リリと愛を重ねた日から、おっさんは覚悟を決めた。
いつか、あの世からのお迎えが来るその時まで、彼女を精一杯笑わせて、楽しく生きてゆこうと。
そして自分が居なくなった後も、リリが笑って生きていけるように、思い出を作ろうと。
セーブル達の結婚披露宴に便乗して、おっさんもあの貝殻女神に誓いを立てて、皆に祝ってもらおうと思った。
その為にパステルにお願いして、リリに似合うウエディングドレスを見繕ってくれと、彼女を連れていってもらったのだった。
セーブル達は酒を飲みつつくつろいでいて、聞いてみれば、もう衣装の支度は整っているらしい。
二人がスケート講師をしている間に、パステルの親父さんがキッチリと準備させたらしい。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
サンちゃんの用意してくれた、異世界グルメな巨大ビュッフェに囲まれて、カリファールの民達は大盛り上がりで祝宴を繰り広げている。
そして入りきらない、八角堂にはいつまでぉ長蛇の列が出来ており、女神への拝礼も続いている。
祈りを捧げた人達は、何かしらのお供物を奉納しているらしく、貝の周りには宝石やらご馳走やらが山になって積まれており、受付所みたいなテーブルには拝礼を済ませた人達の署名がズラリと書き込まれている。
番号が振られていて、その数は既に七百人を超えていたようだ。
そんな頃、なにやら本殿のほうから騒がしい声が聞こえてきた。
おっさんは、リリのグラスにワインを注いでやったりしながら、警邏をしていた甲冑の騎士に尋ねてみると──
なにやら女神様の社……ようは貝殻が、時折ブルブルと震えたり、クパクパとうっすら開いたりしているとのこと。
自称恥ずかしがり屋で、顔もあまり見られたく無いとか言っていた女神様の筈だったが、あまりの参列の多さにサービスでもしているのだろうか?
などと、リリを連れて様子を見にいってみれば……
「次の方──ええと、777番目の……サムさん?どうぞ前へ──」
行列を捌いていた騎士達が、緑色の髪の毛をした人を、貝の前へと案内して、その青年は手順通りに礼と拍手をし、頭を下げ祈りを捧げていた。
──その時だった。
キュン──
キュイン!キュキュキュキュイーーーーーン!!
突然神々しい白亜の貝殻から激しい光が放たれ、
どこかで聞き覚えのあるような電子的な音が鳴り響いた。
そして……
クパァ!っと大きく貝は開け広がり、満面の笑みを浮かべた巫女サンバ風の女神様が、皆の前に姿を現せた。
「パーーーール!!フラッシューーー!!
スーーパーーーラッキーーー!!おめでとう!」
貝の中からは目にも鮮やかな色取り取りの魚群が洪水のように空へと泳ぎ出し、どうやら777人目の彼を祝う、というよりは、この国全体への祝福を解き放ったようであった。
たぶんそうだろうなとは思っていたが、毛がボサボサの黒猫もおっさんの家に付いてきた。
家の中央にドドンと生えた大黒柱の下に、いつも家族の誰かしらが猫達のご飯を用意しているのだが……
おっさんが目をやると、つねに2~3粒残して空っぽの状態になっている。
あげてもあげただけ食ってしまうので、皆んなも時間を決めて出すようになったようだ。
とはいえ、折角の新しい家族が来たのだ。
例のアレをご馳走してやろうと思い、三毛猫ドラゴンのいる火山から持ってきた魔石の欠片をくれてやる。
黒猫の鼻先に置いてやると、ベロベロと舐め出して、手足が砕けるようにへたり込んだ。
その後は歩くことも億劫なのか、ニョロニョロと体を捩って移動をし、陽当たりのいい場所に這って行った。
「棒を付けたら完全なモップだなコリャ」
先程、悪代官に襲われたような悲鳴をあげて、異空間に吸い込まれていったリリのことは、パステルにお願いしたのだった。
リリと愛を重ねた日から、おっさんは覚悟を決めた。
いつか、あの世からのお迎えが来るその時まで、彼女を精一杯笑わせて、楽しく生きてゆこうと。
そして自分が居なくなった後も、リリが笑って生きていけるように、思い出を作ろうと。
セーブル達の結婚披露宴に便乗して、おっさんもあの貝殻女神に誓いを立てて、皆に祝ってもらおうと思った。
その為にパステルにお願いして、リリに似合うウエディングドレスを見繕ってくれと、彼女を連れていってもらったのだった。
セーブル達は酒を飲みつつくつろいでいて、聞いてみれば、もう衣装の支度は整っているらしい。
二人がスケート講師をしている間に、パステルの親父さんがキッチリと準備させたらしい。
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サンちゃんの用意してくれた、異世界グルメな巨大ビュッフェに囲まれて、カリファールの民達は大盛り上がりで祝宴を繰り広げている。
そして入りきらない、八角堂にはいつまでぉ長蛇の列が出来ており、女神への拝礼も続いている。
祈りを捧げた人達は、何かしらのお供物を奉納しているらしく、貝の周りには宝石やらご馳走やらが山になって積まれており、受付所みたいなテーブルには拝礼を済ませた人達の署名がズラリと書き込まれている。
番号が振られていて、その数は既に七百人を超えていたようだ。
そんな頃、なにやら本殿のほうから騒がしい声が聞こえてきた。
おっさんは、リリのグラスにワインを注いでやったりしながら、警邏をしていた甲冑の騎士に尋ねてみると──
なにやら女神様の社……ようは貝殻が、時折ブルブルと震えたり、クパクパとうっすら開いたりしているとのこと。
自称恥ずかしがり屋で、顔もあまり見られたく無いとか言っていた女神様の筈だったが、あまりの参列の多さにサービスでもしているのだろうか?
などと、リリを連れて様子を見にいってみれば……
「次の方──ええと、777番目の……サムさん?どうぞ前へ──」
行列を捌いていた騎士達が、緑色の髪の毛をした人を、貝の前へと案内して、その青年は手順通りに礼と拍手をし、頭を下げ祈りを捧げていた。
──その時だった。
キュン──
キュイン!キュキュキュキュイーーーーーン!!
突然神々しい白亜の貝殻から激しい光が放たれ、
どこかで聞き覚えのあるような電子的な音が鳴り響いた。
そして……
クパァ!っと大きく貝は開け広がり、満面の笑みを浮かべた巫女サンバ風の女神様が、皆の前に姿を現せた。
「パーーーール!!フラッシューーー!!
スーーパーーーラッキーーー!!おめでとう!」
貝の中からは目にも鮮やかな色取り取りの魚群が洪水のように空へと泳ぎ出し、どうやら777人目の彼を祝う、というよりは、この国全体への祝福を解き放ったようであった。
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