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第九章
第十話
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技を自在に操れるようになるまでは、敵に遭遇するのは危険だと判断したトゥティパの三人は──
ポリゴンステージのスタート地点から一歩も動かず、
魂の体重移動を、ひたすら模索し続けていた。
この世界にいると、不思議と疲れも空腹も感じない。
──けれど、やはり飽きは来る。
時には王城に戻ってのんびりと休息をとり、またステージに立つ。
そんな日々を何度か繰り返しながら、まるで説明書のない格闘ゲームを攻略するかのように、彼女たちは技の発現を目指していた。
「出来ましたわっ!」
「やーっと観えたっしょ~~……ダル~…」
テティスとパステルのふたりにも、ついに特殊な技が発現したようだった。
とはいえ、まだモンスター相手に試したわけではない。
効果のほどは不明だが、なんとなくの流れと、コマンドの入力方法は掴んだという手応えはある。
そんな折──最年少のトゥエラに目を向けると……
「とぅにっくぶ~ん! とぅにっくぶ~ん!」
彼女は、彼女にしか見えていない仮想の敵と対峙しながら、空間に向かって斬撃を飛ばしていた。
どうやら、敵が跳んで避けたというイメージらしい。
「とぅ~~にゅ~~けんっ!!」
斧刃を突き上げるように、前方斜め上へとアッパーカットを繰り出していた。
「あの子……もう、二つ目の技を……」
パステルは肩を落とし、思わずぽつりと呟いた。
「マジありえないし。魂、自由自在かよ……?」
テティスも唇を尖らせて、悔しそうに目を細める。
でも、どれだけ悔しくても──自分たちも技を手に入れたのだ。
それなら、試してみたい。戦ってみたい。
そう思った二人は、トゥエラを呼び寄せた。
「そろそろ……攻略、始めよっか?」
「うん!やっとーっ!」
テティスとパステルの新技は、『トゥニックブーム』のようにわかりやすく飛ぶ斬撃ではない。
見た目に派手なエフェクトもなく、何が起きるのかすら試していないのが現状だった。
そこで、先頭はトゥエラに任せることにした。
彼女の飛ばす斬撃で道を切り開き、罠や不意打ちを防ぎながら、慎重に進む作戦だ。
森の奥へ進むにつれ、風景は徐々に変化していった。
緑の木々は消え、代わりに赤茶けた岩肌や、遠くにそびえる山々が見えてくる。
草木の気配は薄れ、代わりに乾いた土と風が、彼女たちの髪を揺らした。
「……風景、がらっと変わりましたわね」
パステルが小さくつぶやいたその時──
「……来るよっ」
トゥエラがピタリと足を止め、目を細める。
その視線の先には──
ドスッ……ドスッ……
大地を揺らすような音とともに、巨大な鬼のようなモンスターが、ゆっくりと、しかし確実にこちらへ向かってきていた──!
「範囲察知魔法!
罠は周りにねーっしょ!みんな散会!」
狙いを絞らせないように、三方向に散るトゥティパ。
「とぅにっくぶーーーん!」
まずはトゥエラが斬撃で先制する。
巨体に見合わない俊敏なジャンプで、飛んできた刃を躱す鬼。
トゥエラの斬撃は、2秒ほどの溜めが必要なので、連射をすることは出来ない。
そして、敵との距離もあるので、アッパーカットもまだ撃てる距離ではない。
「チビにばっかやらせっかっつーの!!」
吠えたテティスは、シュバッ!と鬼に向かって素早く距離を詰め────
「ドラゴン&タイガーダンス!!」
その瞬間、テティスが何人にも分身したように見え、
それらが途轍もない速さでパンチとキックを繰り出した。
その時間──わずか数秒。
倒れ伏した赤鬼は、小さな三角形の破片となり霧散した──。
「凄いですわ!魔法使いのテティスが、
蹴ったり叩いたり……あんな動きが出来たんですの?」
パステルが目を丸くして驚く。
普段は肉弾戦などするイメージは全くなく、
涼しい顔で遠くから魔法を撃ち込むギャルなのだ。
突然、あんな龍と虎が乱れ舞うような動きを見せられては、衝撃も受けるであろう。
「いやいや──パーちん?あーしがこんな
か弱い腕で?パンチとかありえないっしょw」
テティス曰く、あの技は自らを透明化し、
彼女の幻影が突撃して魔力に依る連続攻撃を行う物らしい。
「つまり、もし返り討ちになっても問題ないと?」
パステルは、普段のテティスが息をするように魔法を操っているのを見ているが、
魔素がないなど、何らかの事情で完全な生身になってしまった場合、
水の入ったバケツを持つだけでヨタヨタと覚束なくなってしまうことを知っている。
そんな彼女が打撃戦をした事に驚愕し、心配していたのだ。
「そーそー、あーしの魔素幻影が殴ってる間?
ソッコーで背後にワープしてるし?
いつでも魔法も撃てるって感じ?」
「ティ姉~すっごいねー!トゥエラ見えないくらい速かったよ!?」
目をキラキラさせて手足をジタバタさせ、
テティスの技の真似っこをするトゥエラ。
「フフン!トゥーがあーしの十八番を侵害するから?
アンタっぽい技見つけただけだし?」
ニヤニヤと胸をそらしマウントを取りに行くテティス。
「では、次は私の番ですわね!」
戦闘でない時は、せいぜい40センチ程しかない、中央に黒石のついた首飾りを──
チャラリと持ち替えると不思議な事に、
長さ2メートルはあり、先端に移動した風呂栓のような石をつけた鎖に変わる。
少し離れた小高い岩山に、新たな敵を発見する三人。
「トゥエラ、お願いがあるのです。
私をあの岩の上まで飛ばす事は可能ですか?」
出番が回って来ずに退屈そうだったトゥエラは、喜んで斧をラケットのように構えて、
「できるでっきるー♪いっくよ~~~……
えいや~~~!!」
と、パステルをバドミントンのシャトルのように打ち上げた。
ミサイルのように、先程の赤鬼よりも大きな緑色の鬼に飛翔した王女は────
「逝きます!
スクリューチェーンドライバー!!!」
振り下ろした腕から放たれた、黄金色のポリゴン鎖は、突如十数メートルにまで長さを伸ばし、鬼の全身にグルグルと巻き付いた。
それを、まるでベーゴマのように地上に向けて放つパステル。
緑鬼はその巨体をドリルのように回転させながら地上へと落ちてゆく。
「今です!トゥエラ!」
地上でそのド派手な技を見上げていた幼女に追撃を頼むパステル。
「よ~~~しっ!いっくよ~~~!!
とぅ~~にゅ~~けん~!!」
斧刃付きジャンプアッパーカットに、
捻りを加えたその一撃は、落ちてきた鬼をミックスベジタブルのようなポリゴン片に砕き変えた。
ポリゴンステージのスタート地点から一歩も動かず、
魂の体重移動を、ひたすら模索し続けていた。
この世界にいると、不思議と疲れも空腹も感じない。
──けれど、やはり飽きは来る。
時には王城に戻ってのんびりと休息をとり、またステージに立つ。
そんな日々を何度か繰り返しながら、まるで説明書のない格闘ゲームを攻略するかのように、彼女たちは技の発現を目指していた。
「出来ましたわっ!」
「やーっと観えたっしょ~~……ダル~…」
テティスとパステルのふたりにも、ついに特殊な技が発現したようだった。
とはいえ、まだモンスター相手に試したわけではない。
効果のほどは不明だが、なんとなくの流れと、コマンドの入力方法は掴んだという手応えはある。
そんな折──最年少のトゥエラに目を向けると……
「とぅにっくぶ~ん! とぅにっくぶ~ん!」
彼女は、彼女にしか見えていない仮想の敵と対峙しながら、空間に向かって斬撃を飛ばしていた。
どうやら、敵が跳んで避けたというイメージらしい。
「とぅ~~にゅ~~けんっ!!」
斧刃を突き上げるように、前方斜め上へとアッパーカットを繰り出していた。
「あの子……もう、二つ目の技を……」
パステルは肩を落とし、思わずぽつりと呟いた。
「マジありえないし。魂、自由自在かよ……?」
テティスも唇を尖らせて、悔しそうに目を細める。
でも、どれだけ悔しくても──自分たちも技を手に入れたのだ。
それなら、試してみたい。戦ってみたい。
そう思った二人は、トゥエラを呼び寄せた。
「そろそろ……攻略、始めよっか?」
「うん!やっとーっ!」
テティスとパステルの新技は、『トゥニックブーム』のようにわかりやすく飛ぶ斬撃ではない。
見た目に派手なエフェクトもなく、何が起きるのかすら試していないのが現状だった。
そこで、先頭はトゥエラに任せることにした。
彼女の飛ばす斬撃で道を切り開き、罠や不意打ちを防ぎながら、慎重に進む作戦だ。
森の奥へ進むにつれ、風景は徐々に変化していった。
緑の木々は消え、代わりに赤茶けた岩肌や、遠くにそびえる山々が見えてくる。
草木の気配は薄れ、代わりに乾いた土と風が、彼女たちの髪を揺らした。
「……風景、がらっと変わりましたわね」
パステルが小さくつぶやいたその時──
「……来るよっ」
トゥエラがピタリと足を止め、目を細める。
その視線の先には──
ドスッ……ドスッ……
大地を揺らすような音とともに、巨大な鬼のようなモンスターが、ゆっくりと、しかし確実にこちらへ向かってきていた──!
「範囲察知魔法!
罠は周りにねーっしょ!みんな散会!」
狙いを絞らせないように、三方向に散るトゥティパ。
「とぅにっくぶーーーん!」
まずはトゥエラが斬撃で先制する。
巨体に見合わない俊敏なジャンプで、飛んできた刃を躱す鬼。
トゥエラの斬撃は、2秒ほどの溜めが必要なので、連射をすることは出来ない。
そして、敵との距離もあるので、アッパーカットもまだ撃てる距離ではない。
「チビにばっかやらせっかっつーの!!」
吠えたテティスは、シュバッ!と鬼に向かって素早く距離を詰め────
「ドラゴン&タイガーダンス!!」
その瞬間、テティスが何人にも分身したように見え、
それらが途轍もない速さでパンチとキックを繰り出した。
その時間──わずか数秒。
倒れ伏した赤鬼は、小さな三角形の破片となり霧散した──。
「凄いですわ!魔法使いのテティスが、
蹴ったり叩いたり……あんな動きが出来たんですの?」
パステルが目を丸くして驚く。
普段は肉弾戦などするイメージは全くなく、
涼しい顔で遠くから魔法を撃ち込むギャルなのだ。
突然、あんな龍と虎が乱れ舞うような動きを見せられては、衝撃も受けるであろう。
「いやいや──パーちん?あーしがこんな
か弱い腕で?パンチとかありえないっしょw」
テティス曰く、あの技は自らを透明化し、
彼女の幻影が突撃して魔力に依る連続攻撃を行う物らしい。
「つまり、もし返り討ちになっても問題ないと?」
パステルは、普段のテティスが息をするように魔法を操っているのを見ているが、
魔素がないなど、何らかの事情で完全な生身になってしまった場合、
水の入ったバケツを持つだけでヨタヨタと覚束なくなってしまうことを知っている。
そんな彼女が打撃戦をした事に驚愕し、心配していたのだ。
「そーそー、あーしの魔素幻影が殴ってる間?
ソッコーで背後にワープしてるし?
いつでも魔法も撃てるって感じ?」
「ティ姉~すっごいねー!トゥエラ見えないくらい速かったよ!?」
目をキラキラさせて手足をジタバタさせ、
テティスの技の真似っこをするトゥエラ。
「フフン!トゥーがあーしの十八番を侵害するから?
アンタっぽい技見つけただけだし?」
ニヤニヤと胸をそらしマウントを取りに行くテティス。
「では、次は私の番ですわね!」
戦闘でない時は、せいぜい40センチ程しかない、中央に黒石のついた首飾りを──
チャラリと持ち替えると不思議な事に、
長さ2メートルはあり、先端に移動した風呂栓のような石をつけた鎖に変わる。
少し離れた小高い岩山に、新たな敵を発見する三人。
「トゥエラ、お願いがあるのです。
私をあの岩の上まで飛ばす事は可能ですか?」
出番が回って来ずに退屈そうだったトゥエラは、喜んで斧をラケットのように構えて、
「できるでっきるー♪いっくよ~~~……
えいや~~~!!」
と、パステルをバドミントンのシャトルのように打ち上げた。
ミサイルのように、先程の赤鬼よりも大きな緑色の鬼に飛翔した王女は────
「逝きます!
スクリューチェーンドライバー!!!」
振り下ろした腕から放たれた、黄金色のポリゴン鎖は、突如十数メートルにまで長さを伸ばし、鬼の全身にグルグルと巻き付いた。
それを、まるでベーゴマのように地上に向けて放つパステル。
緑鬼はその巨体をドリルのように回転させながら地上へと落ちてゆく。
「今です!トゥエラ!」
地上でそのド派手な技を見上げていた幼女に追撃を頼むパステル。
「よ~~~しっ!いっくよ~~~!!
とぅ~~にゅ~~けん~!!」
斧刃付きジャンプアッパーカットに、
捻りを加えたその一撃は、落ちてきた鬼をミックスベジタブルのようなポリゴン片に砕き変えた。
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