異世界召喚されました……断る!

K1-M

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3巻

3-2

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 その後、詳しく事情を聞くと、店主が必死に「オーダーメイドを作らせてほしい」と頼んできたのは、抱えている職人にどうしてもレベルの高い仕事をさせたかったかららしい。
手間賃てまちんはいらないから素材を提出してもらえないか?」とのことだったので、俺はコレを承諾。
 これでもかと寸法を測られた後、職人と対面する。エルフなので顔の造形は整っているのだが、表情は硬く不愛想ぶあいそうな印象だ。
 ちょっと気難しい感じかな? と思いつつ素材を出すと……目の色を変えて食い付いてきた。まるで少年みたいに。
 俺と彼は話をするうちに意気投合し、俺は手持ちの使えそうな素材も追加で出してしまった。
 その後求めているモノや効果、付与をどうするかをこれまた盛り上がりながら話し合って、俺は満足して店を出た。


「腹減ったな……」

 昼飯も食べずに打ち合わせをしていたのを思い出す。
 タブレットで時刻を見ると十五時過ぎ。
 ガッツリ食わない方が良いか……と近くのカフェに行こうと思ったが……。

「……いや、耳を癒しに行こう」

 俺はきびすを返し、ほんわかボイスさんのお店に向かった。


 ほんわかボイスを堪能してから宿に戻った俺は、ベッドでゴロゴロしながら『アイテムボックスEX』を確認する。

「……素材、結構使ったな。いらないのは売ったし。うん、スッキリしたな」

 それにしても、マントができ上がるまでどうしようかな。
 買い物はあらかた済ませたし、図書館にも行った。
 とりあえずまだ行ってないところを散歩するかぁ……などと翌日からの予定とも言えないような予定を決める。
 そのタイミングで俺はあるたくらみを思いつく。

「あ、そういえば……」

 夕食の時間を一時間遅らせてもらったため、時間に余裕はある。
 俺は『転移』を使ってある用事を済ませてから夕食へ向かった。
 その後、一服してから大きく息を吐く。

「行くか」


「……知ってる天井だ」

 ボケてはみるが、俺がまた返り討ちにあった事実は変わらない。ありがとうございます(二回目)。
 ただ、賢者モードのせいで体がめちゃくちゃだるくて、何もする気が起きない。ひとまず宿に戻ってゴロゴロすることにした。
 そして再起動したのは、日が落ちる頃だった。どんだけ時間経ってんの⁉ なにソレ怖い。

「しかし後悔はない……ふっ」

 意味もなくカッコつけても、俺は寝起きかつパンイチで髪の毛は寝癖でボサボサである。
 洋品店から宿にマント完成の連絡は来ていないので、どうするかなぁ~、とだしなみを整えつつ考えてみる。そして、ふとあることに思い至った。

「ハイエルフだ!」

 そうだ、ドゥバルからハイエルフは多くの知識を持っているのだと聞いて、話ができないかなと思っていたんだ。でも図書館の本で見た限りだと、ハイエルフってお偉いさんだよなぁ。会えるのかね?
 とりあえず宿の人に聞いてみるか。


       ◇ ◇ ◇


 一方その頃、鉱山都市フォディーナにある武器防具店テールムの工房ではドゥバルがうなっていた。
 実はトーイチが夕飯前に『転移』で向かったのは、ドゥバルの工房だったのである。

「コレは……またトーイチか。あいつはどうやってココに入っているんだ、まったく」

 言いながら机に置かれたプラモデルを手に取るドゥバル。

Ζゼータの変形……だと……? このサイズでか? 恐ろしい技術だ……」

 この後、変形中に角を折ってしまい、おんおん泣いているドゥバルが発見されたとかなんとか。


       ◇ ◇ ◇


 ハイエルフについて聞き込みをしようかと考えていた俺だったが、普通に考えたら国外から来た奴に「ハイエルフの人に会いたいんだけど、何か方法ある?」って聞かれても教えないよな、と思い直し方針転換。世界樹の側にある案内所に向かうことにした。
 というわけで建物に入り、案内図を見ているのだが……。

「戸籍課に警備課、土木課ねぇ……」

 どこの役所だよ。
 案内図見ても分からんな……もう正面切って聞くしかないか。
 そう思っていたら、職員さんから声をかけられた。

「本日はどのようなご用件で?」
「物知りなハイエルフの方とお会いしたくて来ました。この地の歴史について興味があるんです。正式にお会いできる方法があるのなら、教えていただけないかと思いまして」
「物知りなハイエルフですか……少々お待ちください」

 職員さんはそう答えると、奥に行ってしまった。
 取り残された俺は、近くの椅子に座り待つことにする。
 しかし、ホントに役所みたいだよなぁ、ココ。そんなところで綺麗なエルフさんが働いているというのが不思議だが。
 でも、金髪セミロングで眼鏡をかけたお姉さんのスーツ姿はヤバいですね! スリットの入ったタイトスカートとか、どストライク!
 なんてろくでもないことを考えていると、職員さんが戻ってきた。

「大変お待たせしました。奥へどうぞ」

 俺は奥の別室へ通される。
 あれぇ? 何故いきなり別室? っていうかいきなり会わせてもらえるんですか?
 頭の中にいくつもの「?」を浮かべながら職員さんの後をついていく。しばらく歩くと、先導する職員さんが扉の前で立ち止まった。
 エルフさんが四回ノックをすると、「どうぞ」と声がした。
 部屋の中に入ると、椅子に腰かけていたエルフさんが立ち上がり、笑顔で話しかけてくる。

「ようこそいらっしゃいました、異世界より転移なされた方よ。私は警備隊隊長のエジル・フォン・エルフリア。お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

 転移者だとバレてる⁉
 内心驚きながらも俺は平静を装って答えた。

「私はトーイチ・ムラセと申します。何故、私が転移者だと?」
「黒髪・黒目もそうですが、魔力の質や貴方あなたの周りの精霊の反応が、こちらの世界の人間に対するものと違うのです」
「魔力の質や精霊の反応?」
「はい。魔力の質が我々より濃くて、精霊が嬉しそうなんですよね。……すみません、感覚的にしかお伝えできなくて」
「いえ。しかし、一目で見抜かれるとは思わなかったので、驚きました。もしかしてエルフは皆そういった転移者を見抜く目を持っているんですか?」
「私は魔力を感覚で捉えるのが得意な上に、これまでの経験があるからできているだけです。国内のエルフでも転移者を特定できるのは数人しかいないと思いますよ」

 俺はさらに尋ねる。

「これまでの経験とは?」
「はい。長く生きてきたこともあって、これまでたくさんの転移者の方とお話をしてきたので。……っと、すみません。立ち話もなんですし、座ってください」
「お気遣いいただきありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」

 俺はエジルさんに促されるままソファーに座る。その間に、案内してくれたエルフさんがお茶を出してくれたので、一口飲む。
 それを待ってから、エジルさんは口を開いた。

「確かハイエルフと話がしたい、とのご用件でしたよね」
「はい。この国ないし大陸、世界の神々や神話についてお聞きしたく訪問させていただきました。知っているのであればハイエルフの方でなくても構わないんですが……」
「なるほど、世界の神々や神話ですか」

 少し考え込むエジルさん。
 そういえばエジルさんは長く生きてきたって言っていたよな……。しかも知識量も相当ありそうだ。

「失礼ですが、エジルさんは――」
「あ、はい。私はハイエルフです」
「やはりそうでしたか」
「ただ、すみません。私はもっぱら剣ばかり振っていたものですから、神話などにはうとくて……」
「いえ。元々、ハイエルフの方にお会いできる方法を聞きに来ただけですので」
「そうですか。それで神話に詳しい人物なのですが、その手の話題は私達の間でもほとんど出ないので、確証を持って紹介できる人物がいないんですよね……」
「なるほど……」

 あれ? んだ?
 俺が内心焦っていると、エジルさんは告げる。

「ただ、知っていそうな人物ならお教えできますが……どうしますか?」
「本当ですか! その方を紹介していただけないでしょうか」
「分かりました。では紹介状を書いてお渡しします。これを持っていけば会ってくれるはずです」
「ありがとうございます! ちなみにその方はどのような方なんでしょうか?」
「リディア・フォン・エルフリア。私の姉で、現在の大公です」

 大公って確か旧エルフ国の長だよね……?
 ……大物キチャッタナー……。

「姉はここから西に行った港町プエルトの邸宅ていたくにいます」
「あれ? 大公はこちらにいらっしゃらないんですか?」
「姉は月一回サルトゥスに来るのですが、最低限の仕事と簡単な指示を出してすぐプエルトに戻ってしまうのです。こちらには私が詰めていますので不都合はないのですが……」

 ため息をつくエジルさん。その姿からは、いつも姉に振り回されていることが容易に想像できた。

「……心中お察しします。今日はお忙しい中、本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ大したおもてなしもできずすみません。また、何かありましたら是非お越しください」
「はい。そうさせていただきます。では、失礼します」

 こうして俺は大公への紹介状を入手した。
 次の目的地は港町プエルトに決まりだな。
 港町っていうことは魚が美味しいのかな? 食にも期待できそうだ!


 案内所を出るとちょうどお昼の時間帯だった。
 いつものお店でエルフのウェイトレスの声に耳を癒されつつランチをいただく。もうすっかり常連だ。
 その後は特にすることもないので、宿に戻ってのんびりしていた。
 十分に体を休めてから食事を済ませて、俺は……。


 翌々日。

「……はっ⁉」

 また、一日無駄に過ごしたらしい……。
 一昨日は確か、何がとは言わないがナンバーワンのダークエルフさんが出てきたんだったな。
 さすが、ナンバーワン。
 危うく精神も連れていかれるところだった……。
 ともあれ、やっと賢者モードが抜けてすっきりとした朝を迎えた俺は、朝食を食べてチェックアウトを済ませ、森林都市サルトゥスを出て西に足を向けるのだった。


「……異世界の刺身か。楽しみだな」

 聞いたところによると、港町プエルトでは、美味い刺身が食えるらしい。街道を進みながら俺はまだ見ぬ食材に心を躍らせていた。今歩いているのは、街道と言っても道が広いだけで深い森の中だ。
 それを考えるとフォディーナからサルトゥスの間の道は整備されていて、視界も確保できていたな。
 出てくる魔物も森らしくベア、ウルフ、ボアやスネーク、タイガー、コングなど、種類も豊富。上位種もちょいちょい現れた。だが、俺の敵ではない。俺は魔力を指先に凝縮し、銃弾のように発射する『マグナム』をはじめとした魔法を使いつつ先へ進んだ。


 サルトゥスを出発して二日目の夕方。
 俺は、ちょうどプエルトとの中間地点の辺りにある大きめの野営地に到着した。
 森の一番深い場所に位置するこの野営地は魔道具によって周囲を囲むように結界を張っているため、安全地帯となっている。
 森の魔物は夜行性タイプが多いため、この結界付きの野営地は冒険者や商人で大賑わいだ。
 自分のスペースを確保して設営した後、バーベキューコンロを出そうか悩んでいると、肩を叩かれた。

「お兄さん、ソロかい?」

 振り返ると、気の良さそうなエルフのお兄さんが笑顔でこちらを見ていた。

「ええ、そうですけど……」
「俺ら今から飯にする予定なんだが、お前さんもどうだい? せっかく隣に寝床を構えた仲なんだ、楽しくやろうぜ!」

 せっかくのお誘いなので、交ぜてもらうことに。
 俺が連れていかれた先は、六人の野郎達によるパーティ。
 全員エルフでイケメンだが、中身がオッサンだった。
 あっという間に打ち解け、俺はガンガン肉と酒を出し、彼らと一晩中大騒ぎした。

「あのナンバーワンと当たったのか? 運がいいなお前」
「俺は当たったことねえなぁ。うらやましい……」
「おっ、あのダークエルフさんか? あの人、いいよなぁ!」

 会話が会話だったので、音も遮断できる結界を張っておいてよかったと心底思ったね。


「酒と肉、ありがとうな~」
「またな、ブラザーっ(笑)」
「おう、じゃあなブラザーっ(笑)」

 翌朝、俺はブラザー達(笑)と別れて再出発。
 そして再び魔物を狩りながら移動して二日間をかけて、港町プエルトに到着した。

「ん~、しおの香り」

 やはり近くに海があると、潮がつんと香るな。緑の香りも好きだが、これはこれで素晴らしい。夕日が海に反射して綺麗だし。
 ……ってもう夕方か。
 もしかするともう宿は埋まってしまっているかもしれないと心配しつつ、街を歩く。しかし、幸いにも街の入口付近の宿が空いていた。
 宿に荷物を置いてほっと一息ついてから部屋を出る。
 夕食が付いているらしいが、せっかくなら現地の店で魚が食べたい! 
 フロントでオススメの刺身や寿司を出してくれる店を聞いてから、外へ繰り出す。
 大通りを歩いていると、「さすが港町!」って感じの活気のある声が聞こえてくる。
 港町らしい大通りを見ながら明日にでも買い物に来たいなとひそかに決意しつつ、港まで行く。目当ての店は港にあるのだ。
 港に到着すると、夕方なので当然漁は終わっていて、漁船が並んでいるし市場も閉まっていた。

「本当にこんな閑散かんさんとしたところに店があるのか?」

 不安になりつつも港沿いに船を見ながらオススメの店を探す……と、あったあった。
 覗いてみると、結構お客さんが入っている。人気店なのだろう。待つかな? と思っていたら、すぐにカウンター席に通された。
 お茶をもらい、メニューを見る。

「……なんの魚か分かんねぇな」

 マグロやサーモンといった馴染なじみのある名前は一つもない。しょうがないのでオススメされた何品かを注文してみた。
 しばらく待って出てきたのは、刺身の盛り合わせに寿司十貫、そしてあら汁。
 どのネタもきらきら光っていて美味うまそうじゃねぇか……!
 手を合わせて口に運ぶと――
 刺身ウマーっ! シースー、マイウーっ! 味噌汁うんまい!
 大満足! ごちそうさまでした。
 美味しすぎて食べている時には気が付かなかったけど、異世界にも醤油しょうゆとか味噌みそってあるんだな。っていうかエルフの大将、魚さばくの上手いな。ホールのエルフさんの和服いいね。
 とか、熱いお茶をすすりながら考えたりして。
 こうして大満足な夕食を終え、宿の方に戻りつつ裏通りにあるそれっぽい店を見る。

「今日はお腹いっぱいで幸せだから、やめとくか」

 俺は、満足感を胸に宿へと戻った。


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