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31. 震える唇
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その夜、リュカはなかなか寝付けなかった。いつの間にか眠っているかもしれない、という希望を抱きつつ、目を閉じていたのだが一向に眠気は訪れなかった。逆に目も頭も冴えるばかりだ。消灯してからどのくらい時間が経ったのかもわからない。だが夜明けまでは遠いように思った。
目は閉じたままで、収まりのいい場所を探して身動きする。背後で眠る蘇芳を起こさないよう、動きは最小限にとどめた。
「…眠れねえのか」
静かにかけられた声に、リュカは少しぎくりとした。肩越しに振り返れば、頭の下に腕を敷いた蘇芳が目を開けてこっちを見ていた。
「ごめん、俺、起こすつもりじゃ…」
「いや、俺も寝付けなくてな」
赤鬼の言葉が嘘か真かは分からないが、リュカは彼の言葉に甘えることにした。寝返りを打ち、向かい合う体勢になる。
「…なあ、厄介なことになる?」
「厄介?何が」
「俺…人間の癖に、ステラを殺そうとしただろ。他の種族の奴のお気に入りに手を出したことで、蘇芳が責められたりしねえのかなって…」
「ねえよ。お前のは正当防衛だって何度言ったら分かる。責められてしかるべきは向こうだろ」
蘇芳は呆れた表情で、リュカの鼻を指で弾いた。
「そうだけど、でもステラは絶対に俺が先に手を出したって言うはず」
「だとしても関係ねえ。たかがお気に入りの一人に手ぇ出されたからって、鬼一族を糾弾するなんざ馬鹿馬鹿しい。下手すると一族郎党滅ぼされるかもしれねえのに、そんな危険冒す馬鹿はいねえよ」
「そっか…。なら良かった…」
蘇芳があまりにもあっけらかんとしているものだから、こちらの方が面食らってしまう。だが、自分の行動の結果が面倒を引き起こさないのだと知り、リュカは胸を撫で下ろした。
「他には?」
「え?」
「他にもぐるぐる考えてることがあるんだろ?口に出せば案外すっきりして、ころっと眠れるかもしれねえぞ」
少年は驚きに目を丸くした。まるで心の中を見透かされているのかと思った。赤鬼が指摘する通り、屋敷に戻ってから頭の中で絶えず渦巻いているしこりのようなものがあるのだ。口にすることで、自分は弱いのだと思い知らされそうで言えないでいた。
だが、とリュカはそこで思い至る。思い知るも何も、貧弱で何の力も無い人間の奴隷である自分は弱い。まごうことなき事実なだけに、蘇芳から今更どう思われようともどうってことない。それにどちらにしろこのままでは眠れない。そう思い、少年は口を開いた。
「俺…ステラの首を絞めたことは全然覚えてないんだ。そこだけぽっかり穴が開いたみたいに。でも、何故だか首を絞めた感触が手に残ってる気がする。…生々しくて、すげえ、嫌な感じ」
リュカは己の両手を見つめた。暗くて見えないが、まるで自分の物ではないように感じる。
「ステラに首を絞められて苦しくて、このまま死ぬんだって思うと、すげえ怖かった…。全身を押さえつけられて抵抗すらできなくて、どうしようもなくて祈るしかなかった。もし俺が本当に人間じゃなくて異形なら、力があるんだったら、今ここで助けてくれって」
あの瞬間、目にした光景が脳裏をよぎる。珍しく取り乱した様子の蘇芳に、憎悪に満ちた目で自分を罵ったステラの主人。顔を真っ赤にし、苦しそうに咳き込むステラは、恐ろしいものを見るような目で自分を見ていた。
「ただ、助けてくれって祈っただけなのに…!ステラのこと殺したい、なんて思ってない…!そんなこと、これっぽっちも願ってなかったのに…っ!」
「リュカ、落ち着け」
「俺、…一体何なんだ!?いつになったら分かるんだっ!?また、…またっ…、無意識に誰かを殺しそうになるのか…っ!?」
一度言葉にし始めた思いは、止めどなく溢れた。理性と言う名の防波堤も機能を失い、ぐちゃぐちゃな感情によって容易く壊されてしまう。声は震え、リュカの目からは涙が滝のように流れる。
自分が自分ではないものに変わってしまうのではないか。自分の中にいる、正体不明の得体の知れない何かに、少年は恐怖していた。
半狂乱になりつつ泣きじゃくる彼を、蘇芳は抱きしめた。温かく優しい抱擁に、リュカも驚きで動きを止める。だがすぐに涙がこぼれた。
「…大丈夫だ。俺が殺させない」
「こわい…っ。すぉ…っ、おれ、俺…怖えよ…っ!」
「リュカ、もしまたお前の中の異形の力が働いて、誰かを傷つけようもんなら、俺がちゃんとお前を止めてやる」
痛い程にきつく抱きしめられるが、全く嫌ではなかった。己を抱く腕と言葉が心強い。大きな手で頭を撫でられるのが気持ち良かった。
平静を取り戻すにつれ、羞恥に見舞われた。しがみついた手の行き場がない。いつの間にか照明に火が灯り、暗かった室内を照らしている。蘇芳はまだ離してくれそうにない。嫌ではないが、恥ずかしい。
そこでリュカは股間にあたる硬い物に気がついた。合わさった体の間に手を差し入れて、異物の正体に触れる。
「…何で勃ってんの?」
この状況で勃起している蘇芳を、信じられない気持ちで見上げる。赤鬼は何食わぬ顔で肩を竦めた。
「最近抜いてねえからな、溜まってんだよ。仕方ねえだろ」
全く悪びれる様子のない彼に、呆気に取られる。だが、何だかおかしくなってきて、リュカは噴き出した。不審そうに柳眉を吊り上げる赤鬼に構わず、声を出して笑う。つい先程まで悩んでいたことが全て馬鹿馬鹿しくなってしまった。
ひとしきり笑った後、目尻に浮かんだ涙を拭って、少年は鬼を見上げた。
「いいぜ、セックスしても」
リュカの言葉に蘇芳は驚きに一瞬目を丸くしたが、すぐに口角を上げて笑みを浮かべた。
「どういう心境の変化だ?リュカ、抱かれるの好きじゃねえだろ」
「別に…。まだ眠気は来そうにないし、蘇芳に付き合ってもいいかなって思っただけ」
「へえ。そりゃ有難い。遠慮なくお前の好意に甘えるとするか」
赤鬼の手が少年の体を這う。逃がさないと言わんばかりに、逞しい腕ががっちりと巻きつき、懐に抱えこまれてしまった。
「け、けど、痛くしたり、乱暴なことをしたりしたら…」
「しねえよ。この前だって気持ち良いことだけだったろ」
蘇芳はリュカの言葉を遮ると、彼の唇を塞いだ。だが、少年は慌てて体を離し、赤鬼の唇を指で制した。
「あとっ、蘇芳のちんこ、全部押しこむのは無しで…!」
「わかったわかった。いいから集中しろ」
「ン、む…!」
往生際が悪いと取られたのか、赤鬼は少し呆れた様子だった。本当に分かってるんだろうな!とリュカは言いかけたが、その前に再び口を塞がれた。即座に舌が侵入し、リュカのそれを絡め取る。
「…ん、ふぅ…っ」
吸われて、舐められて、たまに歯を立てられる。その度に少年の体が跳ねた。最初の頃よりは口づけにも大分慣れた。とは言え、鼻で呼吸をして、流しこまれる唾液が口の外に溢れないように何とか嚥下するだけで精一杯だ。今も、蘇芳の寝間着を握りこむことしか出来ずにいる。
少年が息を乱す一方で、経験豊富な赤鬼は全くの余裕だ。リュカの口内を好き勝手に荒らしつつ、胸をまさぐってくる。
「…んぁ…っ!ン、ん…!」
長い指が乳首を探り当て、粒を転がす。押し潰されるように触られて、びりびりとしたものが胸から下腹部に伝わっていく。寝間着を首元までたくしあげられると、ぷっくりと立ち上がった乳首が現れる。指で執拗に触られたせいで熱を持ったそこが外気にさらされて、体がぶるりと震える。
「…っは、はぁ……けほっ」
長い口づけからようやく解放された。急激に酸素を口から吸いこんだリュカは、思わずむせてしまう。接吻だけで疲弊している少年とは違い、赤鬼は息一つ乱れていない。けろりとした顔でリュカの寝間着を脱がせている。そうして露になった上半身に、蘇芳は食いついた。
「…ぁ、ひ…っ!?」
胸元に感じるぬめった生温かい感触に、リュカは目を見開いた。赤い舌が乳首の周囲を這っている。くすぐったいような、痺れるような妙な感覚に体が勝手に跳ね、背中にぞわぞわするものが走る。舌先がちろちろと動いて、膨らんだ粒を刺激する。乳首を押しつぶすように、時折舌でべろりと舐められると口から変な声が漏れた。
「…ぃあ…、ァ、…うっ…」
眼前に広がる卑猥な光景に羞恥を感じるも、リュカは視線を逸らすことが出来ないでいた。蘇芳の髪色と同じ色をした赤く長い睫毛をじっと見つめていると、ふと彼と視線が交差する。妙に迫力のある深い紅の瞳に、思わず怯んでしまう。何も悪いことなどしていないのに、ばつの悪い気持ちに陥る。
赤鬼は少年と目を合わせたまま、口を開けた。本能的に嫌な予感がしていたが、食い入るように彼の次の挙動を追いかけてしまう。
「ぁ…、あッ!」
蘇芳が乳首を口に含んだ。瞬間、音を立てて吸い上げられ、リュカの背がのけ反る。
「蘇芳っ、…やめ…!ぁ、あー…っ!」
唾液ごとじゅるじゅると吸われて、リュカはたまらず喘いだ。最早自分では制御できない喘ぎ声のせいで制止の言葉も意味をなさず、ただの音と化す。
熱い口の中で、軽く歯を立てられたり、歯や唇で挟まれたり、形が変わってしまいそうな程に淫猥に弄られているのが分かる。咥えられていない方の乳首は相変わらず指での愛撫を受けていた。
「ぉ、俺…、男だから、ちち、…出なぃ…っ!」
ただの飾りでしかない男の乳首を執拗に吸う蘇芳に、リュカは息を乱しながらも言葉を絞り出した。赤鬼の動きが一瞬止まり、一拍遅れてこちらを見る。
「…あ?今、何つった」
まさか聞き返されると思わず、少年の方が面食らってしまう。何も変なことは言っていないし、出来うる限り明瞭に言ったつもりだ。だが、鼻先が触れそうな程の至近距離で、体もがっちりと掴まれて逃げ場のない状態では、彼に従う他なかった。
「だから…っ!俺、男だから…そんなに吸われても、母乳出ねえ、って…!」
何でこんな恥ずかしいことを二度も口にしなければならないのか。屈辱さえ感じて、自然と涙がこみあげてくる。
二度も言わされたにも関わらず、蘇芳は未だに目を丸くしている。
「リュカ、お前、俺が乳吸ってんのは、母乳を飲みたいがためだと思ってんのか?」
「え、だ、だって、そうだろ…?それ以外に理由あるのか…?」
互いの顔をじっと見つめ合い、しばし沈黙が流れる。二人の間の認識に齟齬が生じているように感じた。だが、どう食い違っているのか分からず、何も言えずに目の前の赤鬼をただ見つめることしかできない。先に沈黙を破ったのは、蘇芳だった。勢い良く息を噴き出し、リュカの胸に顔を埋めて笑い出す。
何故に赤鬼が爆笑しているのか分からず、少年は困惑するばかりだ。自分は何らおかしいことを言ったつもりはないからだ。雌型のように膨らみもない、平たいだけの雄の胸など何が楽しくていじるのか全く理解できない。
「な、何がおかしいんだよ!俺、間違ったこと言ってないだろ?」
「…まあな。でも、お前人間じゃねえんだし、雄でも母乳出るかもしれねえだろ」
「出ないって!」
「まあまあ。試させろよ」
そう言って、蘇芳は再びリュカの胸にしゃぶりついた。あれだけ散々吸っておいて全く諦める気配のない赤鬼に、流石の少年も抗議の声を上げた。わあわあ騒いでいると、今度はその口を口づけで封じられてしまう。激しく濃厚な口づけで少年の体力を奪い、文句を言えなくさせると、蘇芳はまた乳首にかぶりつくのだった。
目は閉じたままで、収まりのいい場所を探して身動きする。背後で眠る蘇芳を起こさないよう、動きは最小限にとどめた。
「…眠れねえのか」
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「いや、俺も寝付けなくてな」
赤鬼の言葉が嘘か真かは分からないが、リュカは彼の言葉に甘えることにした。寝返りを打ち、向かい合う体勢になる。
「…なあ、厄介なことになる?」
「厄介?何が」
「俺…人間の癖に、ステラを殺そうとしただろ。他の種族の奴のお気に入りに手を出したことで、蘇芳が責められたりしねえのかなって…」
「ねえよ。お前のは正当防衛だって何度言ったら分かる。責められてしかるべきは向こうだろ」
蘇芳は呆れた表情で、リュカの鼻を指で弾いた。
「そうだけど、でもステラは絶対に俺が先に手を出したって言うはず」
「だとしても関係ねえ。たかがお気に入りの一人に手ぇ出されたからって、鬼一族を糾弾するなんざ馬鹿馬鹿しい。下手すると一族郎党滅ぼされるかもしれねえのに、そんな危険冒す馬鹿はいねえよ」
「そっか…。なら良かった…」
蘇芳があまりにもあっけらかんとしているものだから、こちらの方が面食らってしまう。だが、自分の行動の結果が面倒を引き起こさないのだと知り、リュカは胸を撫で下ろした。
「他には?」
「え?」
「他にもぐるぐる考えてることがあるんだろ?口に出せば案外すっきりして、ころっと眠れるかもしれねえぞ」
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だが、とリュカはそこで思い至る。思い知るも何も、貧弱で何の力も無い人間の奴隷である自分は弱い。まごうことなき事実なだけに、蘇芳から今更どう思われようともどうってことない。それにどちらにしろこのままでは眠れない。そう思い、少年は口を開いた。
「俺…ステラの首を絞めたことは全然覚えてないんだ。そこだけぽっかり穴が開いたみたいに。でも、何故だか首を絞めた感触が手に残ってる気がする。…生々しくて、すげえ、嫌な感じ」
リュカは己の両手を見つめた。暗くて見えないが、まるで自分の物ではないように感じる。
「ステラに首を絞められて苦しくて、このまま死ぬんだって思うと、すげえ怖かった…。全身を押さえつけられて抵抗すらできなくて、どうしようもなくて祈るしかなかった。もし俺が本当に人間じゃなくて異形なら、力があるんだったら、今ここで助けてくれって」
あの瞬間、目にした光景が脳裏をよぎる。珍しく取り乱した様子の蘇芳に、憎悪に満ちた目で自分を罵ったステラの主人。顔を真っ赤にし、苦しそうに咳き込むステラは、恐ろしいものを見るような目で自分を見ていた。
「ただ、助けてくれって祈っただけなのに…!ステラのこと殺したい、なんて思ってない…!そんなこと、これっぽっちも願ってなかったのに…っ!」
「リュカ、落ち着け」
「俺、…一体何なんだ!?いつになったら分かるんだっ!?また、…またっ…、無意識に誰かを殺しそうになるのか…っ!?」
一度言葉にし始めた思いは、止めどなく溢れた。理性と言う名の防波堤も機能を失い、ぐちゃぐちゃな感情によって容易く壊されてしまう。声は震え、リュカの目からは涙が滝のように流れる。
自分が自分ではないものに変わってしまうのではないか。自分の中にいる、正体不明の得体の知れない何かに、少年は恐怖していた。
半狂乱になりつつ泣きじゃくる彼を、蘇芳は抱きしめた。温かく優しい抱擁に、リュカも驚きで動きを止める。だがすぐに涙がこぼれた。
「…大丈夫だ。俺が殺させない」
「こわい…っ。すぉ…っ、おれ、俺…怖えよ…っ!」
「リュカ、もしまたお前の中の異形の力が働いて、誰かを傷つけようもんなら、俺がちゃんとお前を止めてやる」
痛い程にきつく抱きしめられるが、全く嫌ではなかった。己を抱く腕と言葉が心強い。大きな手で頭を撫でられるのが気持ち良かった。
平静を取り戻すにつれ、羞恥に見舞われた。しがみついた手の行き場がない。いつの間にか照明に火が灯り、暗かった室内を照らしている。蘇芳はまだ離してくれそうにない。嫌ではないが、恥ずかしい。
そこでリュカは股間にあたる硬い物に気がついた。合わさった体の間に手を差し入れて、異物の正体に触れる。
「…何で勃ってんの?」
この状況で勃起している蘇芳を、信じられない気持ちで見上げる。赤鬼は何食わぬ顔で肩を竦めた。
「最近抜いてねえからな、溜まってんだよ。仕方ねえだろ」
全く悪びれる様子のない彼に、呆気に取られる。だが、何だかおかしくなってきて、リュカは噴き出した。不審そうに柳眉を吊り上げる赤鬼に構わず、声を出して笑う。つい先程まで悩んでいたことが全て馬鹿馬鹿しくなってしまった。
ひとしきり笑った後、目尻に浮かんだ涙を拭って、少年は鬼を見上げた。
「いいぜ、セックスしても」
リュカの言葉に蘇芳は驚きに一瞬目を丸くしたが、すぐに口角を上げて笑みを浮かべた。
「どういう心境の変化だ?リュカ、抱かれるの好きじゃねえだろ」
「別に…。まだ眠気は来そうにないし、蘇芳に付き合ってもいいかなって思っただけ」
「へえ。そりゃ有難い。遠慮なくお前の好意に甘えるとするか」
赤鬼の手が少年の体を這う。逃がさないと言わんばかりに、逞しい腕ががっちりと巻きつき、懐に抱えこまれてしまった。
「け、けど、痛くしたり、乱暴なことをしたりしたら…」
「しねえよ。この前だって気持ち良いことだけだったろ」
蘇芳はリュカの言葉を遮ると、彼の唇を塞いだ。だが、少年は慌てて体を離し、赤鬼の唇を指で制した。
「あとっ、蘇芳のちんこ、全部押しこむのは無しで…!」
「わかったわかった。いいから集中しろ」
「ン、む…!」
往生際が悪いと取られたのか、赤鬼は少し呆れた様子だった。本当に分かってるんだろうな!とリュカは言いかけたが、その前に再び口を塞がれた。即座に舌が侵入し、リュカのそれを絡め取る。
「…ん、ふぅ…っ」
吸われて、舐められて、たまに歯を立てられる。その度に少年の体が跳ねた。最初の頃よりは口づけにも大分慣れた。とは言え、鼻で呼吸をして、流しこまれる唾液が口の外に溢れないように何とか嚥下するだけで精一杯だ。今も、蘇芳の寝間着を握りこむことしか出来ずにいる。
少年が息を乱す一方で、経験豊富な赤鬼は全くの余裕だ。リュカの口内を好き勝手に荒らしつつ、胸をまさぐってくる。
「…んぁ…っ!ン、ん…!」
長い指が乳首を探り当て、粒を転がす。押し潰されるように触られて、びりびりとしたものが胸から下腹部に伝わっていく。寝間着を首元までたくしあげられると、ぷっくりと立ち上がった乳首が現れる。指で執拗に触られたせいで熱を持ったそこが外気にさらされて、体がぶるりと震える。
「…っは、はぁ……けほっ」
長い口づけからようやく解放された。急激に酸素を口から吸いこんだリュカは、思わずむせてしまう。接吻だけで疲弊している少年とは違い、赤鬼は息一つ乱れていない。けろりとした顔でリュカの寝間着を脱がせている。そうして露になった上半身に、蘇芳は食いついた。
「…ぁ、ひ…っ!?」
胸元に感じるぬめった生温かい感触に、リュカは目を見開いた。赤い舌が乳首の周囲を這っている。くすぐったいような、痺れるような妙な感覚に体が勝手に跳ね、背中にぞわぞわするものが走る。舌先がちろちろと動いて、膨らんだ粒を刺激する。乳首を押しつぶすように、時折舌でべろりと舐められると口から変な声が漏れた。
「…ぃあ…、ァ、…うっ…」
眼前に広がる卑猥な光景に羞恥を感じるも、リュカは視線を逸らすことが出来ないでいた。蘇芳の髪色と同じ色をした赤く長い睫毛をじっと見つめていると、ふと彼と視線が交差する。妙に迫力のある深い紅の瞳に、思わず怯んでしまう。何も悪いことなどしていないのに、ばつの悪い気持ちに陥る。
赤鬼は少年と目を合わせたまま、口を開けた。本能的に嫌な予感がしていたが、食い入るように彼の次の挙動を追いかけてしまう。
「ぁ…、あッ!」
蘇芳が乳首を口に含んだ。瞬間、音を立てて吸い上げられ、リュカの背がのけ反る。
「蘇芳っ、…やめ…!ぁ、あー…っ!」
唾液ごとじゅるじゅると吸われて、リュカはたまらず喘いだ。最早自分では制御できない喘ぎ声のせいで制止の言葉も意味をなさず、ただの音と化す。
熱い口の中で、軽く歯を立てられたり、歯や唇で挟まれたり、形が変わってしまいそうな程に淫猥に弄られているのが分かる。咥えられていない方の乳首は相変わらず指での愛撫を受けていた。
「ぉ、俺…、男だから、ちち、…出なぃ…っ!」
ただの飾りでしかない男の乳首を執拗に吸う蘇芳に、リュカは息を乱しながらも言葉を絞り出した。赤鬼の動きが一瞬止まり、一拍遅れてこちらを見る。
「…あ?今、何つった」
まさか聞き返されると思わず、少年の方が面食らってしまう。何も変なことは言っていないし、出来うる限り明瞭に言ったつもりだ。だが、鼻先が触れそうな程の至近距離で、体もがっちりと掴まれて逃げ場のない状態では、彼に従う他なかった。
「だから…っ!俺、男だから…そんなに吸われても、母乳出ねえ、って…!」
何でこんな恥ずかしいことを二度も口にしなければならないのか。屈辱さえ感じて、自然と涙がこみあげてくる。
二度も言わされたにも関わらず、蘇芳は未だに目を丸くしている。
「リュカ、お前、俺が乳吸ってんのは、母乳を飲みたいがためだと思ってんのか?」
「え、だ、だって、そうだろ…?それ以外に理由あるのか…?」
互いの顔をじっと見つめ合い、しばし沈黙が流れる。二人の間の認識に齟齬が生じているように感じた。だが、どう食い違っているのか分からず、何も言えずに目の前の赤鬼をただ見つめることしかできない。先に沈黙を破ったのは、蘇芳だった。勢い良く息を噴き出し、リュカの胸に顔を埋めて笑い出す。
何故に赤鬼が爆笑しているのか分からず、少年は困惑するばかりだ。自分は何らおかしいことを言ったつもりはないからだ。雌型のように膨らみもない、平たいだけの雄の胸など何が楽しくていじるのか全く理解できない。
「な、何がおかしいんだよ!俺、間違ったこと言ってないだろ?」
「…まあな。でも、お前人間じゃねえんだし、雄でも母乳出るかもしれねえだろ」
「出ないって!」
「まあまあ。試させろよ」
そう言って、蘇芳は再びリュカの胸にしゃぶりついた。あれだけ散々吸っておいて全く諦める気配のない赤鬼に、流石の少年も抗議の声を上げた。わあわあ騒いでいると、今度はその口を口づけで封じられてしまう。激しく濃厚な口づけで少年の体力を奪い、文句を言えなくさせると、蘇芳はまた乳首にかぶりつくのだった。
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