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58. 待ち侘びた熱
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「ローディル、マフタに遊ばれたと聞いたが大丈夫か?」
「全然大丈夫じゃないっ!俺、ラクダ乗るの苦手!ロティの姿で運ばれた時の方がずっとマシだった!」
「災難だったな」
ローディルはベッドの上に寝転がった状態で手足をじたばたと動かして不満を訴えた。部屋の主はくつくつと咽喉を鳴らして笑いながら、彼の傍らに腰を下ろした。慰めるように頭を撫でる。
むすっと唇を尖らせていた青年だったが、髪を梳く優しい手つきに、荒ぶっていた感情が落ち着いていくのを感じた。オルヴァルをじっと見つめる。自分とは違う褐色の肌に、柔らかな微笑みを浮かべる顔を見ていると安心感を覚える。
ローディルはおもむろに体を起こすと、オルヴァルに抱きついた。
「オルヴァル、今日はジイしてくれる?昨日は疲れてたし、マルティアトでもできなかったし…」
「ああ、いいぞ」
主人の承諾を得た青年は、途端に破顔して喜びを露にした。早速とばかりに服を脱ごうとする彼を、オルヴァルは制止する。突然待てを食らわされたローディルは首を傾げた。
「マルティアトでセヴィリスと偶然会った」
「セヴィと?俺がアサドと留守番してたとき?」
「ああ。興行のために訪れていたそうだ」
ふうん、とローディルは気のない返事をした。表情からは特に何の感情も窺えず、どう思っているのか分からない。
「彼がまた会いたいと言っていた。ローディルはどうだ?」
「え?うーん…会いたいか会いたくないかって言われたら会いたいけど…でもエミルとアサドがあんまりいい顔しなさそうだし…」
ローディルの歯切れが急に悪くなる。自分の意思よりも周囲の人間の顔色を窺う様子に罪悪感を覚える。部下二人が青年に対して過激なまでに過保護でいるために、彼に気を遣わせてしまっているのが分かって心苦しくなってしまう。
「二人のことは心配せず、自分の意思を優先させていい。それに、アサドもセヴィリスに会ってみたいと言っている」
「え、アサドが?」
彼がそう言うのが予想外だったのか、ローディルは驚いた様子で目を瞬かせている。
「ああ。各地を回っていると言う彼から情勢を聞きたいそうだ。初対面で情報収集するのも失礼だろうから、ローディルの付き添いという名目で少し話を聞きたいと。勿論ローディルが嫌なら、単なる顔合わせだけに留めるつもりだ」
「ううん、全然嫌じゃないよ。俺も他の町の話聞いてみたい」
すまないなと謝罪すると、ローディルは全然とばかりに頭を左右に激しく振る。健気な姿にオルヴァルの口角が柔らかく上がり、青年のうなじを優しく撫でた。
「セヴィリスが、ラズレイを呼んでくれれば道案内をさせると言っていた。ラズレイは確か、彼が連れている鷲の名だったな?」
「うん。たまに俺の部屋のバルコニーに遊びに来るんだ。その時に言えばいいのかな」
「ローディルも半分人間だが、会話ができるのか?」
「ううん、会話はできないよ。でも向こうが俺の言葉を理解してるな~ってのは何となくわかるけど、俺はラズレイが何を言ってるのかわかんない」
そういうものなのか、と男は顎を撫でた。獣同士だからと言って意思疎通が取れるわけではないと知って不思議に思う。ローディルが鷲の言葉を理解できないのは、やはり半分人間の影響なのだろうか。
つい自分の思考に浸っていると、視界いっぱいに青年の顔が広がり、オルヴァルはようやく我に返った。
「話、もうそれで終わり?俺、脱いでもいい?」
お預けを食らわされたローディルは我慢の限界のようだった。指をかけている寝間着はもはや半分脱げており、裾の隙間から素肌が覗いている。夜明けのような色をした瞳に情欲の炎が灯っている。その熱が伝わってきて、オルヴァルも己の下腹部が熱くなるのを感じていた。
「ああ、終わりだ。おいで」
ご主人様からの許可をもらった青年は目にも止まらぬ速さでズボンと下着を取り去った。
オルヴァルは膝の上に飛び乗って来る体を抱きとめ、飢えた獣のように唇に吸いついてくる青年に応える。
「ん、ン…ぁ」
やり返すように唇を啄む。途端に腕に抱いた青年の体がぴくりと跳ね、口が開く。その機会を逃さず、オルヴァルは舌を差し入れた。慣れたもので、待ってたとばかりにローディルが吸いついてくる。
「ん、んン…っ」
多少のたどたどしさはあれど、積極的に舌を絡めてくる。自分がされたことを学び、真似ているのが舌の動きで分かる。鼻で呼吸をすることも慣れてきたらしい。
その健気さが愛おしくて、オルヴァルはローディルの好きにさせた。だが時折、子供じみた悪戯心が芽生えてしまう。
「ふあっ、…ぁう、ッん…!」
上顎を舌先でゆっくりと舐めれば、ローディルの肩がびくりと跳ねる。突然の快感に驚いてしまったのか、唇が離れる。官能の吐息を吐くそれにすかさず吸いつき、青年の口の中を好きに舐め回す。
「んぅ、ふ、ンあ、…ぁ」
完全にペースを乱されてしまったローディルは、もたらされる口づけにされるがままだ。顔を真っ赤にしてどうにかついていこうと懸命な姿に、自然と口角が吊り上がってしまう。彼が飲みこめなかった唾液が、口の中へと流れこむ。それを嚥下しながら、オルヴァルは滑らかな肌に手を這わせた。
両手で腰を掴み、体の輪郭をなぞって確かめるかのように上へと滑らせる。筋肉が程よくついた、しなやかで美しい体だ。触り心地も良く、いつまでも触っていたいと思わせる。
寝間着の中に侵入した手はやがて、胸の小さな突起にたどり着いた。まだ柔らかいそれに指先で触れる。
「ッあ…な、なに…?」
体を離したローディルは目を白黒させていた。口づけが中断されて、オルヴァルは名残惜しく思った。もう少し楽しみたかったのだが。
「痛いか?」
オルヴァルは小さな突起を親指と人差し指でつまみ、優しく揉んだ。青年はすぐさま頭を左右に振って否定する。
「なら、ここを触られるのは嫌か?」
「…ぃ、やではな、けどぉ…なん、か…くすぐった、ぃ…っ」
どちらのものかわからない唾液で濡れた唇からは、小さな喘ぎ声が断続的に漏れている。だが何故胸を触られているのか分かっていないようで、頭の上に大量の疑問符が浮かんでいるのが手に取るように分かった。
「ここもな、性器と同じく気持ちよくなれる場所だ」
ローディルは途端に興味を持った様子だった。主人の胸板にぺたぺたと手を押しあてたかと思うと、乳首を探りあてた。男の動きを真似て、摘まんでいる。だが、顔に薄っすらと笑みを貼りつけたまま微動だにしないオルヴァルの反応に、不思議そうに首を傾げた。
その表情が何だかおかしく思えて、オルヴァルは小さく声を立てて笑った。
「皆が感じる訳ではなく、俺のように何も感じない者もいる。だがローディルは違うようだ」
「ぉれも…きもちぃ、わけじゃな…。ちょっと、びりびりす、る、だけ…」
「だが、こっちはしっかりと反応しているぞ?」
「あ…、ほんとだ…」
腹部にくっつきそうなくらいに元気に反り勃つ性器を指で撫でてやると、ローディルは驚いたように目を瞬かせる。勃起していることに今気づいたらしい。
「でも、こっち触られ、のと全然ちがう…こっちは、頭ふわふわになる、けど…」
「胸はビリビリするのか」
「ぅん…」
青年は素直に頷く。彼が話している間も、オルヴァルの手はローディルの乳首を弄っていた。青年も予想外の部分を触られて少し困惑しているようだが、不快には思っていないようだ。彼の両腕は変わらず主人の首に回されている。
柔らかかった胸の突起は、捏ねたり揉まれたりと優しく愛撫されて弾力を持ち始めていた。寝間着の薄い布越しにも立ちあがっているのが分かるほどに。
「開発していけば、乳首でも頭ふわふわになるくらいに気持ち良くなれる」
「そう、なのか…?」
「ああ、だから頑張ろうな。ローディル、気持ち良いことは好きだろう?」
「うん…すき…」
頑張る、とまた素直に頷く青年の純朴さに笑みがこぼれる。彼が性的なことに疎いのをいいことに、いけないことを教えたくなってしまうのだ。抗いがたい不思議な魅力がローディルにはあった。
「ゔ~…パンパンになって、くるしぃ…オルヴァルも、はやくぬいで…」
ローディルは己の下腹部を軽くさすると、我慢できないとばかりにオルヴァルの寝間着に手をかけた。潤んだ目元はほんのりと赤みが差し、下唇を噛んでいる。強引に脱がせようとする彼を宥めながら、男も素肌を露にした。
青年の言動にあてられて、男の屹立も硬く天を向いていた。ローディルが体を寄せてきたことで性器が触れ合う。オルヴァルは彼の腰に腕を回し、体勢を支えてやった。
「ローディル、いつも俺がしているように出来るか?俺はこっちを気持ち良くしてやる」
固く芯を持った乳首を指の腹で擦れば、目の前の唇から小さな嬌声が漏れる。赤く色づいたそれを食むように口を合わせた。
「ン…ゃだ。オルヴァルが…する」
「だが、俺は両手がふさがってしまっている」
ローディルは己の胸を可愛がる男の腕を掴んで、互いの下肢に導こうとした。だが断続的な快感に見舞われた体では、オルヴァルの力には勝てなかった。
「でも、でも…オルに、されるのがきもちぃ…手、おっきーし…オルじゃな、と、…ゃだ…」
ローディル本人は無意識なのだろうが、褥の中では男の名を愛称で呼ぶ。呼ばれ慣れていなくて、くすぐったい。だが甘い響きのある声で呼ばれると、不思議と気分が高揚する。胸の部分が温かくなるだけではなく、同時に下腹部にも熱が発生する。
元々甘えたな気質ではあったが、すっかりおねだりも上手になったものだ、とオルヴァルは思った。今もお願いお願いと言わんばかりに唇に吸いついてきては、ぎゅっと抱きついて頬擦りされている。愛くるしくて、抗えない。
「上も脱いでくれるか」
オルヴァルはローディルを素っ裸にさせると、羽織のクイシュに袖を通させた。何故上を脱がされたのか理解できていない青年の肌に唇を寄せる。音が立つくらいに彼の肌を啄み、ぴんと尖った乳首を舌で舐めあげた。
「ぅあ…っ!?」
びくりと大きく体が跳ねる。逃げ腰になる体に巻きつけた腕に力をこめて、ぐいと抱き寄せる。青年の戸惑いを肌に感じながら、オルヴァルはもう片方の手で互いの陰茎を包みこみ、上下に扱いた。
「あっ、…ァ、た、たべな…で…っ!」
「気持ち悪いか?」
主人の問いにローディルは顔を真っ赤にしながらも、頭を左右に振った。
「びりびり…つよく、な、て…なにも、かんがえ、られな…っ」
「大丈夫だ、ローディル。それが普通の反応だ」
正直な感想に笑みがこぼれる。嫌ではないのなら止める理由にはならない、とオルヴァルは再びローディルの胸に吸いついた。
弾力のある粒を転がすように舌先を這わせれば、頭上から先程よりも大きな嬌声が降り注ぐ。本人は我慢を試みているようだが、胸と股間を同時に愛撫されては為すすべもないようだった。
「…ァ、あ…っン、うぅ…!」
ひとまとめにして扱く手は、ローディルの陰茎から溢れる先走りでぐちゃぐちゃに濡れていた。上下に動かす度に湿った水音が室内に響く。
先程までひけていた腰は更なる快感を得ようと、主人の手の動きに合わせて揺れ動いていた。無意識であろう、その行動にオルヴァルもまた煽られる。
「はっ、ぁ…オル…オルヴァル…っ」
背中に回されていた手が柔らかく髪を撫でる。切ない声音で名を呼ばれ、オルヴァルは赤く色づいた突起を口の中でもみくちゃにしながら、視線だけで応えた。
「…きすっ、…キスした、ぃ…っ!」
何とも愛くるしいお願いだった。熱に浮かされ快感に蕩けた顔も、男の下腹部に突き刺さる。オルヴァルは、彼の乱れた呼吸さえ食らうかのように、ローディルの唇に口づけた。はしたない音が立つくらいに舌を啜る。オルヴァルももはや余裕を保てなくなっていた。
「ぅンっ、ん、んく…っふ」
陰茎の嵩になっている部分に指を引っかけるように扱くと、体が大きく跳ね、舌の動きが止まる。強い快感に呑まれて、口づけに集中できないらしい。感度の良さと反応の初々しさがたまらない。
背中に回された手が寝間着をぎゅうと強く握りこむ。そろそろ絶頂が近いことをオルヴァルは感じ取っていた。
「…ローディル」
「…っぁ、オル…オル…」
淫らな雰囲気にあてられ、オルヴァルの息も乱れていた。口づけの合間に互いの名前を、官能に掠れた声で呼び合う。
「あ、んン…~…っ!」
先にローディルが達した。彼の精液を手の中で受け止め、互いの陰茎に塗りつけるかのように擦る。射精したばかりで敏感なそれを扱かれて嬌声を上げる青年の姿を見つめながら、オルヴァルも吐精した。
しなだれかかる青年の体を受け止めると、力強く抱きしめられる。抱き返しながら、男は彼の首筋に顔を埋めた。汗ばんでしっとりとした肌に口づけの雨を降らせる。
「ふはっ…くすぐってぇ」
軽快な笑い声を立てながら、ローディルが肩を竦める。オルヴァルも小さく笑いながら、止めるどころか更に口づけた。首筋や肩、鎖骨の部分まで。
ひとしきりそうやってじゃれていると、青年が短く声を上げた。
「今くすぐったく感じたところも、開発したら気持ち良くなるのか?」
「そうだな。胸や性器と比べればそうでもないだろうが、気持ち良く感じるようになるかもしれないな。ローディルはどこも敏感なようだから」
青年の目からは隠しきれない興味が滲み出ている。その好奇心旺盛さに、オルヴァルは咽喉を鳴らして笑った。
「オルヴァルは?何とも感じない?」
ローディルは上半身をかがめると、見真似で男の首筋や肩にちゅっちゅっと唇を寄せた。だが微笑んだままで、くすぐったがる様子もないのを目の当たりにして残念そうにした。少しばかり申し訳なさを抱きつつ、主人は慰めるように彼の髪を優しく手で梳かした。
「どうやら俺は鈍い方らしい。ローディルの唇が柔らかいことくらいしか感じないな」
「…俺もオルヴァルのこと気持ちよくしたいのにな…」
どこか拗ねたように唇を尖らせるローディルを心底愛おしく思う。オルヴァルは彼の体を抱き寄せると、柔らかく唇を重ねた。
「十分気持ち良くしてもらっているし、その気持ちだけでも嬉しい。ありがとう、ローディル」
お礼の言葉を言われるのは予想外だったのか、ローディルが目を丸くする。だがすぐに表情を綻ばせて、嬉しそうに満面の笑みを浮かべたのだった。
「全然大丈夫じゃないっ!俺、ラクダ乗るの苦手!ロティの姿で運ばれた時の方がずっとマシだった!」
「災難だったな」
ローディルはベッドの上に寝転がった状態で手足をじたばたと動かして不満を訴えた。部屋の主はくつくつと咽喉を鳴らして笑いながら、彼の傍らに腰を下ろした。慰めるように頭を撫でる。
むすっと唇を尖らせていた青年だったが、髪を梳く優しい手つきに、荒ぶっていた感情が落ち着いていくのを感じた。オルヴァルをじっと見つめる。自分とは違う褐色の肌に、柔らかな微笑みを浮かべる顔を見ていると安心感を覚える。
ローディルはおもむろに体を起こすと、オルヴァルに抱きついた。
「オルヴァル、今日はジイしてくれる?昨日は疲れてたし、マルティアトでもできなかったし…」
「ああ、いいぞ」
主人の承諾を得た青年は、途端に破顔して喜びを露にした。早速とばかりに服を脱ごうとする彼を、オルヴァルは制止する。突然待てを食らわされたローディルは首を傾げた。
「マルティアトでセヴィリスと偶然会った」
「セヴィと?俺がアサドと留守番してたとき?」
「ああ。興行のために訪れていたそうだ」
ふうん、とローディルは気のない返事をした。表情からは特に何の感情も窺えず、どう思っているのか分からない。
「彼がまた会いたいと言っていた。ローディルはどうだ?」
「え?うーん…会いたいか会いたくないかって言われたら会いたいけど…でもエミルとアサドがあんまりいい顔しなさそうだし…」
ローディルの歯切れが急に悪くなる。自分の意思よりも周囲の人間の顔色を窺う様子に罪悪感を覚える。部下二人が青年に対して過激なまでに過保護でいるために、彼に気を遣わせてしまっているのが分かって心苦しくなってしまう。
「二人のことは心配せず、自分の意思を優先させていい。それに、アサドもセヴィリスに会ってみたいと言っている」
「え、アサドが?」
彼がそう言うのが予想外だったのか、ローディルは驚いた様子で目を瞬かせている。
「ああ。各地を回っていると言う彼から情勢を聞きたいそうだ。初対面で情報収集するのも失礼だろうから、ローディルの付き添いという名目で少し話を聞きたいと。勿論ローディルが嫌なら、単なる顔合わせだけに留めるつもりだ」
「ううん、全然嫌じゃないよ。俺も他の町の話聞いてみたい」
すまないなと謝罪すると、ローディルは全然とばかりに頭を左右に激しく振る。健気な姿にオルヴァルの口角が柔らかく上がり、青年のうなじを優しく撫でた。
「セヴィリスが、ラズレイを呼んでくれれば道案内をさせると言っていた。ラズレイは確か、彼が連れている鷲の名だったな?」
「うん。たまに俺の部屋のバルコニーに遊びに来るんだ。その時に言えばいいのかな」
「ローディルも半分人間だが、会話ができるのか?」
「ううん、会話はできないよ。でも向こうが俺の言葉を理解してるな~ってのは何となくわかるけど、俺はラズレイが何を言ってるのかわかんない」
そういうものなのか、と男は顎を撫でた。獣同士だからと言って意思疎通が取れるわけではないと知って不思議に思う。ローディルが鷲の言葉を理解できないのは、やはり半分人間の影響なのだろうか。
つい自分の思考に浸っていると、視界いっぱいに青年の顔が広がり、オルヴァルはようやく我に返った。
「話、もうそれで終わり?俺、脱いでもいい?」
お預けを食らわされたローディルは我慢の限界のようだった。指をかけている寝間着はもはや半分脱げており、裾の隙間から素肌が覗いている。夜明けのような色をした瞳に情欲の炎が灯っている。その熱が伝わってきて、オルヴァルも己の下腹部が熱くなるのを感じていた。
「ああ、終わりだ。おいで」
ご主人様からの許可をもらった青年は目にも止まらぬ速さでズボンと下着を取り去った。
オルヴァルは膝の上に飛び乗って来る体を抱きとめ、飢えた獣のように唇に吸いついてくる青年に応える。
「ん、ン…ぁ」
やり返すように唇を啄む。途端に腕に抱いた青年の体がぴくりと跳ね、口が開く。その機会を逃さず、オルヴァルは舌を差し入れた。慣れたもので、待ってたとばかりにローディルが吸いついてくる。
「ん、んン…っ」
多少のたどたどしさはあれど、積極的に舌を絡めてくる。自分がされたことを学び、真似ているのが舌の動きで分かる。鼻で呼吸をすることも慣れてきたらしい。
その健気さが愛おしくて、オルヴァルはローディルの好きにさせた。だが時折、子供じみた悪戯心が芽生えてしまう。
「ふあっ、…ぁう、ッん…!」
上顎を舌先でゆっくりと舐めれば、ローディルの肩がびくりと跳ねる。突然の快感に驚いてしまったのか、唇が離れる。官能の吐息を吐くそれにすかさず吸いつき、青年の口の中を好きに舐め回す。
「んぅ、ふ、ンあ、…ぁ」
完全にペースを乱されてしまったローディルは、もたらされる口づけにされるがままだ。顔を真っ赤にしてどうにかついていこうと懸命な姿に、自然と口角が吊り上がってしまう。彼が飲みこめなかった唾液が、口の中へと流れこむ。それを嚥下しながら、オルヴァルは滑らかな肌に手を這わせた。
両手で腰を掴み、体の輪郭をなぞって確かめるかのように上へと滑らせる。筋肉が程よくついた、しなやかで美しい体だ。触り心地も良く、いつまでも触っていたいと思わせる。
寝間着の中に侵入した手はやがて、胸の小さな突起にたどり着いた。まだ柔らかいそれに指先で触れる。
「ッあ…な、なに…?」
体を離したローディルは目を白黒させていた。口づけが中断されて、オルヴァルは名残惜しく思った。もう少し楽しみたかったのだが。
「痛いか?」
オルヴァルは小さな突起を親指と人差し指でつまみ、優しく揉んだ。青年はすぐさま頭を左右に振って否定する。
「なら、ここを触られるのは嫌か?」
「…ぃ、やではな、けどぉ…なん、か…くすぐった、ぃ…っ」
どちらのものかわからない唾液で濡れた唇からは、小さな喘ぎ声が断続的に漏れている。だが何故胸を触られているのか分かっていないようで、頭の上に大量の疑問符が浮かんでいるのが手に取るように分かった。
「ここもな、性器と同じく気持ちよくなれる場所だ」
ローディルは途端に興味を持った様子だった。主人の胸板にぺたぺたと手を押しあてたかと思うと、乳首を探りあてた。男の動きを真似て、摘まんでいる。だが、顔に薄っすらと笑みを貼りつけたまま微動だにしないオルヴァルの反応に、不思議そうに首を傾げた。
その表情が何だかおかしく思えて、オルヴァルは小さく声を立てて笑った。
「皆が感じる訳ではなく、俺のように何も感じない者もいる。だがローディルは違うようだ」
「ぉれも…きもちぃ、わけじゃな…。ちょっと、びりびりす、る、だけ…」
「だが、こっちはしっかりと反応しているぞ?」
「あ…、ほんとだ…」
腹部にくっつきそうなくらいに元気に反り勃つ性器を指で撫でてやると、ローディルは驚いたように目を瞬かせる。勃起していることに今気づいたらしい。
「でも、こっち触られ、のと全然ちがう…こっちは、頭ふわふわになる、けど…」
「胸はビリビリするのか」
「ぅん…」
青年は素直に頷く。彼が話している間も、オルヴァルの手はローディルの乳首を弄っていた。青年も予想外の部分を触られて少し困惑しているようだが、不快には思っていないようだ。彼の両腕は変わらず主人の首に回されている。
柔らかかった胸の突起は、捏ねたり揉まれたりと優しく愛撫されて弾力を持ち始めていた。寝間着の薄い布越しにも立ちあがっているのが分かるほどに。
「開発していけば、乳首でも頭ふわふわになるくらいに気持ち良くなれる」
「そう、なのか…?」
「ああ、だから頑張ろうな。ローディル、気持ち良いことは好きだろう?」
「うん…すき…」
頑張る、とまた素直に頷く青年の純朴さに笑みがこぼれる。彼が性的なことに疎いのをいいことに、いけないことを教えたくなってしまうのだ。抗いがたい不思議な魅力がローディルにはあった。
「ゔ~…パンパンになって、くるしぃ…オルヴァルも、はやくぬいで…」
ローディルは己の下腹部を軽くさすると、我慢できないとばかりにオルヴァルの寝間着に手をかけた。潤んだ目元はほんのりと赤みが差し、下唇を噛んでいる。強引に脱がせようとする彼を宥めながら、男も素肌を露にした。
青年の言動にあてられて、男の屹立も硬く天を向いていた。ローディルが体を寄せてきたことで性器が触れ合う。オルヴァルは彼の腰に腕を回し、体勢を支えてやった。
「ローディル、いつも俺がしているように出来るか?俺はこっちを気持ち良くしてやる」
固く芯を持った乳首を指の腹で擦れば、目の前の唇から小さな嬌声が漏れる。赤く色づいたそれを食むように口を合わせた。
「ン…ゃだ。オルヴァルが…する」
「だが、俺は両手がふさがってしまっている」
ローディルは己の胸を可愛がる男の腕を掴んで、互いの下肢に導こうとした。だが断続的な快感に見舞われた体では、オルヴァルの力には勝てなかった。
「でも、でも…オルに、されるのがきもちぃ…手、おっきーし…オルじゃな、と、…ゃだ…」
ローディル本人は無意識なのだろうが、褥の中では男の名を愛称で呼ぶ。呼ばれ慣れていなくて、くすぐったい。だが甘い響きのある声で呼ばれると、不思議と気分が高揚する。胸の部分が温かくなるだけではなく、同時に下腹部にも熱が発生する。
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「上も脱いでくれるか」
オルヴァルはローディルを素っ裸にさせると、羽織のクイシュに袖を通させた。何故上を脱がされたのか理解できていない青年の肌に唇を寄せる。音が立つくらいに彼の肌を啄み、ぴんと尖った乳首を舌で舐めあげた。
「ぅあ…っ!?」
びくりと大きく体が跳ねる。逃げ腰になる体に巻きつけた腕に力をこめて、ぐいと抱き寄せる。青年の戸惑いを肌に感じながら、オルヴァルはもう片方の手で互いの陰茎を包みこみ、上下に扱いた。
「あっ、…ァ、た、たべな…で…っ!」
「気持ち悪いか?」
主人の問いにローディルは顔を真っ赤にしながらも、頭を左右に振った。
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「大丈夫だ、ローディル。それが普通の反応だ」
正直な感想に笑みがこぼれる。嫌ではないのなら止める理由にはならない、とオルヴァルは再びローディルの胸に吸いついた。
弾力のある粒を転がすように舌先を這わせれば、頭上から先程よりも大きな嬌声が降り注ぐ。本人は我慢を試みているようだが、胸と股間を同時に愛撫されては為すすべもないようだった。
「…ァ、あ…っン、うぅ…!」
ひとまとめにして扱く手は、ローディルの陰茎から溢れる先走りでぐちゃぐちゃに濡れていた。上下に動かす度に湿った水音が室内に響く。
先程までひけていた腰は更なる快感を得ようと、主人の手の動きに合わせて揺れ動いていた。無意識であろう、その行動にオルヴァルもまた煽られる。
「はっ、ぁ…オル…オルヴァル…っ」
背中に回されていた手が柔らかく髪を撫でる。切ない声音で名を呼ばれ、オルヴァルは赤く色づいた突起を口の中でもみくちゃにしながら、視線だけで応えた。
「…きすっ、…キスした、ぃ…っ!」
何とも愛くるしいお願いだった。熱に浮かされ快感に蕩けた顔も、男の下腹部に突き刺さる。オルヴァルは、彼の乱れた呼吸さえ食らうかのように、ローディルの唇に口づけた。はしたない音が立つくらいに舌を啜る。オルヴァルももはや余裕を保てなくなっていた。
「ぅンっ、ん、んく…っふ」
陰茎の嵩になっている部分に指を引っかけるように扱くと、体が大きく跳ね、舌の動きが止まる。強い快感に呑まれて、口づけに集中できないらしい。感度の良さと反応の初々しさがたまらない。
背中に回された手が寝間着をぎゅうと強く握りこむ。そろそろ絶頂が近いことをオルヴァルは感じ取っていた。
「…ローディル」
「…っぁ、オル…オル…」
淫らな雰囲気にあてられ、オルヴァルの息も乱れていた。口づけの合間に互いの名前を、官能に掠れた声で呼び合う。
「あ、んン…~…っ!」
先にローディルが達した。彼の精液を手の中で受け止め、互いの陰茎に塗りつけるかのように擦る。射精したばかりで敏感なそれを扱かれて嬌声を上げる青年の姿を見つめながら、オルヴァルも吐精した。
しなだれかかる青年の体を受け止めると、力強く抱きしめられる。抱き返しながら、男は彼の首筋に顔を埋めた。汗ばんでしっとりとした肌に口づけの雨を降らせる。
「ふはっ…くすぐってぇ」
軽快な笑い声を立てながら、ローディルが肩を竦める。オルヴァルも小さく笑いながら、止めるどころか更に口づけた。首筋や肩、鎖骨の部分まで。
ひとしきりそうやってじゃれていると、青年が短く声を上げた。
「今くすぐったく感じたところも、開発したら気持ち良くなるのか?」
「そうだな。胸や性器と比べればそうでもないだろうが、気持ち良く感じるようになるかもしれないな。ローディルはどこも敏感なようだから」
青年の目からは隠しきれない興味が滲み出ている。その好奇心旺盛さに、オルヴァルは咽喉を鳴らして笑った。
「オルヴァルは?何とも感じない?」
ローディルは上半身をかがめると、見真似で男の首筋や肩にちゅっちゅっと唇を寄せた。だが微笑んだままで、くすぐったがる様子もないのを目の当たりにして残念そうにした。少しばかり申し訳なさを抱きつつ、主人は慰めるように彼の髪を優しく手で梳かした。
「どうやら俺は鈍い方らしい。ローディルの唇が柔らかいことくらいしか感じないな」
「…俺もオルヴァルのこと気持ちよくしたいのにな…」
どこか拗ねたように唇を尖らせるローディルを心底愛おしく思う。オルヴァルは彼の体を抱き寄せると、柔らかく唇を重ねた。
「十分気持ち良くしてもらっているし、その気持ちだけでも嬉しい。ありがとう、ローディル」
お礼の言葉を言われるのは予想外だったのか、ローディルが目を丸くする。だがすぐに表情を綻ばせて、嬉しそうに満面の笑みを浮かべたのだった。
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志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
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※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ
月田朋
BL
「トウヤ様、長旅お疲れのことでしょう。首尾よくなによりでございます。――とはいえ油断なされるな。決してお声を発してはなりませんぞ!」」
塔からはるばる火吐国(ひはきこく)にやってきた銀髪の美貌の調査官トウヤは、副官のザミドからの小言を背に王宮をさまよう。
塔の加護のせいで無言を貫くトウヤが王宮の浴場に案内され出会ったのは、美しくも対照的な二人の王子だった。
太陽に称される金の髪をもつニト、月に称される漆黒の髪をもつヨミであった。
トウヤは、やがて王家の秘密へと足を踏み入れる。
灼熱の王子に愛され焦がされるのは、理性か欲か。
【ぶっきらぼう王子×銀髪美人調査官】
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
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