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処刑の夜
しおりを挟むあと数分で、女の最愛の人が処刑される。
「彼は何の罪も犯していないの。ただ貧しくて運がなかっただけの人なの」
そんな女の声など、誰に届くはずもない。
「私の最愛の人が死んでしまう。殺されてしまう。新月の闇に紛れて、顔も見れぬまま死んでしまう。こんな哀しい最期なんて····」
兵士は皆、酒を飲み肉を喰らい女を侍らせ、ろくに調査もせずに男を犯人と決めつけた。
けれど、男は満足そうだった。そして時間が来れば、役人はただレバーを引き、傲慢にも女たちを引き裂く。
「私の最愛の人は、優しく穏やかで人を傷つけたりしない。私を愛し大切に大切に守ってくれた」
女の罪を被り、男は間もなく処刑される。女はしつこく言い寄ってくる男を、勢い余って殺めてしまった。
女が殺らなければ、自分が殺っていたと男は言った。
「そろそろ最愛の人がいなくなる。私の所為で。私がバカだった所為で。私の罪を被り。ごめんなさい。闇夜に紛れて、私もこの湖に映る星になります」
女は湖のほとりに立つ。覚悟を決めて、愛する男に再び会わんとする。
処刑場で沸き立つ声が女の背中を押した。
「もしも、あの世へ向かう道中にすれ違えたなら伝えたい。来世ではあなたと一緒にもっと生きたい、と」
新月の夜、静かな水音は酒場の喧騒に紛れ、誰の耳にも届かなかった。
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