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1章 始まりの高2編
始まるよ、文化祭
しおりを挟む文化祭当日。朝の迎えから仰々しい。何故か、全員で迎えに来てくれたのだ。
「どうしたの? 今日はりっくんが迎えに来るっ言ってなかった?」
「いや~、多い方が楽しいかなぁって思ってさ。急遽、皆で来ちゃった」
啓吾は、無邪気にたはっと笑った。きっと僕が、去年ぼっちだった事を話したから、気にしてくれているのだろう。
「うん! みんな一緒なの楽しい。て言うか、皆が来てくれたのが嬉しい。えへへっ····ありがと」
これは素直に嬉しい。皆揃って登校。それがこんなに楽しいなんて、数ヶ月前の僕は知らなかった。
さぁ、張り切って、女装でもなんでも楽しんでやるぞ!
と、意気込んだものの、やはり女の子になるのは解せない。何より、皆の警戒心が剥き出しすぎて落ち着かない。外部のお客さんも居るからか、普段以上に皆の目がギラついている。僕から言わせれば、皆の方がモテまくりそうで心配なのに。
そんな中、文化祭が始まった。接客をするのかと思いきや、先ずは学校中を練り歩いて集客してこいと、大きなプラカードを持たされた。八千代が一緒に回ると言ったが、八千代は雰囲気が怖いから朔と行けと委員長に言われた。
結果的に朔とプチデートだ。思った通り、朔がずっとキャーキャー言われている。他校生だろうか、声を掛けてくる女の子もいる。
僕はムッとしてしまったが、朔の雑な対応に度肝を抜かれ、驚きが嫉妬を上回った。
「あー····俺、嫁がいるんで」
そう言って、僕の肩を抱き寄せた。多方面から悲鳴があがる。
(嫁!? 彼女じゃなくて!? て言うか、僕完全に女の子扱いじゃん!)
そして、朔の首にかけられている喫茶店名の書かれたホワイトボードに、店名を消し『俺の嫁→』と書いた。僕が持っていたプラカードを取り上げると、僕の右手を引いて歩き始めた。
「朔さん、朔さん!? ちょっと待って、これはマズいんじゃないかな?」
「お前、今女装してんだろ。この方が声掛けられねぇで済む」
「えぇ····。こんなのアリなの? 外部の人にはバレないだろうけど····」
「堂々と嫁って言えるんなら、文化祭もコスプレも悪くねぇな」
朔は王子スマイルをぶちかました。さらに、耳元で「事実だもんな」と囁かれ、熱くなった顔を上げる事が出来なかった。
僕の心配など他所に、朔はどんどん突き進む。僕の焦りなんてそっちのけで、悠々と一周りして、そのままの状態で教室に戻った。案の定、ここでも悲鳴があがった。
鬼の形相で「遅い」と怒鳴りつけてきた委員長は、ホワイトボード見て目を丸くした。
「瀬古くん、何それ!? えっ、武居くん嫁だったの!?」
「ああ。いや、こうすりゃ、女に声掛けらんねぇかと思って。囲まれて進めなったから」
「た、大変だったんだね。なんか、ごめんね。武居くんも、ごめんね」
「僕は大丈夫だよ。朔に引っ張られてただけだし」
なんて、委員長の谷川さんと話していると、接客を終えた八千代がスタスタと近寄ってきた。
「お前、何これ」
朔の首に掛けっぱなしだったホワイトボードを手に取り、八千代が言った。
「ふっ······俺の嫁だ」
(なんっでここでそう言う事を言うかな····)
朔の勝ち誇った顔に腹が立ったようで、八千代は俺の嫁ボード奪い取り、自分の首に掛けた。
「じゃ、次俺らで客寄せ行ってくるわ」
「ちょ、八千代!? 僕も接客····」
「いいよな、委員長?」
「どーぞどーぞ~。瀬古くんと交代ならいいよ」
谷川さんは面倒くさくなったのか、投げやりに追い出されてしまった。
「後で絶対、啓吾とりっくんに何か言われるよ」
「放っとけ。役得だ」
八千代は満足気に、僕の右手を引いて歩いた。
途中、体育館に小道具を運んでいたりっくんに遭遇してしまった。面倒な事になったなんて、言うまでもないだろう。
「はぁ!? ちょ、え、おい! 何っだよそれぇ!?」
王子の絶叫に周囲の視線が集まった。りっくんは、俺の嫁ボードを指差し、見るからにわなわなしている。
「ふっ······俺の嫁」
八千代は僕の肩を抱き寄せ、朔と同じドヤ顔をキメた。
「八千代、りっくんがわなわなしてるから。あんまり煽らないでよ。面倒くさい····」
「くっそぉ····。······ふっ。後で吠え面かかせてやるからな!」
これでは、ただの修羅場じゃないか。こんなに注目を浴びて、彼らは何がしたいのだろう。
「りっくん、落ち着いて。王子様がそんな事言わないの」
「だって、だってぇ····」
「後で劇見に行くから、頑張ってね」
「うん。場野、それ以上余計な事すんなよ。んで、ゆいぴの肩抱くなっ」
りっくんは、八千代の肩にビシッと指を刺して言った。
「うるせぇな。さっさと行けよ」
りっくんは、7人の小人たちに宥められながら、体育館へと連行された。僕たちは、これまた悠々と学校中を練り歩き教室に戻った。
「武居くんは休憩でもないのに、なんでそんな両手いっぱいに食べ物持ってるの?」
谷川さんは、呆れた顔で僕に詰め寄った。
「や、八千代が通るお店全部で買ってくれて····食べきれなかったから持って帰ってきました。····食べる?」
僕は、おずおずと綿飴を差し出した。谷川さんはそれを遠慮なく受け取ると、大きなため息を吐いた。
「ありがたく貰うけど。武居くんも場野くんも、ちゃんと仕事してね」
綿飴を食べながら言われた。そこへ啓吾がやって来て、僕が持っていたタコ焼きを1つ食べた。
「これ美味いな。後で俺も買いに行こ」
「啓吾、ダンスは?」
「莉久の劇の次の次くらいだったかな。昼からだから結構あるよ? んでちょうど今、店番終わったとこ」
「ダンス、楽しみにしてるからね。絶対観に行くね」
「おぉ。なんで結人のがそんな気合い入ってんの?」
だって、セクシーだって聞いたから。とは、谷川さんの前では言えない。
「別に、気合いなんて入ってないよ」
「それより、武居くんは時間までちゃんと店番してね。場野くんはもうホールに戻ってるよ」
そうだった。与えられた仕事は、きっちりこなさないと。りっくんに偉そうな事を言っておきながら、僕がこんなじゃいけない。
呼び込みの甲斐あって、喫茶店は大繁盛している。お客さんが入れ代わり立ち代わりで、まったく息付く暇もない。
やはり、朔と八千代が目当ての女の子が多い気がする。一体、何枚の連絡先がポッケに突っ込まれたのだろうか。しかし、ポッケがいっぱいになる度、無情にも棄てられていく紙を見ると、可哀想だという気持ちが少しだけ芽生える。あと一応、個人情報だし心配でもある。
バックヤードで3人になった時、そんな胸の内を少し吐露してしまった。
「そんなにガサッと棄てたら、ちょっと可哀想になっちゃうね」
「······捨てない方がいいのか?」
少し申し訳ない気持ちが湧き上がっていた僕に、朔がキョトンとして聞いた。
「うっ、えっと、それは······」
「お前が優しいんはわかるけどな、嫌なもんは嫌って言えよ。じゃねぇと、後で嫌な思いすんのはお前だぞ」
八千代が僕の頭を撫でてくれた。優しいのは、朔と八千代の方なのに。
「ん······。女の子から連絡先貰うのやだ。正直ね、言い寄られるのも嫌だ。接客なんだから当然なんだけど、2人が僕以外に優しく笑ってるのもやだ。僕の彼氏なんだよって言いたくなっちゃう」
堪忍袋に詰め込んできた嫉妬が、ここぞとばかりに溢れ出してしまった。
「ったく。やっと素直になりやがって。そんで良いんだよ。俺らはお前の彼氏だからな。お前が最優先だ」
「俺らは、結人が1番だからな。他に興味も関心もないぞ」
「八千代、朔····。えへへっ······」
2人の優しさが染みて、ガチガチに固めて我慢していた気持ちがそっと溶けてゆく。すると、勝手に涙が滲んできた。
「お前、化粧してんだから泣くなよ」
「わっ、勝手に出てきた····。ちょっとトイレ行ってくるね。お化粧大丈夫か見たらすぐ戻るから。秒で戻るから!」
「あ、コラ待て!」
「瀬古くん! 場野くん! ホールがパニックだから早く戻って! 君ら2人が目当ての人ばっかなんだからね!!」
2人は僕について来ようとしたが、バックヤードのカーテンを凄い勢いで開いた谷川さんが叫んだ。そして、力いっぱい2人を引っ張って行ってしまった。
早く戻らないと心配を掛けると思い、僕は混んでいないトイレに駆け込んだ。慌てていた所為で注意を怠り、人気のないところに自ら飛びこんでしまったのだった。
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