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3章 希う大学生編
童心擽る冒険
しおりを挟む海岸の端にある断崖絶壁。フラッと探索していたりっくんが見つけた階段を登る。息を切らせ登りきると雑木林があり、その奥にポツンと神社があった。
僕たちは、そこへ惹き込まれるように雑木林へと足を踏み入れる。
「すーっげ。森ん中ちょっと暖かくね?」
先頭を切って歩く啓吾が、背の高い木々を見上げながら言った。そう言われて、肌で空気を感じてみる。確かに、雑木林に入る前よりは暖かい気がする。
「あ、ホントだね」
「一歩入った瞬間、空気感が変わった気はしたな」
「そりゃ海辺よりは暖かいよね」
「だな。けどまぁ、木の温かみみたいのはあんじゃねぇの?」
「うん、木に囲まれるのもいいもんだよね。夏は虫が怖くて絶対入れないけど」
なんて話しながら数メートルほど歩いた所で、圧迫感に足を止められハッと上を見上げる。
「う··わぁ··、おっきい鳥居····」
思っていたよりも近かった。少し拓けた空間に5、6メートルはありそうな木製の鳥居が、突然目の前にバンと現れた。ずっと見えていたはずなのに急に着いた、そんな感じだ。
鳥居から本殿へ続く、善美な石畳を静かに進んでゆく。肌で感じる厳かな雰囲気に、啓吾ですら口を噤んでしまった。
本殿の前には古びた賽銭箱があり、他の雰囲気にはそぐわない。それだけが前時代の物のようだ。
僕たちは、とりあえず御参りをする。それぞれにお賽銭を投げ込み、立て札に書いてある作法に従って手を合わせた。さて、皆は何を願うのだろうか。
僕は神様へ、この旅行に来れた事、新しい出会いがあった事、今この瞬間も幸せで満ちている事への感謝を伝えた。何の神様かは分からないけれど、こういうのは感謝を伝えるものなんだよね。
「何お願いしたの?」
りっくんが、長々と手を合わせていた僕の顔を覗き込んで聞く。不意に眼前に現れたイケメンに、目を丸くしてしまう。けれど、流石に悲鳴をあげる事はなく、小さく深呼吸をして答える。
「お願いはしてないよ。色んな事にお礼言っただけ」
「ん~っ♡ 良い子だねぇ」
僕を抱き締め、額にキスをくれるりっくん。神様の前で何をしてくれているのだろう。と、突っ込む間もなく朔がある物を発見した。
「なぁあれ、無人販売所で御守り売ってるみたいだぞ」
「見に行ってみようぜ」
啓吾が、僕の手を引いて走り出す。僕を奪われたりっくんが『神社の中で走るなよな』と注意すると、啓吾が『神様の前でイチャついてた奴に言われたくねぇよ』と痛撃な返しを投げた。
りっくんは、ぐうの音も出ず僕たちを追ってくる。そして、奪い返すように僕の肩を抱いた。けれど、啓吾はニカッと笑って楽しそうに言う。
「俺ら結人好きすぎじゃね? 神様も呆れてそうだよな」
「····ははっ、確かにね。神様の前とか忘れちゃうくらい、ゆいぴに夢中になちゃうもんね」
「もう··、僕を挟んでバカな事ばっかり言わないでよぅ····」
恥ずかしさのあまり、僕は顔を覆って俯いた。そこへ、追いついてきた八千代と朔が呆れて言葉を投げてくる。
「バカは今に始まったこっちゃねぇだろ」
「聞いてて恥ずかしくなってくるな」
「いやいや、さっくんには言われたくねぇんだけど。サラッと王子かましてくるくせにさ? 美形の狡いトコだよな~」
「わかる~。朔は顔面で許されてるトコあるよね~」
「おい、なんで俺がディスられてるんだ? お前らだって面は良いだろ。俺だけの特権じゃねぇぞ」
なんなのだろう、このアホな会話は。それぞれがご自分の顔を良いと自負してらっしゃる····、腹立たしい事この上ないな。事実なだけに、突っ込めないんだもの。
僕が呆れて御守りを選んでいると、八千代が後ろから、一番高い所にある真っ白な御守りを手に取った。
「これ、買わねぇか?」
「····『幸福護り』? わぁ、綺麗····」
真っ白な生地に、淡い桃色の糸で『幸福護り』と刺繍してある。紐は銀色で、凄く綺麗な御守りだ。
「お前、こんなん好きだろ。ここに来た記念にもなんじゃねぇ?」
珍しく、八千代が提案した。誰も異議はない。5人分のお代をお代箱に入れて、僕たちは神社を後にした。
そして、りっくんが事前に調べて予約してくれていた、有名なラーメン屋さんで昼食をとる。魚介のダシが効いた海鮮ラーメンだ。
僕は、大粒の牡蠣が沢山乗った牡蠣ラーメンにした。途中、啓吾の帆立ラーメンと交換したり、八千代がトッピングで乗せた車海老を分けて貰った。
どれも美味しくて、ほっぺが落ちそうだった。がっつく僕を、微笑ましく見ている皆の視線に気づいた時は、少し恥ずかしくなったけど。それでも箸は止まらなかった。
そんなこんなで満腹の僕は、車に乗り込み発車5分で寝てしまった。
約20分のお昼寝をして、窪くん達と合流した。今更だが、一緒に遊ぶと言っても昨日僕たちが登った山以外に、これと言って観光する所はないと思うのだけど。遊技場が開くのも夕方だし。
何処か目当ての場所があるのかと聞くと、例の昨日登った山に登ると言う。頂上にあった大岩の裏に、小さな洞穴があるらしい。
そこを探検したいんだとか。窪くんが、瞳を輝かせて言った。
「探検とかガキかよ····」
八千代が怠そうに言うが、僕と啓吾はワクワクが止まらない。
「えーっ、楽しそうじゃん。なー結人ぉ」
「うん。僕も探検したい!」
「ンならしゃーねぇな。行くか」
「場野くん単純かよ!」
窪くんが、永峰くんの袖を掴んでブンブン振りながら大笑いしている。永峰くんは迷惑そうな顔をしているが、振り解きはしないんだ。
八千代の甘さは見慣れないと面白いのだろう。桜華さんや千鶴さん、琴華さんも初めの頃は、態度の急転を見てよく笑い転げていたっけ。
洞穴の前に立ち、中の暗さに一瞬足が竦む。それを見た朔が、すんとした表情で安全確認をする。
「熊は出ねぇのか?」
入り口付近をスマホのライトで照らし、見えずらい奥を覗き込んで聞く。
「それはないと思うよ。一応ここ、あんま知られてないけど観光スポットらしいし」
海老名くんの回答に、少し考えを巡らせる朔。周囲をもう一度見回し、納得した面持ちで返事をする。
「なら問題ないか。崩れる心配も今のところ無さそうだ。よし、場野が先頭で行け」
「テメェ····いっつもいっつもサラッと命令してんじゃねぇぞ。つかなんで俺が先頭なんだよ。啓吾でいいだろ」
「啓吾じゃ万が一熊に遭遇した時、確実に死ぬだろ。その点、お前は大丈夫そうだからな」
と、いい笑顔で言う。耐えきれなかったのか、永峰くんが吹き出した。
「フッ····、君ら、相当信頼し合ってるんだな。けど、いくらなんでも熊に勝てるとは思えないが··ぶふっ····」
「場野なら大丈夫だ。強いからな」
「ンならお前が先頭行けや。お前も充分勝てんだろ」
「俺は結人と手を繋ぐから無理だな」
「「「「ぶはっ····」」」」
上影組が吹き出す。朔のマイペースさには誰も勝てそうにない。勿論、八千代は言わずもがな。
結局、ぶつくさ言いながらも八千代が先頭を行く事になった。上影組からは永峰くんが先頭へ出る。
永峰くんは、空手の段を持っているほど強いのだそうだ。これは心強い。
僕は朔の腕にしがみつき、前が啓吾、後ろをりっくんに挟まれ歩く。へっぴり腰で歩いていたら、そんなに怖いなら無理に入らなくても良かったのにと、最後尾の倉重くんに笑われてしまった。
だって、怖いけど好奇心が勝ってしまったんだもの。それに、皆が居るから怖くても平気だと思ったのだ。
それほど深い洞穴ではなく、外の光が見える程度の所で行き止まりを迎えた。と、その時、僕の服に何かがモゾッと入ってきた。
「ひゃぁぁぁぁっっ!!?」
「ゆっ、ゆいぴどうしたの!?」
「せにゃっ、背中! 何かッ、やっ、中ぁ!!」
「結人ジッとしろ、すぐとってやるから」
僕がバタバタと足踏みをしていると、朔が頭を抱き締めてくれた。りっくんがすかさず服を捲る。が、厚手のジャンバーにモコモコのセーターを着ているから捲りにくいらしい。
「ゆいぴ、手突っ込むよ」
そう言って、りっくんが手を突っ込んで何かを探す。
「どの辺?」
「んっ、ふぅ··右の、上の方····」
「エロい声出してる余裕あんのかよ」
「海老名、あれ別にエロい声じゃないよ。普通」
「····あの子、色々大変じゃない?」
「大変だよ」
呑気に話してないで、啓吾も助けてよ。なんて言う余裕もなく、モゾモゾ動く何かの所為で震えが止まらない。
何かの正体を考えるとゾワゾワが増す。そう言えば、もしもこれが虫だったら、マズイんじゃないかな。
「あっ··た····うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
今度はりっくんが絶叫した。やっぱりそうらしい。僕の為に、夢中で助けてくれたりっくんには、本当に感謝しかない。
窪くんが驚いた様子でりっくんに駆け寄る。
「え、なに!? 莉久くん大丈夫!? 何が入ってたの? ····え、なんで皆そんなに落ち着いてんの?」
皆、この騒動の結末に予想がついているのだろう。
「え、だって──」
腕組をして見ていた啓吾が口を開く。
「「「虫だろ」」」
朔と八千代も声を揃えた。やはり····。
何かの正体は大きな蜘蛛だった。天井から落ちてきたのだろう。
その可能性も過ぎらないほど、慌てて僕を助けようとしてくれたんだ。虫嫌いな人間にとって、それがどれほど苦痛で勇気の要る行動か、僕には痛いほど分かる。
手を震わせながらも、僕の為に蜘蛛を掴み出してくれたりっくんには、どれだけ感謝してもしきれない。分かっていて傍観していた薄情な啓吾と八千代には、後でお仕置きしてやるんだ。
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