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3章 希う大学生編

もっと知り合おう

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 わーわー叫びながら蜘蛛を掴み出してくれた、涙目のりっくん。既に泣いていた僕を、朔が抱き締める手を緩めた瞬間にかっ攫った。
 僕を力一杯ギュッと抱き締め、自身の震えと恐怖心を抑え込んでいるようだ。

「ぐすっ····りっくん、ありがと。大丈夫?」

「大丈夫だよ。ゆいぴが無事で良かった」

 おや、騒いでいた割に存外平気そうな声だ。

「お前、強がりすぎだろ」

 と、八千代が言う。どういう事だろう。いや、確かに、身体も吐息もまだ微かに震えている気がする。

「強がってねぇよ!」

「カッコつけてんだよな~」

「啓吾煩い!」

「君らは本当に仲がいいんだな。啓吾くん? こういう時はカッコつけさせてあげなよ」

 永峰くんが啓吾を諭すように言った。永峰くんのそれも、少し嫌味混じりな気がしたんだけど、気のせいかな。

「ゆいぴぃ····俺、敵に囲まれてるみたい」

 耳元で可哀想ぶって囁くりっくん。チョロい僕ですら、流石にこの台詞ではキュンとしない。

「大丈夫だよ。僕はりっくんの味方だからね」

 僕は感謝を込め、ポンポンと背中を叩いて宥めた。

 僕とりっくんが落ち着くのを待たず、皆はスタスタと帰路をゆく。

「結人くーん、莉久くーん、置いてっちゃうよ~」

 窪くんが大きく手を振りながら、凄く大きな声で僕たちを呼ぶ。倉重くんに『うるっさ! 耳いってぇわ』と怒られている。
 向こうは向こうで仲良しだよね。りっくんとそう話しながら皆を追いかけた。


 遅れて洞穴を出た僕とりっくんは、強い陽射しに目を細める。皆は既に、次の目的地を話し合っているようだ。

「お、やっと来た。おっせぇよ」

 啓吾が、スマホから一瞬だけ視線をこちらに送り言った。続けて、海老名くんが意見を求める。

「お茶でもしに行こうかって言ってるんだけど、お腹空いてる? 何かリクエストとかある?」

「おしるこ!」

 僕が手を挙げて言うと、窪くんがフッと笑って『じゃぁ麓にあったお茶屋さんに行こっか』と言った。子供っぽすぎたかな、ちょっと恥ずかしいや。

 山を降りると、チラチラと雪が降ってきた。僕たちは、少し急ぎ早に茶店へ入る。
 和風モダンな雰囲気で、年配のお客さんが多い。僕たちは、はしゃぎ過ぎないよう注意を払う。手始めに、啓吾と窪くんがそれぞれ、朔と永峰くんから騒がないようにと注意を促されていた。

 和風の甘味がズラリと、後は少しの洋菓子がメニューに並んでる。それを片っ端から注文する八千代。

「え··っと? 場野くん、それ全部食べんの? 意外だねぇ」

 海老名くんが、若干引き気味で言う。そりゃ、いきなりデザートを制覇したら驚くよね。店員さんも驚いていたもの。

「ンなわけねぇだろ。食うんはコイツ」

 八千代はメニューに視線を置きながら、親指で隣の僕を指差して言った。皆は更に驚く。

 コーヒーと小さな甘味が皆の前に並ぶ中、僕の前には抹茶オレと沢山の甘味が所狭しと置かれている。

「マジで食うの? なんかのチャレンジ中とか?」

 そう聞いた海老名くんが、手に持ったコーヒーカップを口元に持って行くのを忘れている。大量の甘味に若干引きつつ、ゆっくりとカップに口をつけた。

「えっとね、僕すっごいいっぱい食べるんだ。これくらい、全然余裕で食べれちゃうの」

「痩せの大食いってやつか。いや、それにしても凄いな····」

 メガネ男子の永峰くんは、クイッとメガネを上げて言った。甘いのが苦手だという倉重くんは、目に入るだけで胸焼けがすると言う。
 窪くんが、抹茶のシフォンケーキを一口くれと言うので、どーぞどーぞとあーんしてあげた。それに妬いた八千代は、みみっちくフォークを交換した挙句、自分にも寄越せと言って口を開けて待つ。
 自分だって甘いのは苦手なくせに、本当に心が狭いんだから。と、呆れつつ、少し苦かった抹茶のモンブランをどんどん運んで口に詰め込んであげた。

「お前これ要らねぇだけだろ」

「中のクリームは甘いんだけどね、抹茶の部分が苦かったの」

 わらび餅に手をつけながら、コーヒーを啜る八千代に言った。

「ねぇねぇ、俺風邪ひいてないよ? なんでフォーク交換すんの? 傷つくよ~」

 窪くんが唇を尖らせて、八千代にクレームを入れる。なんだか可愛い。

「ごめんごめん。うちの場野くん、超みみっちぃから間接キスが耐えらんないの」

「ゴフッ····」

 永峰くんが噎せてしまった。時々、僕から見ても初々しい反応を見せる永峰くん。
 初対面の時のセリフから、遊んでる系の人達なのかと思っていたから意外だ。

「凄く失礼な事聞くかもなんだけどね、皆はその··、女遊びとかよくしてるの?」

 顔を見合わせる上影組。
 海老名くんと窪くんは、概ねそうみたいだ。2人で女の子を捕まえては、皆で仲良く楽しんでいるらしい。永峰くんはそれに巻き込まれる感じで、嫌々ながらも参加する事があるのだとか。倉重くんは、あまりモテないので参加できないのだと自嘲的な事を言っていた。
 けど、やっぱりハレンチな人達だったんだ。僕たちのえっちを見た時、それほど驚いた様子がなかった事にも頷ける。

 そういうのはあまり好きじゃないが、僕には関係ないので正直どうでもいい。窪くんは、可愛い顔をして意外だなぁと思ったけど、モテそうだもんね。
 それに、悪い人たちではないのは分かったから、そこに関与するつもりはない。
 何より、僕たちの関係に驚きはしたものの、否定的でなかったのはありがたい。こうして一緒に遊ぶくらいだもの、偏見などはないのだろう。

「あのさ、上影に知り合い居るつってたけど、誰? 俺らも知り合いだったらめっちゃ偶然じゃね?」

 と言う窪くん。冬真と猪瀬くんの事を話したら、皆一様に遠い目をしていた。

「あぁ、あの2人ね····。なんか納得だわ」

 海老名くんが、椅子にもたれ天井を仰ぎながら言った。どういう意味だろう。

「その2人な、うちの学年ツートップなんだよ。モテまくってんのに女との噂が全っ然ねぇの! 特定の彼女が居る雰囲気でもないのに! 宝の持ち腐れだよあんなの!」

 倉重くんが熱弁する。なんだか、恨みがこもっているような····。
 まぁ、仕方ないよね。あの2人が付き合っていることは、僕たちしか知らないのだから。

「高校ン時からモテてたよ、アイツら。俺らが居たからトップじゃなかったけどさ」

「ちなみに、そん時のツートップはこの2人ね」

 そう言って、りっくんが八千代と朔をジロっと見る。

「「「「あぁ~····」」」」

 八千代と朔を見て、何かを納得したような上影組。そりゃ、顔だけなら見て頷けるよね。

「俺らってそうだったのか? そんな話聞いた事ねぇぞ。場野は知ってたのか?」

「まぁ、なんか言われてんのはなんとなくな」

「そうなのか、知らなかった····。いや待て、莉久と啓吾のほうがモテてただろ。すげぇ遊びまくってたんだから」

 何故かテンパっている朔。飛び火した啓吾とりっくんが、さらに慌てだす。

「え、もうその話よくない? ぶり返さないでよ。またゆいぴが拗ねちゃうでしょ」

「なんで俺まで巻き込むんだよ····。マジで勘弁して? また抱かせないとか言われたら責任取れよ?」

今更いまひゃや妬かないからねやひゃひゃいははへ静かにしようねひふはひひひょーへ

 僕はおはぎを頬張りながら注意する。何を言ってるか分からないと、りっくんがワタワタしながら言う。
 僕はおはぎを飲み込んで、改めて言葉を繰り返す。

「今更妬かないよ。大丈夫だから落ち着いて。啓吾は外でそういうダイレクトな発言しないの。ね? 意地悪言わないから」

 僕が平静を保っているのを見て、りっくんと啓吾は安心したようだ。朔も、僕が妬くと思って焦ったらしい。
 もう、そんな周知の事実で妬くほど、余裕のない僕ではない。少しは成長しているのだ。

 僕は得意げに最後の甘味に手を伸ばす。

「マジでよく食うね。めっちゃ美味そうに食うし。俺、そういう子好きだわ~。もっと結人くんと仲良くなりたいな」

 窪くんが、テーブルに肩肘をついて顎を乗っけ、リラックスした表情で僕を真っ直ぐ見ながら言った。それは、僕がよく知るだ。
 あぁ、こういう感じで女の子をオトすのか。ギャップで責めてくるんだ。一瞬ドキッとしてしまった。

 正面切って放たれたその一言に、場の半数以上がピクッと反応を示した。何故、永峰くんと海老名くんまで反応したのかは分からないけれど、今度は僕が慌てふためく。

「えと、えーっと、あ··りがと? 僕が女の子だったら良かったのにね~」

 上手く躱せただろうか。恐ろしくて周囲を見る事ができず、ニコニコと僕を見ている窪くんから視線を外せない。

「えー? 結人くん可愛いから、俺的には女でも男でもどっちでもいいかも。突っ込まれる側でしょ? 問題なくない?」

 なんて寛大な人なんだ。そして、なんて命知らずなのだろう。宣戦布告のつもりなのか、はたまた揶揄っているのか。それとも、まったく何も考えていないのか。
 なんにせよ、だ。全力で空気を読んでほしい。僕は、手が震えるほどこの後の展開が憂鬱で、もう顔を上げられない。

「窪さぁ、爆弾発言すぎだろ」

 倉重くんのしれっとした言葉に、窪くんは口を四角に開けハテナを浮かべて首を傾げた。あぁ、本当におバカな人なんだ····。

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