《Imaginaire Candrillon》【イマジネイフ・サンドリヨン】〜ゲーム世界で本気の闘いを〜

六海刻羽

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第10話 デスペナルティ

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Side 降井蘭月ふるいらんげつ

「――ッ」

 刹那的に感じた痛みが、まるで夢であったかのように消えていきました。
 荒い息と、じわりと背中に広がる汗の感触。
 ヘッドギアを取り、見渡すとそこは現実での私の部屋。
 そこで導き出される結論は一つ。

「……負けましたか」

 HPの全消滅。
 ゲーム世界での死、デスペナルティによる現実への強制送還。

「……悔しいですね」

《Imaginaire Candrillon》には三つのデスペナルティがあります。
 経験値の消失、消費アイテムのランダム削除。
 ゲームを始めたばかりの私にとって、この二つはさして痛いものではありません。
 ですが三つ目のペナルティは中々に厄介。

「ゲーム世界で一日分のログイン制限」

《Imaginaire Candrillon》の世界は現実と異なる時間が流れます。
 わかりやすく言ってしまえば、現実での一日がゲームでは四日間になります。
 単純な割り算をしてしまえば、現実での六時間がゲーム世界での一日となりますね。
 つまりデスペナルティは、現実世界で六時間もの間ゲームにログインできないということに。

 私は拳を開いたり閉じたりして、あの世界での感触を思い出します。
 どうすれば勝てたのだろうか、などと思うのがおこがましいほど実力に差がありました。
『勝たせてもらいます』なんてなんと傲慢な物言いだったのでしょうか。

 でも、この敗北には意味があると。
 私はそう確信しています。

 戦いの中で、自分があの世界に何を求めているのかを知ることができました。
 ふと視線を横にずらすと、中学生や高校生の思い出の写真が棚に立てかけられています。
 無邪気にも拳を掲げながら、トロフィーを腰で抱える昔の自分。
 その顔に溢れている興奮を、私はまた味わうことができるのですから。

「待ち遠しいですね」

 六時間をここまで長いと思ったのは人生で初めてでした。

 ***

Side アルメディア・トロワ
 
「はははははっははははっはは――ッッ!!」

 どうしようもなく高笑いが収まらない。
 漏れ出る闘気だって抑えようがない。
 森の動物たちがアタシの興奮を恐れて慌ただしくなっているが、仕方がないことだと思ってあきらめてくれ。
 アタシはいま、とっても気分がいいんだ。

「ああ、くそッ! 本当に面白いなッ!」

 アタシの頭には、弟子入りを希望しにきた白髪の少年との最後の攻防が蘇る。
 実力差は見せたはずだ。
 覆ることのない現実を叩きつけたはずだ。
 それなのにあの子は、立ち上がり、前を向き、足を踏み出し、アタシへと挑んだ。

「本当の才能ってのはね、力だけじゃないんだよ」

 闘争心ってのは人が生まれながらに持つ魂の輝きだ。
 あきらめの悪い心ってのはどの世界でも必ず強大な力を産む。
 折れない心――あの子にはそれがあった。

「それだけでも充分だったのにね」

 アタシはLv81。
 ステータス差を考えれば一撃を与えるなんて不可能に等しい。
 あの子が再び立ち上がって向かってきただけで、アタシはもう弟子入りを認めていた。
 彼の可能性に秘められた若い闘志を育ててみたくなった。
 だから後は、あの子を軽くあしらって終わりにするつもりだった。
 なのに――。

 意識を奪うつもりで放った手刀は、懐に潜り込むことで躱された。
 鳩尾を潰すつもりで放った膝蹴りは、僅かなサイドステップで躱された。
 少しだけムキになって放った回し蹴りは、そもそもタイミングを外された。

 聞いたことがある。
 極限の集中力にまで至った武人の中には、相手の未来を詠む者がいると。
 まさか、と思ったが、あの子はその領域に片足を踏み入れていた。
 血を流しながら、汗を噴きだしながら、必死に、無謀に、死地の中を生き抜くために、ただひたすらにアタシの先を予期していた。

 震えたね、あの子の戦いに対する執着に。
 あの闘争心は何物にも代えられない魂の息吹。
 あの目は既にアタシを……いや、その先をもう見据えていた。

 その目を覗いてしまった瞬間、アタシは反射的に奥義を発動していた。
魔法拳士マキドナス】《奥義:『魄滅餓狼はくめつがろう』》
 Lv70で習得可能となる、魔法拳士の極致の一つ。
 その一撃は比喩なく、山を砕き、海を割る。
 世界を構築する魂魄こんぱくの流れすらも破壊する震天動地の一撃。

 放った瞬間に「やばっ」と思ったよ。
 星の速度に匹敵すると言われる掌底は、流石の彼も避けられなかった。
 あの子のHPを十回重ねたとしても削り切るであろうオーバー過ぎるキル。
 もともと限界であった彼の身体を、粉々に砕くであろう確信。
 やっちまった、と我に返って――。

 そこであの子は、アタシの予想の更に上を行く。
 HPを使い切った彼の身体が『異界』へと帰るために、光の粒子へと変わっていく。
 蒼いエフェクトを発しながら、砕け散った身体がこの世界を去る――その間際。
 もはや意識がないであろうあの子の拳が、倒れ込むようにアタシへと振るわれた。
 執念の残滓――その拳はアタシの頬をかすめて最後、ささやかな音と共にこの世界を去っていった。

「アタシに一撃でも与えれば合格、か」

 アタシのHPバーはよく見えなければわからないほどに少し削れている。
 それは蟻が象の足に噛みつくかのように意味のないものだったかもしれない。
 でも、一撃は一撃だ。

 約束は、果たさなければいけない。

「ルフランくん。今日から君はアタシの弟子だ」

 彼が《プレイヤー》であって本当に良かったと思う。
 そうでなければ、やっと見つけた輝かしい原石を永遠に喪っていたことだろう。

 ああ、本当に久しぶりの高揚だ。
 本気の一撃を放った思い出など、とうに忘却の彼方だったはず。
 高みを目指して走り続けて、いつの間にか忘れてしまっていた魂の熱量。
 その熱を、こんなにも簡単に取り戻された自分の安さに苦笑いするしかない。
 
「こりゃ責任を取ってもらわないといけないな」

 枯れかけていた渇望に火を落としたのは君だ。
 ルフランくん。
 君がアタシと同じ場所まで上ってきたら、もう一度戦おう。
 戦いの星で生まれた者同士、遠慮のない、最高の時間を共有しよう。

「……それにしても遅いな」

 ルフランくんが消失してからもう数十分は経っているはずだ。
 普通だったらもう再出現《リスポーン》してもいい頃なのに。

「あ」

 そこで、アタシはあることに気付いた。

「……《決闘フィールド》を展開し忘れていたかい」

 お互いの承認が合った上で展開される《決闘フィールド》。
 ここで死んだプレイヤーは『輪廻の祝福』による代償を払わないで済むらしい。
 確か、その代償には『この世界に一日再出現リスポーンできない』というものがあったっけ。

「悪いことをしちゃったかね」

 泉の魚が、ぴちょん、と水音を上げた。
 小屋の屋根にいた猫が、なあ、と鳴いた。
 アタシのドジを笑うかのように、風がひゅうひゅう音を吐き出す。

「あーもうっ!」

 アタシは子どものような声を上げて、その場で大の字になって横たわった。
 見上げる空は赤く、太陽が彼方の山々に隠れようとしている。
 柄にもなく、星の巡り合いとやらに感謝をしてみたが――。

「はやく戻ってこーい、ルフランくん!」

 どんなに願ったところで、時間の流れが変わらないことをアタシは改めて知ったんだ。
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