《Imaginaire Candrillon》【イマジネイフ・サンドリヨン】〜ゲーム世界で本気の闘いを〜

六海刻羽

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第14話 フラグ

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Side ルフラン

 MMORPGゲームの狩りに必要なことは何でしょうか?
 人によって様々な解答がありそうなこの問いに、私はズバリ『効率化』だと答えましょう。
 それは時間的なものであり、安全的なものであり、はたまたコスト的なものであり。
 いかに早く、安全に、安く敵を狩れるか?

 少しでもこの手のゲームをやり込んだことのある人ならピンとくるのではないでしょうか。
 はじめたばかりは一日で1レベルしか上げられなかったのに、倒しやすい場所取りや敵の弱点属性武器の使用、モンスターの特徴の把握、狩りマラソンするための移動ルート。
 プレイしながら、より効率的な行動へと修正することにより同じ狩場でも手に入れられる経験値、ガルド、ドロップアイテムは比較にならないほど上昇します。

 さて、私たちが狩りを始めて二時間が経ちました。
 ここで少し、修正を重ねた現状での最も効率的な狩りを見てみましょう。

「いきますよ、両生類」

 見渡しのいい原っぱでゲコゲコ泣いている巨大な両生類――レクシア蛙の大群に私は突っ込みます。
 この蛙、初心者狩場に棲息しているだけあって弱い。
 この世界のキング・オブ・モブと言ってもいいでしょう。
 動きは遅く、攻撃も単調、おまけにこちらから攻撃しなければ襲いかかっても来ない。
 だが一度攻撃すればなかなかヘイトが取れずにベッタンベッタン跳ねながらついてくる。
 私はその特性を活かし、蛙たちをちょんと軽く小突きました。
 ゲコゲコ~! と蛙の合唱を披露しながら私へと襲いかかる雑魚モンスター。
 正直言って黒頭巾や師匠の速さを見た後だと物足りなさしかありません。

「ほ~ら、こっちですよ」

 蛙の密集地帯で片っ端からヘイトを稼いだ私は【魔法拳士マキドナス】の敏捷ステータスに物を言わせてその場から離脱します。
 数十匹の蛙たちはベッタンベッタン跳びながらついてくるわけですが、なかなかにシュール。
 スペインの牛追い祭りでこんな光景を見ましたね、蛙ですけど。

「こんなもんでいいですかね」

 辺りの蛙を一通り自分の周囲に集めさせた後、少し高めの丘にて「くっくっく」と魔女っぽい笑い方をしているロリータファッションの少女に合図を送りました。

「任せましたよ、魔法少女」
「ふはははっ! 任せるがよい! 地獄の業火に悶え苦しむがよいわ蛙共ッ!!」
「魔法少女はどこにいったんですか?」

 いつの間にか魔法少女から魔王サタンへとジョブチェンジしていたベルカさんが弓を構えたのを見て、私は大きく跳躍してその場から離脱します。
 残された大量の蛙たちに向かって矢を引き絞る少女は笑いながら叫びました。

「――『炎矢の一撃ルフェイ・アロー』ッッ!!」

 放たれた矢は広範囲へと降り注ぐ炎の波へと変わりました。
 少しコストのかかるアイテム《炎の矢》と、ベルカさんのMPの大部分の消費して放たれる弓使いスキル『炎矢の一撃ルフェイ・アロー』。
 その一撃は集まった魔物たちのHPを瞬時に枯らし、生臭い香りと共に原っぱには大量の焼き蛙が出来上がりました。

【モンスター『レクシア蛙』を倒しました】
【経験値を72獲得、ガルド96獲得】
【ドロップアイテム:『レクシア蛙の油』獲得】
【モンスター『レクシア蛙』を倒しました】
【経験値を72獲得、ガルド96獲得】
【ドロップアイテム:『レクシア蛙の油』獲得】
【モンスター『レクシア蛙』を倒しました】
【経験値を72獲得、ガルド96……】

 長い長い長い。
 ウィンドウには数十匹の魔物を討伐したログが一気に表示されました。

 私が周囲のモンスターのヘイトを稼ぎ、集まったところをベルカさんの広範囲攻撃で一網打尽にする。
 これが二人で導き出した現状最も効率的な狩りです。

【レベルアップ、ルフラン:Lv5】

 お、レベルアップは嬉しいですね。
 しかも以前のジョブに就いていないときよりもステータスの伸びが良い。
 敏捷と補助魔力については以前のLv14のステータスを既に越しています。
 これがジョブ補正……先輩もたま~には良いアドバイスをしますね。

「ランちゃん、ベルカちゃんのレベルがあがったよ! たんたらったったった~ん!」
「セルフBGMは虚しいのでやめましょうか」
「なら一緒に歌う?」
「では下のパートを担当しましょう」
「あれぇ意外とノリ気っ!?」

 あはははっ、とベルカさんは原っぱに転げまわりながら笑います。
 何とも表現力の豊かな人ですこと。

「そろそろ素材は集まったんじゃないの?」
「少々お待ちを」

 私はクエスト受諾画面を見て対象クエストをタップします。
 必要素材の『レクシア蛙の油』の文字が黄色く染まり、十分な量が集まったことを教えてくれました。

「蛙狩りは終了です。次に行きましょう」
「次はなに狩るの?」
「蛇狩りです」
「まっかせろ~い!」

 むん、と力こぶを見せる仕草をする自称魔法少女。
 いまのところ魔法的な要素は一切見せてもらっていませんが、彼女はなかなか私と相性が良い。
 近接単体相手を得意とする私と遠距離広範囲攻撃を持っているベルカさん。
 お互いの足りない部分を補い合い、いまのところは順調も順調の狩りが進んでいます。
 彼女の天真爛漫な性格も話していてとても楽しいですしね。
 それから蛇狩り、亀狩り、化け猫狩りと、必要素材を集めていき。

「これが最後、熊狩りです」
「おー! はちみつたべた~い♪」

 国民的な真っ黄色のクマキャラクターの声マネをしながら弓を掲げるベルカさん。
 なかなかの完成度だったので素直に拍手を送ります。

「終わったらご飯に行こうよ! ランちゃんはなにが食べたい?」
「焼き肉たべた~い♪」
「ぶふっ! あはははっ! 下手過ぎぃ!!」

 声マネ返しをしたらベルカさんはお腹を抱えてそこらへんを転げまわりました。
 あまり抑揚のない私に声マネというジャンルは未知の領域でしたね。
 戯れもそこそこにしておき、私たちはレクシア熊が棲息するという森林マップに移動しました。

『レクシア森林』
 レクシア平原と隣接した王都の北東に位置する初心者マップのひとつ。
 太陽の光が背の高い樹々によって遮られ、昼間にもかかわらず森は薄暗い。
 優しい風が広葉樹の葉っぱを撫で、ざわざわと森の合唱に響き渡ります。

「ランちゃん、レクシア森林のヌシの話知ってる?」
「フラグっぽいのであまり聞きたくないですけど、なんですかそれ?」
「ふっふっふ。ならば教えてしんぜようぞ」

 急に長老口調になった魔法少女が指を立てながら解説して来ます。

「この森にはな『パーク』と呼ばれる名前付きのレクシア熊が棲息しておるのじゃ。パークは幼い頃に母を人間の冒険者に殺されての、その復讐心によって強力なステータスを授かった特殊なモンスターなのじゃ」
名前付きネームドモンスターというやつですね」

 突然変異、一種のレアモンスターである名前付きネームドモンスターはその希少性と強さから倒すと潤沢な経験値とドロップアイテムを落とすと言われています。
 特異な環境下で生まれた名前付きネームドモンスターは、生息域がマップの適性Lvを大幅に逸脱しており、多くのプレイヤーにデスペナルティを与えてきた記録が残っているのだとか。

「パークはノーマルレクシア熊の数倍もの体格を持つと言われておる。旅人や、森に入る時は気をつけなされ。パークは人間を憎んでおる。母の仇を取ろうと一人でも多くの冒険者をその牙で、その爪で引き裂いてやろうと餓えておる。パークの縄張りには交差された三本の爪痕が木々に刻まれておるはずじゃ。見つけたのならばすぐさま去ることを勧めるぞ」
「随分と具体的ですが出所は?」
「王都の物知りおじいちゃん」

 それ思いっきりイベントのやつですよね。
 やり込み要素系のゲームイベントですよね。

「他に何か知っていることは?」
「友達がパークと戦ったことがあるんだって。全員がレベル10前後の六人パーティ」
「結果は?」
「全滅」

 駄目じゃないですか。
 そんな強敵に二人で挑むつもりはありませんよ。
 強者への戦いに滾るものもありますが、無謀と挑戦は違います。
 いつかは手合わせしてみたいと思いますが、それはもっと力をつけた後の話です。

「今回はパークさんと会わない方針で行きますよ」
「まー、そうだよね」

 能天気そうな返事をするベルカさん。
 お腹も減ってきましたし、さっさと必要素材を集めて街に帰るとしましょう。
 そんなことを考えていた私がふと見上げた視線の先には。
 ――大樹の幹に刻まれた、交差する三本の爪痕。

 …………ほらぁ、フラグだった。

「……フラグ建築系魔法少女、ベルカさん」
「なにその新しいジャンル?」

 いまだにこの危機的状況を理解していないロリータファッションの少女に私は言い放ちます。

「全力全開で逃げますよ。死にたくなければ」
「おっと、そのフレーズは……」

 ベルカさんの言葉を遮って、ズーンと森に地響きが起こりました。
 冷や汗を掻きながら振り向くと、体長7メートルはありそうな巨大な毛皮生命体。
 およそ熊というカテゴライズからはみ出した小山のような存在がそこにはありました。
 灰色の体躯に血色の目玉、のこぎりのようにギザギザの爪と牙。
 それがいったいなんなのか、もはや疑う余地などありません。

「もぎゃあああああああああああああああああ――ッッ!?」
「女の子を止めたみたいな悲鳴を上げないでください。逃げますよ!」

 今にも白目を剥きそうなベルカさんの腕を取って逃走を開始します。
 瞬間、森の全てを屈服させるような咆哮が背後から聞こえてきました。
 なるほど、これは流石のプレッシャー。
 私の中の闘争心が戦いてぇと叫んでいますが、いまはちょっと引っ込んでおいてください。
 ソロならまだしも、いまはパートナーがいます故。

「あばば、くくくく、くままっま――ッ!??」

 そのパートナーはいま言語の概念を失っているみたいですね。
 貴女の建てたフラグなんですからもうちょい頑張りやがれ、こんちくしょう。
 そんなことを思いながら私たちの命がけの逃走劇が始まりました。
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