《Imaginaire Candrillon》【イマジネイフ・サンドリヨン】〜ゲーム世界で本気の闘いを〜

六海刻羽

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第26話 死闘

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Side アリシア・レイホープ

 気が付いたとき、私は白い空の下にいた。
 地獄でも天国でもないその場所は、さながら生と死を繋ぐ境界。
 きっとあとほんの少しで私の魂は満たされ、消えていくのだろう。
 だというのに――。

「貴公のあきらめの悪さは私以上だな」

 私を呼び止める声が聞こえる。
 亡骸すら残らない私の残滓を抱きしめるように手を差し出しながら涙を流す彼がいる。
 そんな姿を見せられては……。

「おちおちと、死んでもいられないではないか」

 何もなかった世界に蛍のような光が現れた。
 この光はきっとルフランの懇願が天へと届いた、未熟ながらも確かな信仰の具現化。
 ならば、私も願うとしよう。
 両手を繋ぎ合わせて顔の前へと持っていき、空に向かって目を瞑る。

「聖樹の導きよ。全ての生の中でその教義に邁進まいしんした貴方の眷属の願いに耳を傾けて下さるのなら、一つだけ、叶えて欲しいことがあります」

 いつまでも私の名前を呼び続ける世界の迷い子に。
 彼がこれから歩むべき道に導きの光を求めよう。

「彼が助かるなら私はこの身を捧げても構いません。煉獄にだってこの身を差し出しましょう。どうかルフランに、世界の理不尽を打ち払う破邪の剣をお与えください」

 蛍のような光は、やがて集まって巨大な光玉へと変わっていた。
 その先では、これまた光で形作られた巨大な樹木がぽつぽつと雨のように光の欠片を零している。
 水たまりのようにたまった光は綿毛のように空気を泳ぎ、一つの場所へ。
 私の下へ集まってくる。

 私は理解した。
 どこまでも自分で道を切り開くという聖樹の教義に反した私は、いま、怒られたのだ。
 神様の力になど頼るな。
 最後の最後まで戦い続けろ。
 破邪の剣にはお前がなれ。

「ありがとうございます……」

 私の頬に一滴の涙が通った。
 瞬間、私の魂が変質していく感覚が生まれる。
 苦痛ではない、寧ろ温かい。
 光の波に攫われた私の魂は、未だに泣き続ける友の下へと降りていく。

「まったく、いつまで泣いているんだ」

 苦笑しながら、私はまた、あの世界へと戻っていく。

【システム外コード:通信???】
【おめでとう。君はいま、世界の意志を塗り替えた】

 どこからか聞こえた祝言をきっかけとして、私の魂はルフランの中へと溶け込んだ。

 ***

Side ルフラン

「アリシア……さん……?」
『ああ、私だ』

 私の頭に直接語りかけるアリシアさんの声に私は茫然と目を見開きます。
 理屈ではなく、本能的な理解が焼きつけられました。
 彼女の魂はスキルとして、私の中に溶け込んだのだと。

 喪われてなど、いなかった……。
 無数の奇跡が、無様にも足掻いたその先で、たったひとかけらの願いを掴み取れた。
 もっと多くの時間を共有したいと思った懇願が。
 遥か未来を共に歩むという誓いを以て、眩い現実となり輝いた。

『こらこらルフラン。いつまでも呆けているんじゃないぞ』

 アリシアさんの声に従って、私は立ち上がり、再起しました。
 その視線の先にいるのは、黒翼こくよくを持つ魔人、ルクステリア。
 圧倒的な絶望を身に宿したモンスターを前にして、私の中に恐れはもうありません。

 無様な泣き虫をここで粉砕します。
 際限のない想いを燃やしながら、譲れない勝負の予感を胸に抱きながら。

『ああ、そうさ。戦いの中でこそ貴公は笑え』

 眼鏡を直し、いつものように構えます。
 どこまでもいつまでも、自分を貫き通した彼女の輝きをたっとぶように。
 私も私で在り続けましょう。

『共に行こう、ルフラン』
「はいッ!」

 一際輝く雷光が空間内を照らしました。
 雷光はその激しさを増しながら――鮮明な『桜色』へと色彩を燃やします。

「属性闘気・モード『桜舞う雷光サクラ・ライトニング』ッッッ!!!」

 装備した術式篭手マギカ・アッシュに収められた宝玉が『黄』から『桜』へと。
 まるで私から四方八方に雷が落ちるが如く、迸った桜色の雷光が洞窟内の岩盤を剥します。
 土砂と雷線の雨の中で、眼前の敵に向かい私は叫びました。

「勝負ですッ!」

 私の意志に応えるよう、ルクステリアは黒炎を舞い上がらせました。
 桜色の雷光を灼熱の黒線で燃やしながら、大地を踏みしめます。
 スキルと魔法によるステータスの大幅上昇を以てしても、それでもまだ圧倒するには事足りない。
 お互いの譲れない想いをぶつけ合う命を賭けた決闘。

『だからこそ、燃えるというものだろう?』

 まったくもってその通りです。
 戦いの始まりは突然。
 ルクステリアが石壁を削る取って投げた岩石が豪速をもって私に飛来します。
 その一撃を帯電する桜色の雷光のみで砕き払い、突撃。
 数秒の距離を一歩に変えて、私はルクステリアの懐に潜り込みました。

「はあぁッ!」

 魔人の胸元を掬い上げるようなアッパー。
 黒炎に拳を燃やしながら、雷光を纏った一撃を撃つ。
 かつては微量しか削れなかったルクステリアのHPが目に見えて削れました。

『ガァアァアァッッ!!』

 ルクステリアは態勢を崩しながらも翼を鞭のように扱い私の身体を地面へと押し付けます。
 すぐさま立ち上がろうとした私の顔面へ、回し蹴り。
 吹き飛ばされ、岩壁へと叩きつけられた私は土砂が舞う中すぐに立ち上がりました。
 互いに一撃。
 一方的な蹂躙ではない。
 平等な命を賭けた、対等な勝負がそこにはありました。

 それは死闘と呼ばれる決闘方式。
 善意も悪意もない、あるのは譲れない闘争心。
 ただ相手を倒すため、お前より強いんだと示す、幼稚で稚拙な興奮の根源を。

 私はいま、戦っている。

『敗けられないな、ルフラン!』
「ええ、この感情だけは譲れません!」

 高みを目指す私の軌跡を、この人にいつまでも見ていて欲しい。
 貴女の前でこれ以上の醜態を晒せるわけがない。
 アリシアさん。
 いまここで、遥か高みに手を伸ばし続ける私の勇姿を。
 特等席で見ていてください。

「戦いましょう! この想い燃え尽きるその時までッ!!」

 まるで物語の中の一場面ワンシーンを取り出したかのような戦いを。
 見ている者の心に火をつける、焦がれるような戦いを。
 いまここで、演じて見せようではありませんか!
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