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1 連続で婚約破棄

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 優雅なお茶会のテーブルで、ティーポットは爆発した。
 カップが舞い、クッキーは砕け、沸騰した紅茶が花火のように打ち上がった。けたたましい悲鳴とともに、貴族の子女達は椅子から転がり落ちて、腰を抜かした。その中には、顔面蒼白の婚約者の顔もある。

 ……やってしまった……。

 伯爵令嬢ルイザ・アシュバートンは砕けたティーポットに手を翳したまま、硬直した。そして身構える間も無く、震える婚約者の口から、予想していた最悪の言葉が飛び出した。

「ルイザ!もうこりごりだ!君との婚約は破棄させてもらう!」


 全員に丁寧に謝罪をし、毅然と背筋を伸ばして馬車に乗ったルイザは、発車と同時に、ガクリと項垂れた。

「またですわ。あんなに練習したのに、どうして私は……」

 自分の掌を、恨みがましく見つめる。
 昔から、貴族令嬢の常識的な嗜みとして、生活魔法がある。
 紅茶を温める、果物を冷やす、洗濯物を水流で回転させる……それらが上手にできれば、素敵な花嫁として殿方は喜び、結婚相手に不自由は無いのだ。

 ルイザは幼い頃からしっかりと淑女としての教育を受け、勉学も作法も優秀で、容姿も美しい。さらにはお家柄も立派という完璧な令嬢であったが、ただ一点、この生活魔法がド下手という欠点があった。
 ルイザの手にかかれば湯は沸騰爆散し、果実は零下で砕け、洗濯物は濁流で引きちぎれる。
 まるでゴリラのように強力な我が生活魔法に、ルイザ自身も振り回されていた。

「お父様に何て報告すれば良いのやら……縁談を何度も台無しにして、親不孝ですわ」

 馬車の窓に寄りかかり、溜息を吐く。
 優しい両親はいつもルイザを心配して、励ましてくれる。だがこの強力な生活魔法は、年を重ねるごとに凶暴になっていくようで、一人娘を大事に育てた両親は、内心気が気ではないだろう。


「ルイザ!大変だったね。君が一生懸命なのは知っているよ」
「そうよ。ルイザ。気に病まないで頂戴ね。たまたま相性が合わなかったのだわ」

 両親はゾンビのように帰宅し、覇気なく頭を下げるルイザを、焦って慰めてくれる。
 大恋愛をして幸せな結婚をした両親は、ルイザの婚活を優しく気長に見守ってくれて、ルイザの申し訳なさはより大きくなっていた。母は穏やかに生活魔法をこなせるのに、何故自分だけが、こんな大それた力を持ってしまったのだろうか。


 翌日からは案の定、お茶会で、パーティーで。ルイザの生活魔法の爆発事件は面白おかしく、噂が出回った。
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