誰より君を、強く、深く愛してる

エピローグ「誰より君を、強く、深く愛してる」

季節がひとつ巡った。
いつの間にか、蒼佑の部屋は「ふたりの部屋」になっていた。

玄関に並んだ二人分の靴。冷蔵庫には翼の好物がいつも用意されている。
朝は決まって「おはよう」という声で目覚め、夜はその隣で眠る。
そんな日常が、静かに、けれど確かに根を張り始めていた。

それでも時折、翼は思い出す。
再会したあの夜。ぎこちない距離と、胸のざわめき。
愛される資格なんてないと、どこかで思い込んでいたあの頃の自分。

けれど……蒼佑は離さなかった。決して手を放そうとしなかった。
歪んだ愛を、狂気に近い執着を、翼はすべて知っていて、なおもそばにいる。
その事実が、嬉しくて、苦しくて、どうしようもなく愛おしい。

ある朝、食後のソファ。
蒼佑は、隣に座る翼を見つめながらふと尋ねた。

「……もし、俺がもっと重たくなっても、それでも傍にいてくれる？」

翼は少し考えた後、静かにコーヒーカップを置いて笑った。その笑顔が全てだった。
蒼佑の愛し方は、決して普通じゃない。激しくて、独占的で、時に怖いほどの一途さを孕んでいる。
けれど、翼はその愛を受け入れた。

「もう充分、重たいですよ。今さらじゃないですか」

苦笑交じりにそう返すと、蒼佑も照れたように笑って、そっと視線を逸らした。
それが、何よりも嬉しそうで……翼の胸に、静かな灯がともる。

けれどそれは、翼にとっては、ちょうどいい。
誰かに強く求められたかった。存在を、心ごと肯定してほしかった。
蒼佑は、それをくれた。

「でも……俺も、同じくらい重くなるかもしれませんよ」
小さく呟いた僕の言葉に、悠真さんが静かに手を握り返してきた。
ぴったりと合う手のひらに、どこか運命的なものを感じて、自然と微笑んでしまう。

「いいよ。それで、ちょうどいい」

そう言って、蒼佑は翼の額に、静かにキスを落とした。

愛してる。狂おしいほど、誰より深く。この先、何があっても……

「ずっと一緒にいよう、翼」

その言葉に、翼は静かに頷いた。
たぶん、蒼佑はこれからも翼を囲い込むだろう。
でももう、それは怖くはなかった。閉じ込められる場所が、居場所になったから。

「うん……僕も、ずっと一緒にいる」

そう答えた翼を、蒼佑は優しく、でも強く抱きしめた。
その腕の中で、翼は目を閉じる。ゆっくりと流れる時間の中で、誰にも見せない、小さな誓いを交わす。

この愛は、誰にも理解されなくていい。ただ、ふたりの中にだけあればいい。

誰より君を……
ただ、君だけを、深く、深く、愛してる。
それが俺たちの愛し方だった。