最強賢者のスローライフ 〜転生先は獣人だらけの辺境村でした〜

なの

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スローライフ編

雨と発熱と、番の意味

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しとしとと、雨が降っていた。昼間はあんなに晴れていたのに、夕方から急に気温が下がり、夜には肌寒い風まで吹き始めていた。

戦いの疲れも重なって数日後、智也は熱を出して寝込んでしまっていた。

「……ん、う……」

額に手をあてると、やはりまだ熱い。額に浮かぶ汗をぬぐいながら、ライガはそっと濡れタオルを取り替えた。

「ごめん……ライガ……寒い……」

うわごとのように、弱々しくこぼされた声に、胸が締めつけられた。

智也はこれまで、一度も体調を崩したことがなかった。いつも気を張っていたからだろう。
だからこそ、熱にうなされ倒れたその姿が、余計に痛々しく映った。

「寒いのは……夢のせい、か?」

智也の眉が苦しげに寄る。
手をぎゅっと握ると、少しだけその表情が和らいだ……と思った、そのときだった。

「……っ、いやだ……やめてくれ……誰か……!」

その言葉に、ライガの心がざわめく。智也は、熱に浮かされながらも、過去の悪夢にうなされていた。

――自分が殺された記憶。
――守れなかった命。
――灰に沈んだ村。
そのすべてが、今でも彼の中で癒えない傷として残っている。

「……智也」

ベッドの脇に膝をつき、ライガはその細い肩にそっと毛布をかけ直した。

「俺はここにいる。お前が誰を救えなかったとしても、今ここにいる。……お前に救われた、俺が」

ぽつぽつと、窓を叩く雨音が夜を満たしていた。
その静けさの中で、ライガは小さく呟いた。

「俺の番はお前だから……病気のときも、夢に苦しむときも……これからずっと。誰にも、二度とお前にそんな顔をさせない」

自分には、何もできなかった過去がある。
でも、今度こそ。

「お前が眠るたび、悪夢じゃなくて安心できるようにそばにいる。……お前は俺の番だから」

そう言って、ライガは静かに智也の額に口づけた。熱を帯びた肌の上に決意を刻むように。

まぶたの奥、うっすらと智也の目が開いた。焦点の合わないその瞳が、ふとライガを捉える。

「……ライガ?」

「ああ。大丈夫。俺がついてる」

「……そっか……よかった……」

再びまぶたが下りていく。少し安らいだその表情に、ライガはようやく息を吐いた。

窓の外ではまだ雨が降り続いていたけれど、ふたりの間には、小さな温もりが確かに灯っていた。

「番」とは、ただ一緒にいるだけじゃない。相手の痛みを知り守りたいと思う心そのものなのだ。

智也が熱にうなされた夜、ふたりの絆が静かに深まっていった。

***

翌朝。

窓の外には、もう雨の気配はなかった。
昨夜の冷え込みが嘘のように、静かで穏やかな朝が村を包んでいる。

「……ん」

智也がゆっくりと目を開けた。熱はまだ少し残っているけれど、昨日の悪寒はすっかり引いていた。

「……あれ?俺、いつの間に……」

「起きたか」

視線を向けると、ベッドの脇にいたのは、やつれた顔のライガだった。
彼の瞳には、安堵と照れが同時に浮かんでいた。

「……ずっと、そばにいてくれたの?」

「ああ。熱、下がってよかった」

そう言いつつ、ライガは視線を逸らした。耳まで赤くなっているのがはっきりわかって、智也は少し笑った。

「なんか……ごめん。大変だったでしょ」

「いいんだ。お前が無事なら、それでいい」

言葉は短いのに、その一言には、昨夜のあたたかい看病がすべて詰まっているようだった。

「……あのね」

少し喉を鳴らしながら、智也はそっと言った。

「俺、夢……見てた。たぶん、またあの時の……誰かを守れなかった夢で……すごく、怖かった」

その言葉に、ライガが手を握ってくれた。大きな手。いつも力強くて、だけど今はそっと包むような優しさがある。

「それでも、安心したんだ。途中から夢の中に君がいて、『俺がいる』って……言ってくれてた気がして」

「……本当に言った」

「え?」

「昨夜、お前に言ったよ。だから、もう一人で背負わなくていいって」

智也は目を丸くし、そして少し照れたように笑った。

「聞かせたかった。……どんなにお前が強くても、俺には頼ってほしい。だって……番なんだから」

ふいに、ライガの声が低く真剣になった。

「だからさ。これからは、怖い夢を見たときも、体調崩したときも、全部……俺に頼って。お前が俺を選んでくれたように、俺も、お前を守る番だから」

智也は、その言葉をしっかりと受け止めて、ゆっくりと頷いた。

「うん。……頼るよ。たくさん、甘える」

「……マジで?」

「うん。もう、ちょっと抱きつきたいくらい」

ライガは一瞬、呆けた顔をしたあと、耳まで真っ赤に染めた。

「……こ、こっち来いよ……もう、離さねぇからな」

そう言って、そっと智也を引き寄せ、そっと腕に抱いた。ぬくもりを分け合うような抱擁。心がじんわりとあたたかくなる。

「……ありがと、ライガ」

「俺の方こそ。智也が、俺の番になってくれて……本当に、うれしい」

ふたりの吐息が重なった。
小さな静けさと、ささやかな誓いの時間。それは、雨上がりの朝にふさわしい、優しいぬくもりに満ちていた。


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