6 / 13
熱に咲く花
しおりを挟む
異変は、数日前から始まっていた。眠っても体の奥がじんわり熱を帯びていて、なぜかラザルの姿を思い浮かべるだけで息が詰まりそうになる。
それでも最初は、ただの風邪だと思っていた。けれど今日になってミナトの中の何かがはっきりと疼き始めた。
また……来たのか、発情期。
そう理解した瞬間、足元が崩れるような不安が押し寄せてきた。
「ミナト様、顔色が良くありません……!」
食堂で顔を合わせたフェンリルが心配そうに駆け寄ってくる。マールも慌ててスープを置き、「部屋で休まれた方が……」と顔を曇らせた。
「……大丈夫。少し疲れてるだけ」
精一杯の笑みを作って応えたが、すでに自分の体は嘘をつけない状態になっていた。
部屋に戻ると窓辺で立っていたジークが振り返った。彼は何も言わず、ただミナトをじっと見つめたあと低い声で告げた。
「また来たようですね……今度の熱は前より強い」
ミナトは何も言えず、ただ唇を噛んでうつむいた。
「主も感じているでしょう。あなたの香りを」
その言葉に全身の血が逆流するような羞恥が襲った。
「……俺、どうしたらいいの……」
「あなたが決めることです。ですが、今回ばかりは……主があなたに触れるかもしれない。それでも受け入れる覚悟はありますか?」
ジークの声に厳しさはあったが非情ではなかった。ミナトはしばらく黙った後そっと目を閉じた。
「……わからない。でもラザルになら……」
ラザル。
その名前を口にするだけで身体の奥が熱を持つ。この想いが「本能」なのか「恋」なのか……まだはっきりとは分からない。
けれど……会いたい、とそう思った。
***
ラザルの部屋を訪ねたとき彼は書斎の椅子に腰かけていた。その背は、いつもより重く見えた。
「……来たか」
低く、しかしどこか苦しげな声だった。ミナトが一歩踏み出すと空気が一気に張り詰める。部屋の中に、ふわりと甘い香りが広がっていた。
「……やっぱり、分かってたんだね」
「お前の香りは……否応なしに私の理性を削る」
ラザルの瞳が赤く染まり、その奥に野性がちらついている。だが彼は椅子から立ち上がろうとせず拳を強く握りしめていた。
「……なぜ来た?今の私は理性を保つのに必死だ」
「俺……苦しいんだ」
ミナトは唇を震わせながら、一歩また一歩とラザルに近づいた。
「身体が熱くて、ひとりじゃどうにもできなくて……でも他の誰かに触れてほしくなんてない。ラザルじゃなきゃ、いやなんだ……!」
その瞬間ラザルの瞳が見開かれた。
それでも彼はミナトを抱きしめようとはしなかった。ただ、ぎりぎりのところで耐えるように目を閉じる。
「……お前が私を選んでくれたのなら私はその言葉を信じる。だが、私はお前を力ずくで抱きたくない」
「……でも、俺は……」
ミナトがラザルに縋るようにしがみつくとラザルはようやくその肩を抱いた。腕の中は熱く震えていた。それがラザルの欲望の証だった。
「お前の意思が欲望に流されたものではないと分かるまで私は手を出さない。それが……私の誓いだ」
「……そんなふうに優しくしないでよ……好きになっちゃうじゃん……」
ミナトの言葉にラザルはそっと微笑んだ。
「それならば好きになれ。……私は、お前を愛する」
その夜、二人は何度も手を握り額を寄せ合った。ただ、何ひとつ交わすことなく、ただ静かに寄り添っていた。それでもミナトは確かに感じていた。
これは発情ではなく愛しさに包まれた時間だと。
それでも最初は、ただの風邪だと思っていた。けれど今日になってミナトの中の何かがはっきりと疼き始めた。
また……来たのか、発情期。
そう理解した瞬間、足元が崩れるような不安が押し寄せてきた。
「ミナト様、顔色が良くありません……!」
食堂で顔を合わせたフェンリルが心配そうに駆け寄ってくる。マールも慌ててスープを置き、「部屋で休まれた方が……」と顔を曇らせた。
「……大丈夫。少し疲れてるだけ」
精一杯の笑みを作って応えたが、すでに自分の体は嘘をつけない状態になっていた。
部屋に戻ると窓辺で立っていたジークが振り返った。彼は何も言わず、ただミナトをじっと見つめたあと低い声で告げた。
「また来たようですね……今度の熱は前より強い」
ミナトは何も言えず、ただ唇を噛んでうつむいた。
「主も感じているでしょう。あなたの香りを」
その言葉に全身の血が逆流するような羞恥が襲った。
「……俺、どうしたらいいの……」
「あなたが決めることです。ですが、今回ばかりは……主があなたに触れるかもしれない。それでも受け入れる覚悟はありますか?」
ジークの声に厳しさはあったが非情ではなかった。ミナトはしばらく黙った後そっと目を閉じた。
「……わからない。でもラザルになら……」
ラザル。
その名前を口にするだけで身体の奥が熱を持つ。この想いが「本能」なのか「恋」なのか……まだはっきりとは分からない。
けれど……会いたい、とそう思った。
***
ラザルの部屋を訪ねたとき彼は書斎の椅子に腰かけていた。その背は、いつもより重く見えた。
「……来たか」
低く、しかしどこか苦しげな声だった。ミナトが一歩踏み出すと空気が一気に張り詰める。部屋の中に、ふわりと甘い香りが広がっていた。
「……やっぱり、分かってたんだね」
「お前の香りは……否応なしに私の理性を削る」
ラザルの瞳が赤く染まり、その奥に野性がちらついている。だが彼は椅子から立ち上がろうとせず拳を強く握りしめていた。
「……なぜ来た?今の私は理性を保つのに必死だ」
「俺……苦しいんだ」
ミナトは唇を震わせながら、一歩また一歩とラザルに近づいた。
「身体が熱くて、ひとりじゃどうにもできなくて……でも他の誰かに触れてほしくなんてない。ラザルじゃなきゃ、いやなんだ……!」
その瞬間ラザルの瞳が見開かれた。
それでも彼はミナトを抱きしめようとはしなかった。ただ、ぎりぎりのところで耐えるように目を閉じる。
「……お前が私を選んでくれたのなら私はその言葉を信じる。だが、私はお前を力ずくで抱きたくない」
「……でも、俺は……」
ミナトがラザルに縋るようにしがみつくとラザルはようやくその肩を抱いた。腕の中は熱く震えていた。それがラザルの欲望の証だった。
「お前の意思が欲望に流されたものではないと分かるまで私は手を出さない。それが……私の誓いだ」
「……そんなふうに優しくしないでよ……好きになっちゃうじゃん……」
ミナトの言葉にラザルはそっと微笑んだ。
「それならば好きになれ。……私は、お前を愛する」
その夜、二人は何度も手を握り額を寄せ合った。ただ、何ひとつ交わすことなく、ただ静かに寄り添っていた。それでもミナトは確かに感じていた。
これは発情ではなく愛しさに包まれた時間だと。
54
あなたにおすすめの小説
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~
水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。
「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。
しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった!
「お前こそ俺の運命の番だ」
βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!?
勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!
【完結】聖クロノア学院恋愛譚 ―君のすべてを知った日から―
るみ乃。
BL
聖クロノア学院で交差する、記憶と感情。
「君の中の、まだ知らない“俺”に、触れたかった」
記憶を失ったベータの少年・ユリス。
彼の前に現れたのは、王族の血を引くアルファ・レオン。
封印された記憶、拭いきれない傷、すれ違う言葉。
謎に満ちた聖クロノア学院のなかで、ふたりの想いが静かに揺れ動く。
触れたいのに、触れられない。
心を開けば、過去が崩れる。
それでも彼らは、確かめずにはいられなかった。
――そして、学院の奥底に眠る真実が、静かに目を覚ます。
過去と向き合い、他者と繋がることでしか見えない未来がある。
許しと、選びなおしと、ささやかな祈り。
孤独だった少年たちは、いつしか“願い”を知っていく。
これは、ふたりだけの愛の物語であると同時に、
誰かの傷が誰かの救いに変わっていく
誰が「運命」に抗い、
誰が「未来」を選ぶのか。
優しさと痛みの交差点で紡がれる
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜
小門内田
BL
ドケチで貧乏な大学生の瀧本 純也は、冷徹御曹司の諏訪 冬悟に交際0日、いや、初対面で結婚を迫られる!?
契約から始まった奇妙な結婚生活は、次第に互いの心を少しずつ変えていく。
“契約から本物へ―”
愛を知らない御曹司×愛されたがりの大学生の、立場も性格も正反対な二人が、不器用に心を通わせていく、ドタバタあり、じんわり甘い、ゆるやかな日常BL。
※最初は少し殺伐としていますが、ゆっくりと変化していく物語です。
※男同士の結婚が、一般的な世界線となります。
※関係性をわかりやすくするため、「嫁」や「妻」といった表現を使用しております。
※同タイトルのpixiv版とは、加筆・修正しておりますので、若干内容が変わっております。
予めご了承ください。
※更新日時等はXにてお知らせいたします
ほたるのゆめ
ruki
BL
恋をすると世界が輝く。でもその輝きは身体を重ねるといつも消えてしまった。そんな蛍が好きになったのはオメガ嫌いのアルファ優人だった。発情したオメガとその香りを嫌悪する彼に嫌われないように、ひたすらオメガである事を匂わさないようにしてきた蛍は、告げることの出来ない思いに悩んでいた。
『さかなのみるゆめ』の蛍と(木佐)優人のお話です。時間軸的には『さかな・・・』のお話の直後ですが、本編主人公達はほとんど出てこないので、このお話だけでも楽しめるかと思います。けれど『さかな・・・』の方も読んで頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる