『番はいらないと思ってた。君に出会うまでは』

なの

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誓いの夜

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屋敷での日々は、確実に変わっていった。

最初はただ、物珍しげにミナトを見ていた一部の従者たちも、今では彼を主の傍にいるべき存在として、すっかり受け入れてくれている。

書庫の整理や薬草の仕分けなど、軽い仕事を任されるようになった。仕事を手伝うたびに彼らの目がやわらかくなり無理に背を伸ばして歩いていたミナトも次第にその場所に馴染んでいって、ミナトはどこか懐かしい感覚に包まれていた。誰かの役に立つことが、こんなにも嬉しいなんていつぶりだろうか?

そして何よりも大きな変化をもたらしたのはラザルとの関係だった。最初はどうしても距離があった。言葉を交わしても、お互いに心のどこかで壁を感じていた。しかし月日が経つにつれて自然とその壁は薄れていった。

今では二人で同じ机を囲んで食事をし何気ない会話を交わすことが増えた。ミナトにとって、その時間はどこか安心できる心地よいひとときだった。

ある日、ラザルと庭の散歩をしているときだった。

「……この前も、この庭の草花を見ていたな。気に入ったのか?」

「はい。こんなに綺麗な花、初めて見ました。あれ……なんて名前なんですか?」

「ルオナ。魔族の言葉で『灯火』という意味だ。夜でも光を宿す性質がある」

「灯火……いい名前ですね」

その言葉にラザルが微笑んだ。その微笑みにミナトは胸が震えるのを感じた。ラザルの瞳が穏やかな温かさを湛えている。その横顔を見つめていると胸の奥の何かがぎゅっと締め付けられるような……苦しいような……けれど温かい気持ちが込み上げてくる。

この感情は、もう分かっていた。

……好きだ。でも、言葉にはできない。

自分が「番」になることを望む立場ではない。それでも、この人の傍にいたい。どうしても、そんな気持ちを抑えきれなくなる自分がいた。

そんな穏やかな日々が続いたある夜……それは突然に訪れた。


***


身体の中が熱くなった。喉が渇いて、皮膚の内側から火がついたように血が騒いでいる。発情期がやってきたのだ。前回よりも深く、強く、身体の芯から突き上げるような疼きがミナトを襲った。部屋の中にいても息が追いつかず、シーツを握りしめて必死に耐えようとする。

「ミナト!大丈夫か!?」

扉を開けて駆け込んできたのはラザルだった。姿を見た瞬間、ミナトの中の本能が何かを求めて叫び出す。

誰でもいいわけじゃない。
この人じゃなきゃ、嫌だ……そう思ってしまった。

「っ、来ないで…………」

「……お前、また……」

ミナトは苦しげにラザルを見上げた。発情のせいで視界が滲む。それでも、はっきりと告げた。

「あなたなら……あなたになら、触れてほしい……」

ラザルの表情が強張った。
戸惑い葛藤しているのがわかる。それでもミナトの手を取ったその指先は優しかった。

「……ミナト。これは、お前の意思か?本能ではなく心がそう……望んでいるのか?」

「はい……っ、俺……ラザルさんが、好きです……」

涙混じりの声で、それだけは伝えたかった。

ラザルはそっとミナトの頬に触れ唇を落とした。そのキスは焦がれるようでいて、どこまでも優しい。

「俺も、お前を想っていた。……これは義務じゃない。お前を守りたいと心から思ったんだ」

ミナトはラザルの腕の中に沈みながら自分が初めて誰かに抱かれることを恐れずに受け入れているのを感じた。

熱の中、身体が溶け合う。
ラザルの香りが深く染み込んでいくたびに自分の中の何かが満たされていく。


そして……


「……番になる、かもしれない。お前の体がそれを望めば」

「……うん。望んでる。……俺、あなたの番になりたい」

その瞬間だった。ミナトの身体から、ふわりと甘い香りが立ちのぼり、ラザルの本能が鋭く反応した。

それでも彼は乱暴にはならなかった。ただ、確かに心を重ねるように優しくミナトを抱いた。

「ミナト……番になろう。俺のすべてを、お前に捧げる」

「うん……俺も、あなたとなら……どこまでも一緒にいける……」


夜は深まり二人は確かに結ばれた。


初めての痛みと悦びの交差するその中で、ミナトはようやく本当の意味で、この世界に自分の居場所を見つけた気がした。


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