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新進気鋭パーティの雑用係が追放されて盲目剣聖様の世話係になるお話
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冒険者ギルドへと戻って来たファナ。早朝からは時間が経っており、冒険者の数はそこそこ多くなっていた。席に着いて仲間と談笑したり、依頼書を見比べて今日のクエストを探したり、受付嬢にナンパしたりと、ギルドの中は賑わっていた。
「冒険者ギルドに着きましたよ」
「ん。この騒がしさ、間違いないね。ありがとう。君が居なければボクは当分迷っていただろう。最後にティルレッサという受付嬢の下まで案内してくれるかな?」
「分かりました。ティルレッサさんですね」
旅人の言葉に従い、ファナはティルレッサが受付をしている列に並ぶ。今は数人程しか並んでおらず、暫く待てば順番は回ってくるだろう。
「次の方──って、ファナさん······と、ユキ様じゃないですか!?3ヶ月も何処に行っていたのですか!?」
ティルレッサはファナの顔を見て、あまりの早さに少し驚いた後、横に居る人物を見て更に驚いた。何時も冷静に仕事をこなすティルレッサにしては珍しく声を荒らげたのだ。
「ん。迷ってた」
「片道2日もあれば行ける距離でしょう!」
「ん~中々遠かったぜ」
「はぁ~~~ッ!!」
あっけらかんとした旅人──ユキの態度に、ティルレッサは大きなため息を吐く。それを見たユキが「ん。幸せが逃げるぜ」と言うが構わない。ティルレッサはこの人の相手をする時が1番憂鬱なのだ。
「あ、僕はもう行きますね。失礼します!」
自分のクエストの事を思い出したファナは、ティルレッサとユキにお辞儀をした後冒険者ギルドを出て行った。その後ろ姿を名残惜しく見つめるティルレッサ。
「ん!礼をするの忘れてた」
「ファナさんなら1時間もすれば戻って来ますよ。その間に素材の処理をしましょう」
「ん。宜しく」
ティルレッサはカウンターに『只今休止中』の立て札を置き、ユキを連れてギルドの裏手へと歩いていった。そこは大型モンスターの解体所である。受付カウンターで取り扱えないモンスターは、この場で解体と買い取りを行うのだ。
「確か『ゲファタイガー』の討伐、でしたっけ」
ユキから『魔法袋』と呼ばれる、袋の中が異空間に繋がり見た目以上の容量を持つ魔道具を受け取りながら、ティルレッサはクエスト内容を確認する。
「ん。それと、蜥蜴と熊ね」
「はぁ······『ニュートラルドラゴン』と『シルバーベア』をそう呼ぶのは貴女様だけですよ」
「ん?それ、褒めてる?」
「えぇ、もちろん」
無駄話をしながら、ティルレッサは魔法袋を解体所の中心に設置した。かなりの広さを誇るこの解体所だが、ユキが狩ってくるモンスターを出せば直ぐに一杯になってしまう。そのため、一体ずつ出して処理していくのだ。
周りにはギルド職員の解体担当がスタンバイしており、今か今かと解体用ナイフを構えている。
「では······『ゲファタイガー』!」
ユキの横へと戻ったティルレッサが、魔力を込めながら言葉を発する。すると、魔法袋から一体の首を無くした巨大な虎が出現した。
その虎は全身黒色で、腕や胴体には赤い筋が通っている。爪は非常に太く鋭い。腕だけで人よりも大きいその巨大な虎は、出逢えば最期。高速で強力な爪と牙に屠られてしまうと言われる、最強にして最凶の虎。
続けて現れたその頭部に、ティルレッサはうっと呻き声を洩らす。その虎の表情は、まるで死んだことに気がついていないかのように、誰かへ対しての威嚇をしたままであったのだ。力を持たない者がその顔を見れば、最悪気絶してしまうだろう。
解体係達は我先にと『ゲファタイガー』の死骸に飛び掛って行ったが。
「ん。そういえばさっきの子······」
「ファナさん、ですか?」
解体が終わるまでは暇となるユキ。解体所に置かれている椅子に腰掛け、用意された飲み物を啜りながらティルレッサに話を振る。
「ん。ファナちゃんね。あとでお礼しないとなぁ」
「ファナさんは受け取ろうとはしませんよ」
「ん~。確かにそういう性格っぽかった」
更に出された茶菓子を口に放り込み、解体する音を楽しみながらお茶を啜る。
「今回は随分と時間が掛かりましたね。彼等、かなりユキ様を心配していましたよ」
彼等とは、今嬉々として化物虎を解体している解体係の皆である。現在は四肢の切り取り作業に笑いながら苦戦している。
「ん~。戦闘自体はサクッと終わったんだけどね。山ん中だから迷っちゃったのさ」
「はぁ······森はエルフのテリトリーでしょう?どうして迷うのですか?」
「ん。知らん」
暑くなったのかユキは被っていたフードを外した。そこから現れたのは、美しい銀髪とエルフの特徴たる長い耳。目を布で覆い隠したエルフの少女である。
「ですから、雑用係の方を雇ってくださいと言っているでしょう?」
「ん。既に5人雇って、5人クビにしている。そんな奴に雇われたい人は居ないっての。それに、ボクに付いてこられる訳ないし」
そう言うと不貞腐れたようにお菓子を口に運び、お茶を飲み干した。それから足を組んでそっぽを向いてしまう。
「はぁ。付いてこられる人なんて、雑用係の方以外でも居ませんよ。もう少し自覚をお持ちになってください」
ユキの食い散らかした食器等を片付けながら、ティルレッサはもう一度ため息を吐いた。
「ユキ様は世界で5人しか居ない、Sランク冒険者なんですから」
ティルレッサの言葉なんて聞く耳を持たず、ユキは新たに出されたお茶を啜りながら、解体が終わるまで無言を貫くのであった。
※ ※ ※
「戻りましたっ。これ、頼まれていた薬草5束です」
ファナは再び飛び出してから1時間と経たずに戻って来ていた。この時間帯は冒険者の数も減り、直ぐに受付の前に着くことができる。
もう馴染んだ空中から布に包まれた薬草を5束、カウンターに綺麗に並べていく。
ティルレッサが直ぐ様鑑定してみれば、一律に最高品質を示している。やはり、まぐれでは無かったのだ。
「······はい。確かに受け取りました。こちらが今回の報酬となります」
「わっ!こんなにですか······?」
渡された額にファナは毎度の如く驚いてしまう。特に今回は、ファナにとって散歩して薬草摘んで帰ってきただけだ。それだけで7万5千マロも、貰っていいのだろうか。
良いのだろう。
最近になって、ようやく聞き返さずに受け取るようになった。これもファナにとっては成長である。
「ん。おかえり、ファナちゃん」
「あれ······あっ、ユキさん、でしょうか?」
突然現れ、ファナに声をかけてきたのは美しい銀髪を持つエルフ。フードを被っておらず、ファナは直ぐには理解できなかったが、声と杖を着いていたことから判断した。
「ん。そうだよ。よく覚えていた。ボクは剣士のユキ······さっきはありがとね。おかげで早く着くことが出来た」
「いえ!感謝される程の事はしてませんから!」
「ん。謙虚だね。ボクはそういとこに感心を持てる」
「あ、ありがとうございます······あっ!ぼ、僕は〈雑用〉のファナです!」
ファナは雑用係として働いていた頃、褒められる機会がなかった。久しぶりに面と向かって、それも美しい異性かは賞賛を貰い、嬉しくもあり気恥ずかしくもあった。
ポリポリと紅くなった頬を掻き、その後慌てて自己紹介するその姿に、心を撃ち抜かれている者が居ることは置いてこう。
「ん。あとね、ちょいと待ってくれ······ティルレッサ。まだ終わらないのか?」
「えっ······あー、終わってました。すみません。これが今回のユキ様の報酬となります」
ユキに急かされたティルレッサは、足下に置いておいた袋をユキへと渡す。1件何も入っていないような小さな布袋。実は、ユキがモンスターを入れている物よりは容量の小さい収納袋である。それは雑貨を入れる用の収納袋。お金もそこへぶち込んでいるのだ。
「ん。あれは?」
「はい。今回も半分はギルドの方にて寄付させていただきますから、ご安心ください」
「ん。了解。······それでファナちゃん······どったの?」
ティルレッサから振り返ってファナを見てみれば、驚愕の表情を浮かべていた。ユキは見えてはいないが、音と匂い、魔力の動きから人の動きを把握出来る。一体、何が起きたというのか。驚くようなことでもあったのだろうか。
「あの······!もしかして、ユキさんは数年前から孤児院等に寄付しているのですか······!?」
「ん?あぁ、まぁ、持ってても無駄だから、ギルドに任せて寄付してるけど」
「やっぱり······あの!ありがとうございました!!」
そして1人納得したと思えば、突然ユキに頭を深く下げた。丁度ギルドの中にはこの3人以外居なかった事が幸いし、他の誰にも見られてはいない。が、突然頭を下げて感謝の言葉を叫んだのだ。2人は揃って驚いてしまう。
「実は僕、孤児院で育ったんです。その孤児院は経営が厳しく、昔からご飯なども満足にありつけませんでした。それが更に悪化して、もう何日もまともに食べれず、餓死寸前までになったそんな時、とある冒険者様の寄付により、なんとか経営を持ち直したんです!そのおかげで僕や兄弟達も死なずに済みました······!このお礼、なんて言ったらいいか······!!本当に、ありがとうございました······!!」
そう。ファナが冒険者を目指した理由は〈雑用〉であったからだけでは無い。彼には〈雑用〉として、他に道が残されていたからだ。冒険者を選んだ理由の1つは、こうして命の恩人である冒険者様にお礼を言いたかったから。憧れる、尊敬する冒険者様と同じようになりたかったからであった。
まるで神様の悪戯のように、ファナは己の夢を現実に出来たのであった。
「ん、おう······ボクは何も考えていなかったから、礼を言うならギルドにね」
ファナの圧には流石のユキも動揺し、とりあえず落ち着かせようと矛先を変える。
「いえ······!もちろんギルドにも御礼の気持ちはあります!けど、どうしてもその冒険者様に御礼を言いたかったんです!今の僕があるのも、全てはユキさんのおかげですから!!」
しかし簡単に変わることはなく、更に熱を持ってユキへと感謝の言葉を発していく。
「ん······ただの気まぐれで始めた事だけど、救われたという話を聞けて嬉しいよ。何となく、この数年分の人生が報われた気もする」
ユキは感謝されるつもりでやったことでは無かった。発言の通り、お金も要らなかったし気まぐれで始めた事だ。それでも、こうして感謝されるとなると、珍しく照れくさそうにしていた。
「あ、あの······!もし、この町で活動をしていらっしゃるなら、困り事があれば是非教えてください!出来る限りの事はなんでもしますから!」
その言葉にいち早く反応したのはティルレッサであった。密かに煩悩をフル回転させていた。
次にユキが反応する。
「ん。君の気持ちはよーく分かった。ありがとう、受け取っておく。けどね、女の子がなんでもします、とか言っちゃダメだよ。ボクがとんでもない命令したら·········ん?またどうしたんだい?」
と、説教のように話していると、ファナがおどおどと手を挙げた。それに気づいたユキは口を止める。
「······あ、あの······僕······男です」
恥ずかしそうにファナは告げる。何度も間違われていたが、今までで一番恥ずかしかった。
「ん?······ははは、冗談言うなよ。目が見えないからって、ボクを揶揄わないで欲しい。匂いと声、手の感触に至るまで、君は女の子そのものだ。騙されないよ」
ユキは自分の視覚以外の五感に絶対の自信があった。長命種であるエルフ。ユキも既に何百年と時を重ねている。その長い人生経験も踏まえた判断。決して、男と女とを間違えるわけが無い。ユキはそう確信している。
「ファナさんは本当に男の娘ですよ。私が保証いたします」
「ん?なんだい。このタイミングでボクを嵌めようと?見えないからって、あのねぇ···」
「見たら余計に女の子何ですけどね」
「············えっ、マジ?」
「大マジです」
ティルレッサの言葉でようやくユキは一考する事にした。仮に、ファナが男性だとしよう。その男性から、とても良い匂いがして、とても可愛らしい声が聞こえて、オマケに手も小さく柔らかいと来た。あれ、とユキの頭が理解を拒み始める。
「ん······確認。確認させてもらおう」
「あぁ、確かに私も確認はしていません。嘘を吐かないような人柄、と言うだけで判断していましたから」
「え、えぇっ!?確認、ですか······?一体何を······?」
ユキがファナにじり寄り、受付カウンターから出てきたティルレッサがファナの両腕を拘束する。ユキに顔を近づけられたファナは緊張してしまい、思わず目を閉じてしまった。
「ん。大丈夫。軽く触るだけだから。それ以上はしない」
ユキは諭すように、優しくファナに声を掛ける。しかし内容にはまったく安心出来る要素がない。
「ま、待ってください!何を触るつもりですか!?」
「ん?そりゃ、男の子に在って女の子に無いもの」
そう言って、ユキはしゃがんでファナのズボンに手をかけた。
「······なっ!?だ、駄目です!そんな汚い物、ユキさんが触れちゃ······っ!」
「ん。さっき言ってた、なんでもする。あの権利を使うと思って、諦めようぜっ」
ファナの言葉に耳を貸さず、ユキは楽しそうにズボンを下ろした。残るは無防備な下着1枚。ファナの人生における、最大のピンチであった。このままでは、男として終わる。
が、抵抗出来ない······
「や、やめてくださいぃぃっ!!?」
情けなく泣き叫び、ファナの無けなしのプライドは崩れ去って行ったのであった。
「冒険者ギルドに着きましたよ」
「ん。この騒がしさ、間違いないね。ありがとう。君が居なければボクは当分迷っていただろう。最後にティルレッサという受付嬢の下まで案内してくれるかな?」
「分かりました。ティルレッサさんですね」
旅人の言葉に従い、ファナはティルレッサが受付をしている列に並ぶ。今は数人程しか並んでおらず、暫く待てば順番は回ってくるだろう。
「次の方──って、ファナさん······と、ユキ様じゃないですか!?3ヶ月も何処に行っていたのですか!?」
ティルレッサはファナの顔を見て、あまりの早さに少し驚いた後、横に居る人物を見て更に驚いた。何時も冷静に仕事をこなすティルレッサにしては珍しく声を荒らげたのだ。
「ん。迷ってた」
「片道2日もあれば行ける距離でしょう!」
「ん~中々遠かったぜ」
「はぁ~~~ッ!!」
あっけらかんとした旅人──ユキの態度に、ティルレッサは大きなため息を吐く。それを見たユキが「ん。幸せが逃げるぜ」と言うが構わない。ティルレッサはこの人の相手をする時が1番憂鬱なのだ。
「あ、僕はもう行きますね。失礼します!」
自分のクエストの事を思い出したファナは、ティルレッサとユキにお辞儀をした後冒険者ギルドを出て行った。その後ろ姿を名残惜しく見つめるティルレッサ。
「ん!礼をするの忘れてた」
「ファナさんなら1時間もすれば戻って来ますよ。その間に素材の処理をしましょう」
「ん。宜しく」
ティルレッサはカウンターに『只今休止中』の立て札を置き、ユキを連れてギルドの裏手へと歩いていった。そこは大型モンスターの解体所である。受付カウンターで取り扱えないモンスターは、この場で解体と買い取りを行うのだ。
「確か『ゲファタイガー』の討伐、でしたっけ」
ユキから『魔法袋』と呼ばれる、袋の中が異空間に繋がり見た目以上の容量を持つ魔道具を受け取りながら、ティルレッサはクエスト内容を確認する。
「ん。それと、蜥蜴と熊ね」
「はぁ······『ニュートラルドラゴン』と『シルバーベア』をそう呼ぶのは貴女様だけですよ」
「ん?それ、褒めてる?」
「えぇ、もちろん」
無駄話をしながら、ティルレッサは魔法袋を解体所の中心に設置した。かなりの広さを誇るこの解体所だが、ユキが狩ってくるモンスターを出せば直ぐに一杯になってしまう。そのため、一体ずつ出して処理していくのだ。
周りにはギルド職員の解体担当がスタンバイしており、今か今かと解体用ナイフを構えている。
「では······『ゲファタイガー』!」
ユキの横へと戻ったティルレッサが、魔力を込めながら言葉を発する。すると、魔法袋から一体の首を無くした巨大な虎が出現した。
その虎は全身黒色で、腕や胴体には赤い筋が通っている。爪は非常に太く鋭い。腕だけで人よりも大きいその巨大な虎は、出逢えば最期。高速で強力な爪と牙に屠られてしまうと言われる、最強にして最凶の虎。
続けて現れたその頭部に、ティルレッサはうっと呻き声を洩らす。その虎の表情は、まるで死んだことに気がついていないかのように、誰かへ対しての威嚇をしたままであったのだ。力を持たない者がその顔を見れば、最悪気絶してしまうだろう。
解体係達は我先にと『ゲファタイガー』の死骸に飛び掛って行ったが。
「ん。そういえばさっきの子······」
「ファナさん、ですか?」
解体が終わるまでは暇となるユキ。解体所に置かれている椅子に腰掛け、用意された飲み物を啜りながらティルレッサに話を振る。
「ん。ファナちゃんね。あとでお礼しないとなぁ」
「ファナさんは受け取ろうとはしませんよ」
「ん~。確かにそういう性格っぽかった」
更に出された茶菓子を口に放り込み、解体する音を楽しみながらお茶を啜る。
「今回は随分と時間が掛かりましたね。彼等、かなりユキ様を心配していましたよ」
彼等とは、今嬉々として化物虎を解体している解体係の皆である。現在は四肢の切り取り作業に笑いながら苦戦している。
「ん~。戦闘自体はサクッと終わったんだけどね。山ん中だから迷っちゃったのさ」
「はぁ······森はエルフのテリトリーでしょう?どうして迷うのですか?」
「ん。知らん」
暑くなったのかユキは被っていたフードを外した。そこから現れたのは、美しい銀髪とエルフの特徴たる長い耳。目を布で覆い隠したエルフの少女である。
「ですから、雑用係の方を雇ってくださいと言っているでしょう?」
「ん。既に5人雇って、5人クビにしている。そんな奴に雇われたい人は居ないっての。それに、ボクに付いてこられる訳ないし」
そう言うと不貞腐れたようにお菓子を口に運び、お茶を飲み干した。それから足を組んでそっぽを向いてしまう。
「はぁ。付いてこられる人なんて、雑用係の方以外でも居ませんよ。もう少し自覚をお持ちになってください」
ユキの食い散らかした食器等を片付けながら、ティルレッサはもう一度ため息を吐いた。
「ユキ様は世界で5人しか居ない、Sランク冒険者なんですから」
ティルレッサの言葉なんて聞く耳を持たず、ユキは新たに出されたお茶を啜りながら、解体が終わるまで無言を貫くのであった。
※ ※ ※
「戻りましたっ。これ、頼まれていた薬草5束です」
ファナは再び飛び出してから1時間と経たずに戻って来ていた。この時間帯は冒険者の数も減り、直ぐに受付の前に着くことができる。
もう馴染んだ空中から布に包まれた薬草を5束、カウンターに綺麗に並べていく。
ティルレッサが直ぐ様鑑定してみれば、一律に最高品質を示している。やはり、まぐれでは無かったのだ。
「······はい。確かに受け取りました。こちらが今回の報酬となります」
「わっ!こんなにですか······?」
渡された額にファナは毎度の如く驚いてしまう。特に今回は、ファナにとって散歩して薬草摘んで帰ってきただけだ。それだけで7万5千マロも、貰っていいのだろうか。
良いのだろう。
最近になって、ようやく聞き返さずに受け取るようになった。これもファナにとっては成長である。
「ん。おかえり、ファナちゃん」
「あれ······あっ、ユキさん、でしょうか?」
突然現れ、ファナに声をかけてきたのは美しい銀髪を持つエルフ。フードを被っておらず、ファナは直ぐには理解できなかったが、声と杖を着いていたことから判断した。
「ん。そうだよ。よく覚えていた。ボクは剣士のユキ······さっきはありがとね。おかげで早く着くことが出来た」
「いえ!感謝される程の事はしてませんから!」
「ん。謙虚だね。ボクはそういとこに感心を持てる」
「あ、ありがとうございます······あっ!ぼ、僕は〈雑用〉のファナです!」
ファナは雑用係として働いていた頃、褒められる機会がなかった。久しぶりに面と向かって、それも美しい異性かは賞賛を貰い、嬉しくもあり気恥ずかしくもあった。
ポリポリと紅くなった頬を掻き、その後慌てて自己紹介するその姿に、心を撃ち抜かれている者が居ることは置いてこう。
「ん。あとね、ちょいと待ってくれ······ティルレッサ。まだ終わらないのか?」
「えっ······あー、終わってました。すみません。これが今回のユキ様の報酬となります」
ユキに急かされたティルレッサは、足下に置いておいた袋をユキへと渡す。1件何も入っていないような小さな布袋。実は、ユキがモンスターを入れている物よりは容量の小さい収納袋である。それは雑貨を入れる用の収納袋。お金もそこへぶち込んでいるのだ。
「ん。あれは?」
「はい。今回も半分はギルドの方にて寄付させていただきますから、ご安心ください」
「ん。了解。······それでファナちゃん······どったの?」
ティルレッサから振り返ってファナを見てみれば、驚愕の表情を浮かべていた。ユキは見えてはいないが、音と匂い、魔力の動きから人の動きを把握出来る。一体、何が起きたというのか。驚くようなことでもあったのだろうか。
「あの······!もしかして、ユキさんは数年前から孤児院等に寄付しているのですか······!?」
「ん?あぁ、まぁ、持ってても無駄だから、ギルドに任せて寄付してるけど」
「やっぱり······あの!ありがとうございました!!」
そして1人納得したと思えば、突然ユキに頭を深く下げた。丁度ギルドの中にはこの3人以外居なかった事が幸いし、他の誰にも見られてはいない。が、突然頭を下げて感謝の言葉を叫んだのだ。2人は揃って驚いてしまう。
「実は僕、孤児院で育ったんです。その孤児院は経営が厳しく、昔からご飯なども満足にありつけませんでした。それが更に悪化して、もう何日もまともに食べれず、餓死寸前までになったそんな時、とある冒険者様の寄付により、なんとか経営を持ち直したんです!そのおかげで僕や兄弟達も死なずに済みました······!このお礼、なんて言ったらいいか······!!本当に、ありがとうございました······!!」
そう。ファナが冒険者を目指した理由は〈雑用〉であったからだけでは無い。彼には〈雑用〉として、他に道が残されていたからだ。冒険者を選んだ理由の1つは、こうして命の恩人である冒険者様にお礼を言いたかったから。憧れる、尊敬する冒険者様と同じようになりたかったからであった。
まるで神様の悪戯のように、ファナは己の夢を現実に出来たのであった。
「ん、おう······ボクは何も考えていなかったから、礼を言うならギルドにね」
ファナの圧には流石のユキも動揺し、とりあえず落ち着かせようと矛先を変える。
「いえ······!もちろんギルドにも御礼の気持ちはあります!けど、どうしてもその冒険者様に御礼を言いたかったんです!今の僕があるのも、全てはユキさんのおかげですから!!」
しかし簡単に変わることはなく、更に熱を持ってユキへと感謝の言葉を発していく。
「ん······ただの気まぐれで始めた事だけど、救われたという話を聞けて嬉しいよ。何となく、この数年分の人生が報われた気もする」
ユキは感謝されるつもりでやったことでは無かった。発言の通り、お金も要らなかったし気まぐれで始めた事だ。それでも、こうして感謝されるとなると、珍しく照れくさそうにしていた。
「あ、あの······!もし、この町で活動をしていらっしゃるなら、困り事があれば是非教えてください!出来る限りの事はなんでもしますから!」
その言葉にいち早く反応したのはティルレッサであった。密かに煩悩をフル回転させていた。
次にユキが反応する。
「ん。君の気持ちはよーく分かった。ありがとう、受け取っておく。けどね、女の子がなんでもします、とか言っちゃダメだよ。ボクがとんでもない命令したら·········ん?またどうしたんだい?」
と、説教のように話していると、ファナがおどおどと手を挙げた。それに気づいたユキは口を止める。
「······あ、あの······僕······男です」
恥ずかしそうにファナは告げる。何度も間違われていたが、今までで一番恥ずかしかった。
「ん?······ははは、冗談言うなよ。目が見えないからって、ボクを揶揄わないで欲しい。匂いと声、手の感触に至るまで、君は女の子そのものだ。騙されないよ」
ユキは自分の視覚以外の五感に絶対の自信があった。長命種であるエルフ。ユキも既に何百年と時を重ねている。その長い人生経験も踏まえた判断。決して、男と女とを間違えるわけが無い。ユキはそう確信している。
「ファナさんは本当に男の娘ですよ。私が保証いたします」
「ん?なんだい。このタイミングでボクを嵌めようと?見えないからって、あのねぇ···」
「見たら余計に女の子何ですけどね」
「············えっ、マジ?」
「大マジです」
ティルレッサの言葉でようやくユキは一考する事にした。仮に、ファナが男性だとしよう。その男性から、とても良い匂いがして、とても可愛らしい声が聞こえて、オマケに手も小さく柔らかいと来た。あれ、とユキの頭が理解を拒み始める。
「ん······確認。確認させてもらおう」
「あぁ、確かに私も確認はしていません。嘘を吐かないような人柄、と言うだけで判断していましたから」
「え、えぇっ!?確認、ですか······?一体何を······?」
ユキがファナにじり寄り、受付カウンターから出てきたティルレッサがファナの両腕を拘束する。ユキに顔を近づけられたファナは緊張してしまい、思わず目を閉じてしまった。
「ん。大丈夫。軽く触るだけだから。それ以上はしない」
ユキは諭すように、優しくファナに声を掛ける。しかし内容にはまったく安心出来る要素がない。
「ま、待ってください!何を触るつもりですか!?」
「ん?そりゃ、男の子に在って女の子に無いもの」
そう言って、ユキはしゃがんでファナのズボンに手をかけた。
「······なっ!?だ、駄目です!そんな汚い物、ユキさんが触れちゃ······っ!」
「ん。さっき言ってた、なんでもする。あの権利を使うと思って、諦めようぜっ」
ファナの言葉に耳を貸さず、ユキは楽しそうにズボンを下ろした。残るは無防備な下着1枚。ファナの人生における、最大のピンチであった。このままでは、男として終わる。
が、抵抗出来ない······
「や、やめてくださいぃぃっ!!?」
情けなく泣き叫び、ファナの無けなしのプライドは崩れ去って行ったのであった。
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