婚約破棄された瞬間、不人気の呪いが解けてモテモテに!?

夏乃みのり

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「さあ、リーフィー嬢。答えを聞かせてもらおうか」

王城の大広間、シャンデリアの輝きの下。

真紅のドレスを纏った私の周りには、目に見えない結界……ではなく、圧倒的なプレッシャーを放つ三人の男たちが壁を作っていた。

「私の手を取れ! その赤いドレス、私の『燃える魂』とペアルックだ!」

右手を差し出すのは、正装の騎士団長ジェラルド。
なぜかタキシードの上から肩パッド(金属製)をつけている。

「いいえ、僕の手を。君の魔力回路を最高効率で循環させるダンスステップを計算済みです」

左手を差し出すのは、漆黒のローブ(礼装用)の宮廷魔導師サイラス。
指先から微弱な電気が走っているのが見える。感電しそうだ。

「ガハハ! 迷う必要はない。俺を選べば、この後のダンスは全て『俺様オンステージ』にしてやる」

正面で腕を組むのは、胸元全開の帝国皇太子レオナルド。
今日も今日とて、装飾品が重そうだ。

会場中の視線が、痛いほど突き刺さる。

「おい、誰を選ぶんだ?」

「やっぱり騎士団長か?」

「いや、帝国の皇太子なら玉の輿だぞ」

貴族たちの賭けの対象になっている気がする。

私は扇子で口元を隠し、冷ややかに三人を一瞥した。

「皆様。私のドレスコードは『真紅』です。ジェラルド様の銀色は浮きますし、サイラス様の黒は地味すぎますし、レオナルド様の金ピカは色が喧嘩します」

「なっ……!?」

「つまり、視覚的な調和(コーディネート)の観点から、どなたも不合格です」

私がバッサリ切り捨てると、三人は「ぐぬぬ」と呻いた。

「し、しかしだリーフィー嬢! パートナーなしで踊るつもりか!?」

「壁の花になるには、君は美しすぎる」

「俺が許さんぞ。女一人で立たせるなんて、男の恥だ」

食い下がる三人。

確かに、王家主催の舞踏会で、主賓がパートナーなしというのは外聞が悪いかもしれない。

しかし、誰か一人を選べば、残り二人が暴れ出すのは目に見えている。

(……どうしたものか)

私がチラリと玉座の方を見ると、国王陛下と王妃様が、楽しそうにワイングラスを傾けていた。

「あらあら、リーフィーさん。モテモテねぇ」

「若者の青春じゃのう。……よし、余は『全員振られる』に金貨10枚」

助ける気ゼロだ。

私は覚悟を決めた。

「分かりました。では、私のパートナーは……」

ゴクリ、と会場中の男たちが喉を鳴らす。

「『私自身』です」

「はい?」

三人がぽかんとする。

「誰の手も借りず、一人で踊ります。ソロダンスです。私のステップについて来られる殿方がいらっしゃらないので、仕方ありませんわ」

私が傲然と言い放つと、会場は一瞬静まり返り、そして爆発的な歓声に包まれた。

「キャーッ! リーフィー様カッコいい!」

「孤高の華だわ!」

「男なんていらないってことね!」

女性陣からの支持率が急上昇した。

ジェラルドたちは肩を落とすかと思いきや、逆に目を輝かせた。

「……くっ、痺れる!」

「一人で立つ姿すら美しい……。やはり君しかいない」

「ハッ、生意気な女だ。だが、そこがいい!」

逆効果だった。

彼らの好感度がさらに上がってしまったようだ。

「……はぁ」

私がため息をついた、その時だった。

「待てぇぇぇい!! 勝手に結論を出すなぁぁ!!」

会場の入り口から、けたたましい声が響き渡った。

「その声は……」

振り返ると、純白のタキシードに身を包んだアラン殿下が、スポットライトを浴びて立っていた。

その顔には、自信満々の笑みが張り付いている。

「アラン様……」

後ろには、げっそりした顔のミナと、数人の召使いたちが、巨大な台車を押して入ってきた。

台車の上には、高さ3メートルはある巨大な物体が、白い布で覆われて鎮座している。

「リーフィー! お前が誰も選ばなかったのは、俺を待っていたからだろう!?」

アランが大股で歩み寄ってくる。

「違います」

「照れるな! 俺は知っているぞ。お前が本当は、ロマンチックな演出に弱いことを!」

「知りません」

「見ろ! これが俺からの、愛の証だ!!」

アランは私の拒絶を完全にスルーし、バッと手を振り上げた。

「ミュージック、スタート!」

パチンと指を鳴らすと、宮廷楽団が(嫌々ながら)壮大なファンファーレを奏で始めた。

そして、アランが勢いよく布を引き下ろした。

「ジャジャーン!!」

現れた物体を見て、会場の空気が凍りついた。

「……何、これ」

私が漏らした言葉は、会場全員の総意だっただろう。

そこに現れたのは、黄金に輝く『巨大なアラン王子の像』だった。

しかも、その像はなぜか翼が生えており、その腕の中に、小さく震える『リーフィー(私)の像』を抱きかかえているという、悪趣味極まりないデザインだった。

台座には『永遠の愛 ~迷える子羊リーフィーを救う聖なる俺~』と刻まれている。

「……」

シーン……。

沈黙。

圧倒的な沈黙が、大広間を支配した。

「どうだリーフィー! 感動しただろう!?」

アランは像の横でポーズを取り、満足げに叫んだ。

「この像のように、俺はいつでもお前を守ってやる! さあ、涙を拭いて俺の胸に飛び込んでこい!」

アランが両手を広げる。

私はゆっくりと視線を像からアランに移し、そして真顔で言った。

「……ジェラルド様」

「なんだ!」

「あの像、叩き割ってもよろしいですか?」

「許可する! むしろ私がやる!」

ジェラルドが即座に剣の柄に手をかけた。

「サイラス様」

「はいはい」

「あの金メッキ、溶かしてただの金塊にできますか?」

「お安い御用です。産業廃棄物として処理しましょう」

「レオナルド殿下」

「おう」

「あの像のモデルになった男、帝国の法律ではどう裁かれますか?」

「『視覚的公害罪』で象に踏ませる刑だな」

三人の殺気が、黄金の像(とアラン)に向けられた。

「えっ? ちょ、待て! なんでだ!?」

アランが慌てて像の前に立ち塞がる。

「これは純金箔だぞ!? 製作費だけで城の改修費くらいかかってるんだぞ! 喜べよ!」

「税金の無駄遣いです!!」

私が叫ぶと同時に、ジェラルドが動いた。

「問答無用! リーフィー嬢の目に毒だ!」

「ひいいっ! 暴力反対!」

アランが逃げ回る。

その拍子に、像にぶつかった。

グラッ……。

バランスを崩した巨大な黄金像が、ゆっくりと倒れていく。

その先には、逃げ遅れたミナと、高価な料理が並ぶビュッフェ台があった。

「あ」

「キャーーッ!」

ガッシャーーーン!!

黄金のアラン像は、チョコレートファウンテンの塔に見事に直撃し、茶色いしぶきを上げながら崩壊した。

ミナは全身チョコレートまみれになり、アランは倒れた像の下敷き(翼の部分が股間にヒット)になって悶絶している。

「ぐ、ぐえぇぇぇ……俺の……ゴールデン……」

大惨事だ。

王家主催の舞踏会が、コント会場と化した瞬間だった。

「……もう、嫌」

私は顔を覆った。

しかし、会場からはパラパラと拍手が起こり、やがて大爆笑と喝采に変わった。

「ブラボー! いい気味だ!」

「最高の余興だ!」

アランのサプライズは、確かに「伝説」として語り継がれることになった。

ただし、「史上最も滑稽な自爆」として。

「さて、リーフィー嬢」

混乱の中、ジェラルドが私に手を差し出した。

「掃除は使用人に任せて、踊ろうか。曲がもったいない」

楽団は、プロ根性で演奏を続けている。

私はチョコレートの海で溺れる元婚約者を見下ろし、ふっと息を吐いた。

「……そうですね。あんなもののために、夜を台無しにするのは癪ですわ」

私は、目の前に差し出された無骨な手を見つめた。

そして、ついにその手を取ろうとした――その時。

「待て。抜け駆けは許さん」

「僕も混ぜてくださいよ」

サイラスとレオナルドも手を差し出す。

私の目の前には、三つの手。

そして始まる、本当の「ダンスパートナー争奪戦(物理)」。

「……もう、三人でジャンケンしてください!」

私の叫び声が、ワルツの調べにかき消されていった。
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