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「……う……ここは、天国か……?」
重い瞼を持ち上げると、そこには信じられないほど真っ白な天井が広がっていた。
森の中の泥だらけの地面とは、あまりにもかけ離れた清潔感。
鼻をくすぐるのは、高級な石鹸と、ほんのりと甘いハーブの香りだ。
「あら、お目覚めかしら? 思っていたより三十分も早い復帰ですわね。あなたの生命力、なかなかセンスがありますわ」
横から降ってきた、鈴を転がすような、けれどマシンガンのような勢いのある声。
首を巡らせると、そこには一人の少女が立っていた。
燃えるような赤い髪をサイドにまとめ、自信に満ち溢れた瞳でこちらを見下ろしている。
森で自分に「水」をぶっかけた、あの……。
「君は……。……助けてくれたのか。私はレオ、……レオナルトだ」
「レオナルト様ね。覚えやすくていい名前だわ。私はこの館の主、キキ・フォン・ボルドーよ」
私は彼のベッドサイドに歩み寄り、失礼のない程度の距離で、じっくりとその顔を観察した。
昨日の泥が落ちた彼の素顔は、やはり期待を裏切らない「逸材」だった。
「……何だ、その目は。私の顔に、何か付いているか?」
「ええ、付いていますわ。絶望的なほどの『乾燥』と、お手入れ不足による『毛穴の嘆き』がね! アンナ、例の特注スチーマーを持ってきて!」
「はい、お嬢様。準備万端でございます」
影のように控えていたアンナが、魔法具を搭載した奇妙な装置を運び込んできた。
レオナルトは、見たこともない機械を向けられ、目に見えて動揺している。
「待て、それは何だ! 私はただの旅の者だ、そんな怪しげな術を……」
「黙りなさい! 旅の者だろうが隣国の間諜だろうが、私の目の前にいる以上、その『ボロボロの肌』は許されませんわ! いい? 男の身だしなみは、未来の国力に直結するのです!」
「意味が分からん! 私は男だぞ、肌のことなど……」
「その考えがすでにダサいですわ! 見てちょうだい、あなたのその銀髪。手入れをすれば月光のように輝くはずなのに、今はただの野良猫の尻尾のよう。そんな状態で私の館に寝そべられるのは、インテリアに対する冒涜です!」
私はレオナルトの抵抗を華麗にスルーし、魔法のスチームを彼の顔に噴射した。
温かな蒸気が、彼の強張った表情を強制的に解きほぐしていく。
「ふ……、ふう……。……これは、温かいな」
「そうでしょう? さあ、次は私の特製パックよ。辺境で見つけた薬草と、最高級のはちみつをブレンドしたの。アンナ、塗りなさい!」
「かしこまりました。レオナルト様、失礼いたします。……動くと、目に入って激痛が走りますのでご注意を」
「おい、パック!? 顔を緑色にするのか!? やめろ、私はこれでも……うぐっ」
抵抗も虚しく、レオナルトの顔はアンナの手によって、またたく間に緑色の泥に覆われていった。
最強の剣士と謳われ、隣国で恐れられている大公が、今やベッドの上でシュールな姿を晒している。
「おほほ! いいわ、いいわよレオナルト様! その緑色の奥に、秘められた美しさが今にも爆発しそうだわ!」
「……君は、一体何なんだ。追放された公爵令嬢だと聞いたが、そんな、楽しそうに笑うものなのか?」
パックの隙間から、彼が不思議そうな声を出した。
私は窓際の椅子に腰掛け、優雅に扇を広げる。
「楽しいに決まっているじゃない。王都では、私のこの『美学』は理解されませんでしたの。みんな、型にハマった古臭い流行を追いかけてばかりで、本当の個性を磨こうとしないんですもの。でもここは違う」
私は、まだリフォーム途中の庭を指さした。
「ここは真っ白なキャンバスよ。私が好きなように、世界で一番美しくて、笑える場所に変えていくの。あなたもその一部。拾ったからには、私の最高傑作になってもらわなければ困りますわ」
「……最高傑作、か。フッ……ハハハ……!」
レオナルトが、突然声を上げて笑い出した。
顔面がパックで固まっているので、笑うたびにパラパラと緑の破片が落ちている。
「笑い事ではありませんわよ! パックが割れるじゃない!」
「すまない。……いや、面白い女だとは聞いていたが、想像以上だった。……キキ、だったか。私は、君のその『リフォーム』とやらに興味が湧いた」
「あら、なら話は早いわね。とりあえず、そのパックを流したら、次はファッションチェックよ。あなたが着ていたボロ服は、すでにアンナが裏庭で焼却処分しましたから」
「焼却……!? あれは私の国の伝統的な……!」
「伝統よりトレンドですわ! さあ、新しい人生の始まりよ、レオナルト様!」
私は立ち上がり、彼に手を差し伸べた。
パックを洗い流した後の彼の顔が、一体どれほど輝いているのか。
私はワクワクしながら、新しい「おもちゃ」……もとい、パートナーの変身を見守ることにした。
重い瞼を持ち上げると、そこには信じられないほど真っ白な天井が広がっていた。
森の中の泥だらけの地面とは、あまりにもかけ離れた清潔感。
鼻をくすぐるのは、高級な石鹸と、ほんのりと甘いハーブの香りだ。
「あら、お目覚めかしら? 思っていたより三十分も早い復帰ですわね。あなたの生命力、なかなかセンスがありますわ」
横から降ってきた、鈴を転がすような、けれどマシンガンのような勢いのある声。
首を巡らせると、そこには一人の少女が立っていた。
燃えるような赤い髪をサイドにまとめ、自信に満ち溢れた瞳でこちらを見下ろしている。
森で自分に「水」をぶっかけた、あの……。
「君は……。……助けてくれたのか。私はレオ、……レオナルトだ」
「レオナルト様ね。覚えやすくていい名前だわ。私はこの館の主、キキ・フォン・ボルドーよ」
私は彼のベッドサイドに歩み寄り、失礼のない程度の距離で、じっくりとその顔を観察した。
昨日の泥が落ちた彼の素顔は、やはり期待を裏切らない「逸材」だった。
「……何だ、その目は。私の顔に、何か付いているか?」
「ええ、付いていますわ。絶望的なほどの『乾燥』と、お手入れ不足による『毛穴の嘆き』がね! アンナ、例の特注スチーマーを持ってきて!」
「はい、お嬢様。準備万端でございます」
影のように控えていたアンナが、魔法具を搭載した奇妙な装置を運び込んできた。
レオナルトは、見たこともない機械を向けられ、目に見えて動揺している。
「待て、それは何だ! 私はただの旅の者だ、そんな怪しげな術を……」
「黙りなさい! 旅の者だろうが隣国の間諜だろうが、私の目の前にいる以上、その『ボロボロの肌』は許されませんわ! いい? 男の身だしなみは、未来の国力に直結するのです!」
「意味が分からん! 私は男だぞ、肌のことなど……」
「その考えがすでにダサいですわ! 見てちょうだい、あなたのその銀髪。手入れをすれば月光のように輝くはずなのに、今はただの野良猫の尻尾のよう。そんな状態で私の館に寝そべられるのは、インテリアに対する冒涜です!」
私はレオナルトの抵抗を華麗にスルーし、魔法のスチームを彼の顔に噴射した。
温かな蒸気が、彼の強張った表情を強制的に解きほぐしていく。
「ふ……、ふう……。……これは、温かいな」
「そうでしょう? さあ、次は私の特製パックよ。辺境で見つけた薬草と、最高級のはちみつをブレンドしたの。アンナ、塗りなさい!」
「かしこまりました。レオナルト様、失礼いたします。……動くと、目に入って激痛が走りますのでご注意を」
「おい、パック!? 顔を緑色にするのか!? やめろ、私はこれでも……うぐっ」
抵抗も虚しく、レオナルトの顔はアンナの手によって、またたく間に緑色の泥に覆われていった。
最強の剣士と謳われ、隣国で恐れられている大公が、今やベッドの上でシュールな姿を晒している。
「おほほ! いいわ、いいわよレオナルト様! その緑色の奥に、秘められた美しさが今にも爆発しそうだわ!」
「……君は、一体何なんだ。追放された公爵令嬢だと聞いたが、そんな、楽しそうに笑うものなのか?」
パックの隙間から、彼が不思議そうな声を出した。
私は窓際の椅子に腰掛け、優雅に扇を広げる。
「楽しいに決まっているじゃない。王都では、私のこの『美学』は理解されませんでしたの。みんな、型にハマった古臭い流行を追いかけてばかりで、本当の個性を磨こうとしないんですもの。でもここは違う」
私は、まだリフォーム途中の庭を指さした。
「ここは真っ白なキャンバスよ。私が好きなように、世界で一番美しくて、笑える場所に変えていくの。あなたもその一部。拾ったからには、私の最高傑作になってもらわなければ困りますわ」
「……最高傑作、か。フッ……ハハハ……!」
レオナルトが、突然声を上げて笑い出した。
顔面がパックで固まっているので、笑うたびにパラパラと緑の破片が落ちている。
「笑い事ではありませんわよ! パックが割れるじゃない!」
「すまない。……いや、面白い女だとは聞いていたが、想像以上だった。……キキ、だったか。私は、君のその『リフォーム』とやらに興味が湧いた」
「あら、なら話は早いわね。とりあえず、そのパックを流したら、次はファッションチェックよ。あなたが着ていたボロ服は、すでにアンナが裏庭で焼却処分しましたから」
「焼却……!? あれは私の国の伝統的な……!」
「伝統よりトレンドですわ! さあ、新しい人生の始まりよ、レオナルト様!」
私は立ち上がり、彼に手を差し伸べた。
パックを洗い流した後の彼の顔が、一体どれほど輝いているのか。
私はワクワクしながら、新しい「おもちゃ」……もとい、パートナーの変身を見守ることにした。
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