婚約破棄? 結構です! ついでにこの国のダサいセンスも断捨離!

夏乃みのり

文字の大きさ
12 / 28

12

しおりを挟む
「お嬢様、大変です。王都から『王宮専属ファッション評論家』を名乗る人物が、この領地に到着いたしました。マリア様の差し金のようです」


アンナが持ってきた名刺には、金文字で『バロン・ド・ダサール』と記されていた。
名前からしてすでに不穏な空気が漂っているわね。


「あら、評論家様? わざわざこんな辺境まで、私のセンスに指導を仰ぎに来たのかしら。殊勝な心がけですわね」


「いいえ、お嬢様。彼は『辺境の野蛮な衣類が王都の風紀を乱している』として、公式な抗議と視察を目的としているようです」


私は鏡の前で新作の帽子を試着しながら、ふっと口角を上げた。
抗議? 視察? 上等ですわ。
退屈な準備期間に、ちょうどいい「サンドバッグ」が向こうから歩いてきてくれたんですもの。


「お通ししてちょうだい。それとレオナルト様、出番ですわよ! あなたのその『歩く芸術品』としての実力を見せつけて差し上げなさい!」


「……やれやれ。今度は評論家相手にか。私の大公としての威厳は、もはやキキの私物だな」


隣の部屋から、呆れ顔のレオナルト様が登場した。
今の彼は、私がデザインした「夜空の静寂(しじま)」と名付けた、深い紺色の軍服風ジャケットを纏っている。
立ち姿だけで銀河を支配できそうな神々しさだわ。


応接室へ向かうと、そこには派手な羽飾りのついた帽子を被り、やたらと大きなモノクル(片眼鏡)をかけた男が、踏んぞり返って座っていた。


「ふん、君が追放されたボルドー家の娘か。私はバロン・ド・ダサール。王宮の流行を司る、美の守護者だ」


「あら、美の守護者? その格好でよく仰いましたわね。その帽子の羽、もしかして今朝ゴミ捨て場で拾ったカラスの羽かしら?」


「な、何を! これは南国の希少な鳥の……!」


「色のバランスが絶望的ですわ。その毒々しい紫色のジャケットに、その羽。まるで『食中毒を起こしたクジャク』にしか見えませんわよ。バロン様、鏡とお友達になることをお勧めしますわ」


バロンは顔を真っ赤にし、プルプルと震えながらモノクルを直した。


「貴様……! 追放者の分際で、私の完璧なコーディネートに難癖をつけるとは! 殿下とマリア様が仰った通り、ここは野蛮な魔窟だ! こんなところでファッションショーなど、国家の恥晒しだ!」


「恥晒し? いいえ、これは『啓蒙』ですわ。バロン様、そんなに自信がおありなら、あちらに立っている私のモデルをご覧になってはいかが?」


私は扉の影に控えていたレオナルト様に、優雅に手招きをした。


「……失礼する」


レオナルト様が一歩、部屋に足を踏み入れる。
その瞬間、バロンの持っていた杖が床に落ちて、乾いた音を立てた。
モノクルが目から外れ、彼の口はあんぐりと開いたまま塞がらない。


「……な、なんだ。この、圧倒的な『正解』は……」


「いかが? バロン様。これが辺境のウールと、私のセンス、そしてこの方の『素材の暴力』が合わさった結果ですわ。あなたのその、古臭いマニュアルに載っている『美』とは、次元が違うと思いませんこと?」


「ありえん……。辺境に、これほどまでの仕立てができる職人がいるはずが……。それにこの男、一体何者だ!? この気品、王都のどの貴族も足元に及ばぬ……!」


「彼は私の大事なビジネスパートナーですわ。さて、バロン様。あなたは『視察』に来たのでしたわね? なら、徹底的に見ていってくださいな。私のセンスが、いかにしてこの『グレーの世界』を塗り替えていくのかを!」


私はバロンの胸元に、一輪の洗練された青いコサージュを突き刺した。


「とりあえず、その死んだカラスの羽は没収ですわ。このコサージュでもつけて、少しは『今』という時代の空気を感じなさい。さあ、アンナ! 彼をリハーサル会場へ案内して!」


「かしこまりました。バロン様、足元にご注意を。お嬢様のセンスに当てられて、知恵熱を出さないようにお気をつけくださいね」


「ま、待て! 私はまだ納得したわけでは……う、美しい……この青色、どうやって出したのだ……」


バロンは文句を言いながらも、コサージュの色彩に目を奪われ、ふらふらとアンナに連行されていった。


「……また一人、被害者が増えたな」


レオナルト様が、少しだけ楽しそうに呟いた。


「被害者だなんて失礼ね。彼は今、人生で最も幸福な『洗脳』を受けている最中ですわ。さあ、レオナルト様。評論家を味方につければ、王都への宣伝効果は倍増です。ファッションショーの本番、さらに気合を入れていきますわよ!」


「ああ、分かったよ。……君の隣にいると、世界が退屈する暇がなくていい」


レオナルト様が、不意に私の髪に触れ、優しく微笑んだ。
……あら? 今の表情、今の距離感。
リフォームの計画表にはなかった、妙な「動悸」が私を襲ったけれど、私はそれを「創作への情熱」だと思い込むことにして、全力で高笑いをした。


王都の皆さん、刺客は大成功(私にとって)でしたわ!
本番のランウェイで、腰を抜かす準備はできていて?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

第一王子と見捨てられた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
アナトール公爵令嬢のマリアは婚約者である第一王子のザイツからあしらわれていた。昼間お話することも、夜に身体を重ねることも、なにもなかったのだ。形だけの夫婦生活。ザイツ様の新しい婚約者になってやろうと躍起になるメイドたち。そんな中、ザイツは戦地に赴くと知らせが入った。夫婦関係なんてとっくに終わっていると思っていた矢先、マリアの前にザイツが現れたのだった。 お読みいただきありがとうございます。こちらの話は24話で完結とさせていただきます。この後は「第一王子と愛された公爵令嬢」に続いていきます。こちらもよろしくお願い致します。

処理中です...