婚約破棄? 結構です! ついでにこの国のダサいセンスも断捨離!

夏乃みのり

文字の大きさ
13 / 28

13

しおりを挟む
「お嬢様、王都からの定期便がパンク状態です。ファッションショーを一目見ようと、商人のみならず、退屈を持て余した貴族たちまでが押し寄せております」


アンナが持ってきたリストには、王都の名だたる名家が名を連ねていた。
私は鏡の前で、自分自身の最終チェックを行う。
今日の私は、辺境の特産「シャイニー・ウール」を惜しみなく使った、深紅のイブニングドレス。
動きに合わせて銀色の糸がキラキラと跳ね、まるで火の粉を纏っているようだわ。


「いいわ、アンナ。観客が多ければ多いほど、私の『洗脳』……いえ、啓蒙は捗りますもの。バロン様、準備はいかが?」


「おお、キキ様! 完璧です! 私のこの『魂のコサージュ』も、かつてのカラスの羽が嘘のように輝いておりますぞ!」


数日前まで刺客だったバロン様は、今やキキ・フォン・ボルドーの熱狂的な信者兼、ショーの演出助手として走り回っていた。
彼のセンスは相変わらず独特だが、情熱だけは本物ね。


「レオナルト様、緊張なさっています? あなたのその端正なお顔が少し強張っていて、それもまた『禁欲的な美しさ』としてポイントが高いですわよ」


私は舞台袖に立つレオナルト様に歩み寄り、彼の襟元を直してあげた。
今日の彼は、この領地の夜空をイメージした「スターライト・タキシード」。
シャイニー・ウールの光沢が、彼の銀髪と溶け合って、人間というよりは降臨した神様のように見える。


「……緊張というより、この状況をどう受け止めるべきか迷っているだけだ。私は隣国の大公で、君は追放された令嬢……。それがなぜ、辺境の村でランウェイを歩くことになっているのか」


「それを考えること自体がセンスの無駄遣いですわ! あなたはただ、そこに存在し、歩き、微笑む。それだけで世界は救われる……少なくとも、私の懐(ふところ)は潤いますわ!」


「……君のその、揺るぎない商魂には敬服するよ」


レオナルト様が苦笑し、不意に私の手を取って、その甲に軽く唇を寄せた。
……あら? また心臓がリフォームを求めて激しく鼓動しているわ。


「キキ、君が描いたこの『新しい景色』。最後まで見届けさせてもらうよ」


「え、ええ……。当たり前ですわ! ……さあ、音楽を鳴らして! 革命の始まりですわよ!」


重厚な扉が開くと同時に、バドさんたちが開発した「魔力駆動のスポットライト」が、真っ暗な会場を貫いた。
会場となった領主館の大広間は、王都からのゲストたちで超満員だ。
誰もが「辺境の田舎芝居」を鼻で笑うつもりで来たのだろう。
だが、音楽が鳴り響き、レオナルト様が第一歩を踏み出した瞬間、会場の空気が凍りついた。


「……な、なんだ、あの方は……!? あの布地、あんな輝き見たことがない!」


「あれが本当にウールなの!? まるで絹のような光沢、そしてあの仕立ての良さ……!」


観客席から、絶叫に近い溜息が漏れる。
レオナルト様が堂々とランウェイを歩くたびに、女性たちは胸を抑えて崩れ落ち、商人たちは血走った目で生地の質感を分析している。


「見て、あのボタン! 辺境の石を磨き上げたものだわ! なんて贅沢な……!」


「隣国の大公閣下が、なぜあんなに美しく……。王都のセドリック殿下とは比べものにならないわ!」


私の耳には、王都の流行が塗り替えられる音が聞こえるようだったわ。
ショーの最後、私がレオナルト様の隣に並んで登場すると、会場の熱狂は最高潮に達した。


「皆さま、ごきげんよう! ボルドー辺境へようこそ!」


私は扇を優雅に広げ、圧倒的な自信を纏って微笑んだ。


「この地に『ダサい』は存在しません。あるのは、無限の可能性と、私の美学だけ。王都の流行に飽き飽きした皆さま。今すぐその古臭い服を脱ぎ捨てて、私たちの『新しい色』に染まりたいとは思いませんこと?」


「キキ様! そのドレス、譲ってください!」


「あの石鹸も、この生地も、全部買い占めますわ!」


金貨の雨が降る予感がした。
ふと横を見ると、レオナルト様が私を見て、優しく、そして誇らしげに微笑んでいた。
その視線が何よりも熱くて、私は思わず顔を背けてしまったけれど。


「おーっほっほっほ! 大成功ですわ! アンナ、今すぐ受注リストを二倍に増やしてちょうだい!」


「かしこまりました、お嬢様。……ところで、客席の後ろで変装して泣いている、ナスビのような頭をした男性はどうしましょうか?」


「……あら、そんなゴミは放置しておきなさいな。美しさに触れる資格もありませんわ」


どうやら、あのセドリック殿下もこっそり忍び込んでいたようね。
彼が見たのは、かつての婚約者の、彼の手には決して負えないほど輝かしい姿。
最高の復讐は、こうして「美しく、楽しく、豊かに」笑うことなんですわ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

第一王子と見捨てられた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
アナトール公爵令嬢のマリアは婚約者である第一王子のザイツからあしらわれていた。昼間お話することも、夜に身体を重ねることも、なにもなかったのだ。形だけの夫婦生活。ザイツ様の新しい婚約者になってやろうと躍起になるメイドたち。そんな中、ザイツは戦地に赴くと知らせが入った。夫婦関係なんてとっくに終わっていると思っていた矢先、マリアの前にザイツが現れたのだった。 お読みいただきありがとうございます。こちらの話は24話で完結とさせていただきます。この後は「第一王子と愛された公爵令嬢」に続いていきます。こちらもよろしくお願い致します。

処理中です...