14 / 28
14
しおりを挟む
「おーっほっほっほ! 見てちょうだいアンナ! 金貨の重みで机が少ししなっているわ! これこそが真の『重厚感のあるインテリア』というものですわね!」
ファッションショーから一週間。
領主館の執務室は、もはや「銀行の支店」と化していた。
王都のみならず、近隣諸国の商会からも「シャイニー・ウールを独占契約したい」「レオナルト様の等身大看板を譲れ」という、熱狂的な(一部変態的な)手紙が山積みにされている。
「お嬢様、喜びの舞を踊っているところ恐縮ですが、この金貨の山を整理しないと、床が抜けて下の階のガンターさんを押し潰すことになります」
アンナが冷徹に、帳簿をパチンと閉じた。
「いいのよアンナ、幸せな事故だわ。……さて、レオナルト様。次はいよいよ、あなたの美貌をフル活用した『おやすみからおはようまで、あなたをトータルプロデュースする高級寝具セット』の撮影に入りますわよ!」
私は隣のソファで、すっかりモデルポーズが板についたレオナルト様に声をかけた。
だが、彼はいつもと違い、手元に届いた一通の手紙を険しい顔で見つめていた。
「……キキ。残念だが、その撮影とやらは延期にしてもらわなければならないようだ」
「延期? 私の辞書にそんな『不効率』な言葉はありませんわ。一体何事ですの?」
「私の国……ザイン大公領からだ。大公が行方不明のまま、王都で石鹸のポスターが貼り出されたことで、家臣たちがパニックに陥っているらしい。『我が主が、隣国の辺境で半裸に近い格好(ただのブラウスですわ)で微笑んでいるとはどういうことだ!』と、騎士団がこちらに向かっているそうだ」
「あら、ファンクラブの結成かしら? 熱心なことですわね」
「キキ様、冗談を言っている場合ではありません。国境付近にザイン大公領の精鋭騎士団が集結しております。目的は大公閣下の『奪還』……最悪の場合、この領地が戦火に包まれます」
アンナの言葉に、私はようやく扇を閉じた。
……戦火? 冗談ではありませんわ。
せっかくリフォームしたばかりのこの館に、泥靴で騎士たちが踏み込んでくるなんて、私の美学が許さない!
「レオナルト様。つまりあなたは、私に黙って帰国なさるつもり?」
「……いや。だが、私は大公だ。これ以上、君の『おもちゃ』として甘んじているわけにはいかない。国を守る責任がある」
レオナルト様の声は低く、そしてどこか寂しげだった。
彼は立ち上がり、私の方へと歩み寄る。
磨き上げた肌、整えられた髪。今の彼は、私が一から作り上げた「最高傑作」だ。
「キキ。君と過ごしたこの時間は、私の人生で最も……馬鹿げた、けれど最も鮮やかな日々だった。君のセンスは、世界を変える力がある。……だが、私は行かなければならない」
彼の手が私の頬に触れようとして、途中で止まった。
……何よ、その「悲劇のヒーロー」みたいな顔。
ちっとも、ちっともセンスがよろしくありませんわ!
「待ちなさい、レオナルト様。誰が『帰っていい』と言いました?」
「……キキ?」
「騎士団が来ている? 結構じゃない! ちょうど新しいドレスの『耐久テスト』をする相手が欲しかったところですわ。アンナ! バドさんに伝えて。例の『魔力駆動式・全自動ファッション・キャノン』の準備を!」
「……お嬢様。それは、布地を高速で射出して、相手を無理やり着替えさせるという、あの狂気の兵器ですか?」
「狂気とは失礼な! 『強制スタイリング・マシン』と呼びなさい! レオナルト様、あなたを奪還しに来たというのなら、返り討ちにして全員『レオナルト様とお揃いの制服』に着替えさせてあげますわ!」
レオナルト様が、目を見開いて絶句した。
……いいえ、少しだけ、本当に少しだけ、嬉しそうに口角を上げたのを私は見逃さなかったわ。
「……君は、本当に……。武力ではなく『センス』で戦争を止めようというのか?」
「当然ですわ。血で汚れた戦場なんて、この世で一番ダサい光景ですもの。戦場を『屋外ランウェイ』に変えて差し上げますわよ! おーっほっほっほ!」
私は高らかに笑い、窓の外を睨みつけた。
国境の向こうに見える、厳つい鎧を纏った男たちの群れ。
彼らがこの領地に足を踏み入れた瞬間、彼らの人生史上、最もファッショナブルで衝撃的な体験をさせてあげるんだから!
「レオナルト様。あなたには、最前線で最高の微笑みを振りまいていただきますわ。それが、私の軍師としての第一命令です!」
「……了解した、キキ。君の指揮に従おう」
こうして、辺境は再び騒がしくなり始めた。
隣国の騎士団対、暴走する悪役令嬢。
愛と美の防衛戦が、今まさに幕を開けようとしていたのである。
ファッションショーから一週間。
領主館の執務室は、もはや「銀行の支店」と化していた。
王都のみならず、近隣諸国の商会からも「シャイニー・ウールを独占契約したい」「レオナルト様の等身大看板を譲れ」という、熱狂的な(一部変態的な)手紙が山積みにされている。
「お嬢様、喜びの舞を踊っているところ恐縮ですが、この金貨の山を整理しないと、床が抜けて下の階のガンターさんを押し潰すことになります」
アンナが冷徹に、帳簿をパチンと閉じた。
「いいのよアンナ、幸せな事故だわ。……さて、レオナルト様。次はいよいよ、あなたの美貌をフル活用した『おやすみからおはようまで、あなたをトータルプロデュースする高級寝具セット』の撮影に入りますわよ!」
私は隣のソファで、すっかりモデルポーズが板についたレオナルト様に声をかけた。
だが、彼はいつもと違い、手元に届いた一通の手紙を険しい顔で見つめていた。
「……キキ。残念だが、その撮影とやらは延期にしてもらわなければならないようだ」
「延期? 私の辞書にそんな『不効率』な言葉はありませんわ。一体何事ですの?」
「私の国……ザイン大公領からだ。大公が行方不明のまま、王都で石鹸のポスターが貼り出されたことで、家臣たちがパニックに陥っているらしい。『我が主が、隣国の辺境で半裸に近い格好(ただのブラウスですわ)で微笑んでいるとはどういうことだ!』と、騎士団がこちらに向かっているそうだ」
「あら、ファンクラブの結成かしら? 熱心なことですわね」
「キキ様、冗談を言っている場合ではありません。国境付近にザイン大公領の精鋭騎士団が集結しております。目的は大公閣下の『奪還』……最悪の場合、この領地が戦火に包まれます」
アンナの言葉に、私はようやく扇を閉じた。
……戦火? 冗談ではありませんわ。
せっかくリフォームしたばかりのこの館に、泥靴で騎士たちが踏み込んでくるなんて、私の美学が許さない!
「レオナルト様。つまりあなたは、私に黙って帰国なさるつもり?」
「……いや。だが、私は大公だ。これ以上、君の『おもちゃ』として甘んじているわけにはいかない。国を守る責任がある」
レオナルト様の声は低く、そしてどこか寂しげだった。
彼は立ち上がり、私の方へと歩み寄る。
磨き上げた肌、整えられた髪。今の彼は、私が一から作り上げた「最高傑作」だ。
「キキ。君と過ごしたこの時間は、私の人生で最も……馬鹿げた、けれど最も鮮やかな日々だった。君のセンスは、世界を変える力がある。……だが、私は行かなければならない」
彼の手が私の頬に触れようとして、途中で止まった。
……何よ、その「悲劇のヒーロー」みたいな顔。
ちっとも、ちっともセンスがよろしくありませんわ!
「待ちなさい、レオナルト様。誰が『帰っていい』と言いました?」
「……キキ?」
「騎士団が来ている? 結構じゃない! ちょうど新しいドレスの『耐久テスト』をする相手が欲しかったところですわ。アンナ! バドさんに伝えて。例の『魔力駆動式・全自動ファッション・キャノン』の準備を!」
「……お嬢様。それは、布地を高速で射出して、相手を無理やり着替えさせるという、あの狂気の兵器ですか?」
「狂気とは失礼な! 『強制スタイリング・マシン』と呼びなさい! レオナルト様、あなたを奪還しに来たというのなら、返り討ちにして全員『レオナルト様とお揃いの制服』に着替えさせてあげますわ!」
レオナルト様が、目を見開いて絶句した。
……いいえ、少しだけ、本当に少しだけ、嬉しそうに口角を上げたのを私は見逃さなかったわ。
「……君は、本当に……。武力ではなく『センス』で戦争を止めようというのか?」
「当然ですわ。血で汚れた戦場なんて、この世で一番ダサい光景ですもの。戦場を『屋外ランウェイ』に変えて差し上げますわよ! おーっほっほっほ!」
私は高らかに笑い、窓の外を睨みつけた。
国境の向こうに見える、厳つい鎧を纏った男たちの群れ。
彼らがこの領地に足を踏み入れた瞬間、彼らの人生史上、最もファッショナブルで衝撃的な体験をさせてあげるんだから!
「レオナルト様。あなたには、最前線で最高の微笑みを振りまいていただきますわ。それが、私の軍師としての第一命令です!」
「……了解した、キキ。君の指揮に従おう」
こうして、辺境は再び騒がしくなり始めた。
隣国の騎士団対、暴走する悪役令嬢。
愛と美の防衛戦が、今まさに幕を開けようとしていたのである。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす
三谷朱花
恋愛
ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。
ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。
伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。
そして、告げられた両親の死の真相。
家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。
絶望しかなかった。
涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。
雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。
そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。
ルーナは死を待つしか他になかった。
途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。
そして、ルーナがその温もりを感じた日。
ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
第一王子と見捨てられた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
アナトール公爵令嬢のマリアは婚約者である第一王子のザイツからあしらわれていた。昼間お話することも、夜に身体を重ねることも、なにもなかったのだ。形だけの夫婦生活。ザイツ様の新しい婚約者になってやろうと躍起になるメイドたち。そんな中、ザイツは戦地に赴くと知らせが入った。夫婦関係なんてとっくに終わっていると思っていた矢先、マリアの前にザイツが現れたのだった。
お読みいただきありがとうございます。こちらの話は24話で完結とさせていただきます。この後は「第一王子と愛された公爵令嬢」に続いていきます。こちらもよろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる