婚約破棄?ナニソレ美味しいの?あ、美味しかったです

夏乃みのり

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4話

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伝説の執事グレイソンが仲間になってから、私の悠々自適ライフ計画は、恐るべき速さで進み始めた。

「お嬢様、本日のご予定です。午前中は王都の視察を。午後は今後の拠点となる邸宅の候補をいくつか見て回ります」

「わかったわ。視察の準備をお願い」

「はっ。すでにご用意しております」

グレイソンの手配は、まさに完璧の一言だった。
私がお忍びで街に出ると言えば、誰も公爵令嬢とは気づかないような、質素だが清潔な町娘の服と、顔を隠すためのフード付きのマントを用意してくれる。

「すごいわ、グレイソン。これなら誰にも気づかれないわね」

「お褒めにいただき光栄です。さあ、お嬢様、参りましょう」

グレイソンもまた、目立たない商人のような服装に着替えている。二人で質素な馬車に乗り込み、私たちは王都の商業地区へと向かった。

公爵令嬢としてではなく、一人の娘として街を歩くのは初めての経験だった。
市場には活気のある声が飛び交い、スパイスの刺激的な香りや、焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂ってくる。貴族のパーティーで出される洗練された料理とは違う、素朴で力強い食べ物の匂いに、私は思わずお腹を鳴らしそうになった。

「ふふ、面白いわ。知らないことばかりね」

「お嬢様が楽しまれているようで、何よりでございます」

グレイソンは私の少し後ろを歩きながら、常に周囲への警戒を怠らない。さすがは伝説の執事だ。

しばらく歩いていると、一軒の小さな屋台の前で、人だかりができているのが見えた。甘くて、香ばしい、何かを焦がしたような匂いが漂ってくる。

「あれは何かしら?」

「さあ……私も初めて見る屋台ですな。確認してまいります」

グレイソンが人混みをかき分けて戻ってくると、その手には小さな陶器の器が二つあった。

「クレーム・ブリュレ、というそうです。どうぞ、お嬢様」

「クレーム・ブリュレ……」

受け取った器の中には、なめらかなカスタードプリンのようなものが入っており、その表面が、美しい飴色に焦がされていた。
スプーンで表面をコンコンと叩くと、カラメルがパリッと割れる心地よい音がする。

そして、一口。

「……!」

私は衝撃を受けた。
なめらかで濃厚なカスタードの甘さと、ほろ苦く香ばしいカラメルの食感。今まで食べたどんな高級菓子よりも、私の心を鷲掴みにした。

「おいしい……! こんなに美味しいお菓子、初めて食べたわ……!」

私は夢中でスプーンを動かし、あっという間に器を空にしてしまった。

「お気に召したようで」

グレイソンが穏やかに微笑む。

「気に入ったなんてもんじゃないわ! 決めた。私、このお菓子を作るパティシエをスカウトする!」

私の突拍子もない宣言に、グレイソンは少し目を見開いたが、すぐにいつもの冷静な表情に戻った。

「承知いたしました。早速、このパティシエについて調査を開始いたします」

「ええ、お願いするわ! どんな手を使ってでも、彼を私の専属にするのよ!」

私の脳内では、既に新しい計画が動き出していた。
このクレーム・ブリュレを武器にすれば、社交界に新しい風を吹かせることができるかもしれない。

こうして、私の悠々自適ライフ計画は、思いがけない出会いによって、新たなステージへと進むことになったのだった。
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