婚約破棄?ナニソレ美味しいの?あ、美味しかったです

夏乃みのり

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5話

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クレーム・ブリュレとの衝撃的な出会いから二日後。
グレイソンは、例のパティシエに関する調査結果を私の元へ持ってきた。

「お嬢様、例の件、判明いたしました」

「早かったわね。さすがだわ、グレイソン」

「彼の名はピエール。かつては次期宮廷菓子料理長とまで呼ばれたほどの天才でございました」

グレイソンの報告書に目を通すと、そこにはピエールという男の波乱万丈な人生が記されていた。
彼は若くしてその才能を開花させたが、貴族社会の古いしきたりや体質を嫌い、有力貴族と衝突。結果、菓子職人のギルドから追放され、表舞台から姿を消したらしい。

「なるほど。才能はあるけれど、性格に難あり、というわけね」

「その通りでございます。現在彼は、王都の裏通りにある酒場で働きながら、多額の借金の返済に追われているとのこと。例の屋台は、借金返済のための副業のようで」

崖っぷちの天才。実にそそられるじゃない。

「わかったわ。その酒場へ案内してちょうだい。私が直接、彼と話をする」

「しかしお嬢様、そのような場所は危険が…」

「心配ないわ。あなたがいるもの」

私の言葉に、グレイソンは深いため息をつきながらも、「承知いたしました」と頭を下げた。

その日の夜、私とグレイソンは、王都の裏通りにある薄暗い酒場を訪れた。
中に入ると、むっとするような酒の匂いと、荒くれ者たちの騒がしい声が私たちを迎える。

店の奥の厨房で、仏頂面で皿を洗っている男がいた。赤毛で、目つきが鋭い。彼がピエールね。

「あなたがピエール?」

私が声をかけると、彼は面倒くさそうに顔を上げた。

「あぁ? なんだ、嬢ちゃん。こんなとこ、お前さんみたいなのが来るとこじゃねえぞ」

彼は私を一瞥すると、すぐに興味を失ったように皿洗いに戻ってしまった。

「あなたをスカウトしに来たわ。私の専属パティシエになってちょうだい」

「はっ、笑わせる。俺は貴族のお坊ちゃんやお嬢ちゃんに媚びて菓子を作るのは御免なんでな。とっととお帰り願おうか」

実に手ごわそうね。でも、こういうタイプは嫌いじゃないわ。

「あなたのクレーム・ブリュレを食べたわ。あれは芸術品よ。あんな素晴らしいものを作れる人が、こんな場所で燻っているなんて、才能の無駄遣いだと思わない?」

私の言葉に、ピエールの皿を洗う手が止まる。

「……俺の菓子を食ったのか」

「ええ。衝撃的な美味しさだった。だから決めたの。あなたの才能に、私は投資する、と」

私は懐から一枚の小切手を取り出し、彼の目の前のテーブルに置いた。

「これはあなたの借金を全額肩代わりするための手付金よ。これでも足りなければ、さらに上乗せするわ」

小切手に書かれた金額を見たピエールの目が、大きく見開かれた。

「なっ……!?」

「私の下で働きなさい。最高の厨房と、最高の材料を用意するわ。あなたはただ、自分の作りたい最高のお菓子を作ることだけに集中すればいい。どうかしら? 悪くない話でしょう?」

ピエールは小切手と私の顔を交互に見て、しばらく何かを考えていた。
やがて彼は、ふうっと大きなため息をつくと、濡れた手をごしごしとエプロンで拭いた。

「……あんた、面白い女だな。貴族の令嬢とは思えねえ」

彼はニヤリと口の端を吊り上げた。

「いいだろう。その話、乗ってやる。ただし、俺は自分の作りてえ菓子しか作らねえ。それでもいいんだな?」

「ええ、もちろんよ。あなたの才能を、私は信じているから」

こうして、気難しい天才パティシエも、私のチームに加わることになった。
これで役者は揃ったわ。いよいよ反撃開始よ!
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